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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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第6章 終わる世界 Ep1 殲滅の女神 Part5

戦いの場に還って来たミハル。


ホマレは飛びあがらんばかりに喜んだ。

・・・いや、飛んでるから・・・・

空に蒼い閃光が駆け抜けて行く。


蒼空に再び光が甦った・・・


金色の円環リングを羽ばたかせて!




「ば・・・か・・・な・・・?!」


女神は我が目を疑った。


「ミハルっ!やっぱしっ生きててくれたんか!」


魔砲師は歓喜の叫びを吠える。


上昇して来る魔法衣姿を観て。

その蒼髪から覗く、凛々しい瞳を見て。


「そんな・・・馬鹿な。

 お前は確かに死んだ筈・・・なのに?

 ・・・なのに!どうして私の前に居るんだ?!」


女神は混乱する。

確かに堕神ルシファーと同じ時、この娘は死んだ筈だった。

自分で最期を観た・・・筈だったのに。


「嘘・・・嘘でしょ。

 お前は戦艦の自爆に巻き込まれ・・・墜ちて死んだ。

 そうよ!お前は死んだんだ!

 ・・・なのに、なぜ・・・ここに現れた?」


ミハリューは自問するかのように、蒼髪のミハルに訊いた。


「あなた・・・人間ひとじゃないの?」


ミハルの口からは、答えよりも問い掛けが返って来る。


「お、お前に訊いてるんだ!

 お前はどうしてここに居る?

 なぜ生き返ったのよ、どうやって?」


ミハリューがもう一度訊き返したが。

ミハルから同じ質問が返って来るばかりだった。


「ねぇ・・・そこのあなた。

 あなた達はどうして争っていたの?

 どうして人同士なのに闘っていたの?」


ホマレへ掛けられた言葉に、ミハルの異変に気が付いた。

咄嗟にホマレは思った・・・何かがミハルに起きたのだと。

今、目の前にいるミハルは、何かが違うのだと。


「ミハル・・・どないしたんや?

 そないな怖い目をして・・・そんな悲しそうな顔をして?」


手を指し伸ばしたホマレに、ミハルは訊くだけだった。


「ねぇ・・・教えてよ。

 どうして闘っていたのかを・・・殺し合った訳を・・・教えて?」


蒼髪で隠された右目から妖しき光が漏れる。


「くっ・・・貴様・・・本当に生きていたのか?

 あの状況でどうやって・・・逃れられたのよ?」


自分の判断が間違っていたのに気付いたのか、ミハリューが聞き咎めるが。


「ねぇ・・・そこの人。

 この、何を言っているの?

 私を知っているようだけど・・・私は知らないよ?

 会った事もないの・・・でも、何故だか知らないけど・・・憎く感じちゃうんだ」


ミハルが女神を見据えて聞いて来る。

その時、一陣の風がミハルの髪を靡かせた。


「うっ?!」


ずっと表情を伺っていたホマレが、思わず息を呑んだ。

隠されていた右目を見た瞬間に。

ミハルが変わっていた訳が分かったような気がしたから。


「その眼は・・・その瞳の色は?

 ミハルに何があったというんや?」


良く見れば、蒼髪も前とは違いくすんで観えるし、顔色だっておかしい。

それにつけても、右目が赤黒く変わっている事が一番気になった。

まるで・・・何かに獲り憑かれてしまったかのように不自然だった。


「ねぇ・・・あなた。

 私を知っているの?

 私はあなたなんて見た事もないのに・・・どうして?

 教えて・・・あなたは・・・誰?」


ミハルが訊いた。

目の前にいる娘がどうして自分の事を知っているのかと。

その声は冷たく・・・悲しげだった。


「知らないだと?!

 それなら教えてやる・・・お前は私のバグ。

 女神たるこのミハリュー様の失敗作・・・つまり出来損ないなのだ!」


((ドクン))


ミハルの中で黒い衝動が巻き起こる。


「解ったか人間ひとの娘!

 貴様を始末したと思い込んだ私が馬鹿だったわ!

 ちょうどいい・・・今、始末し直してやるから!」


両刀剣を突き付けたミハリューが最後通牒を言い渡す。

だが、当のミハルは急に俯き、何かを呟き続けている。


「なに?怖いの?死に損ないのくせに!

 お前なんかくたばっちまえばいいのよ!」


ミハリューのやいばがミハルに迫る。

その光景を黙って観ていたホマレが咄嗟に銃を放った。

機銃が火を噴いたのに気付いたミハリューが、

弾を撫で斬り構わずミハルに突きかかるが・・・


((バシッ))


女神ミハリューの刃が、受け止められた。

見た事もない魔法衣のナックルガードに。


挿絵(By みてみん)





「なっ、なななっ?!

 なんですってぇ?!」


驚いたのは女神ミハリュー。

目を見張ったのは魔法師ホマレ。


黒いマントが靡いていた。

蒼い魔法衣がそこにあった。

胸元に太陽を模った魔法石を着けた、白金はがねの魔法衣がそこに佇んでいた。


「神は私の敵。

 神を倒すのが私の宿命・・・

 神たる私は殲滅する・・・同じ同胞はらからを・・・」


顔をあげたミハルの口から、呪われし言霊ことだまが恨みの怨嗟を告げる。


「な・・・にぃ?!」


ミハリューもその魔法衣が神に与えられしモノだと、直ぐに判る。

自らが纏う魔法衣と同じ、ミスリル鋼で造られた神の魔法衣だと・・・


「ば・・・か・・・なぁっ?!

 なぜ?どうして?バグのくせにぃっ?!」


弾き返された刃を構えなおし、ミハリューは後退る。

自分にも与えられなかった強力な魔法衣を目の当たりにして。

今着ている人間ひと対象の魔法衣では、

目の前にいるもう一人の神には、太刀打ち出来ない事を感じて。

猛烈なるジレンマに貶められて。


「く・・・くっそぉっ!

 こんな馬鹿な事があっていいのか?!

 バグが本当の私を超えれる筈が無いというのに。

 どうなっているのよ、ユピテルの叔父貴!」


全能たる神の名を叫んで、ミハリューは口惜しがるが。


「ちっくしょおっ!こうなったら・・・下僕に闘わさせてやるから!

 あの船諸共消し飛ばしてやるわ!」


怒りに任せて、ミハリューが要塞戦艦を呼び寄せる。


「いでよ、我が下僕!

 この娘諸共、船も国も殲滅しておやり!」


ミハルの前から逃げる様にして、ミハリューは飛び退く。

そして、自慢げに雲の中から現れ出たゴリアテ改級戦艦へ戻っていく。


「あーっはっはっはっ!

 どう?こいつが目に入ったかしら?

 あなたを始末しそこなった前級よりも格段に防御力を備えているわ!

 こいつに抗えるかしらね・・・神とは言えど武器を持たないあなたに!」


高笑いをしながら自慢げに情報を漏らす・・・女神。


(( シュン ))


その横を。

蒼い何かが通り過ぎた。


「えっ?!」


下から突きあがって来た蒼い何かが。


 (( ドッグワアァーンッ ))


ゴリアテ改級に黒煙を噴き上げさせた。


「な?!

 なにっ?!何が?」


女神さえも驚かせる・・・そう。


「にっ、人間共がっ?!

 あの船が、私の下僕に煙を噴かせたの?!」


動揺する女神ミハリュー。

その眼にしたのは!





___________





戦艦<薩摩>は上空に浮かぶ物体を捉えていた、電波の眼で。


「目標2時の方角!射程距離内です!」


電探からの報告を受けて、ミツル3尉が攻撃許可を申請する。


「敵機が母艦に収容されている今がチャンスです!」


レナ3尉も射撃体勢を整えた航路を維持し続ける。


「うん・・・よし。

 主砲零式弾、装填始めっ!」


前部2基の主砲へ砲撃許可を命じるミノリ艦長に頷いて。


「砲戦開始っ、弾あげ!揚弾機作動!」


砲術席で射撃準備を整える。


「最初は交互撃ち方でいきます!照準開始!」


主砲が片方の砲身を擡げつつ、目標へ向かって旋回を始めた。


「レナ、落ち着いて狙え!」


ミノリの言葉に顎をしゃくって頷く・・・そして。


「射撃準備整いました!射撃用意よし!」


海上を進む<薩摩>が、上空の一点に主砲を向けた姿は。


「これが我々人類が初めて手にした雷となる・・・撃ち方・・・始めっ!」


ミノリが言ったように、人類が反撃の狼煙のろしを挙げた姿だった。


「主砲零式弾、うちぃーかたぁー始めっ!」


復唱した砲術長の指がトリガーを引き絞った。


 ((ブビィーッ))


警告音が艦に鳴り響く。

静まる艦に・・・雷が鳴り響いた。


 ((ドッグワァアアァンッ))


主砲2連装・・・各砲台右側の一門が、弾と炎・・・そして砲煙を噴き出した。


「正常射撃完了、第二撃は・・・このままでいきますか?」


レナの問いに、ミノリが首を振った。


「時間を無駄にすれば、敵につけ入る隙を与える事にもなる。

 ・・・第2弾は・・・この艦の真の力を試す時だ。

 第2弾は、魔鋼弾!魔鋼システム作動せよ!」


ミノリが命じる。

このふねの存在理由を。

この艦がなぜフェアリアへ遠路はるばる送り込まれてきたのかを。


「了解!全乗組員クルーに告ぐ。本艦は只今より魔鋼騎状態となる!

 配置において万全を期せ!」


砲術長がマイクで命令を伝達させる。


「本艦、魔鋼状態まで・・・後20秒!」


航海長が作動状況をモニターで確認しながら報告する。


「主動力作動!エネルギー充填120パーセント!本艦魔鋼状態となります!」


砲術長が艦側面に付けられてある円環が、指示通り水平になった事を確認して。


「メインエンジン起動!推力100パーセント解放可能!」


航海長に報じると。


「艦長!本艦只今魔鋼状態へと移行完了!発進よし!」


魔法の力で航海長席に現れたハンドルを握り締めて命令を待った。


艦長ミノリ2佐が立ち上がる・・・この時を待ち望んでいたかのように。


「航宙戦艦<薩摩>、発進!浮き上がれぇっ!」


ステックが手前に引きつけられる・・・航海長の。

円環からの風が、艦側に波を打ち付ける。

渦巻く丸い波しぶきを6つ着けて、空の戦艦が産声を上げた。

それは今迄仮初だった空の闘いに、新たな次元を産むメシアの声のようだった。


((グザアアァッ))


波がしらが下方に消えて行く。

空の闘いに巨艦が立ち上がる。


「主砲、新式魔鋼弾装填。

 目標ゴリアテ!射撃始めっ!」


艦長の号令一過。

敵<神軍>に対し、無力でしかなかった人間。

その無力だった人が、反撃の狼煙をあげた。

たった一隻の戦艦が、巨大なる敵に立ち向かった。


「新式魔鋼弾、装填完了!

 1式、魔鋼マギカ波動ウェーブカートリッジ用意よろし!」


各砲台からの返答が来る。

すかさず照準を合わせたレナが。


「艦長!」


射撃許可を求めた。


「総員!ショックに備えろ!」


ミノリ艦長は射撃許可を与える。

砲術長の指がトリガーを引き絞る。


「全力射撃!撃ち方始めっ!」


前部2基4門の28センチ50口径砲が人類初めての主砲弾を放つ!



挿絵(By みてみん)



__________



ミハリューにとって、何もかもが未経験の事だった。


それは自分のほっぺたを抓ったくらいでは信じられない事の連続。


それは神たる自分でも、俄かには理解不能な出来事。


海上からの砲弾が、ゴリアテの装甲を食い破ったのだ。


いや、今迄のゴリアテより装甲を厚くした筈の改級なのに、

あっさりと、装甲板を貫かれて煙を噴き上げた姿に驚きを超えてしまったのだ。


「そ・・・そんな・・・?」


噴き上げた煙を観ていたミハリューが、下僕から撃った相手に視線を巡らせた時。

更なる驚愕が声を詰まらせた。


「私・・・誰かに化かされているんじゃ?

 何かの間違いでしょ?」


それは・・・空に浮かんでいた。

その艦は空中を進んで来た。


「くっ、空中戦艦だと?!

 人間如きが?!マジで?」


眼を擦る暇もあらば。

その戦艦に備えられた主砲が、ゴリアテに向けられて。




「くぅっ・・・だけど。

 こちらも戦艦なのよ!砲撃戦なら負けはしな・・・・」


言葉が飲み込まれた。

既に砲撃戦を始めていたゴリアテ目掛けて、主砲が放たれたから。

蒼い弾がゴリアテ目掛けて飛んで来たから・・・


その弾を吐き出した砲は、炎も煙も噴かなかった。

唯・・・蒼き砲弾を飛ばしてきたのだ、要塞戦艦ゴリアテ改級めがけて。


4発の魔鋼波動弾が、外縁部にのめり込む。

破壊波動が、一発づつ80メートル程をあっという間に消し去った。

円環を軸とした周囲300メートル程が、消し去られたゴリアテは・・・

バランスを保てなくなって横倒しとなり、海面へ墜ちて行く。


「ああああっ?!そんなぁーっ!」


女神は絶叫を残し、脱出する。

何が起きたのか、冷静に判断を下す事もなく。

ただ、口惜しさまぎれに喚くだけ喚いて。


「くっそおぉっ!覚えておきなさい人間共!

 この仕返しは必ずぅっ!」


唯の悪役然とした悪態を残して逃走したのだった。

自分が一体何を悪い事したのかと愚痴りながら。



蒼髪を靡かせた少女が呟く。

蒼空を見上げて・・・神の魔法衣を靡かせて・・・


「覚えておくわ・・・あなたを。

 いずれまた・・・会う事でしょうから。

 あなたが神だというのなら・・・私はあなたを求める。

 きっと・・・あなた達の事を許しはしないから。

 私から大切なモノを奪ったあなた達<神>を滅ぼすまで・・・

 戦女神として・・・殲滅の女神と名乗ったあなたを忘れたりしない。

 だって・・・私も殲滅の女神だから・・・

 神を喰らい尽す戦女神ワーリーンだから・・・」




空にはもう、敵の存在は無かった。

あるのは・・・静まり返った蒼い空。


そこに居るのは、空を自由に飛べる人のみ。


黒いマントが風に靡いている。

蒼き髪が風にそよいでいる。

空を飛べる魔法の靴を履いた人が居る。


愛おしむべき顔がそこにある。

還らぬと思われた人が光を浴びて佇んでいる。


唯、何かを秘めて。

その娘は空を見上げていた・・・・


挿絵(By みてみん)



還って来たミハルはまるで、別人のようだった。


ホマレの事も覚えてはいないのか・・・

それとも、本当に違う人格を有してしまったのか?


ホマレは必死に縋りつくのだった、

損な娘の胸に飛びついて・・・あ。


これでEp1は終了です。次回からEp2が、始ります!


次回 Ep2 生者いけるもの死者しにゆくもの Part1

君は取り戻したかった、大切な娘を。助けたいと願った、どんな事をしても!

 人類消滅まで アト 109日 !

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