第6章 終わる世界 Ep1 殲滅の女神 Part4
闘うホマレの元に、女神が現われる。
人を滅ぼそうと試みる・・・殲滅の女神 ミハリューが!
ホマレの危機!
友の危機には必ず現われる・・・お約束ですね!
<<今回が・・・連載500回目になりました。
皆様の応援に感謝と御礼を込めまして・・・ありがとうございます>>
重爆撃機隊が反転して帰投していく。
目的の攻撃を諦めたのか、護衛する戦闘機隊さえも帰還の途に就いたようだが。
「敵編隊離れます!距離30キロ」
スピーカーから電探室からの報告が流れる。
「敵は何か目的があって反転したのでしょうか?」
砲撃準備を整えつつある砲術長レナ3尉がミノリに訊く。
「どうやら、そう考えるのが正解だろう」
相変わらず静かに答えたミノリ艦長だったが。
何かを感じているのか、その目は遠くを見据えていた。
「なんや?もう帰還するんか?追い打ちをかけようか・・・」
送り狼となって攻撃を続行するか悩んでいたホマレの眼に、
前方の編隊とは違う場所に、光る物を見つけた。
「新手か?せやったら・・・こっちを叩かなあかんな」
見えてくる光源体に目を凝らし、機銃の安全ロックを解除した。
迫って来る光源体の色を確認すると、なにやら揺らめきながら飛んでいるのが解った。
その揺らめきの上に観えたのは。
「なに?魔砲師やて?
人が敵の方角から来るんか?」
確かに揺らめく光の上には、人影が浮かんで見える。
「ここらの国の魔砲師やろか・・・そんな訳がない。
敵の方角から飛んでくるような魔砲師が居る訳が無いんや」
じっと目を凝らして見詰める内に、その人影が長い髪をリボンで結っている事にも気付いた。
「ま・・・さ・・・か・・・」
黒いマントが靡いている。
黒いストッキングがすらりとした足を覆っている。
黒い魔法衣に紅い宝石が輝きを放って見える。
「そ・・・ん・・・な・・・」
ホマレは見詰める内に気付いた。
目の前に迫って来る人影の顔立ちが、彼女そのものだという事に。
「ミ・・・ハ・・・ル・・・?」
魔法衣は違えども、その顔は間違いなくミハルだった。
「せやが・・・違う。
だって、アイツは・・・蒼髪なんや。
アイツの瞳はあんなに邪じゃない・・・綺麗な青色なんや!」
気が付いたホマレ。
迫り来る者が蒼き騎士ではない事を見破った。
近づく魔砲師が、自分達の味方でないという事も。
「人が人の敵やなんて・・・ウチは何か悪い夢でも観ているんやろーか?」
もう目を凝らさずにも相手が見える。
その瞳の色さえも。
紅く輝く瞳の色が妖しく見える。
薄い赤色の銀髪が両方の青いリボンで結い上げられている。
その髪を靡かせて近づく少女の顔は、あの魔砲少女と瓜二つなのだが。
「違う・・・ミハルはそんな邪な笑みを浮かべたりしない。
全然違う・・・ミハルはそんな厭らしい目をシたりはシやへんから」
ホマレは指をトリガーに掛けた。
「お前は誰や?!
なんでこっちへ来たんや?
なんで敵の方から来たんや?!」
威嚇するようにホマレが相手に訊くと、その娘はホマレを見据えて言った。
「口の利き方に注意する事ね。
って、言っても。
あなたとおしゃべりする気なんて、端からないからっ!」
あははっ、と笑う相手に。
「訊いた事に答えたらどうや?
お前は・・・誰や?
ミハルと同じ顔をしているようやが・・・何者や?」
笑う相手にも動ぜず、ホマレは再度訊き直した。
「うるさいわねぇ、これだから人間って奴は・・・
しょうがないわねぇ、遊び相手をして貰うんだから・・・
いいわ、教えてあげる。
その前に、あなたの方から名乗りなさいな」
カラカラと笑う少女に、むっとしつつもホマレは名乗りを上げる。
「有志連合軍3尉、中島 誉・・・アンタは?」
答えながらも身構えるホマレに対して、威厳を正すように身体を逸らせた少女が。
「ふんっ、いいかしら。耳をかっぽじって聞きなさい!
私は神の神殿から来た、女神・・・ミハリュー様よ!
神々の間では<<殲滅の女神ミハリュー>>と、呼ばれているわ!」
ぽかんと口を開けて、口上を聴いていたホマレが。
「な?なんやて・・・ミハルやと?!」
聞き間違えたのか言い間違えたのか。
彼女の名を呼んでしまった。
「むぅ・・・そこなるホマホマ!
私はそんな娘の名ではない!
私はミハリューだと名乗った筈だ!間違えるな!」
少女はホマレにムッとした顔で言い返す。
「ホマホマ・・・確かに神様なのか?
ミノリ姉さんに憑いているイナリ様も、そうウチを呼ぶんやが。
そのミハリューが何しに来たんや?」
ホマレが出現した訳を訊くと、ちゃんと名を呼ばれた事に気を善くしたのか。
「おおっ?!
このパターンだと、もうちょっとボケかましてくると思ったけど。
なんだか良い雰囲気になってきたわねぇ・・・
いや、遊ぼうと思って・・・さ」
少女は素直に答えた。
ホマレは少女の答えに頭を捻る。
「遊ぶ?
女神が何をして遊ぶっちゅーんや?
ここには遊べるモンなんかあらへんで?」
ホマレの質問に答えず、ニヤリと笑った女神の少女が。
「だって・・・あなたが玩具なんだから。
私の人型人形なんだもん・・・ホマホマは!」
右手を差し出したミハリューがホマレが身構えたのに喜ぶと。
「そうそう!
そうやって闘ってよね、私が満足できるくらい。
遊んでくれないとあっという間に後ろの船諸共、消し去ってあげるから!」
自分勝手な欲望を満たそうというのか。
女神ミハリューの右手から紅く光る両刃の剣が現れる。
「なんや?
ウチが持ってるんは銃やで?剣で銃に勝てると思っとるんか?」
半ば呆れたように、ホマレが構えた銃を少女に向ける。
「あははっ、銃で私を撃てるの?ねぇねぇ!撃って御覧なさいな!」
紅く光を放つ剣が反対の柄からも現れ出る。
「いや・・・だから。
両頭剣だからって・・・弾を斬れる訳が・・・」
ホマレがミハリューに気が確かかと尋ねるが。
ミハリューは左手の指で、コイコイと差し招く。
「まぁ、女神がそう簡単にヤラレル訳もねぇわな」
このミハリューとか名乗る少女が、本当の女神だとは思えないホマレが。
「ほなら・・・ちょっとカルーイの。いくで!」
照準をリボンの先に合わせたホマレの一撃目が放たれる。
((バシッ))
変更されていない魔鋼弾が、少女の髪の先を通り抜ける。
ホマレは結果に驚いた。
普通なら避ける筈なのに、少女は完全に見切っていた。
更に、指でもう一度差し招く。
「くそっ!こうなったらもう知らんからな!」
照準を腹部に併せて発砲した。
紅い魔鋼弾が少女に飛んだ。
(( ビシュッ ))
紅き物が飛び散る。
「ほら・・・ね」
少女が笑う。
ホマレが目を疑う。
魔鋼弾は弾き返されるより砕け散ったのだ。
「言ったでしょ?
遊ぼうって・・・殲滅の女神ミハリュー様が。
どう?これで解ったでしょ?」
妖しい瞳がホマレに向けられる。
「逃げたって駄目だからね。
あの船も、あの国も。ぜぇーんぶっ、消え去る運命なんだから!」
邪な言葉が投げられる。
「じゃあ・・・ダンスの時間といきましょうか?
あなたが3分生きていれば・・・今日の処は帰ってあげる。
どう、良い条件でしょーっ!」
また、嘲笑うかのようにミハリューが言い放った。
一方的な条件を。
当然闘いとは考えてもいない。
遊びと言ったのは冗談ではなかった。
「じゃあ・・・スタート!」
そして、一方的に開始の合図を宣言するのだった。
「ちぃっ!」
いきなり始められた闘いに、ホマレは即応する。
今迄培ってきた空戦の技術も、格闘戦には何の役にも立たなかったが。
身体が勝手にミハリューとの間合いを執っていた。
振りかざされるミハリューの剣。
機銃で銃撃するホマレ。
2人の間が徐々に狭められていく。
撃ち込まれる弾を、悉く撫で斬るミハリューの剣先がホマレに後僅かまで迫った。
「はい!よしよし。上出来上出来!
2分もったわねぇ、偉いえらい!
・・・じゃ、逝こうか?」
剣をホマレに向けたミハリューが、紅い目を細める。
「ちくしょう!これまでなんか?
こんな奴に始末されちゃーミハルに会わせる顔が無い!」
叫んだホマレにちょっと小首を捻るミハリューが。
「さっきから、ミハルミハルってうるさいなぁ。
そーいえばホマホマは、なんで死にたがっていたのよ
私のバグの名前を呼んでるけど・・・どんな関係なの?」
剣先を降ろして質問して来る。
「ミハリューとか言ったなアンタ。
女神のバグだって?ミハルが?
・・・そんな事あるもんか、ミハルはミハルなんや!
お前のバグなんかやないっ、アイツはなぁ、天使。
いいや、ウチ等・・・人間の希望なんや!
決してお前なんかのバグなんかやないんや!」
ホマレが言い返したことに腹を立てたのか。
ミハリューが再び剣をホマレに着き付けて。
「私が訊いたのは、ミハルとかいう私のバグとどんな関係なのかって事よ。
訊いたこと以外にしゃべらなくていいの!」
最後通牒を突き付けたミハリューに、睨み返すホマレがフッと息を漏らす。
「うん?なにか可笑しい事をいったかしら?」
ホマレの顔に浮かんだ笑みに気付いたミハリューが、訳が分からずに訊いて来る。
だが、その問いに答えずに何事かを呟いたように見えた。
俯いたホマレが続けて呟いたのを苛立ったミハリューが問い質す。
「何を言ってるのよ?
答えなさいってば!」
苛立つ女神の声に、口元を緩ませたホマレが顔をあげる。
「な・・・何よ?」
その顔に浮かんだ笑みと、睨み返してくる瞳に戸惑う女神ミハリュー。
「・・・希望・・・」
「何っ?・・・希望?」
一言がミハリューには解らなかったのか、咄嗟に訊き直した。
「そう・・・ウチ等、人間の希望・・・
ミハルは人類全て、この世界で生きる者の希望やって言うたんや!」
ホマレの叫びにミハリューが声を呑み込む。
勢いに呑まれたように。
だが。
「あーっはっはっはっ!
お前達人類の希望?あのバグ娘がか?
それなら・・・お前達の希望は潰えたということだな?!
私のバグだった娘はもう存在しない!
あのミハルとかいう娘は、守護神共々私の下僕たる戦艦と道連れとなった!
お前達に希望なんて・・・なくなったのよ!」
嘲笑うミハリューに、ホマレが首を振った。
「??」
また、ミハリューが首を捻る。
「アンタ・・・背後に居る者が解らんみたいやな。
よくもそれで・・・女神とほざけるな!」
なぜだか・・・ホマレが勝ち誇ったかのように見える。
ミハリューを通り越して、ずっと先の・・・海上を見詰めて。
「なっ・・・何よ。
言いたい事はそれだけ?
なら・・・もういいわ。消し去ってあげるから・・・」
後ろも振り返らずに、ミハリューは剣を構える。
ホマレに警告されたというのに。
「最期に・・・言い残す事があるのなら。
聴いてあげてもいいわよ・・・叶えるかは分かんないけど」
剣を突き付けられたホマレがニヤリと頬を緩ませて。
「ああ、そんならなぁ・・・一言だけ。
アンタ・・・背中が・・・煤けるぜ?」
ニヤリと笑ったホマレが後退る。
巻き添えを被らない為。
「うん?この期に及んで。何を訳分かんない事を?」
剣から逃げようとしていると勘違いしたミハリューが、ホマレに無駄だと言おうとした時。
ミハリューの背後から・・・
((ビュシュッ))
熱源体が襲い掛かった・・・ミハリューに!
だが、さすがは女神と言った処か。
至近距離まで来た弾を避ける為に跳び退った。
「誰よ・・・折角・・・え?!」
ミハリューは自分を撃った相手に目を凝らす。
殲滅の女神は、我が目を擦る。
そして・・・
「ばっ・・・馬鹿な!私っ・・・私がもう一人いる?!」
状況を飲み込めず錯乱した叫びを吠えた。
そこに居る存在を信じられずに。
目の前に迫る娘の姿と、その顔に。
魔砲師ミハルの白き魔法衣と蒼い髪に・・・・