第6章 終わる世界 Ep1 殲滅の女神 Part3
戦闘は始まった。
寄せ来る敵に、ホマレは挑む。
ミハルへの想いを胸に秘め・・・
空に嵐が吹き荒れる・・・鋼の弾の。
蒼空は黒煙に濁され、黒い染みを無数に描いていた。
その空は誰が創りしモノ?
その滲みは誰が造りしモノ?
その空には、光が見当たらなかった。
その空には、希望を見つける事が出来なかった。
眩いばかりに輝く・・・希望が。
黒い機体が炎を噴き上げる。
「続け!次の編隊が廻り込んで来るで!」
小隊長の後ろに続く2人は、機銃を構えて付き従う。
有志連合軍の魔砲師ホマレ3尉の第3小隊は、
今迄の戦闘で9機もの確実撃墜を果たしていた。
その全てをホマレ一人で果たしていたのだが。
「まだや!まだまだおるんやで!
このくらいの空戦で音を上げてちゃあ生き延びられへんで!」
部下に教えを説くというより、自分にハッパを掛けるホマレ。
列騎の若い二人は、ホマレに着いて行くのがやっとだった。
「まだや!ウチの怒りが治まるまで。
まだまだ墜とし足らへん!」
空戦は未だ決着がつきそうにもなかった。
現われた<神軍>の攻撃機隊は、あまりにも多数だったから。
「そろそろ、戦闘機だけを相手にしていてもつまらん。
重爆を叩かんと、母艦が危のうなる・・・」
ちらりと黒煙から見える大型機を確認し、どこから攻撃を掛けるか迷うが。
「上空には昇れへんみたいやな。
あいつ等、限界高度ぎりぎりで飛んどるみたいやし。
・・・下から行くか!」
自分の周りを見回し、襲い掛かって来る敵機が存在しない事を確信したホマレが。
「お前達はウチが攻撃している間、重爆隊から離れておけ!
いいか、間違っても手出しするんやないで!」
まだ空戦経験の浅い若い魔法師二人に念を押して、ホマレは単騎で攻撃に向かった。
「また・・・勝手な事を」
空戦場から少し離れた場所で。
「中隊長?いいのですか・・・手出ししなくても?」
部下が2尉に訊ねる。
2人の第1小隊員が隊長の仕草を見詰めながら不審に思いながら訊いたのだが。
「いいのだ。私はここぞって時にしか手を出さんからな」
鋼色の魔法衣を着た中隊長の一言で、部下はそれ以上の追及を辞める。
「ふっふっふっ、あの馬鹿娘め。一人で戦争をやっている気か?
敵重爆編隊に一人で立ち向かうなんぞ、死にたい奴がする事だ。
まぁ・・・それはそれでいい事だがな・・・」
部下に聞こえないくらいの小声で呟いたつもりなのだが、
二人の部下は知らぬ顔をしていただけだった。
「ミハルに出来て、ウチには出来へんって?
そないな事あらへん・・・知ってるやろ、ミハルには!」
真下から突き上げる様に急上昇をかけ、
「行くでミハル!よう観といたりや!」
機銃のトリガーを引き絞る。
(( ド ドドド ドドドッ ))
25ミリ機関砲弾が腹を見せている重爆目掛けて飛んでいった。
((ガン ガガンッ))
編隊最後尾の一機が、命中弾を喰らって錐もみ状態に陥る。
編隊下方からの一撃で一機を墜としたホマレが、勢いのまま編隊を突き抜け上空で反転する。
「次はどいつや?」
切り返したホマレが編隊上空から釣瓶墜としに攻撃する。
狙われたのは編隊最前列の一機。
突入してきたホマレに気付いた重爆編隊からの防御機銃が弾幕を張る。
「くたばりやがれ!この野郎!」
悪態を吐きながら機銃を乱射するホマレに、弾幕が包み込もうと集中して来る。
何発かが魔法衣に掠り、白い魔法衣に疵を着ける。
ホマレに狙われた敵機が火を噴き、もんどりうって墜ちて行った。
編隊を追い抜いたホマレに、敵編隊からの弾幕が追い打ち射撃を掛けてくる。
鋼の弾が、何発か魔法衣を捉えた。
だが・・・当てられた魔砲師は。
「ええで・・・それで。
ウチにも死に場所を与えてくれや。
敵と闘って死ぬんやったら、ミハルに顔向け出来るんやさかい」
死に場所を求めているかのように、闘い続けるのだった。
「あんな魔法使い如きに・・・なんて・・・無様な!」
モニターで戦況を見詰めていた影が、苛ついた声をあげる。
「これだから・・・機械なんて当てにならないのよ。
まったく・・・しょうがないったらありゃしない!」
雲の中に隠されているゴリアテ級改型戦艦に座上する、指揮官らしい少女の声が命じる。
「いいこと?
私は気が短いの。さっさとあんな小国滅ぼして!
でないと・・・あなた達も一緒に私が消し去ってやるから!」
座上する巨大戦艦のメインコンピューターが少女の命を受け、
速力をあげて彼の国へと向かう。
前方に見える陸地へと・・・フェアリアへと。
少女が映し出された画像を見詰めていると、
白い魔法師が被弾覚悟の闘い方をしているのに気が付いた。
「ほほう・・・ちょっと面白いじゃないの。
あいつは死にたがっているのか、それとも阿呆なのか?
ちょっとからかってやりたくなったわ!」
興味を惹かれた少女が、手をコキコキと鳴らして。
「おい!さっきのは一時やめだ!
私はあの魔法使いと遊んでくるから・・・お前達はここで待っていろ!」
思い付きで、攻撃を中断させてしまった。
さっきまでの不機嫌はどこへやら。
少女はゲートへと歩きながら、鼻歌交じりで身支度をする。
「さってと、相手がどれだけ私を満足させてくれるかしら?
一瞬で終わらせたらつまんないし・・・パワーの十分の一で、いいかなぁ?!」
少女はそれでも自信たっぷりに言う。
「千分の一でもいいか。
所詮相手は人間なんだから、それでも十分よね?」
そう嘯いた少女が手を翳すと。
手にしたブレスレットが光を放つ。
金色の光が少女の身体に纏わり着き・・・変身を促す。
薄赤い銀髪を二本の紺青色をしたリボンが、ツインテールに結う。
白い魔法衣の腰に薄赤色をした、丈が短いスカートの様なヒップガードが付けられる。
腕にガード、足には黒のニーガード。
そして。
「ああ、そうだった。空を飛ぶんだよね」
少女は足を片方づつ交互にあげて、魔法の靴を履いた。
「さぁて・・・それじゃあ、一っ跳びして。
たまぁーの遊びに付き合って貰っちゃおうかな!」
ウキウキした指揮官の少女がメインコンピューターに命じた。
「殲滅の女神ミハリューが往く。
門を開けっ!」
女神ミハリューの前が突然明るくなった。
門を開放した戦艦が侵攻を辞めて雲を吹き散らし、女神に敬意を払う。
女神の前には、開け放たれた門から見える蒼き空があった・・・
遂に、殲滅の女神ミハリューがやってくる!
力を制御して・・・半ば遊び心で。
命を奪う事に、なんの躊躇いも持たない・・・
この少女には神としての資格があるのだろうか?
ホマレの危機が迫る時・・・その時光が甦る?!
次回 終わる世界 Ep1 殲滅の女神 Part4
君は神を名乗る少女と相対する・・・戦いの終焉に輝くのは・・・希望
人類消滅まで ・・・アト 111日!