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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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第6章 終わる世界 Ep1 殲滅の女神 Part2

航行する航宙戦艦<薩摩>・・・


その恐るべき威力を見せるのは、いつの事なのか?


外海へと進む先にあるのはどんな海なのだろうか?

霧は擦れる事もなく、ふねを包み隠していた。


誰にも見られたくはないとでも言った風に。


誰かに見られるのを拒むかのように・・・


その艦は直走ひたはしる。

闘いを待ち望んでいたかのように。


闘いこそが自分の望みだとでも告げているかのように・・・・







人類が初めて直面した脅威。


国家間の戦争などでは有り得ない。


人同士が殺し合う戦争が、まるで玩具の闘いにでも思えるような。


完全なる殲滅戦・・・人類の全てに対しての戦争。


人は敵に対して無力だった・・・


人はその敵を畏怖の念を込めてこう呼んだ。


  <<神軍しんぐん>>・・・と。





人は皆、己の欲望の為敵を倒そうとする。

人は皆、己が命の為に敵を滅ぼす。

その結果が、どれ程罪深いかなど、考えもせず・・・


神は人類の結末を知る。

神は人類全ての終末を観て来た。

そのどれもが醜く、呆れ果てさせられるモノばかりであった。


人は考えず、神は考えた。


 <<この世界の終わりを>>


地上の王たる人は、全宇宙の支配者たる神に背いた。

同じ仲間である人同士が、いがみ合い、憎み合い、嫉み合った。

そして国という単位を勝手に造り、強大なる力で嫉み合うようなった。

その結果・・・戦争が産まれた。

神が預けた箱の中から這い出た憎しみの連鎖は、産まれた時から盛大に喰らった。

・・・人の命を・・・


人はその箱を<<パンドラの箱>>と呼んだ。


人は神から預かった幸福を齎す筈の箱を、己が欲望で穢した。

神は人が開け放した箱の中に残されたモノを知っている。


箱の隅でうずくまる小さな光に手を差し出して招くのだった。

もう、出てきても良いのだと。

人に与えられなかった筈の、その小さな光に・・・


神はその小さな光にこう呼びかける。


「そなたは人に与えるべく箱に入れた筈。

 なぜ出ようとしないのだ?

 もう、人には必要が無いとでもいうのか?

 そなたは我らが人に与えし最期のモノなり。

 人はそなたを必要としているのだぞ・・・<<希望>>よ」


神に招かれた光は、箱からやっと出てきた。


箱の隅から這い出て来た<<希望>>は、光と共に人へと下る。

神の慈悲を身に纏った<<希望>>の光は、人類最果ての地へと下る。

神によって人に授けられた<<希望>>は、そこで目覚めの時を待った。


審判の時が来るまでに、目覚めの時を迎えられるのを願って・・・・







___________





西洋と東洋の間。


インデアの港を出航する船隊に、漁師たちがささやき合った。


「あれほど沢山の船がどこへと向かうんだろう?」


「あんなに大勢の人達がなにをしようと言うのだろう?」


観た事もない国旗を旗竿に掲げた船隊が沖に向かって出航していく様を、

地元の漁師達がささやき合った。


青地に8つの白い星が円を描いている国旗。

何処の国にもそのような国旗はありはしなかった。


そう。

半年前までは。


「おいっ!あれ!あれを観ろ!」


若い漁師が自慢の眼で、何かを見つけた。

指差し示す方を観た者達が一斉に声を呑む。


「ありゃなんだ?!でっかい島が動いとるぞ?」


一人の声で、周りの者もその<島>に気付いた。


「島なんかじゃないぞ!あれは船だ・・・船橋が付いてるぞ!」


漁師達から大分沖合に見えるのは、動く船のようなのだが。


「おいっ、よく見てみろ!一つだけじゃないぞ、いっぱいあるぞ!」


漁師達は目を凝らす。

そしてようやく気が付いた。

沢山の船隊がその動く島のような船に向かっている事に。


「どうやら船隊はあの島のような船に近づいていくようだ。

 あの船に護って貰おうというんだな・・・多分」


ある意味・・・その通りだろう。


近頃、海は物騒になっているという話だったので。

船隊は、あの馬鹿でっかい船に護って貰って目的地へと向かうのだろう。

漁師達はそう考えた。


無理もない。

ここらの漁師には世界が今、どれほどの危機に直面しているのかが解ってはいなかったのだから。


だが、その大きな船を見続けていた先程の眼の良い漁師がまた騒いだ。


「まてまて!ちょっと待て!

 なんだ?あの船達は・・・なんだあの数は?!」


同じような船橋が林立している様に驚きの声を張り上げた。

周りの者も一斉に目を凝らすと。


「なんて数なんだ・・・まるで林のようだ」


「いいや、林なんてモンじゃないぞ。まるで森だ・・・数えきれないくらいの船達だ!」


見詰める者達の前を数十の艦橋が通り過ぎて行く。


そう・・・それは艦橋とマスト。

艦橋と煙突。

艦隊だった・・・大艦隊・・・そして。


「船隊が随伴していくぞ?

 あれは護衛の為なんかじゃない!あれは・・・」


一人が泡を喰って叫ぶ。


「あれは・・・どこかの国を攻め滅ぼす無敵艦隊アルメデだ!」


漁師達は怯える様に、数十の艦を見詰めてささやき合う。


だが、それは視界に見えた一部分だと解りはしなかった。


インデア海に数十の航跡が白く曳かれていく。

静かな海を波立たせて。


艦隊が向かっていくのは、南西の方角。

そこへと向かっているのが終末点でない事に、漁師達は知る由もなかった・・・






__________






「12時の方向、上空に空母<翔鷹>近づきます!」


後部甲板の見張り員が艦橋に報告する。


「そろそろ・・・ですね、艦長?」


ミツルが計器盤に目を配りながら訊ねる。


「見えてくる前に邀撃体勢に入りますか?」


砲術長のレナが電源の確認を執りながら命令を待った。


一番奥の艦長席に座ったミノリが艦長帽を目深に構え、


「魔砲師に命令、敵編隊より先に上がれ。上空で待機せよ!」


発艦命令を下した。


挿絵(By みてみん)





フェアリアの領海内を僅かに過ぎた頃。


友軍の監視艇隊がレーダーで捕捉したのは。


「敵攻撃機の大編隊!フェアリア本土へ向かうものの如し!」


その報告を傍受した艦内では、戦闘配備が敷かれていたのだ。


海上を補助動力の最大戦速まで上げた<薩摩>に、後方の改造空母からの魔砲師隊が付き合い違う。



戦機は熟す。

間も無く双方の会敵が始まろうとしていた。


「艦長!電探に敵大編隊を捉えました!11時の方向、高度1000!」


敵は限界高度ぎりぎりの処を執って来た。


「編隊指揮官に連絡!敵は11時、高度1000!

 赤突入!赤突入!!」


砲術長レナ3尉の無線連絡が邀撃隊へ発せられた。


上空に上がっていた2艦からの魔砲師隊が、報告された方向に接敵を開始する。

電解層ぎりぎりの高度を執った敵に対し、同じ高度で闘わざるを得なくなった魔砲師隊。


数の上で、圧倒的に不利なのは承知でも・・・




「こちら鋼隊一番!我に続け!」


大高2尉の命令で中隊11人が接敵体制に移行する。

その中で、第3小隊長を任されているホマレは。


「そやから・・・あかんのや。

 敵と向き合ってどないする・・・こっちは数も装備も少ないんやのに」


小隊の部下二人を気遣って、3尉はちらりと母艦に振り返る。


「ミノリ姉さん・・・どないせいっていうんや?

 ウチ等3小隊で、どないして防げって言うんや?」


ホマレは母艦に帰隊した時の事を思い出す。



ホマレが薩摩に帰艦した時、大高2尉が怒鳴り散らすのを我慢していた時。

先達の魔砲師でもあるミノリが言った一言を思い出していた。






「ホマレ・・・あなたは彼女が死んだといったわね。

 この大高2尉が見殺しにしたのだと・・・そう報告したわよね?」


厳しい目で見据える新艦長に、ホマレは項垂れる。

横で叱りつけていた大高2尉も、その鷹のような鋭い目に怯えたようになる。


「ホマレ3尉が報告したように、大高2尉は戦果確認すらしなかった。

 まして、同盟国の大尉の消息さえ確かめなかった・・・そうね?」


ミノリの声は叱責に聞こえたのか、大高2尉は後ずさりながら。


「あの状況では・・・戦果は御覧の通りですので・・・

 あの魔砲師も、爆発に巻き込まれたものと。」


状況が切迫していたと言い逃れようとしたが。


「2尉、あなたには確かに戦歴がある。

 それは認めましょう。ですが、戦果は認められてはいない。

 それが何故なのか、解ったわ。

 誰もあなたの事を観てはいなかったから・・・いいえ。

 誰もが死んで話す事が出来なかった・・・そうですね?」


ミノリ艦長がジュンに言い放つのは、厳しい現実。


「ですが、艦長!私には英雄勲章が授けられたのです!

 敵機撃墜20機の・・・誰も観ていない筈はありません!」


思わず言い返したジュンに対し、冷めた口調でビシリと言った。


「ええ、そうでしょうね。

 だけど・・・報告してはくれていないでしょ?

 誰も・・・自分の部下も・・・生きては帰れなかったのだから」


ミノリがはっきりと告げた。

全て・・・解ったのだと。


「味方の誰もが死に逝く中で、あなた一人が生きて帰った。

 周りの者はそう言うでしょうね・・・英雄だと。

 だけど、あの空を知る者には誤魔化せない。

 紀州沖で、あなたが行った行為は・・・魔砲師として認める訳にはいかない。

 このイナリのミノリには・・・ね」


冷めた瞳が鋼のジュンを見据える。

断言されたジュンは、真っ赤になった顔を逸らせて足早にその場を立ち去った。


「どうしようもない・・・腐った鋼ね・・・

 それで・・・ホマレ。

 あのは・・・ミハルさんは?

 本当に死んだというの?」


ミノリに訊かれたホマレは、ズボンのポケットから一枚の紅いリボンを取り出した。


「これ・・・ミハルが付けていたモノなんやミノリ姉さん。

 これを・・・あの海で見つけてしもうたんや・・・・」


海上に浮かんでいたリボンをホマレは回収してきたとう。


「なるほど・・・それで?」


ミノリの質問にホマレは驚く。

状況を考えたら、どうみても死亡報告を受け入れざるを得ない筈なのだが。


「それでって・・・どう考えても!」


ホマレはその時気が付いた。

自分の前に立つ<神>様に。


「あ・・・イナリ様?

 ミノリ姉さんじゃなくって?」


お尻に二本の尻尾がフリフリされている。


「おっコン。ワラシじゃ、ホマホマ。

 そなたはあの堕神ルシファーと娘の両方が死んだと思っとるようじゃが。

 それは間違いというものじゃ。

 あの損な娘の事じゃ・・・簡単に消えはせん」


狐目になっているミノリが断言した。


「え?!本当なのですか、お稲荷様!ミハルはどこかで生きていると?」


死んではいないと、聴こえたホマレが先走るが。


「うむむ・・・生きておるかどうかは・・・消えてはおらんのだ。

 魂は・・・この世にある。

 だが、生きておるかは解らんのじゃ!」


「どういう事?」


稲荷も何かを感じてはいるようだが。


「はっきりとは言えぬが・・・希望はある。

 ま、そーいうことじゃ!」


まるで煮え返らない答えで誤魔化すように、稲荷明神が答えたのだった.





挿絵(By みてみん)



「あれから・・・ウチは。

 希望を捨てない事にしたんや・・・ミハル」


ホマレは小隊を指揮しながら思った。


どうしても、諦められないと。

何としても、希望は捨てたりしないと。


「だから・・・ミハル。

 ウチが生きている間に。

 ウチが死ぬ前に・・・逢いたいんや!」


希望を・・・願いを祈るホマレの瞳の中に、

黒い点が空を圧して飛び来るのが映し出された。

 

敵が現れた。

ホマレはミハルへの想いを募らせ闘うのだった。


だが・・・其処に居たのは。


次回 終わる世界 Ep1 殲滅の女神 Part3

君は闘い続ける、あの娘と再び逢うまで・・・

 人類消滅まで ・・・アト 112日

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