第5章 蒼空の魔砲師 Ep7 蒼空に願いを Part11
蒼き空に2人が舞い上がる。
蒼き空に希望の光が舞う。
魔砲師ミハルと守護神ルシファーの最期の闘いとなるのか?
ホマレ達には、それが最期の瞬間だと思えた。
吹き荒れる風が辺り一面を薙ぎ払い、空に浮かぶ者達をも吹き飛ばさんとして。
「ミハルっ?!駄目なのかっ?!」
絶叫するホマレの身体も、吹き付ける風に流されそうになる。
「行くぞ、中島3尉。
これでこの国には最早留まれなくなった訳だ。
早急に艦に戻り、対策・・・いや、撤収を勧告せねばならない」
鋼の魔法師ジュンが見切りをつけた様にホマレに命じる。
「全員撤退、この場より直ちに帰還せよ!」
手を振り、魔砲師達に命じるジュンの声が。
ミハルを想う者によって遮られた。
「待てや鋼の!
あれを見てから言ってみろや!」
その声は、微かな希望に。
荒げた叫びは、命令に抗う・・・願いと共に。
「 ! なんだ・・・と?!」
錐状の雲の先端から沸き起こった輝きに声を呑んだ。
「あれは?!なにが起こっているというのだ?!」
ジュンが目を見開き、見詰める先には。
「あれが・・・ミハルや。
あれが神の使徒・・・お前さんが嫌っている神託の使徒たる者の力や!」
二人の前に、金色の輝きが放たれ始めていた。
「今だ、放てっミハルよ!」
毛玉の叫びに翔飛から放たれた魔砲の力が羽ばたく。
金色の羽根が、今迄以上に大きくなって。
地上まで数メートルまで押し込められていたミハルの身体がたちまち停まった。
地上へ激突する瞬間に。
「いくぞ!我らの約束を果たさんが為に。
ミハルを護る、守護神ルシファーの全力を見せてやる!」
毛玉が吠える。
自らの力を曝け出せる姿となり。
「うん!ルシちゃんっ、一緒に行こう!天高く・・・蒼空の上まで!」
黒雲を突き破らんと、二人の神が力を合わせる。
二人の後ろに居続ける者達と手を携えて。
胸に刺さっていた錐状の雲の先がへし折れる。
いや、砕け散った。
「ミハル!手を翳せ!
その手で突き上げるんだ!」
ミハルに促すルシファーが、光となって胸の奥から手に宿る。
「このまま押し返すぞ!
錐状の雲を突き飛ばし、空の彼方まで吹き飛ばしてやるんだ!」
二人の力に、錐状の雲が押し戻されていく。
それにつれて巨大戦艦は上空へと押し上げられ始める。
「いいぞ!このまま電解層まで・・・」
右手に宿ったルシファーがそこまで言った時。
それまで戦艦を空へと持ち上げていた数基の制御円環が、
突き上げられない様に風向を変えたのだ・・・落下する方へと。
突き上げられるのを拒むかのように、自ら墜落する上空へと風向きを反転させたのだ。
それは突き上げられるのを拒むのと同時に、抗う者を圧し潰そうとする。
戦艦を司るコンピューターは自らを犠牲としてでも。
いいや、機械に犠牲と判断させるのは無駄だろう。
機械は命じられた事を執行するだけ。心なんて持ち合わせてはいない筈。
「くそぅ!気付きやがったのか?
ミハルっ、頑張れ。頑張ってくれ!」
後少しの所で作戦に気付かれたと感じたルシファーが頼んで来る。
「うん!後ちょっと。あと少しで手が届くんだよね!」
上空にあるとされる、金属を破壊する神が造りし呪われた空間まで、
あと僅かと思えたのだが・・・
「うっ?!
押し戻されるのか?全力の魔力でさえも?」
神の力でさえも、巨大な金属の塊を押し上げられないのか。
ルシファーは自らの非力さに声を濁らせる。
そして、嘆く時もあらば。
見上げた戦艦の砲台がまたもや狙いを衝けて来た事に気が付いた。
「いかん!今当てられてしまえば、ミハルの身体が?!」
防御力が喪失されている現状で、弾が当たれば。
譬え魔法衣といえども、相当のダメージを被る事となる。
最悪・・・突き破られて・・・
「防御に力をさけば、押し返される。
かと言って、ミハルを敵弾に曝す事も出来ぬ。
一刻も早く、突き上げねば!」
焦るルシファーが、力を振り絞るのだが。
「ルシちゃん、今は唯。
唯、この巨大戦艦を突き上げる事に集中しようよ。
私は大丈夫・・・大丈夫だから」
静かな声が聞こえた。
この状態にそぐわない、優しい声が届けられたルシファーに。
「ミハル?!なにがあったのだ?!」
この時になってやっと気づいた、堕神ルシファーも。
宿りし者に集い合う光の粒達に。
「そなた等は・・・ミハルの友か?」
粒が魂であり、想いを同じくする者と知って。
ルシファーが頼みを告げる。
「力を貸すというのならば。
そなた達はミハルを護ってくれ!
神に背くとも、ミハルを案じるというのならば。
ミハルの為にその魂を捧げられよ!」
金色の光の中から、数十本の手が模られた。
その集う手達が了承したかのように、思い思いに合図を送って来た。
「ならば!
今こそ果たせ!
我と共にこの機械の塊を、神が創った過ちの空へと突き飛ばすのだ!」
(( おおおお~んっ ))
ざわめく光の手がルシファーと一緒になって天に翳される。
「魂達よ!
我は神に仇名す者、ルシファーなり。
我が護りし娘ミハルは人間の光なり。
神に背きし使徒なれども、その心は人と共にあらんとする・・・
<< 女神 なり >>
消え去る事になるとても、誇りに思え。
その魂は讃えられよう・・・永久に!」
光を纏う右手が翳される。
ミハルの輝きは見る者を感動せしめる。
金色の輝きは、記憶に留めさせる・・・その時を。
防御砲火が火を噴き、突き上げる者へと注ぎ続けられた。
弾幕で覆われ続けても、少女の姿は変わらない。
紅い曳光弾が少女に命中したと思われたが、すんでの処で爆発して消える。
唯、爆発したと同時に、一つの光の粒も消えてしまうのだが。
「みんなっ?!
ありがとう・・・ごめんなさい!」
弾を受け止めた魂が、爆発と共にかき消されていく。
それは魂が消滅してしまった事を表す・・・悲劇の連続。
「みんなの為にも・・・護ってくれている人達の為にも・・・
そして今を生きる世界中の人の為にも!
私は負けないっ、負けるもんか!」
ミハルの手にしたリーンの宝石が更に輝きを放つ。
押し戻されかけた身体が、再び浮上し始める。
「もう少しだ、後少しで弾き飛ばす事が出来るぞミハル!」
ルシファーの声が少し遠のいたように聞こえるが。
「ルシちゃんっ、頑張って!
みんなの力を併せて弾き返そう!
人間の世界を邪なる者から護り抜こう!」
ミハルの叫びがルシファーに届いたのか、それとも・・・
「ルシちゃん?なぜ黙っているの?」
返事が返ってこない事に気付いたミハルが、不審に思って訊ねるが。
「ねぇ?どうしたのルシちゃん。
返事をしてよ、みんながこうして護ってくれているのに・・・あ?!」
弾幕の炸裂音にかき消されたのかと思っていたミハルの眼に飛び込んだのは。
「うそ・・・ルシちゃん?・・・ルシファー?!」
自分の後ろに居る男の姿に気付いた。
白い魔法衣を着た、薄い紅銀髪の青年に。
自分の手を取る、優し気な瞳に。
「ル・・・ルシファー?あなたなのね・・・」
目の前に居るルシファーは、マスクをしていなかった。
そう・・・何も隠さずに曝け出しているのだった。
本当の姿を。
本当の堕神ルシファーの顔を・・・
「ルシファー、やっと見せてくれたのね。
私のルシファー・・・私の守護者・・・」
ー 思いっきり抱き着きたい
こみ上げる想いが溢れそうになる。
翳した右手を捧げ持つ男の姿に、ミハルの心は高鳴る。
闘いの最中でなければ、当に抱き着き・・・捧げていたであろう、唇を。
背中に当たる大きな胸に。
髪に触れる頬の感触までも。
ミハルの胸は高鳴りを抑えられずにいた。
唯、言葉が返って来ない事が気になってはいたのだが。
ー そうだ。
今は力の限りを尽くして、勝たないと。
折角ルシファーに逢えたのだから・・・やっと逢えたルシファーにあげないと・・・
約束を思い出したミハルが再び天を見上げ力を籠める、ネックレスへと。
周りに集う手達が、一緒になって押し上げ始めた。
まるでもう、ミハルの身を護らずとも良いかのように。
その訳も、どうしてルシファーが姿を現したかも知らずに。
ミハルは全力で魔力を解放した。
全ての力を使い尽くして。
「これが私の全力全開!エクセリオ・ブレイカー!」
リーンのネックレスが蒼き光を吹き出す。
金色の光が錐状の雲を巨大な戦艦諸共に、突き上げる。
荒れ狂う風。
もがく錐状の空気砲。
一瞬の事に、戦艦のコンピューターは次なる判断を下す。
<<命令は絶対。この神たる者をこのままにしておく事は許されない。
命令は実行するべし・・・自らを放棄してでも >>
コンピューターは直ちに実行に移した。
一つのスイッチを作動させて。
「やった!
やったよ、ルシちゃんっ!みんな!!」
突き上げた戦艦の上部が、あの神が創りし魔階層へと到達した。
突然持ち上げるのが軽くなった事で、ミハルは易々と戦艦を突き上げたのだが。
「ねぇ?!勝ったよルシちゃん!約束の・・・」
唇を与えてあげようと振り返ろうとした時。
瞳の端に写ったのは・・・
「あっ?!
危ないっ?!崩れ始めたの?」
電解層に突き上げた戦艦の部品が雪崩を打って墜ち始めた。
頭上から墜ちてくる部品から護ろうと魔砲力を放とうとしたが。
「しまった!魔砲力のストックがない!
浮かんでいるのがやっとな状態なんだ!」
血の気が引くとはこの事か。
闘いに全てを出し尽くしたミハルには、もう護る事も逃げ出す事も適わなかった。
ミハルの頭に響く言葉は・・・
<< 死 >>
魂は残るとしても、肉体は死を迎えてしまうことだろう・・・このままでは。
ー だとしたら・・・尚の事。
振り返ろうとしたミハルの手を、ルシファーは未だに捧げ持っている。
そして、未だに魔法力を放ち続けていた。
「ルシちゃんっ!手を放して。
あなたにあげたいの!だから早く!」
後ろから持たれた手が、逆に邪魔となってキスが出来ない。
焦るミハルとは対照的に、ルシファーは微笑んでいるのだが。
「どうして何も言ってくれないの?
なぜ護り続けているの?
もう闘いは終わったんだよっ、もう護り続ける必要なんてないの!」
叫んだミハルの周りには、庇う様に金色の手が集ったままだった。
「みんな?!どうして・・・」
墜ちてくる部品を弾いた手が光を失い消えていく。
ミハルの手にしたリーンのネックレスから金色の魔法陣が現れ出た。
巨大なる戦艦の終末に現れた魔法陣が、ミハルを護るかのように展開した。
<< ミハルを護りたい・・・>>
どこかで温かい声が流れ出したように感じた。
「リーン?!あなたまで?!」
見上げた先で魔法陣が一層強く輝く。
ルシファーに捧げ持たれた手にしたネックレスが、音もなくひび割れる。
誰かに言われたような気がした。
さよなら と。
誰かが呟いたように感じる。
約束だよ と。
周りに居た金色の手達がミハルを離れて、魔法陣へと同化していく。
崩壊を始めた巨大戦艦の下に居るミハルとの中間に出現した魔法陣が、
誰かに別れを告げる様にざわめいた。
ー あなたは人間の希望。
ミハルは女神となって闘うの・・・この世界を護る為に。
だから私達は迷わない、あなたを護る事に。
あなたの盾となって消える事に・・・
だって、あなたの記憶の中で生き続けられるのだから・・・
魔法陣の紋章が告げるのは・・・決別
「嫌ぁーっ!みんな待ってよ!
消えちゃ駄目ぇっ!」
魔法陣の中に居る魂達全てが微笑んだように思えた。
別れを別れとも思わず・・・唯、一つの約束を果たす。
・・・その喜びに満ちた・・・満足げな微笑みに思えた。
リーンのネックレスを握った手が開く。
ルシファーに持たれた手の指が求める・・・友の事を。
魔法陣に護られたミハルとルシファーに、悪夢の一瞬が訪れる。
戦艦のメインコンピューターが判断を下し、作動させていた・・・
自爆スイッチが・・・発動・・・したのだ!
要塞戦艦は呪うかのように、最期の手段を講じた。
その時・・・ミハルは咄嗟に動いた・・・
彼の為に・・・愛する人の為に。
それが・・・自分を捨てる事になるというのに・・・
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あなたは愛する人の為なら自分を捧げる事ができますか?叶わぬ願いと知っていても・・・
・・・人類消滅まで アト 116日