第5章 蒼空の魔砲師 Ep7 蒼空に願いを Part6
ミハルは巨大戦艦に向って行く。
強大な戦闘能力を誇るとされる、人類殲滅を目的に作られた・・・
悪魔の艦に。
爆風を巻き起こす円環の下部にポツンと一つの影が映った。
そんな所にあり得る筈のない人影に、巨大戦艦の指揮命令系統を司るマイクロチップが困惑する。
瞬時にメインコンピューターが解析するのだが・・・
「はんっ?!それで?
私に何を聴きたいのよ。
答えは決まっている筈よ、当たり前の事を伺い立てるんじゃないわよ!
私は忙しいの!そんな小国の相手をするほど暇じゃないの!」
伺いを立てた相手に罵られて、戦艦の指揮コンピューターが委縮する。
しかし、モニターが捉えた相手が相手だけに、勝手な判断を下す事が出来ずに再び主人に訊ねる。
映し出された人影に観えた紅き宝玉の中に、手出し不可能と判断された者が宿っているから・・・
「むっ?!
なぜそれを早く言わないの!
・・・紅き宝玉・・・あれは、堕神ルシファーなのね?」
拡大投影された少女の胸元に、光る紅き宝玉。
戦艦が判断を下せない理由がそこにあった。
「お前達は神たる者に手を下す事はならない決まりだったわよね。
それなら仕方ないか・・・でも、私が命じるわ。
我ら神軍の邪魔をする者は神とても同罪。
全能の神ユピテルに歯向かう者はすべからく我ら神軍の敵。
我が僕、ゴリアテに告ぐ。宿りし者共々人間共を駆逐せよ!」
高飛車な命令が巨大戦艦に下された。
中央メインコンピューターは、主の命に復命する。
マシン語が女神たる少女に復命を告げ、送受信を切る時。
「待て!今一度画像を見せろ。
宿主の魔法少女の顔を拝ませろ!」
戦艦のコンピューターが、
命じられて即座に画像を切り替え、こちらに向かって来る魔法衣姿の少女にアップした。
蒼髪を靡かせ、蒼き瞳で見つめるその顔は。
「!!
なんと?!私?・・・いいや。
こいつが・・・ユピテルが言っていた。
私・・・殲滅の女神ミハリューの・・・バグ。
私と同等の力を秘めた・・・神託の天使・・・」
銀髪に近いピンクの髪を振り立たせた紅き瞳のミハリューが喚いた。
「そうか・・・こやつが。
ならばちょうどよい。
戦艦ゴリアテに命じる、こやつとこやつに宿りし堕神ルシファーを殺せ!
小国などはほっておいていい。
必ず反逆者とバグ娘を消し去るのです!
これは殲滅の女神ミハリューの宣旨と受け取りなさい!」
女神ミハリューの厳命を受けたゴリアテ級戦艦は復命の代わりに直ちに通信を切った。
「くっくっくっ!面白い!実に面白いじゃないのっ。
一度に二つの問題のカタがつけられる・・・正に一石二鳥ね!ほーっほっほっ!」
高笑いするミハルにそっくりなミハリューと名乗る娘。
でも、どこか悪賢そうな娘の高笑いが神々の神殿に木魂した。
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右手のネックレスを握り締めて、その時を待った。
「ミハルよ、どうやら気が付きおったようだぞ!」
毛玉の声が直接耳に入って来る。
敵要塞戦艦下部に配備されている防御火砲の砲身が、
こちらに向かって旋回を始めていた。
「うん・・・そろそろ撃って来るとは思ってたんだ。
ルシちゃん、この魔法衣でどれだけ保てそう?」
魔砲力の殆どを手の先に集中しているミハルが、
防御に回せるだけの力が無い事に不安を感じて守護神ルシファーに訊ねる。
「うむ・・・私の魔力で持ちこたえられるのは、精々(せいぜい)小口径弾までだ。
大火力の砲火を喰らえばひとたまりもないぞ?!」
毛玉に言われたミハルが、頭上の火器をざっと見廻して。
「あれは、戦闘機に装備されてあった機銃と同じ口径くらいだから・・・
直撃を喰らってもなんとか保ちそう。
でも、いっぱい当てられたら危ないかも・・・」
見上げた戦艦下部にある機銃座だけでも数十基確認できた。
それが全て自分に向けて照準を合わせてきているのが解る。
「来るよルシちゃん!お願い護ってね!」
靴の翔飛に魔力を分かち、吹き飛ばされない様に体勢の維持に注意を払う。
ミハルはたった独りで十字砲火に晒されようとしていた。
「ミハルぅっ!やめるんや!やっぱり一人でなんか無茶や!」
羽交い絞めにされたホマレが叫ぶ。
「中島3尉!もう無駄だ、諦めろっ!」
二人に羽交い絞めにされ拘束されたホマレに、後から駆け付けた士官が言い放つ。
声に抗う様に怒りの眼で振り返り様、
「なんやとっ?!誰やお前は!」
叫んで気が付いた。
翔鷹を護衛していた魔砲師隊の指揮官らしき女性に。
鋼色した魔法衣に。
「あんたは・・・あの時の・・・」
見開いた瞳が驚愕の色に染まった。
「覚えていてくれたようね、ホマレ3尉。久方ぶりね・・・」
鋼の魔砲師が険しい顔を一瞬だけほころばせた。
その顔を見詰めるホマレの表情は反対に激怒に染まっていく。
「アンタ・・・何故。
なぜここに居るんや?
仲間を見捨てる上官が、なぜ有志連合軍に編入されているんや?」
見据えたホマレに対し、目の前に居る魔法衣を纏った銀髪の女性が答えた。
「私が必要だと思ったんでしょ、お偉い方は。
冷血な判断でも平然と下せる・・・この鋼の魔砲師・・・大高 隼が」
すうっと目を細めた鋼のジュンが、緑のホマレを威圧する。
ホマレはジュンの赤銅色の瞳を睨み返す事しか出来なかった。
また、新たな魔砲師が登場しましたね。
チョイ役?それともメインキャラ?
まぁ、そんなことより、今はミハル先輩の事が心配です。
あの戦艦を倒せるのか?どんな酷い目に遭わされるのか?
・・・まぁ・・・ちょっと楽しみではありますが。By・ミリア
次回 Ep7 蒼空に願いを Part7
・・・人類消滅まで ・・・アト 121 日