第5章 蒼空の魔砲師 Ep7 蒼空に願いを Part5
ミハルは決死の戦法に出る。
魔砲師ホマレの援護の元、唯一人の攻撃隊は突入を開始する!
日の本の改造飛行船空母翔鷹が火を噴きつつも、港北部に着陸した。
邀撃する魔砲師達を尻目に、襲い掛かった小型機の編隊が集合を終えて帰投し始める。
炎上する改装空母。
元々、飛行船でしかない翔鷹には、防御力は考慮されてはいなかった。
同じくダメージコントロール然り。
空中輸送能力を買われて、空母とされていたに過ぎないのだが・・・
「回収班急げ!
何としても補給物資の取り出しを済ますんだ!」
有志連合軍の整備班員達が消火に専念する中を、
フェアリア海軍港湾部員達が搬出作業を手伝っていた。
「いかん!このままでは機材が消失されてしまうぞ?!
早く火を消せ!科学消火剤はどうした?!」
突入した搬出係達が炎に阻まれ、中へ入る事も出来ない状況に苛立った声をあげていた。
「艦長?!物資の搬出が炎に阻まれ、巧くいかないようですっ!」
ミノリ2佐に報告するミツル3尉の声が、艦橋に響く。
だが、当のミノリは全く動こうとしない。
「艦長・・・?」
不自然に思ったレナ3尉が立ち上がって艦長に近づいた時、悲鳴に近い叫びをあげる。
「か、艦長?!どうなされたのですか?」
半眼のまま、まるで意識が無くなったかのように身動きしない2佐に目を見開いて驚いたのだった。
<おーいっ、ミノリよぉ。お前の部下が驚いているぞ?!
教えておかなくても良かったのか・・・コン>
尻尾をフリフリ、狐の神様がミノリに訊いた。
精神世界の中で・・・翔鷹が炎上を続ける炎の中で。
<黙って手を貸せ、でないと約束の油揚げはやらんからな!>
ミノリは炎の拡大を抑える為にここまで飛んで来たようなのだが。
精神世界の住人でもある狐は、単に油揚げが欲しかっただけで。
<くれないだってぇっ?!それは嫌だ!こんな炎なんか・・・こうだ!>
白い毛先が炎を一撫ですると、途端に火勢が弱まった。
<それでいい!油揚げ2枚にするから全部消せ!>
宿り主の神様に命令するミノリ。
物欲に弱い・・・というより、好きな食べ物に弱い狐さん・・・・(すみません、お稲荷様・作者謝)
<ひょほぉっ?!2枚?それならそうと早く言え!>
二本の尻尾を激しく震わせ、炎をかき乱し噴き払ってしまった。
「うおおおっ?勝手に火が消えた?!」
搬出班も消火に務めていた者達も目を疑った。
「今だ!さっさと搬出し、我が艦に備え付けろ!
魔法整備士が待っているんだ、急ぐんだ!」
一斉に搬出する作業員達の姿を確認したミノリと狐様は、満足げに頷き合った。
「こなくそっ!」
魔鋼弾が黒い機体に突き刺さる。
噴き出した黒煙が海面へと墜ちる機体から流れ出ていく。
ネックレスを握り締め、敵の攻撃を避け続けるミハルの直衛を託されたホマレが機銃を放ち続ける。
味方から引き返してきた小型機の群れが襲い掛かって来たのは、
ミハルとホマレが要塞戦艦に向かって飛び出した直後だった。
「ホーさん!後少しっ、後2分位で下方に廻り込めるから!」
後ろを振り返ったミハルが教えてくる。
「ミハルっ、最期まで護からっ!
護衛としてミハルを護るからウチは!」
突き従うホマレが叫ぶ。
周りを確認した目に、またもや・・・
「くそっ!ウチとミハルを分離させる気やな!」
また現れた敵機がミハルを襲おうとするのを、巴戦に持ち込んで撃破する。
それは良いのだが、肝心のミハルとの距離が離されてしまった。
「待つんやミハル!
独りで突っ込んだらアカン!」
手を差し出して引き留めようとしたが。
「ホーさん!ここまで来れば。
もう敵機に襲われることも少ないと思うから・・・
ホーさんは引き返して!」
逆に一直線に要塞戦艦下方に潜り込もうとしていた。
「ここまで来れたのはホーさんのおかげ。
後は私に任せて・・・ホーさんはその人達と一緒に帰って!」
ミハルの声で、やっと気が付いた。
自分だけが小型機と戦っていた訳ではなかった事に。
ホマレの後方には、数名の有志連合軍魔砲師達が飛んでいたのだ。
翔鷹を護衛してきた魔砲師の内の何人かが、ホマレの後ろを護っていてくれたのだ。
「アンタ等・・・今頃なんや?!
今迄何しとったんや!」
仲間に対して苛立ったかのような雑言を浴びせるのは、
たった一人で突入するミハルを思っての事。
味方に対して怒りを顕わにするホマレの背に、ミハルの声が聞こえてきた。
「ホーさん!
私が言った事忘れないでね。
それに、私って簡単に死なないから!約束を果たすまでは死んでも帰って来るから!
じゃあねっ、また・・・!」
片手を振ったミハルの姿が噴き出され続ける雲の中へと消えていく。
「うっ?!
うわああああっ?!
ミハルっ!ミハルぅぅうっ!」
消えてしまったミハルに泣き叫ぶホマレを。
駆け付けた魔砲師達が押さえつける・・・ミハルの後を追わせない為に。
振りほどこうとするホマレを押さえつけるのに、
二人かかりで押さえつけた魔砲師が敬礼を贈る。
死地に飛び込んでいった見知らぬ仲間に対して。
最期の瞬間に一目見た・・・蒼き魔法衣姿の少女に・・・
雲の中・・・
そういえば軽く受け止められるだろうが、実際には。
「くぅっ?!
なんて風量なのっ?!」
雲の中は乱気流の中に迷い込んだかのように爆風が吹き荒れていた。
自分が進んでいるのか押し流されているのかも判らなくなる。
風が前から吹いて来る事だけが、目的の場所への道しるべという状態だった。
「ルシちゃん!
アトどれくらい・・・私の魔砲力が保てるのは?」
胸に宿る守護神に訊ねる。
「うむ。まだ何とか維持できるだろうが・・・」
毛玉の姿になったルシファーが何かを告げたそうにミハルを見た。
「何?ルシちゃん。私の事が心配なの?」
必死に飛ぶ中で、毛玉に訊くが。
「心配なのはこの要塞戦艦とかいうデカぶつを倒せるのかということだ。
ミハルの身はこのルシファーが一命に賭けて護り抜く・・・約束だからな」
毛玉は少しいつもと違った。
いつもなら、自信を持った口調で言った筈なのだ。
一命を賭けてなんて、言いはしない。神に命というモノはないのだから。
「そっか・・・ルシちゃんも今回だけはどうなるのか解らないんだね?」
気取られてしまったかと口惜しんだ毛玉が。
「判らんのはミハルだ。なぜこんな危ない真似までして護ろうとするのだ?
死をも覚悟の勝負に・・・なぜ挑む?」
解っているのにミハルに訊ねてくる。
「うふふっ、ルシちゃん。
恍けたって駄目なんだからね。
私が考えている時も、リーンの姿に頼ってみた時も。
何も言わなかったじゃないの。
こうなると知っても止めなかったのは、
こうするしか可能性が無いと思ったからでしょ、私と同じように」
毛玉は返す言葉を失う。
護るべきこの魔法少女の決断に・・・決死の覚悟に。
「それなら、ルシちゃん。
一緒に闘って・・・私と共に。
最期の瞬間まで、大切だと想うのなら・・・私の事が」
毛玉に告げるミハルの口元が微笑んだように見えた。
「ふーむっ、ミハルには敵わんな。
でも、少々自己中ではないのか?
私がそなたを愛していると踏んでいるとしか聴こえなかったぞ?」
毛玉が片目を閉じて、まんざらでもないようにニタリと笑う。
「そう聞こえた?だったら・・・アタリ」
ほんのり頬を朱に染めたミハルが笑う。
これから死地に向かう少女とは思えない微笑みがそこにあった。
二人の前で、噴き出していた風が突然弱まる。
それは・・・目的の要塞戦艦下部に到達した証だった・・・
「辿り着いたぞミハル!」
毛玉がミハルの胸に戻って叫んだ。
「うん!いよいよ決着を着ける時だね、神様!
私の好きな・・・誰よりも頼りになる守護神、ルシファー!」
ミハルはリーンのネックレスを突き上げて最期の特攻をかける!
ホマレの叫びが蒼空に轟き渡る。
仲間達に押さえつけられたホマレの目に映ったのは・・・
日の本海軍に所属していた時の上官の姿だった!
次回 Ep7 蒼空に願いを Part6
君は突入を開始する・・・友に後事を託し。
巨大な敵に立ち向かうのは、魔砲師ミハル。たった一人の神託の使徒・・・
・・・人類消滅まで ・・・アト 122 日





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