第5章 蒼空の魔砲師 Ep7 蒼空に願いを Part3
ミハルの魔砲であっても・・・
巨大な敵には掠り傷しか与える事が出来なかった事実に、
どうすればフェアリアを守り通せるというのか。
ミハルは次の一手を考えるのだった・・・
小型機の射出口を破壊されても何事も無かったかのように進撃を続ける要塞戦艦。
海面を波立たせ侵攻を続け、フェアリアの海岸線まで数キロ付近まで近づいた時。
「うん?奴等・・・どこへ行くんや?」
一時的に後退したホマレとミハルが敵機の群れが自分達を追いかけず、
明後日の方に飛んでいくのを不思議そうに見ていた。
「私達以外に何か重要な存在があるのかな?」
小型機達は一斉に内陸方面に向かっていく。
その方向を目を凝らして見詰めると。
「なんや?南方の方に何かが・・・・
あ、あれは・・・あれは、友軍なんか?!」
ホマレに言われて敵機が向かう先をよく見てみると。
「ホントだ!空に黒点が1つ・・・だけじゃないよ?!」
大きめに映った黒点の周りには、少なくても12個の小さな点が群れ飛んでいるのが解った。
「援軍にしては小規模やな。
・・・そっか!ミノリ姉さんが言っていた補給部隊やな、あれは!」
大きめに見える黒点が輸送飛行船を意味し、
小さく群れ飛ぶのが魔砲師達、護衛隊の人影なのだとホマレが教えた。
「あの輸送部隊に敵が向かっているのはウチ等の艦に物資を渡したくないからや。
魔鋼の燃料や砲弾を渡せば強敵になる事を知ってるからなんやろ!」
ホマレが話している内に、小型機編隊と護衛隊の空戦が始まった。
「ホーさん!助けに行く?」
ミハルが空戦に加わるのかと訊くと。
首を振ってその必要はないと伝えてくる。
「ミハル、今はそんな場合じゃないやろ?
護衛隊に任せておくんや。
ウチ等はあくまで敵戦艦の侵攻を遅らせる事だけに務めりゃいいんや!」
振り返ったホマレに、解ったと頷くミハル。
その目の先にある巨大戦艦に身構えて、二人はこの後どうすべきかを考えるのだった。
「輸送部隊の<翔鷹>、20キロまで接近!」
観測員からの報告が届く。
俄然騒ぎ出す若い士官達にも、まだ押し黙っているミノリ艦長の眼が開く。
「艦長!直ちに応援飛行士を発進させますか?」
砲術長のレナ3尉が命令を求めてくる。
「いや、それより。不測の事態を考慮し、物資回収隊を編成した方が良いのでは?」
航海長のミツル3尉が訊ねてくる。
二人の若い士官に、ミノリが命じた。
「直ちに飛空士の援護の元、物資受け取り部隊を編成。
本艦に動力源たる魔鋼機械の搬入、取り付けを急げ・・・」
冷静な口調でミノリは命じた。
復命した二人の士官が各部署に命令を下し始める。
キビキビと命令を下す二人の後ろで、ミノリは再び目を半眼にして黙り込んだのだった。
その目は、あと少しで作業が終わる上部艦橋を透かして見ているかのように上に向けられていた。
ー このまま・・・皇都に進撃されたら・・・・
ミハルは進み来る岩山のように巨大な戦艦を睨んで考えていた。
ー もし・・・エギレスで起きた惨劇が繰り返されるというのなら・・・
ミハルの脳裏に人々が吹き飛ばされ、跡形もなく消し去られる光景が浮かんでくる。
逃げ惑う人々・・・猛烈な風が建物も、地面でさえも捲り返し吹き飛ばしていく。
それは重い戦車でも同じ・・・宮殿でも同じ・・・
ー そんな事になったら。
もし、敵戦艦に蹂躙されてしまったら。
フェアリアは崩壊する・・・いいえ、そこに居る人達はみんな殺されてしまう。
・・・どうすれば、防げると言うの?
思いは絶望に押し潰されてしまおうとしていた。
全力で放った魔砲でも敵に大した損害さえも与えられなかった現実。
ー 確実に射出口奥の格納庫まで魔砲は届いていた・・・
誘爆を招いた筈なのに。
あっという間にダメージを回復させたんだ、あの戦艦は・・・
魔砲が敵にダメージを与えたのは確実。
しかし、損害は岩山のような要塞戦艦に何程の影響も与える事は出来なかった。
その事実に、ミハルは憂うしかない。
誰かに教えを欲するかのように。
自らの答えを確かめる為に・・・
求めは知らず間に願いとなる。
金色の光が、リーンのネックレスから溢れ出す。
ミハルは魔砲の力でこれからどうすべきなのかを自問し続ける。
譬え何回もエクセリオ・ブレイカーを命中させたとしても、要塞戦艦には致命傷を与えられないと。
自分の力だけでは戦艦の侵攻を防ぐ事さえも出来はしないと言う事を。
ー だとしても、私は大切な人達があの戦艦に襲われるのを見て見ぬふりなんて出来ない。
マモルやミリア、お父さんお母さん・・・皆を見捨てる事なんて出来はしないんだから。
自分がどうなろうとも・・・必ず護って見せるんだから!
ミハルは知らず知らずに胸の蒼き宝石に手を翳していた。
<リーン・・・リーンなら。
あなたならどうする?
敵わぬ相手だと解ったとしても、闘わねばならないのなら・・・
リーンなら、どう闘う・・・どうすればいいの、私・・・>
胸にしまってあるリーンのネックレスに訊ねてしまう。
<私・・・みんなを護りたい。
大切な人を、大切なリーンの国を・・・約束を守りたいの。
それにはどうすればいいのかな?
どんな方法があるんだろう・・・教えてよ、リーン?>
眼を閉じて想い人に訊いてみる。
心の奥に居る、優しい女神の顔が思い描かれる。
金髪を靡かせた女神のように美しい蒼き目がミハルに語り掛けた。
<ミハルはまだ戦えるじゃない。
まだ終わった訳じゃないんでしょ?
自分の力を信じて今迄闘ってきた筈よ・・・そうだったでしょ私達はいつも・・・>
蒼き優しい瞳でリーンが教える。
<リーン、そうだったね・・・でも、今度の敵は桁違いなんだよ。
私の全力魔砲でも、疵しか付けられないの。
もう何度も放てる魔力さえも底をついちゃったし・・・普通の攻撃じゃ間に合わないよ>
ミハルが絶望の色を見せた瞳で返答すると。
<らしくないわね、ミハル。
オスマンに行って来てから弱気になったんじゃないの?
私の知っている双璧の魔女ミハルはそんな弱気を言った事なんてなかったわ。
譬え・・・自分がどんな目に合わされようと・・・立ち向かって行ったもの>
心に何かが閃く。
ミハルはリーンに向かって訊いてみた。
<リーン・・・あのね。
・・・言い難い事なんだけど、リーンを助け出すのが遅れてもいいかな?
私の約束・・・必ずリーンの元へ帰るって言う・・・あの約束だけど。
神様になったリーンを助け出すのが・・・出来ないかも。
人のままでは・・・ううん、生きては・・・出来ないかもしれないんだ>
リーンに向かうミハルの顔はいつになく真剣で、切なそうに見える。
瞳に微笑みを称えた女神リーンが、そっと手を差し出して。
<そう・・・ミハルは大切な想いに気付いてくれたんだね。
諦めない想いに・・・私と共に願った、そして約束した想いに。
・・・最期まで・・・最期の瞬間まで諦めないという事に>
ミハルの髪を撫でて告げた事は・・・戦う者の真理。
<でもねリーン。
立ち向かうにはそれなりに勝つ手段がないといけないんだよね?
あの巨大な物質をどうすれば壊せるというの?
私には、どうすればみんなを護り抜けるかが解らないの・・・>
自信なさげにリーンの手を見上げて助けを求める。
優しき女神の助けを。
愛する女神の手解きを・・・
微笑んだままのリーンが、ポツリと言った。
<この世界には、闇と光があるように。
神が創ったとしてはお粗末な条件があるのよね、あなたも知っている通り。
敵が巨大だとすれば当然質量も大きいでしょ?大きければ大きいほど・・・
眼が届きにくい所がある筈よ・・・
ミハルには解るかしら、天と地・・・そのどちらにも敵には落とし穴があるって事に>
天と地
リーンの言葉が持つ意味は?
この世界・・・つまり今飛んでいる空を意味する天。
そこに光と闇が存在するって事は、ミハルが光なら敵は闇。
そして倒せる方法とは・・・
リーンの話した意味が飲み込めた。
だが、決して普通では考えられない戦法だった。
<私の力で・・・出来るかな?
電解層まで、あんな大きな要塞を持ち上げられるかな?>
女神リーンは微笑んだ・・・回答に頷いて。
<最初にも言ったでしょ?
ミハルにはまだ戦える武器があるじゃないって。
まだどんな敵にだって負けない、強き魔砲の力が秘められてるじゃないの。
あなたには・・・あなたの魂には、闘える力が残っている筈よ!>
リーンは金色の光に包まれながらミハルのネックレス・・・蒼い宝石になっていく。
<ミハル・・・私もあなたと同じ。
護りたいの、みんなを・・・フェアリアを・・・>
宝石となったリーンの声が、ミハルを目覚めさせる。
「リーン・・・ありがとう。
私、解ったからね、みんなを護る方法が。
どうすれば悪魔の手先からフェアリアを守り通せるかを!」
蒼き瞳の魔砲師ミハルの手がネックレスを握り締める・・・
脳裏に浮かんだ懐かしの女神。
告げられたのは神託なのか?それとも・・・
リーンによって思い出させられる約束。
そして・・・ミハルの決意は?
次回 Ep7 蒼空に願いを Part4
君は心の中に浮んだ女神との約束を果そうとする・・・譬え我が身が蒼空に消えようとも・・・
・・・人類生滅まで ・・・アト 124 日