第5章 蒼空の魔砲師 Ep6 蒼空の魔砲師 Part11
近付く敵の影
ミハルはまだ・・・知りもしなかった。
襲い来るモノの正体を・・・・
フェアリア沖約200キロの海上を、一塊の雲が近づいていた・・・
その雲は渦を巻き、小型の台風のように海上を波立たせている。
あたかも、何かがその内部に潜んでいるかのように。
黒い雲の塊は真っ直ぐに海岸線目掛けて進んで来るのだった・・・・
光と闇が交り合い、複雑な景色を映している・・・
神々しいといえば、そうなのだろうが。
闇が混在する事で、ここが何処を表しているかが分からなくなる。
その薄暗く、太陽の光が及ばない所で・・・
「そう・・・アイツが。
また邪魔したというのね・・・裏切者の堕神、ルシファーが」
闇の中から少女の声が聞こえてくる。
「人間なんかほっておけばいいものを。
私達に歯向かう事の愚かさを忘れたようね、あの馬鹿者は・・・堕神ルシファーは」
少女の声はミハルの守護神となっている者の事を、嘲笑うかのように悪態を吐く。
嘲笑う少女に向かって、機械的な音声が情報を伝える。
それは、フェアリアに進行している人類殲滅部隊の進撃具合だった。
マシン音を聞き取った少女が、声を荒げて命じる。
「侵攻部隊は何をしているのよ!
そんな小国相手に・・・無様よっ、情けないわねぇ!
さっさと滅ぼしてあげなさいな、戦艦直々に出向いて・・・
あなた達がグズグズしているから、終焉の女神がいつまで経っても目覚めてくれないのよ!
損害なんて顧みずに攻撃しなさい!
いいこと?!私は気が短いの!
もしあなた達下僕がしくじったのなら、私自らが出向いてあげる・・・
この意味が解ったのなら・・・今直ぐ、戦艦自らが地上の屑共を殲滅しなさい!
しくじった時は・・・この私、殲滅の女神、
・・・ミハリュー様が直々に滅ぼしてあげるから、あなた達と人間共を!」
少女の苛立った声が、機械の音声を震わせる。
機械をも怯えさせるこの少女は名乗った。
<<殲滅の女神、ミハリュー>>・・・と。
「全く・・・酷い下僕を与えられたものだわ。
ユピテルの親爺め、今度あったらとっちめてやるんだから!」
愚痴る声を残し、少女神ミハリューは闇の中へと消えて行った・・・・
動かせられる戦車を率いて、陣地を皇都に向けて後退させる事となった。
「指揮官はこのシマダ・ミユキ中佐が執ります。いいですね?」
フェアリア陸軍戦車士官服を着た、ミユキが現場の最上級階級者として命じた。
日の本人なのに戦車隊を指揮する事には、反論を言う者もいたのだが。
「これはカスター皇太子殿下直々の依頼によるものと心しなさい。
皇族に楯突く者は、この場で罷免してあげます、いいですね!」
凛とした元日の本<東洋の魔女兵団副隊長>の一声で、反論者は皆押し黙った。
「お母さん!
それではこの海岸線を放棄するの?
皇都付近まで後退して、新たに陣地を構築するの?」
ミハルが母ミユキ中佐に訊くと、首を振って教えた。
「違うのよミハル。
皇太子殿下はね、民間人の避難を優先させているの。
皇都に住んでいる人達を逃がす為の時間稼ぎをする為に、
全戦力を集中して・・・皇都前面で敵の侵攻を喰い止める気なの・・・」
ミユキは撤退を開始した部隊を見ながら、そう娘に教えたのだった。
「そっか・・・その方がいいのかも・・・
でも、空襲を受けるのなら皇都から逃げ出さなくても地下壕に潜っている方が・・・」
ミハルは地上で逃げ惑うより、爆弾の届かない地下への避難を勧めたのだが。
「ミハル。
あなたはエギレスがどんな目にあったか知らされていないのかしら。
海洋国エギレス本土が受けた被害について知らされていないみたいね」
ミユキはマコトを振り返り、目で合図した。
促されたマコトがミハルを手で呼び、耳打ちする。
「いいかミハル、口外するんじゃないぞ。
先日エギレス国外避難民から受けた情報によると・・・
<神軍>の空中戦艦・・・我々はこれを<ゴリアテ>クラスと呼んでいるが。
その侵攻を受けたエギレス、イスパニア両国は壊滅させられたという。
巨大な雲を纏った敵によって、地上にある建造物も地下に逃げた人々も・・・
全てゴリアテによって消し飛ばされたという・・・未曾有の被害を受けたそうなのだ」
マコトの言葉は、俄かには信じられなかった。
ミハルは耳を父に預けたまま、固まったかのように身動きをしない。
「その空中戦艦がフェアリアへと侵攻中らしいのだ。
間も無く我々の防空識別圏に侵入してくるだろう。
そうなったら・・・もう防ぐ事は難しい・・・というより、不可能だ。
今の我々が持つ戦力では、防ぐというより時間をどれだけ稼げるかの勝負となる。
だから、海岸線で護るより、本土の中に集中配備して・・・
全滅を賭した戦いを繰り広げねばならんのだ」
マコトが言った。
全滅を賭けた闘いになると。
父は娘に言った、勝ち目がないという事を。
娘は父の言葉に、亡国を知らされた。
ー 戦うも亡国、戦わざるも亡国。ならば・・・せめて民だけでも生き延びさせようと。
それがカスターさんの考えられた答えなのね、国が滅んでも構わないと。
それが私達将兵の命と引き換えに求められるモノ・・・命の代償
ミハルは遠く宮殿に向かって頭を下げた。
「皇太子殿下が、そうお考えならば。
私達は敵を喰い止めるのが務め・・・そうね、お父さん」
ミハルは父と母に向けて訊ね直した。
娘の問いかけに、両親は黙って頷く。
「そっか・・・それじゃあ、マモル達も一緒に後退して。
私はホマレさん達と戦う事にするから。
だって空を飛べるんですもの・・・魔法師ミハルは・・・ね!」
娘は有志連合軍と一緒に戦うと言った。
マコトもミユキもその答えが解っていたのか。
「ミハル、くれぐれも無茶だけは辞めてね。
危なくなったら直ぐに私達の元へ帰ってくるのよ?」
「いいかいミハル。魔法に頼り過ぎてはいけないよ?
神の使徒だからって、いつもいつも無茶しないで。
怖くなったらみんなの所に戻っておいで・・・いいね?」
両親はこもごもミハルに諭した。
「うん、解ったから。
心配しないで、お父さんお母さん・・・大丈夫。
私にはルシちゃんが憑いていてくれるんだから!」
ミハルは胸の奥から毛玉を呼び出す。
「ね、そうだよねルシちゃん。護ってくれるよね!」
現れた毛玉に促すように手で合図すると。
「うむ。ミハルの事は我に任されたい。
我が身を賭けて護ると断言しよう・・・宜しいかな?」
両親に約束した毛玉が、再びミハルの胸に飛び込む。
それは二人から確認されるのを拒むかのように。
<ルシちゃん・・・ありがとう。
解っていたよ、この戦いが最期になるかもしれないってことに・・・>
胸に消えた毛玉にそっと伝えたミハルが。
「ほらっ!ルシちゃんもこう言ってくれているんだし。
大丈夫だってば・・・絶対戻れるんだから・・・ね!」
最期にとびっきりの笑顔で両親に言いきった。
娘の笑顔に、二人は言葉を失う。
しばしの沈黙の後。
「じゃあ、ミハル。きっと戻っておいで。
危なくなったら・・・逃げるんだよ?」
「ミハル・・・必ず生きて帰って来なさい。約束ですからね?」
ミユキが手を差し出して指切りさせようとしたが、ミハルは軽く手を挙げて受け流し。
「じゃあ、行ってきます!ホマレさんが待ってるから!」
翔飛に魔砲の力を託し、空へと飛びあがった。
「そうそう!マコトとミリアにも言っておいて!
私は空の上から見守っているからって・・・護っているからって!」
蒼空に昇って行く途中で、最後になるかもしれないと思い。
「お父さんお母さん!最期まで諦めないでね?!
私が居なくても・・・生きる事を諦めないで!」
訣別の言葉を口にしたのだった。
それは今迄培ってきた戦士の感だったのだろうか?
蒼い空に飛び発ったミハルの心は・・・果して
次回 Ep7 蒼空に願いを Part1
ミハル・・・抗い続けた戦いも
終わりを迎えられる時が・・・君に来るのだろうか?
・・・人類消滅まで ・・・ アト 127 日