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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep1街道上の悪魔Act12悪夢と希望

闇に堕ちたミハル。

誰が彼女を救えるのか・・・。

誰が本当の彼女に希望を与えられるのか・・・・。

霞む目に記憶が映し出され続ける。

地獄の戦場が・・・地獄のその日の記憶が・・・


ー  私は敵の重戦車と歩兵に追われて逃げた。

   足元を機銃で撃たれ、何度も土に塗れ、突っぷして。

   死の恐怖に追われて必死に逃げた。

   仲間を置き去りにして、誰よりも大切な友達を見捨てて・・・・


ミハルはマチハの傍で屑折れて膝を付く。

既に涙は枯れ、復讐を誓ったその瞳は黒く澱み、

記憶の中と同じ様に奥歯をかみ締めて怒りに震える。



ー  そして、私は味方に助けられた。たった一人・・・・

   私だけが・・・生き残ってしまった・・・




病院のベットで士官に尋ねられた。

あの日起きた悲劇の真実を訊く為に・・・


「お前の名は?誰の車両に乗っていたのだ」


「は・・・い。私はミハル。シマダ・ミハル一等兵です。

 ラバン軍曹の3号軽戦車の砲手を務めていました」


「ラバン・・・そうか、軽戦車大隊第3中隊だな」


そうメモを取って引き上げようとする士官に、


「中尉殿、教えて下さい。

 何両帰ってきましたか?何人生きて戻れましたか?」


ミハルは半身を起こしたまま中尉に訊く。


中尉はミハルに背を向けたまま、


「・・・一両も。

 一人も生きて帰れなかったよ。君以外は・・・な」


そう言うと、背を向けたまま立ち去って行った。


「うわっ、うわあああぁっ!」


その返事を聞くとミハルは泣き叫んだ。


なぜ?

何故なんだと。

どうしてこんな目に遭わねばならなかったのかと。


「ターム、ラバン軍曹、カール兵長。

 皆、みんな。

 私を置いて逝ってしまった。

 私一人だけを置き去りにして・・・どうしてっ、どうしてなのっ!」


ミハルは涙が枯れるまで泣き続けた。


そして、病院を退院したミハルは戦車師団付きのまま各部隊を転々とした毎日を過ごす事となった。


挿絵(By みてみん)


ある日、戦車隊が師団に補充されて若い戦車兵がミハルの前で喋っていた。


「ねえねえ、聞いた?あの話」


「うん聞いた聞いた。酷いよね」


「此処の前の連隊、壊滅したんでしょ。

 ・・・やだなあ、誰も生きて戻れなかったって」


2人の少女戦車兵がミハルに気付かず話す。


「そう、それ。敵は脱出した生存者まで捕虜にしないで殺したんですって」


ミハルはその言葉に身体をビクリと震わす。


「後で味方が生存者確認の為に調べたら、

 若い女の子は犯された上に殺されたって話でしょ。何て卑劣なんだろう」


ミハルは耳を疑った。


「そうみたいね。私も聞いたんだけど、陣地に近い所で撃破された車両の話」


ミハルは体を震わせて話し込む若い戦車兵を見た。


「うん、金髪の戦車兵と、車長の軍曹の話ね。可愛そうに。

 もし私だったら舌を噛み切るわ。そんなケダモノに犯される位だったら。

 その車長も立派だよね。

 死が迫っているのに最期まで乗員を助ける為に闘ったっていうじゃない。

 私もそんな車長に恵まれたいなあ」


「ほんとよね。乗員が穢されるのを助ける為に死を選ぶ。

 立派よね。でも、2人供殺されちゃったんでしょ」


2人の少女はそう言い合いながら歩いて行った。


ミハルはその車両がどの車両を指しているのかが解った。


ミハルの心はひび割れ、砕け散る。


「あああっ、ターム。ラバン軍曹!

 ごめんなさいっ、ごめんんさい。

 一人だけ生き残ってしまって、ごめんなさいっ、

  ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、ごめんなさい・・・・」


ミハルは事実を知り、ただ泣き悔やむしかなかった。

あの約束の為に死を選ぶ事も出来ず。






ー  そう、あの日にタームとした約束。

   生きて帰る、マモルの元へ。

   連隊全員の願い・・・

   その約束を破る事になろうとも私は許せない。

   タームを殺した者達を、タームを見殺しにした者共を。

   必ず一人残らず殺してやる。

   私からあの優しいタームを奪った者共を。


   カールさんの仇は討ち果たした。

   あの魔鋼騎KG-1は撃破したわ木っ端微塵に。

   後はラバン軍曹とタームの仇を討つ。

   譬えこの身が神の御許へ召されなくとも、

   悪魔に堕ちたとしても、必ず仇を討ってやる!


((ギリィッ))


奥歯を噛み締める音がする。


ミハルは薄く笑いながら復讐を誓う。

その魂は既に汚れ、悪魔に売ってしまったかのようだった。


右手に填めた宝珠の色は、碧く澄んだ色からどす黒く変わり、

紋章は邪な魔女の鉾を現す蛇が絡みつく槍の紋章に変わり果てていた。


挿絵(By みてみん)



「ミハル・・・どうしてそこまで堕ちてしまったの。どうしたら、あなたを救えるの?」


リーンは変わり果てたミハルの姿に悪鬼に堕ちた者の姿を重ねてしまう。


「あなたを救えるのなら、どんな事でもするのに・・・」


リーンはそう言うと、ミハルに近付き、


「ミハル、これ。着替えなさい」


そう言って新しい戦車兵服を差し出す。


「あ?・・ありがとう・・ございます」


視線を合わさずゆっくりと立ち上がり、

クーロフ大尉のジャケットを乱暴に脱ぎ捨て、リーンから上着を受け取り袖を通すと。


「明日の朝まで、一人にして置いて・・・」


そう言って、すたすたと林の中へ行ってしまうミハルに、リーンは更に失望を濃くする。


何気なく乱暴に脱ぎ捨てられたジャケットに目を向けると、ジャケットのポケットから写真が出ていた。


それを抜き取ってみるリーンの眼に写った物は。


「学校の先生?この人がクーロフ大尉なのかしら?」


写真には大男のクーロフと共に、小さな子供達が一緒に笑っている姿が写っていた。




心の中で叫ぶ声が聞こえないのか。


ー誰かっ、誰かっ!助けてっ!私を止めてっ!


ミハルの魂は、黒く澱みきっていた。

悪魔に魂を握られているかのように。


だが針の穴の様な小さな部分に微かな光が残っていた。


ー  お願い、誰か助けてっ。

   本当は誰も殺したくなんてないの。

   もう誰も悲しませたくないの。誰も泣かせたくないの。

   誰かっ誰か私をっ!私を目覚めさせてっ!


針の様な小さな穴が助けを求めていた。



林の中の岩場で、一人横になったミハルは黒く澱んだ瞳を閉じる。


ー  明日には全てを終らせてやる。

   私の復讐。私の終末。

   何もかも全て。ふふふっ、あはははっ!


黒く沈んだ記憶の中、ミハルは眠りにつくのだった。



「「ミハル、ミハル。どうしたのよ。何を迷っているの?」」


懐かしい、優しい声が耳元で囁く。


「あ、うん。あのね、何処へ行くのか解らなくなったの。

 どうしたらタームに逢えるのか解らなくなったの・・・」


ミハルの目の前には優しく微笑む、タームの顔があった。


「え?私。ここに居るじゃない。いつも一緒だよって約束したじゃない?」


タームはミハルの頭を撫でて笑う。


「違うっ、タームは私から離れてしまった。

 奪われてしまった。

 奴等に殺されてしまったのよ。

 憎い憎いっ、タームを私から奪い去った者達が憎いっ!」


ミハルは優しく撫でてくれるタームの手を振りほどいて叫ぶ。


挿絵(By みてみん)



「タームの仇、ラバン軍曹の仇。

 私からみんなを奪った者共を許せない。

 殺してやる、みんな殺してやるっ!」


ミハルは悪鬼の形相になってタームを見詰る。


「そう・・・許せないの。

 じゃあ、ミハルはどれだけの人を殺せば許せると言うの?」


タームは優しくミハルに訊く。


「うっ、そ、それはあの男達全員を・・・」


ミハルはタームの質問に戸惑って答える。


「そう・・・なんだ。

 私を助け様としてくれた若い戦車兵も?

 亡くなった軍曹に栄誉の敬礼をしてくれた、あの車長も?」


タームの言葉に、ミハルの黒い魂にひびが入る


((ビシッ))


「え?それは・・・でも、タームを見捨てた!」


ミハルの黒い魂は、タームの言葉に抗う。


「ミハル。見捨てられたのではないわ。彼等もあなたと同じ。

 故郷に人質を取られているって言っていたでしょ。

 彼等もこの戦争の犠牲者。

 助けられる者を救えなかった罪の意識で壊れてしまいそうなの。

 悪い人達ではないわ」


タームが再びミハルの髪を撫でてくれる。

その優しい手から温もりが溢れ出す。


((ビシッビシッ))


「そ、そんな・・・そんな。

 私は一体誰を憎めばいいの?誰を仇と思えばいいの?」


ミハルはタームに救いを求める。



「誰も・・・誰も憎んではいけないの。


 何も恨んではいけないの。


 きっと何時かは闇は終わりを告げ、光り輝く時が来るから」



タームはミハルを抱締める。

微かに残された光を救う為に。


((ビシッビシッビシッ))


タームの魂に抱締められて、ミハルの黒い魂はひび割れ続ける。


「ターム・・・私のターム。

 今何処に居るの。

 会いたい、逢いたいよ。逢いに行きたいの。

 私もタームの傍に行きたいの。

 こんな汚れた世界から抜け出して、もう人殺しをしないですむ世界へと!」


ミハルの涙がタームを濡らす。


「そう、それがミハルの本当の気持ち。

 私が愛した優しい天から授けられた本当の姿」


タームの言葉がミハルの魂に光を灯す。


「ミハル。あなたは強くなれる。

 もっともっと強くなれる。

 この世界を救える位に。

 私は信じているわ。

 あなたの中に眠れる力を。

 いつか気付く事になる大いなる力と強さを。

 ミハルがリーン姫と共に、この世界を救ってくれる事を!」


タームがミハルを見て確信した様に頷く。


「リーン?どうしてそれを?」


ミハルはタームが知らない筈のリーンの名に不思議がる。


「ミハル。

 私は救われたの、天国に来れたんだよ。

 人を殺したのに幸せの国へ来れたのよ。

 だから、ミハルもきっと来れる。その優しい魂のままなら」


((ビシッビシッビキンッ パッキーーンッ))


闇に覆われた魂が解放の瞬間を迎える。


「ああっ、私も行きたい。タームの元へ。神様が居られる天国へ・・・」


ミハルの魂は救済を求めて、手を指し伸ばす。


「きっときっと来れる。

 私は待ってるわ、ミハルが天国へ来れる時を」


タームの姿が光に包まれる。


「ああっ、ターム。待って、行かないで!」


差し伸ばすミハルの手を握ったタームが。


「大丈夫。

 ずっと一緒に居るわ。

 ミハルが苦しんだ時には、またきっと救いに来る。

 約束だもの、あなたを護るって・・・生き残らせるって。

 ずっとずっと約束を果たす、その時まで・・・ね!」


挿絵(By みてみん)



そう言ってミハルの前から光となって消えて行ったタームに、

手を差し出してミハルはその名を呼ぶ。


「タームっ!タームっ!タームぅぅっ!!」



優しい光の中、ミハルは目覚める。

遂に聖魔鋼騎士への覚醒が始まる。

目覚めたミハルは走る。

もう誰も泣かないで済む世界を目指して。

次回 悪夢と希望 Act13

君は微かな希望を求めて走る。

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