第5章 蒼空の魔砲師 Ep5 暗雲 Part4
ミハルはリーンの行方を追い求める。
手懸りを掴む為、王宮の一室に赴いていたのだった。
「コレを?私に?」
ミハルの前で、リーン姫がネックレスを手にしている。
ミハルもルシファーも姫に何か変化が起きるのかと思っていたのだが。
<ルシちゃん・・・何も起こらないね?>
<うむ・・・>
姫は只黙って、ネックレスを見詰めるだけだった。
「ねぇミハル。これって私が10年ほど前に着けていた物と同じ物じゃないの?
確か、あの娘が最初着けていたモノ。
私に譲られて着けていた・・・そして闇の者に襲われた時にも着けていた」
リーン姫はミハルに教えると、
「蒼き魔法石・・・この石を持っていたのはあの娘。
本当のフェアリア王たる子孫・・・リイン女王の直系の娘なのよ、あの娘は」
自分が知りえた事実を話し出す。
「伝説の女王の子孫・・・受け継がれた力は本物だったんだ」
ミハルが呟くのに頷き、
「あの娘はその事さえも忘れてしまったのかしら。
私に話した事さえも忘れたのかしら・・・リーンは」
話し始めた姫を黙って見詰める毛玉。
名前がリーン続きで混乱しそうになっているミハル。
両者を前に、王女たるリーン姫が記憶を辿る。
「私があの子に始めて出会ったのは、お父様が見知らぬ女性とお話している時だったの。
とても大切なお話をされているようで近寄れなかったのを覚えているわ。
女性の横で大人しくしている彼女を見た時、私・・・判ったの。
彼女も私の姉妹だと・・・ユーリ姉様と同じような血の繋がった娘なのだと。
どうしてか判る?・・・それはね。
鏡を観ているかのようにそっくりだったから、私と」
姫の言葉に毛玉が反応する。
ー この娘が話した事が本当なら・・・リーンは。
あの娘は人だという事になる。グランが言っていた女神ではなく、人だと・・・
一方ミハルも想うのだった。
ー リーンはやっぱり人の子だった・・・しかもリインさんの子孫なんだ・・・
2人が何を想っているのかも知らぬ気に、姫は話を進める。
「でも、おかしな事を言っておられたのよ、その女性が。
リーンは王の子ではないと・・・誰の子でもない、神の子なんだと・・・言ったのよ。
この子を産んだのは王の情の所為ではないと・・・そう言っていたのを覚えているわ。
不思議に想ったお父様が尋ねられたの。
では誰の子だと言うのか・・・って。
そしたら母親が言ったのよ、<この子は神なのだ>と」
思い出しながら話し続ける姫も、不思議そうに首を傾げて。
「そんな事在りっこないと思っていたわ・・・その時は。
自分の身にあんな事が起こるまでは・・・悪魔に魂を盗まれるまでは・・・ね」
10年前に起きた事を話す。
「私がリーンの身代わりになった・・・いいえ、されたの。
これはこの間ユーリ姉様に聞いた事なのだけど、
私の知らない間に神の啓示が下されていたらしいの。
リーンは人の運命を左右する審判神なんだって。
リーンがもし闇に貶められ、人を憎む者になれば人は滅ぶ運命らしいのよ。
神は人を監視する者を野にはなっているという・・・その一人がリーン。
私と同じ姿にしたのは神の戯れなのかどうかは知らないけどね。
あの女性が確かにリイン女王の血を受け継いでいるのは間違いないらしいの。
そしてその母からリーンが生まれてきた事も事実。
でも、彼女が言うには<神の子>なんだって、リーンは!」
段々と判り始めるリーンの本性。
母親が言う<神の子>とは、どういう訳なのか?
「どうしてだかは知らないけど。
母親は姿を消した・・・少なくても私達のフェアリアから。
リーンをお父様に託して・・・それが始まり。
神の祠から突然現われた事になっているけど、
事実は違うのよ、私達だけしか知らない事だけどね」
姫はリーンの母親が失踪した事を告げ、
「出生の秘密は教えられていないの。
母親が言った<神の子>と言う意味に何が隠されているのか。
神の啓示がなされ、リーンが審判神だと告げられた訳だけど・・・
リーンはどうみても人間だと思うの。
悲しい事があれば泣き、面白い事があれば笑った。
怪我をすれば血を流し、痛いと言って泣いていたわ。
幼い時、私達と一緒に遊んでいたのよリーンという娘は」
幼き時を一緒に過した、もう一人のリーン姫が最期に知らしめる。
「彼女は人。
只、魔法を使える特別な存在というだけ。
私はそう考えているの・・・今迄も、これからも・・・ね」
姫は神たる者、毛玉のルシファーに眼を向けて。
「そうでしょ、堕神ルシファー。
私達は人でも有り、神でもある・・・そして悪魔でも。
この世界では人も神も悪魔も・・・
全ての者が創造主に因って管理されているだけだもの」
毛玉はリーン姫の言葉に目を大きく開いた。
「そなた・・・それをどこで聞いたのだ?
この世界がある者に因って創り出された事を知っているのだ?」
毛玉の言葉に姫が微笑んだ。
「私は世界から遠くはなれた処に居たの。
魂だけとなっていた私が連れて行かれたところは・・・神の国。
いいえ、創造主が統治する機械が全能の文明世界とでも言った方が良い位の場所だった。
そこで私が観たり聴いたりした事は、信じられない事ばかりだったわ。
私の事を神たるリーンと間違えて・・・包み隠さずに話しかけて来たの。
全能なる神、ユピテルが・・・」
姫の言った名に、毛玉の眉が上がる。
「そのユピテルが言ったの、審判を下すときが来たと。
私が下げていたネックレス・・・今ミハルが着けているモノね。
それを差し出せと迫ったの、全能の神がだよ?
何故かと訊いたら、ソレには、人の世界が記憶されているからって。
人の世界がどれだけ薄汚れてしまっているかを記憶した物らしいのよ」
ミハルの胸に輝くネックレスの魔法石を見て、姫が言った。
「その魔法石の中には持ち主の観た記憶が書き込まれている。
一種の記憶装置とでも言ったら良いのでしょうか。
ソレをユピテルは欲しがっていたわ、
その記憶が正しい人類かを量る物指しになるからって。
私が本物の審判神だと思い込んで話したの、全能神が・・・よ?」
姫の言葉の端に含まれているのは・・・
「そなたの思った通りだ。
我々神と呼ばれる者達も、悪魔と呼ばれる闇の者も・・・
人間が創った精神世界の産物・・・創造主が捏造した人が人を計る為の偽りの姿。
もはや隠し立てしても仕方が無かろう。
この世界は、人類を補完する為に作り上げられた偽りの世界。
本来の世界では有り得ない事も出来る・・・魔法というものが存在する造られた世界なのだ」
神たるルシファーの口から真実が話された。
「ルシちゃん、それじゃあ、私達はその創造主とかいう人に造られたというの?
この世界に生きる者達全てが造られたモノだって言うの?」
黙って聴いていたミハルが口を挟む。
「いや、それは違う。
確かに、最初の一人目は造ったのかもしれないが。
私達が目覚めた時には、既にこの世界の秩序は決められていた。
魔法が使え、神と悪魔が対立しているこの世界の構図が出来上がっていたのだ。
我々神と、敵対する悪魔と呼ばれる者が創造主が創った初期の人類・・・
闘いがどのような結末を辿るかを量る為に造られたプロトタイプなのだよ、ミハル。
創造主の目的は、唯一つ。
人類の補完・・・人類が未来永劫滅ばずに済む世界を創り上げる事なのだ。
人類同士で争い、やがて滅び行く運命を断ち切る事が出来るのかを計る為に」
ミハルは記憶の端で、ある人が言った言葉を思い起こす。
ー 確か、あれはオスマンでの事だったかな。
魔王に囚われていたリンちゃんを救い出した時に、聞いたと思うんだけど。
リンちゃんを寄り代にしていた異世界の女性が言っていた・・・
その世界では人は自ら滅びの道を辿ってしまったのだと。
壮絶な力を秘めた兵器で戦争を起こし、世界は焼き尽くされそうになった。
そんな時、彼女の操っていた飛行機が巨大隕石の落下で噴き飛んで、
この世界のリンちゃんの身体に封印されちゃった・・・そう教えてくれた・・・
「じゃあ・・・私達の世界も、滅ぶというの?
神はそう結論したというのルシちゃん?」
ミハルが毛玉に答えを求めると。
「審判神の結果次第では・・・
ユピテルの雷鋒が世界を一瞬で<無>と化すだろう・・・」
毛玉の答えにリーン姫も、ミハルも驚く。
「神たるルシファーよ、
その裁判神が結論を下さねば、人類は滅亡せずに済むのでしょうか?
だとすれば、リーンを神に渡さねば・・・審判を下さぬようにすれば?
そうすれば如何にユピテルでも、身勝手な事は出来ないと思うのですが」
ユーリが聴いてきた事は、強ち間違いではなかった。
「その通りだが、ユピテルの事だから。
きっと結論を待たずに行動に移したのだろう・・・
つまり・・・な、ミハル。
あの飛行機械・・・神の軍と呼ばれる未知の敵の正体はユピテル達、神々。
・・・そして奴等は攻めて来ているのだ、このフェアリアさえにも。
人類を<無>へと返す為に・・・いいや、この世界を振り出しに戻す為に」
毛玉は教える、人類に迫る最悪のシナリオを。
「全ての人類、いいや・・・この星自体の粛清。
ソレを成そうとしているのだ、ユピテルは!」
ミハルは毛玉が何を言ったのか・・・理解出来ずに居た。
混乱する頭の中を整理しようとしたが・・・
「あの・・・ルシちゃん?
言ってる意味が・・・さっぱりワヤヤなんだけどぉ?」
グルグル目を廻して毛玉に訴える、損な娘ミハル。
「・・・ミハルよ、このシリアス話について来れなかったか。
つまり、全能の神ユピテルは人類を消滅させようとしているって事だ」
簡単に説明するルシファーがため息を吐いた。
「な・・・なるほど!・・・って、え?ええっ?!
神が人を滅ぼそうとしているの?この世界の人を?
消滅させて、また造り直そうとしているの?」
「そう言う事だ!やっとこ解ったようだな」
ミハルに呆れ返った毛玉に、姫が微笑みながら言う。
「まぁまぁ、初めて聞く人には信じられない事ばかりですからね。
それより、もう一人のリーンの声を聴いたのですか?
何かメッセージを残していると思うのですが?」
ミハルと毛玉が此処へ訪れた本当の目的。
それはリーンの手懸りを求めてのことだったのを思い出させる。
「そうでした、何か解りませんか?
私達にはこれと言った事は解らず仕舞いなのですが・・・」
ミハルが右手でネックレスを指すと。
「そっか・・・あなたは気付かないようね。
リーンが私に渡しそうとした理由が、今一度私の元へ返そうとした訳を。
・・・解らないの?ルシファーでさえも?」
悪戯っぽい声で、姫がミハルの持つ2つの魔法石を観て、
「リーンの声が聴きたかったら2つを石を交わして話しかければ良いの。
自分が誰なのかを石に教えて心から話したいと願えば良いのよ・・・
幼い頃、私にあの娘が言ったのよ。
大切な者にしか話せ無い事はこの石の中に閉じ込める事が出来ると。
それが聴けるのは、心から大切だと信じている者にしか出来無い事・・・
それが私が教えられる魔法石の秘密。
リーンがネックレスを私に渡してと願った訳・・・
あなたが必ずこの石を私に渡すと信じたあの娘の願い、
今・・・果してあげて!」
姫の声がミハルの目を輝かせる。
「はいっ!
私はリーンの事が大切、いいえ!
誰よりも大切なのですっ!誰よりも愛しているんですっ!」
ミハルがネックレスを握り締め、
「私だよ?
ミハル・・・あなたのミハルだよ!リーーーンッ!」
声の限りに叫ぶと。
(( ポォゥッ ))
金色の光の中に、現われたのは何かに切迫するような表情の・・・
「リーーーーンッ!」
現われたリーンに、ミハルは語りかける。
久しぶりに観た愛する彼女は何かに迫られるかのように石に願うのだった。
そして・・・リーンの居場所が解るのだった・・・最悪の場所に居る事が。
次回 Ep5 暗雲 Part5
君は絶望を希望へと替えれるのだろうか?愛する人を取り戻せるのだろうか?
・・・人類消滅まで ・・・ アト 144日





夏休みのオトモ企画 検索ページ