第5章 蒼空の魔砲師 Ep5 暗雲 Part2
リーンの魔法石。
漸く手にした石が告げるのはリーンの居所?
それともトアやグランの事?
手にした者により、教える事が違うのか?
蒼く輝くネックレスの魔法石。
輝きは持ち主にだけ語りかける・・・美しい声で。
<<私をあの娘に渡して・・・あの娘の元に還らせて>>
ー リーンは何を考え何を想い、この石に願いを託したというのだろう。
輝きを放つ石を見詰めて、ミハルは想う。
「一体何があったというの・・・リーン。
あなたの身に・・・ルシちゃんの使徒さんや、グランに・・・」
手の中にあるネックレスを握り締めて、改めて思い返す。
フェアリア王宮では、ミハルが戻った事を知ったユーリ皇太子姫が待っていた。
「ミハルっ、御苦労様だったわね!
リーンの石から行方の手懸りは掴めたの?」
走り寄ってきたユーリがミハルに訊ねる。
「・・・・いいえ。まだ何も・・・」
答える声に覇気が無いミハルの顔を観たユーリが立ち止まる。
暗い表情のミハルを観て、ユーリも落胆しながら、
「そう。
でも、手懸りが掴めなくっても還して貰えたのだから・・・
プロイセンまで行ってくれた甲斐はあった訳だから・・・ね」
慰めながらユーリはミハルの手にしたネックレスを観る。
「はい・・・こうして手にする事が出来ただけで・・・」
ユーリに差し出したミハルの瞳には、涙が湧いてきていた。
差し出されたネックレスを受け取ったユーリが、
何かが聴こえたかのように耳をそばだたせる。
「ミハル、聴こえた?
確かにあの子の声だったわ。
リーンの声がこの石から・・・話しかけている・・・」
ユーリにも聴こえたのだろうと思ったミハルが頷き、
「はい。リーンがこの石に願いを込めたみたいなのです」
自分にも聴こえたと教えるが。
「え?!願い?
ミハルにはそんな風に聴こえたの?
私にはあの子が呼びかけたように聴こえたんだけど?」
ユーリの言葉に、ミハルが顔を挙げる。
ー ユーリ皇太子姫には自分が聞いたモノとは違う事が聴こえたというのだろうか。
そう思ったミハルが空かさず訊く。
「どんな風にリーンが呼びかけたというのです?
何を話しかけて来たというのですか?」
石を持ったまま、考え込んでいるユーリの表情が険しくなっていくのが観て取れた。
真剣に石の話を聴いて、何かを考えるユーリはミハルの声に気付いていない様子だった。
「あの・・・ユーリ様?リーンは何と言ったのですか?」
暫く様子を観ていたが、ユーリが答えてくれないのでもう一度聴き直す。
「あ・・・、ごめんなさいミハル。
この石が教えてくれたのです・・・危機が迫っていると。
我が国に非常の事態が差し迫っているのだと」
石を見詰めたままのユーリは、ミハルに知らせた。
フェアリアに危機が迫っているのだと、石が教えている事を。
「リーンが・・・そんな事を?
私には聞こえなかったのですが・・・」
ミハルが自分には教えられなかった話を、ユーリには教えたのかと少し残念がる。
「ミハル・・・この声はリーンじゃない。
私に話しかけたのはあの子じゃない・・・
古からこの国を護っているこの石に宿る人が教えてくださったの。
そう・・・リーンじゃないわ」
ミハルに向いて答えたユーリは、
「ミハル・・・大変な事になった。
我が国だけじゃなく、世界の危機なのよ・・・これから起きる事は」
そう答えたユーリの顔にはいつもの微笑みの欠片も無かった。
「世界の危機?どう言う事なのです?」
ミハルの質問にも、厳しい瞳のままで。
「それはね、この間空襲してきた敵が・・・
あの敵の本隊が攻めてくるというのよ。
空飛ぶ敵があの何十倍もの規模で、攻めてくるって教えられたのよ!」
ユーリの言葉は、ミハルの心に突き立てられる。
なんとか撃退出来た先の敵襲。
あの何倍もの規模で襲われたら、このフェアリアはどうなってしまうのか。
それに・・・
「世界の危機って・・・フェアリア以外の国にも?
あの飛行機械が攻めてくるのですか?」
答えは意外な所から返された。
「そうですっミハル先輩!」
女性士官服を纏ったミリアがいつの間にか、立っていた。
「ミリア?あなた・・・どうしてその事を?」
ミハルが振り向いた時。
ミリアが背後から抱きついてくる。
「ど、どうしたのミリア?
何かあったの?皇女様の前なのに・・・」
抱き付いて来たミリアが泣いているのに気が付いて、慌てて聞き返すと。
「この世界で起きている異変。
世界を巻き込んで闘いが起きている事を知ったから。
ううん、知らされてしまったからですっ!」
ミハルを見上げたミリアは涙を零して叫ぶ。
「何を知ったというのよ、ミリア。何故泣いているの?」
必死にしがみつくミリアに向き合って、聞きただす。
「バンダにいさんが!
海軍のバンダ一曹の乗っていた駆逐艦が撃沈されたんです!
有志連合軍の輸送船団を迎えに赴いた先で・・・護衛中に!」
ミリアが近所に住んでいた幼馴染のバンダの心配をして教える。
「あの幼馴染の海軍一等兵曹さんが?」
ミハルが聞き返すと、頷いたミリアは。
「この前の飛行機械と同じだったそうです、にいさんの駆逐艦を殺ったのは・・・」
そう答えるのがやっとだったが。
「ミリア!その事をどうやって知ったの?」
ユーリが聞き咎める。
それは極秘扱いの件で処理されていたから。
「我々は軍人なのですよ、ユーリ皇女殿下。
暗号文の傍受なんてお茶を飲むくらい日常茶飯事ですから・・・」
暗号電文にも、解読は容易い事ですからと注釈を入れてから。
「ミハル先輩っ、あの敵が間も無く大挙して襲ってくるのです!
我がフェアリアだけではなく、世界中の国に対して!」
ミリアの言葉に愕然となるミハル。
ー そんな事・・・じゃあ、リーンを探す事も出来なくなってしまうというの?
蒼白になったミハルの顔色を観た、ユーリが言った。
「ミハルに頼んだリーン捜索命令は撤回しないからね。
譬え敵が襲ってきても振り払って探す事は辞めないで・・・お願いよ」
ユーリの声にミハルが訊ね返す。
「しかし・・・フェアリアが。
この国の危機を先ずは回避させるのが優先でしょう?ユーリ様」
その答えは意外だった。
「ミハル。
さっきあなたはこの石からリーンの声が聴こえたと言ったわよね?
私には聞こえなかった・・・あの子の声が。
この石がリーンの声を宿しているのならば・・・私も聴きたかった。
あの娘はあなたを待っているのだと想う。
あなただけがあの子の希望なのね・・・」
ユーリはネックレスをミハルに返しながら、
「だから、ミハルはリーン捜索を優先しなさい。
あの子を助けるのがあなたの最優先事項と、心しておいて。いいわね?」
祖国防衛より捜索活動を優先させるように、ミハルに頼んだのだった。
ユーリの願いはミハルにとっての福音。
「ミハル先輩・・・一つ、お願いを聴いて貰えないでしょうか?」
ミリアが神妙な声で訊ねて来る。
「なに?ミリア・・・」
訊ね返すミハルの声も真剣だった。
「センパイ・・・私達が防衛の任を果しますから。
リーン隊長を、必ず取り戻して来てください!
もう一度・・・隊長の笑顔を見せてください、お願いします!」
ミハルに頼んできたミリアは、もう一つ願いを言った。
「それまでは・・・もう一度逢う時までは死なないと約束してください!」
戦いに向かう前にする約束では無いとは知りつつも。
「先の戦争を生き抜いた先輩に言う必要はないかも知れませんが。
バンダにいさんみたいに・・・なって欲しくないからっ!」
新たなる戦争が巻き起こった世界で、ミリアの願いは成就出来るのだろうか?
ミハルはミリアに向けて微笑みながら応えるのだった。
ミリアの口に出した願いは、タブー。
先の戦争でミハル自身が思い知った怖さ・・・
そう、戦いを前にした者がソレを口にしてはいけなかったのだ。
しかし・・・ミハルは同じ過ちを繰り返そうとしていた・・・
次回 Ep5 暗雲 Part3
君は約束に縛られる運命を選んでしまったのか?自分と約束した者との業を終える時が来ると知りながら。
・・・人類消滅まで ・・・アト 146 日