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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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第5章 蒼空の魔砲師 Ep5 暗雲 Part1

あーっ、私って空飛べるんだった!

車で帰国するミハルが気付きましたとさ・・・


挿絵(By みてみん)


 揺れる車体に体を預けて・・・


プロイセン公国からの帰途。

大使館が用意してくれた車上の人となっているミハルが、車窓を見詰める。

物憂げに流れ行く景色を眺めているかの様だったのだが。


「これからどうすればいいのかな、ルシちゃん・・・」


胸の中に隠れているルシファーに訊ねるでもなく話し掛ける。

車は国境を越え、フェアリアの西端から首都にある王宮目指してひた走る。

車内にはミハルの他にはドライバーだけが乗っているのだが、

無口なミハルに併せるかのように運転に集中している。


「大尉殿、後3時間位で本部に到着予定です」


ブスリと教えるドライバーに、


「うん・・・」


頷き一言だけ返すミハル。


何がミハルをこうまで黙らせるのか。

何故物憂げに考え込んでいるというのか?


<ミハルよ、魔法石からの言伝ことづてがそんなに気になるのか・・・

 まあ、仕方がないが・・・もう少し明るく出来ないか?

 胸の中に居ると締め付けられるように感じるのだがな>


毛玉が顔を覗かせてミハルの心配をする。


<あ・・・ごめんルシちゃん。ちょっとショックだったから>


胸を押えて謝るミハルに、毛玉は大人しく元へ戻る。

押えた手が着けているネックレスに触れる。


「リーン・・・必ず辿り着いてみせるからね」


取り出したネックレスは、蒼き輝きを保っていた。


「きっと・・・私は叶えてみせるから、リーンと再び逢う事を。

 必ず果すから、あなたとの約束を・・・私達の誓いを」


ネックレスを握り締めたミハルが、

魔法石から聴こえた想い人の声を思い出し、遥か彼方に想いを馳せる。




それはローソニ公爵一家との別れを告げる時の事だった。


「ミハル、これからはミハルお姉ちゃんって呼んでもいい?」


懐いたマリーンラルネット公爵令嬢が見上げてくる。


「う・・・うん。いいけど?

 何か企んでいるんじゃないでしょうね」


ジィっと見詰めてくるマリーンにちょっと退いて頷く。

見上げて頼んできたマリーンが、ニマァと笑ってから。


「企むぅ?何をぉ?私わぁ、お願いがあるだけなんだけどぉ」


あからさまに怪しい。

頼み事があるようだが・・・ミハルは黙って何を言ってくるのかと身構える。


「あのねぇミハルお姉ちゃん。

 フェアリアに戻ったら、トーアお姉様を探して欲しいんだぁ。

 亡命された筈のトーアお姉様に帰って来て欲しいってお願いしてっ!

 それが叶わないというのなら、私が謝っているって伝えて欲しいの!」


マリーンの紅き瞳は本気だと告げている。

幼いお嬢さんらしい純真な瞳が、ミハルを見詰める。


「うん、うん!そう言う事なら。

 マリーンちゃんが願うのなら・・・判ったわ!」


ミハルは快諾する。


<ちょっと待て、ミハル。

 その約束は反故にした方がいいぞ!>


毛玉はミハルにだけ聴こえる心の声で教える。


「え?!なぜなの・・・」


思わず声に出したミハルに、マリーンが小首を傾げて見上げてくる。


「あ。いや、何も・・・」


気が付いたミハルは愛想笑いを浮かべてから、毛玉に訊いた。


<どうして?なぜなのルシちゃん。

 なぜマリーンちゃんのお願いを聴いてはいけないというの?>


ミハルが心で毛玉に訊ねる。

毛玉はそっと近付き、耳打ちした・・・己が使徒が宿った娘の事を。


「そこのお嬢には言うんじゃないぞミハル。

 私の使徒トア・・・つまりトーア姫は。

 リーンを護り、付き従い・・・最期を遂げたようなのだ。

 ミハルの友、グランと運命を共にして・・・」


毛玉の言葉にミハルは固まる。


「ルシちゃん・・・それって。

 つまり・・・それは・・・もう?」


血の気が引いた顔で、ミハルが聞き返す。


「そのネックレスが告げている。

 いや、何が起きたのかを教えているのだ、石が」


ルシファーにはミハルがリーンの魔法石に触れた時に解ったようだった。

神の力は石に残された記憶を辿る事が出来るようだった。


「ミハル・・・その石は、間違いなくリーンの魔法石だ。

 その記憶が途切れる瞬間までの事が、私には解ったのだ。

 マリーン嬢には何某か解ったのではないか。

 この石から何かが聴こえたと言っていたのだから・・・」


ミハルは、はっとなってマリーンを観た。

幼き魔法少女は神の使徒たるミハルを見上げている。

期待を込めた清らかな瞳で。


「マリーンちゃん・・・あなたは。

 あなた、この石の声を聞いたと言っていた。

 渡して欲しいと言っていた他に、何かを聞いたの?」


期待を込めた顔が頷く。

僅かに悲しみの色を滲ませて。

マリーンはミハルの胸にあるネックレスを指して。


「うん、聞えたよ。女の人が頼んできたの。

 ミハルお姉ちゃんにも聞かせてあげるから」


マリーンが魔法石に祈りを捧げる。

もう一度聴かせて・・・と。


「聴こえるかな、石がこう言っているのが?

 ()()()()()()()()()って。

 それから、使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って。

 そう伝えて欲しいってお願いしてるのが・・・

 ・・・誰の事だか解らないけど・・・ミハルになら判るかもしれないね?」


マリーンは悲しみを振り切るようにミハルに微笑んだ。


「マリーンちゃん・・・

 そんな事を石が話していたのね・・・今聴こえたわ。

 リーンがそういっているのが・・・この石に託したメッセージが聴こえたわ!」


微笑みかけられたミハルが、マリーンを抱き寄せて訊き直す。


「うん?そうだけど。誰の事なの、消えた人達って?」


マリーンの声がミハルの心に突き刺さる。

ミハルには使徒と魔獣が誰の事なのか、そして消えたという言葉の意味が判った。

思わず毛玉を見上げて声を詰まらせてしまう。

毛玉は頭を振って、令嬢に教えるなと知らせるだけだった。


「マリーンちゃん、私にもその人達が誰を指すのか知らないの。

 きっとこの石が教えたがっているのは大切な人達の事だとは思うのだけれど・・・」


ミハルは辛い気持ちを悟られないように誤魔化すのがやっとだった。


「そーなんだ・・・じゃあ、私と約束して。

 トーアお姉様に会って私の事を話すって。

 マリーンラルネットが謝っていたと、伝えてくれるよね?」


マリーンが小指を立てて頼んでくる。

ミハルは毛玉を観てから、戸惑いつつも小指を差し出してしまった。

絡めた小指が、ミハルの心を締め上げる。


「約束だよ!ミハルお姉ちゃん。

 必ず伝えてね?!出来たらトーアお姉様にもう一度マリーンに逢いに来て貰ってね!」


何気なく言うマリーンの言葉が、重く伸し掛かる。


「うん・・・判った。必ず伝えるわ・・・約束だもんね」


ミハルの口から偽りの返事が零れる。

締め付けられる良心。

嘘をつくのが、この時ほど辛いと・・・嫌だと思うミハルだった。


ー マリーンちゃん、ごめんなさい。

  ルシちゃんの使徒トアさんは・・・もう居ないらしいの、この世に。

  それは寄り代だったトーア姫にも言える事なんだ・・・


ぎゅっと拳を握り締め、ミハルは耐える事にした。

今は・・・やっと幸せを掴みかけたマリーンに、失望を与えないようにと。


<ミハル・・・お嬢さんには失意を与えずに済んだ。

 お前には辛い事だろうが、嘘も方便。良くやってくれた>


毛玉の言葉が慰めとなる。


「ミハルさん、ありがとう。

 この子に希望を与えてくれて・・・約束を交わしてくれて」


キャメルとローソニ公爵が礼を述べる。


「フェアリアの魔法使いミハル。感謝します、一人の父としても」


家族が再び一つになれた事に、感謝するのか、悪魔から解き放った事を喜ぶのか。

感謝されたミハルはお辞儀すると、マリーン達家族に別れを告げる。


「もう家族がバラバラにならないように。

 必ず護ってあげてください、ローソニ公爵様。

 それが私との約束ですよ、もし破ったりしたら。

 どれだけ遠くに離れていても、必ず現われますからね!

 この・・・魔砲の使い手、ミハルが・・・ね!」


最期にはマリーンにウィンクを贈って微笑む魔砲少女ミハルだった。


「ミハルお姉ちゃん!お姉ちゃんこそ約束を守ってね!」


マリーンに突っ込まれて苦笑いする。


「ええ。勿論・・・きっと」


答えたミハルの心に少しだけ翳りがあったのを、毛玉は傷ましく想うのだった。






車の中で、ミハルは思い出していた。


リーンの声を。

石の中から聴こえたリーンの声が、教えていたのはトアとグランの事だけでは無かった。


「リーン・・・どうして?

 どうして行ってしまったの・・・神の国へ・・・」


ミハルは彼方を見詰めて、呟いた・・・



 

リーンの声が伝えたのは、消息を伝える事とは違った。

ミハルが憂うのは、助け出す時間が限られている事を知ったから・・・


ミハルの前に暗雲が立ち込める


次回 Ep5 暗雲 Part2

君は大切な人の言葉に呆然とする・・・確かなのかと自分を疑って・・・

 ・・・人類消滅まで ・・・ アト 147 日

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