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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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第5章 蒼空の魔砲師 Ep4 悪嬢と魔砲少女 Part11

悪魔から解放された公爵家。

ミハルがこの館に来たのはリーンの魔法石を還して貰う為。


それには公爵一家の事件を片付けなくてはいけないのらしいが・・・?

眼が自然と惹き付けられる。


マリーンの胸元に揺れるネックレス。

金飾りの枠に填め込まれた蒼き魔法石に、吸い込まれる様に見詰めてしまう。


「あ、ミハル。

 これが必要だったのよね、ちょっと待ってね」


マリーンがミハルの視線に気が付いて、

パタパタと慌ててネックレスを外そうとするが、なかなか外せない。


「あらまぁ、着ける時はどうやったの?」


ミハルがそっと外してあげようと手を伸ばす・・・


その手の前に、もういっぽんの指先がマリーンのネックレスの留め金を外す。


「あ・・・キャメルさん・・・」


マリーンのネックレスを外したキャメルが2人に微笑む。


「お嬢様にお付け差し上げたのも私なのよ。

 マリーンラルネットお嬢様のメイドですもの、私は・・・」


メイドと名乗ったキャメルはどことなく悲しげであった。

ミハルはキャメルが無事なのを喜ぶのだが、その悲しげな瞳に隠された訳を探る。


「キャメルメイド長、悪魔はあなたの中から去りました。

 悪魔がなぜあなたの事を狙ったのです?その理由を教えて貰えませんか?」


ミハルの問い掛けにメガネを外したキャメルがマリーンを見詰める。

その瞳の奥にあるのは悲しみと困惑。


「ミハルさんは魔法を使えるのですよね。

 私も少々使えるのです、こんな風に・・・」

 

キャメルの右手に載せられたネックレスが、浮き上がりマリーンの手の中へ渡された。


「キャメルさん、悪魔があなたを寄り代に選んだ理由はそんな事では無い筈です。

 あなた自身が闇に心を惑わされなければ悪魔は近付いては来ない筈です。

 一体、キャメルさんは何を隠しているのですか?

 あなたを観て感じたのです、初めから。

 あなたの中にある闇に・・・この館の中に蔓延る闇に」


ミハルはキャメルが悪魔に憑かれた訳を詮索する。

マリーンに離れず尽くそうとする姿に、何が隠されているというのか。

キャメルは悪魔に憑かれた訳を頑なに教えようとはしなかった・・・


「キャメルがマリーンから離れようとしないのは・・・本当の母親だからだ」


いつの間にかローソニ公爵が立っていた。


「父上。何故此処に?」


マリーンが顔を背ける。


「マリーンちゃん・・・あなた。知っていたの?キャメルさんがお母さんだと?」


メイド長のキャメルが公爵令嬢の母親だと告げた公爵。

ミハルは父を見ようともしないマリーンの姿に、今回の事件を解く鍵があると睨んだ。


「キャメルさんが実母なら、公爵の妻は今何処に?

 それに何故キャメルさんは、メイド長を務められているのです?」


ミハルはローソニ公爵に訊く。

公爵はミハルの質問に答え、マリーンとキャメルに近寄る。


「我が妻はとうにプロイセンに帰った。

 彼女は元々私の妻になる気は無かったのだ。

 政略結婚とでも云えばいいだろうか・・・私も彼女と添い遂げる気は無かったのだが。

 私の愛したのはキャメルだったのだから」


キャメルの手を取り、マリーンとミハルに話し出す。


「公爵様、かようなお話をっ?!」


キャメルが慌てて公爵を停め様としたが、ローソニは首を振って。


「いや、キャメル。

 いつまでもこのままではいけないのだ。

 私から話さねばいけなかった、マリーンに・・・私達の娘に」


ローソニ公爵は、キャメルが止めるのを押し留めて話し続ける。


「私達が愛し合っている事を兄プロイセン王は忌み嫌った。

 侍女だったマリーンに私は愛を誓った。

 だが、兄王は私達の仲を引き裂く為に、政略結婚を命じた。

 勿論私は反抗した・・・しかし、兄は事もあろうにキャメルを私から奪い去ろうと目論んだ。

 政略結婚しなければ、キャメルと子を殺害すると脅してきたのだ。

 そう・・・キャメルのお腹には、マリーンが既に居たのだ。

 私は泣く泣く兄王の命令を呑んだ・・・偽りの婚礼を挙げる事となったのだ」


公爵は俯くキャメルを抱かかえ、マリーンに教える。


「マリーンよ、これが事実なのだ。

 お前の中に流れる魔法使いの力は、キャメルの血を受け継いだ証なのだ。

 偽りの母親はプロイセン公国へ帰った。

 もはや私に嫁いでいる理由も無くなったのだからな・・・

 東西が併合され、自分の国へ戻って行った彼女を悪くは想わない。

 いや、それが一番良い事なのだと思うのだよ。

 愛も無い家庭にいるのは気の毒だと思うんだよ」


ローソニ公爵はキャメルこそが本当の妻だと言い遂げ、


「キャメルは彼女がマリーンに辛く当るのが耐えられなかった。

 幼いマリーンに何もせず、当り散らすのを観て・・・悲しんだのだ。

 それを停めれない私にも・・・心を閉ざしかけていた。

 あの夜、キャメルが闇に染まるのを私は止めれなかった・・・」


キャメルが悪魔に身を売ってしまった事を嘆くのだった。


「公爵様、もうお辞め下さい。マリーンに教えないでください。

 私はメイドのままでいいのです。

 マリーンお嬢様のお傍に居られればそれで満足なのです」


キャメルが停める。

だが、公爵は話し終えない。


「マリーン・・・お前はキャメルが母だと知っていたようだが。

 誰から聴いたのか?誰がお前をこんな悪嬢に染めてしまったのだ?

 私に背くようになったのは、このネックレスが原因じゃないだろうに。

 ネックレスを拾う前から、お前は反抗するようになったのだから」


マリーンに訊ね、その顔を見詰める。

マリーンは背けた瞳をじっと閉じ、ネックレスを握り締める。

ミハルは幼い少女が肩を震わせ、何かをじっと耐えているように見えた。


親子3人の間に、沈黙が流れる。


ミハルはそっと沈黙を破る一言を公爵へ語る。


「ローソニ公爵様、あなたが2人を闇に貶めたのです。

 マリーンちゃんも、キャメルさんも。

 あなたがしっかり護らねばいけないのに・・・父として、夫として!」


ミハルの声にマリーンが振り向き、


「違うよ、ミハル!父上は・・・お父様は悪くなんか無い!

 悪いのは父上の兄、東プロイセンの王だった人!

 それに父上を騙したプロイセン公国の支配者達なのよ。

 世間ではお父様が兄王一族を売ったなんて言ってるけど、お父様は・・・

 お父様こそ犠牲者だったの、兄王と隣国との間に挟まれて。

 この事を教えてくれた人は・・・もう此処にはいないの。

 私はその人を売ってしまったの、悪魔に。

 トーアお姉様を・・・あの業火の中に放ってしまったの!」


マリーンが泣き出す。

辛い思い出を呼び覚まし。


「マリーン・・・可哀相な子。

 あなたにこんな辛い思いをさせる母を許して」


キャメルが堪らずに、マリーンを抱締める。


「お母様・・・お母様ぁっ!」


今迄ずっと我慢をして、辛く寂しい想いを続けていたマリーン。

それが今、この手で抱締められたのだから・・・


「やっと、やっと。キャメルに言える。

 私の本当のお母様だと!これからずっと呼べるんだよね?!」


想いは母も同じであったろう。


「ああ、夢のよう・・・マリーンが呼んでくれた、お母様と!」


2人は抱締めあって長い悪夢から開放される。


「ミハルさん、これが私の犯してきた罪なのです。

 このローソニ公爵が救いを求めてあなた方に頼った理由だったのです。

 あなたが悪魔を撃ち払ってくれたおかげで、家族が元に納まれたのです。

 ありがとう・・・感謝します」


ローソニ公爵は御礼を述べて、親子に微笑みかける。

自分が悪魔を祓った事で、この親子は仲を取り戻したのだと納得したのだが。


「でも、公爵様。キャメルさんについては何も教えてくれてなかったじゃありませんか?」


マリーンの持つネックレスを取り戻しに来てくれとだけ頼まれて、

国を出たミハルには、まだ納得がいかない事があった。


「うむ。

 その事については謝ろう。

 なにぶんそなたの事を信用しきれて無かったのでな」


悪びれもせず、公爵が答える。


「ま・・・そんな事だろうと思いましたよ。

 だってマリーンちゃんに近付く為にだと言い聞かせられて、

 メイドとなるのを強要されたのですから」


ミハルは自分の姿を元に戻す。

最早魔法衣を着て、戦う事も無いと思って。


「でもっ、ミハルは最高のメイドだったわ!」


明るい声に振り向くと、マリーンが手にネックレスを持って。


「これを返さないとね。

 ミハルにとって、大切なモノなのでしょうから」


差し出された蒼き魔法石のネックレス。


「ほらっ、ミハル受け取ってよ!」


マリーンのてのひらに載せられたネックレス。

ミハルは一瞬躊躇したが、そっとネックレスを手にする。


  ((パアアアアァッ))


ミハルの手から、心の中に拡がる幸福感。

温もりを感じて涙が溢れて来る。


「ありがとう・・・マリーンちゃん。

 拾ってくれたのがマリーンちゃんで良かった。

 優しいマリーンちゃんが()()()を大切にしてくれて・・・

 嬉しいよ・・・ありがとう」


挿絵(By みてみん)



自然と胸に抱締めてミハルが感謝の言葉を贈る。


「ああ・・・やっと、リーンの手懸りが掴めたんだ・・・やっと!」


ミハルはネックレスを抱き、嬉しさが後から後から込上げて来るのを感じていた。


漸く手にした時。

ミハルは気が付き、毛玉は知った・・・己が使徒の行方を。


ミハルはフェアリアに別れを告げに帰るのだった・・・


次回 Ep5 暗雲  Part1

君の知らない内に、事態は急変していた・・・

 ・・・人類消滅まで ・・・アト 148 日

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