第5章 蒼空の魔砲師 Ep4 悪嬢と魔砲少女 Part10
ミハルの槍から光が溢れ出す。
冥界の番人たるアヌビスは闇に囚われ悪魔と化し、ミハルに立ちはだかった!
魔法陣が足元に拡がる。
魔砲少女の構える槍先にピンクの光弾が膨れ上がっていく。
「ミハル・・・本当に魔法の戦士だったんだ。
魔法使い・・・ううん。魔砲の使い手なんだ」
結界の中で、令嬢マリーンラルネットが呟く。
目の前で繰り広げられる魔法戦に、息を呑んだ。
毛玉が吼える。
ミハルが力を振り絞り魔砲を放つ。
槍先から。
「これが私の、魔砲!私の全力魔法!
エクセリオ・ブレイカー!」
ピンクの光弾が冥界の番人であった悪魔、アヌビスへと翔ぶ!
「そのような魔法など、我には効かぬ!」
ジャッカルの顔が嘲笑う。
光弾が突き当たるまでは・・・
片手で薙ぎ払おうと試みたアヌビスは、人間である使徒を舐めていた。
片手で楽々と払い除けられると踏んでいたのだが・・・
「なっ?にぃっ?!」
魔砲の光弾はアヌビスの力を上回っていたのだ。
片手で払い除けられぬ事を悟った悪魔に貶められた神が、慌てて両手で持ち応えようとしたが。
術を放っている魔砲少女の魔法陣が更に大きく円環を拡気ていくのが解り、
「まさか?!まだ力を放てるというのか?!」
アヌビスは驚愕の瞳を向ける。
紅き毛玉は傍に居る魔砲少女ミハルを眺めて頷いた。
ー ミハルは私の想像を超える力を放てるようになる。
これからの闘いでも、この先どんな苦難に遭遇しようとも・・・
ミハルは悪魔と化した冥界の番人アヌビスに叫んだ。
「アヌビス神よ!
闇の力から解き放ってあげますっ!
聖なる力に目覚めてください!
人を見定め、悪しきを罰し善を称えた神へと戻って!」
叫び、呼びかけたミハルに、アヌビスが抗う。
「我は主に命じられし者なり。
主の命無くば、使命を果たさなくば戻れぬ。
己が一存で神に戻るのは反逆と見做されるのだ!」
ジャッカルの貌が、困惑の表情に変わっていく。
戸惑う悪魔にミハルが願うのは。
「アヌビスよ、あなたに命じた神は闇に貶めて悪魔にした。
いくら主とて理不尽に過ぎはしないかしら。
人を滅ぼすのが神だというの?
あなたを貶めたように主も悪魔と化してしまっているんじゃないのかしら?
あなたは悪魔の主に従うというの?」
ミハルの問い掛けに冥界の番人の貌が沈む。
「さりとて、我は罪を犯した。
ルシファー様の使徒を欺き、多くの人を殺める手伝いをしてしまった。
我が罪は拭えん・・・神たる者にあるまじき行いであったのだから・・・」
アヌビスは己が手を眺めて自戒する。
ミハルから受けつつある光の力に本来の姿へと戻る事を欲して。
「アヌビス!
ミハルの言う通りだ!お前は冥界の番人に戻るべきだ!」
毛玉が諭す。
そして・・・使徒に命じる。
「ミハル!トドメだ!
アヌビスに道を切り開いてやってくれ!」
ルシファーの神託がミハルの魔砲に力を与える。
「うん!いくよっ!エクセリオ・ブレイカー、シュートぉっ!」
力の奔流が槍先から巨大な魔砲弾となってアヌビスに突き当たると。
「ぐうおぉっ?!」
アヌビスの中から黒い影が抜け出していった。
ジャッカルの半身が、金色の光に包まれる。
それは闇を祓い、神へと戻りし冥界の番人たる者の本来の姿。
黄泉の国への番人。
死した者の魂を量り、悪しき者を地獄へと送る。
善功を称え、天界へと送る使者の番人たる神の姿へと戻ったアヌビス。
ジャッカルの頭上には神の証、金色の輪が浮んでいた。
「おめでとう、アヌビスよ。
そなたも私と同じと言う訳だ。
魔砲の使い手によってあるが姿に戻れたのだ、感謝する事だ」
毛玉がアヌビスへ、祝福を与える。
「ありがたい事なのだが、人の手で神に戻れたとは。
そなた、ミハルと言ったな。
何か望があるというのならば、一つ叶えて進ぜよう。
我が礼だ、受けられよ」
毛玉に頷き、ミハルへお礼がしたいと言う。
神々しい光を纏ったジャッカルの半獣半人の姿に微笑んだミハルが首を振り、
「いいえ、私が望むのは人々の魂が正しく評価され、往く先を導かれる事。
アヌビス神にお願いしたいのは今迄通り、裁判神として勤めて欲しいだけです」
自分の望み、それは冥界の番人として再び勤めて欲しい事だと教える。
「相解った。
これまで通り、我は人を導くであろう。
魂の行く先を教え、再びこの世に生を受ける時まで・・・」
金色に輝く瞳は、ミハルに誓った。
「ならば、戻られよアヌビス。
そなたの居場所は此処ではない。
冥界へと戻るが良い」
ルシファーの声に促され、アヌビスは冥界の門を開く。
黒い霧が門から流れ出し、アヌビスの姿を霞ませていった。
「重ねて礼を言うぞ、魔砲の使い手。
汝が願いは我の約束。
我は冥界の番人アヌビス・・・裁判神アヌビスなり」
消え行くジャッカルの半獣半人の姿。
悪魔に身を貶められた神は、元の姿を取り戻して帰って行く。
「良かったね、ルシちゃん。
酷い戦いに発展しなくて、アヌビスが元の自分に戻るのを認めてくれて」
ミハルがデバイスの槍を右手の中に仕舞い込んで言う。
それは、もう闘いは終ったと言う事を示していた。
「ミハルよ、アヌビスもだが。
私も感謝しているんだよ?ミハルには・・・人たるミハルには。
ここに守護神として一緒に居られるのも、ミハルのおかげなのだから」
さり気無く、ルシファーが教えた・・・が。
「どうだった、マリーンちゃん?!
悪魔だって元の姿に戻る事が出来るんだよ?」
ミハルはルシファーの話を聞かずに、令嬢の元へ駆け寄っていた。
ー ・・・ミハルらしいと言えばそうなのだが・・・ナ
毛玉はガクリと頭を垂れる。
駆け寄ったミハルはマリーンを護っていた結界を解く。
腰を抜かしたように座り込んだままのマリーンにそっと話し出すミハル。
「マリーンちゃん。
悪魔だった者だって気が付けば元へと戻る事が出来るんだよ?
観たでしょ?悪魔が神様に戻るのを。
悪しき心に染まっていたにしても、心から悔い改めたのなら。
聖なる力は闇を払い除けられるの・・・今観た通りに。
だったら、マリーンちゃんはどうなのかな?
優しい心に戻りたくはない?
トーア姫に愛されたあの頃の気持に戻りたくはないのかな?」
ミハルが優しくマリーンの髪を撫でると。
「戻ってもいいの?
私は周りの人達に酷い事をしてきたのに?許してくれるの?
愛してくれるのかな・・・トーアお姉様みたいに」
マリーンが自信無く訊ねる。
「そうね、マリーンちゃんが胸を張って謝れるのなら。
きっと誰もが許してくれるわ。
虐めたメイドさん達や、トーア姫なら判ってくれる。
悪魔に利用されたトーア姫なら・・・
マリーンちゃんの気持を、誰より良く判ってくれると想うから」
マリーンがミハルを見上げる。
ミハルがマリーンに微笑む。
「どうかな、魔法の力を授かりしお嬢様は、まだ悪戯するのかな?」
ミハルは服を破く事を悪戯と言った。
自分が受けた事を、悪戯だと言い切った。
「ミハル・・・ごめんなさい。
そして・・・ありがとう!」
マリーンは見上げたミハルに抱き付き、頬に擦り寄った。
「ありがとうミハル!ありがとう私のメイド!大好き魔砲少女!」
しがみついたマリーンの胸元で、蒼きネックレスが揺れていた。
残念ルシファー。
損な娘には効き目なし・・・
これまで呪いを拡げてきた悪魔が消えた事で、マリーンの心も晴れ渡る。
しかし、公爵は未だに懺悔出来ずに居た・・・国を、肉親を売った事に後悔して。
ミハルはマリーンの為にもう一役買って出るのだった・・・
次回 Ep4 悪嬢と魔法少女 Part11
君は後悔する者の言い訳に怒りを覚える、それが愛娘の為だと聴いても・・・
・・・人類消滅まで・・・アト 149日