第5章 蒼空の魔砲師 Ep4 悪嬢と魔砲少女 Part9
マリーンはミハルの戒めを解き放ち、闇の者に立ち向かった。
幼き令嬢の志に報えるのは神の使徒たる娘しかいない。
闘え魔砲少女!
闇より出でし者。
その姿は闇の獣となっていた。
元、裁判神として冥界と人間界に記憶されている半獣半人の姿・・・
その古の神たる者の名は。
アヌビス神・・・
善悪を測り、人を冥界か天界へと導く者・・・
人はその姿をジャッカルに似せ記したのだった・・・
金色の魔法陣が足元に描かれる。
金色の粒が舞い上がり、ミハルの姿を隠した。
光の中から聖なる呪文が唱えられる。
「光を抱け!」
光の消えた跡には、白い魔法衣を翻した魔砲少女ミハルが蒼き髪と瞳でアヌビスを睨んでいた。
「闇に堕ちし神アヌビスに告げる。
罪を測りし者なれば、己が罪を認め悔い改めよ。
さもなくば、このルシファーがお前を断罪せん!」
ミハルに寄り添う堕神ルシファー・・・紅き毛玉が言い放つ。
「神たる者ルシファーよ。
我は闇に染まりし悪魔。
しかして神と同じ者なり、神と悪魔は同じく<無>を求めたり。
我は導かれたのだ、神の手に。
今の我が主たる神が求めるのは人の滅亡・・・<無>なり」
ジャッカルの頭部を持った半獣半人の口から、自らが主の命で動いている事を告げられる。
「お前の主とは?
冥界の主プルートの命で悪魔と化したというのか?」
毛玉がアヌビスに真意を問う。
「我が主は最早冥界の王プルートにあらず。
我に命したのは・・・全能たる者。
この世界を創りし方・・・始まりの地にて人を計る者。
この世界を創り人を計る者、ユピテルなり」
その名を聴いた毛玉が眉を顰める。
「やはりアヤツが操っていたのか。
私を魔王に貶めたように・・・今度はアヌビスを貶めたのか」
ルシファーは古来に起きた神々との戦いを思い出す。
自分が人に寄り添う事を忌み嫌う神々の王ユピテルとの闘いを。
「アヌビスよ。
お前は人の罪を計る裁判神ではなかったのか?
そのお前が悪魔に堕ちてしまえば、人の魂はどうなるのだ?
人の魂は行き場を無くし、冥界の中を彷徨う事になるのだぞ?!」
ルシファーの問い掛けにジャッカルの悪魔が答える。
「いかにも・・・人の魂は冥界にも天界にも行けず彷徨う事となった。
だが、その魂達は神が管理し始めた。
次なる世界の礎とする為に」
ルシファーは確信した。
アヌビスが悪魔となり人に災いを振るう事にも。
神がどうして裁判神たるアヌビスを貶めたのかを。
「・・・ユピテルは・・・全能の神たる者は、人を創り直そうとしている・・・」
紅き毛玉はアヌビスから人の子たる、自らの使徒ミハルに視線を移す。
「ミハル達、人を・・・神が粛清する。
いや・・・人類を消滅させんと計っているのか・・・」
古来の神との闘いを思い起こし、ルシファーは暗澹たる思いに堕ちる。
「人は・・・滅びる運命というのか・・・
自らの信じる神によって・・・人の産みし神によって」
毛玉の前で、魔法衣を着たミハルが、マリーンを抱き上げて後方に跳び退く。
「マリーンちゃん、危ないから此処から動いちゃ駄目だよ?」
蒼く輝く瞳を見上げたマリーンが素直に頷く。
座り込んだまま立ち上がることも出来無い程に、神と悪魔の力に惧れを抱いていたのだ。
「此処に居れば大丈夫だからね。
マリーンちゃんには此処で観ていて欲しいんだ。
私と悪魔の闘いを。
あなたの中にある、悲しみと後悔の心を消し去る為にも・・・ね」
微笑んだミハルが、右手の人差し指を地に着ける。
「聖なる力よ、この子を護り給え!」
光がマリーンの頭上に結界を造る。
ミハルの指から出た魔法陣がマリーンを守護するように光の防護壁と化す。
「観ててね、マリーンちゃん。
あなたに巣食う闇も、此処に居る悪魔も。
全てを光に換えてみせるから!」
ミハルは令嬢マリーンラルネットに告げると、アヌビスに立ち向かう。
「悪魔と化したアヌビスよ!
私の力で闇を祓ってあげるわ、この槍の力で!」
ミハルが差し出した右手の先に、ミコトが残した天界の槍が現われる。
((ザッ))
掴んだ右手が、槍を一閃する。
「アヌビス、あなたは神に戻るべきなの。
死んだ人の魂を彷徨わせるべきではないのは判っている筈でしょ?
裁判神ならば、譬え全能の神の命でもどちらが正しいのか判るでしょ?
私の言っている事が判らないのなら・・・私はあなたを倒す、悪魔として!」
槍を突きつけたミハルの蒼き瞳がジャッカルの顔を見上げる。
「小賢しい娘よ、神の使徒とは言えど、その身は人間ではないか。
悪魔に堕ちても我は神の力を持つ者なれりぞ。
我を倒そうなど、思い上がりにも程がある!」
アヌビスは牙を剝いて顔を歪める。
怒りの表情は最早裁判神たる者の貌とは云えなかった。
醜く歪むジャッカルの顔。
首から下は古代の人が来ていた神官服と同じ様に、関頭衣を纏っていた。
手にした杓杖を、ミハルに向ける悪魔アヌビス。
紅き毛玉はミハルの傍に舞い、
「闇を祓い、光を求めるんだミハル!」
護りし者に力を与える。
オリハルコンで造られた天の槍を構えたミハルが守護神ルシファーに応える。
「うん!イクよっ、イキナリだけど・・・全力で!」
構えた槍が淡く光り始める。
金色の魔法陣が先端と、持ち手の部分と後方に現われ、円環を模る。
三叉の穂先にピンクの光が集まり始める。
「ミハル・・・これは?
この術は・・・魔砲の技なのか?」
毛玉も驚くミハルの魔砲術・・・それは。
「そうだよ!ルシちゃん!
私は魔砲師!
魔砲で闇を噴き飛ばすの!」
ミハルの髪がリボンを解き放し、大きく靡きだす。
ピンクの光が穂先に集まり、どんどん大きく膨れ上がる。
「これが・・・
これが、魔砲師ミハルの全力全開!
エクセリオ・ブレイカー! 」
ミハルがアヌビスに向けて極大魔砲を解き放つ!
槍先から迸るのは神の力なのか?
ミハルの魔砲が放たれる時、消え去るのは<闇>?!
次回 Ep4 悪嬢と魔砲少女
君は悪しき束縛を断ち切る魔砲を放つ!闇を討ち祓う光と共に!
・・・人類消滅まで ・・・アト 150 日