第5章 蒼空の魔砲師 Ep4 悪嬢と魔砲少女 Part5
ミハルの前で金髪の少女が眼を逸らした。
「判っているのよ、私も魔法が使えるから。
あなたの心が寂しさと悲しみに満ちている事に・・・」
ミハルの言葉に、紅き瞳のマリーンが呟く様に答える。
「お前なんかに私の苦しみや悲しみが解るもんか!
魔法が使えるだと?いい加減な事を言うな!」
澱んだ瞳でマリーンが観た先で。
「な・・・なんだって?!」
ミハルの引き裂かれた服が元通りに直されていく。
「どうかな?
服を直してくれているのは私の守護神様だけど。
私もこんな魔法がつかえるんだよ」
右手を差し出して、手のひらに魔法の光を灯してみせる。
「ま・・・まさか。そんな・・・魔法を使えるのか?」
驚き眼を見開く令嬢に、微笑みながら起き上がると。
魔法の光で2人を包む。
「さぁこれで良し。
この光の中なら誰にも聞かれはしないからね。
私と守護神様、それにマリーンちゃんだけの空間だから」
ミハルが結界を張り、他人が干渉出来ないようにする。
「お前・・・こんな術をどうやって・・・」
身に付けたのかとマリーンが訊こうとするが。
「ミハルに力を授けたのは神と天使。それに悪魔だった者・・・
つまりこの私達に因ってだ、マリーンラルネット嬢よ」
ミハルから離れた毛玉が現れる。
「ぴゃあぁっ?!バケモノっ?」
毛玉が喋るのを観たマリーンが悲鳴を上げる。
その声に眉を顰めた毛玉がミハルに言った。
「ミハル、お仕置きしてもいいか?」
2人を見つめて苦笑いすると、
「だ~めっ、マリーンちゃんには衝撃が強かっただけだもの」
ミハルが毛玉を停めると、マリーンに向き直り。
「この毛玉のような方が守護神ルシファー・・・様なの。
れっきとした神様なんだよ。初めて観たら驚くでしょうけど」
毛玉を指差し微笑んで教える。
マリーンは口を開けたまま呆然とルシファーを見上げていたが、
「本当に神様なの?だったら私も救ってくださいませんか?
私の罪を赦して貰えませんか?」
真顔になって毛玉に乞う。
「マリーンちゃん、先ずは訳を話して?」
ミハルが公爵令嬢の姿に戻ったマリーンに諭した。
今ならこの子は本当の話をしてくれると思って。
黒く澱んだ瞳が、澄んだ紅き瞳と替わっていることに気付いて。
頷いたマリーンが語り始める。
「私・・・謝らないといけないのです、あの方に。
私の父ローソニ公爵が犯した罪で滅ぼしてしまった王家の方々に・・・トーアお姉さまに」
瞳を伏せながら話し出したマリーンに、ミハルは寄り添うと。
「贖罪を求めるというのね、マリーンちゃんは」
そっとマリーンの震える手に自分の手を重ねて話を促す。
「うん。
私の父ローソニ公爵が保身の為、兄一族を西プロイセン公国に売ったの。
この東プロイセン王家を民衆の手で滅ぼすようにみせかけて、
西プロイセンの手先に貶めさせたの・・・自分達の傀儡政府を創る為に」
マリーンの語った出来事は、この国に来て初めて聞かされた事だった。
今はプロイセン公国に併合された元東プロイセン。
民衆蜂起から仮政府樹立、そして西プロイセンに併合。
僅か2週間で行われた併合劇に、世界中のマスコミが挙って取り上げたものだった。
<これは陰謀が行われた> ・・・と。
その画された影の事実がこの少女に因って明かされた事に、ミハルの心も翳った。
「それでマリーンちゃんはどうして贖罪を求めるの?
お父様が犯した罪なのに、どんな罰せられるべき事を犯したというの?」
マリーンはミハルの問いに首を振り、
「それは私がトーアお姉さまを停めなかったから。
お姉さまを悪魔に与えてしまったから・・・私がお姉さまを売ったから」
溢れ出て来る涙を拭こうともせずに答えた。
「売った・・・?悪魔に魂を奪われたの、そのトーアという子は?」
頷くマリーンを観た毛玉が口を開く。
「待て、そなたが今告げた名。
トーアと言った様だが・・・確かなのだな?」
問いかけられたマリーンは不思議そうに毛玉を見上げ頷く。
「そうか、私とした事が・・・その娘を寄り代とした悪魔は。
トーア姫に憑いた悪魔は、私の配下の者なのだ。
まだ私が神に戻る前に起きた暫くの間に起きた事だった・・・」
毛玉がマリーンに謝意を示す。
「マリーンラルネット嬢よ、
トーア姫に憑いたのはまだ悪魔だったトアという私の配下の者だ。
確かにその時は悪魔であった・・・だが。
今は神の下僕として仕える身に変わっておる。
存在しておれば・・・だが」
ミハルも、マリーンも毛玉の答えに顔を向ける。
「ルシちゃん?どういう意味なの、存在すればって?」
訊かれた毛玉は眉を顰めて。
「言葉通りだミハル。
トーア姫はトアと供にリーンを護り・・・消えたのだ」
金髪が靡く、絶望に瞳を伏せた少女の体が崩れ落ちると共に。
マリーンを咄嗟に抱えたミハルがもう一度訊く。
「ルシちゃん、そのトーア姫ってもしかしてリーンと共に行方不明となっている副官補?」
毛玉は答えの代わりに眼を閉じた。
「私の使徒として・・・いや、大切な人を護ろうとしたトーア姫と共に。
彼女は連れ去られようとするリーンを救うべく闘ったであろう。
今は存在自体が感じられない・・・配下の者がこの世界に存在している気がさぬのだ。
・・・解るな、ミハル。そういう事なのだ」
ミハルは毛玉の答えに全てを悟り、黙ってマリーンを抱きかかえた。
「ミハル・・・トーアお姉さまはどうなったの?
神様でも行方が解らないと言うの?」
抱かれたマリーンがミハルに縋る。
「ううん、ちょっと遠くに行っているだけだよ・・・
私のお姫様のお供をしているだけだから・・・」
マリーンを強く抱いて、偽りの返事を返すミハルに。
「すまない・・・ミハル。
赦せ・・・マリーンラルネット」
毛玉は天を見上げて嘴を噛み締める。
ミハルにしがみ付いた幼いマリーンには、
言葉の端から滲み出る真実には気付けなかったようだった。
ミハルの言葉に少し安堵したのか、
「トーアお姉さまにまた逢えたら・・・謝りたいの。
私の父が犯した罪を。そして私の罪を・・・」
ミハルを見上げたその瞳には曇りが一点も無かった。
紅き瞳には闇に冒された心が消えて見えた。
「そうね、マリーンちゃん。
今のあなたならきっと言えるわ、大切な想いを。
きっと許して貰えるから、大切な人に・・・」
微笑んで答えたミハルに、微笑み返せたマリーンが頷く。
「ところで、マリーンラルネット嬢。
そなたが胸にし、魔法の石の事だが。
その石はこのミハルが受け取らねばならん必要があるのだ。
譲っては貰えまいか?」
毛玉が落ち着きを取り戻した頃合を待ってマリーンに話す。
「え?!このネックレスを?
でもこの石が初めに言ったの。
<私をあの娘に渡して>って・・・誰の事なのか解らなかったから。
私が預かっているの・・・誰に渡して良いのかが解るまで」
そう答えたマリーンがミハルを見上げて訊く。
「ミハルなの?
この石が渡して欲しいと頼んだ娘って?」
澄んだ瞳で訊ねるマリーンに頷き返すミハル。
その優しい瞳に嘘偽りが無い事は、幼い純真な心が気付かない筈がない。
「その証はね、これなの」
ミハルの右手がマリーンの魔法石に翳されて・・・
ミハルのブレスレットとマリーンのネックレスが輝きを放つ。
<ああ。リーン・・・リーンの想いが詰まっている魔法の石が目の前に>
ミハルはマリーンのネックレスに触れたい手をじっと我慢して二つの魔法石を見続ける。
手を指し伸ばせば触れられる距離にあるというのに。
自分でも我慢の限界だと思える長い時間に感じられたが。
「本当だ、二つの石が同じように点滅しているよ」
マリーンの言葉でやっと我に返ったミハルを観て、毛玉がため息を吐いから。
「マリーンラルネット嬢よ、これで解っただろう。
2人の石は共にあろうと願っておる事に。
さすれば返しては貰えまいか、ミハルに」
毛玉の言葉に素直に従おうとするマリーンが、
「はい。勿論っ!お返しします」
ネックレスを渡そうとするのを停める手が。
「え?!ミハル・・・どうして?」
マリーンを停めたミハルの手を見て、毛玉とマリーンが訳を訊ねる。
「まだ・・・駄目だよ。
マリーンちゃんの事も、このお館に巣食う闇の事も解決していないから。
今この石を受け取ったのなら相手がどんな酷い事をしてくるか解らないから」
マリーンの手を停めて答えるミハルに、毛玉が頷いた。
「その通りだ。マリーン嬢にも一枚噛んで貰うとするかな、ミハル」
マリーンが訳が解らないと小首を傾げると。
「うん、実はねマリーンちゃん。私とルシちゃんが知った感じだとね・・・
犯人はもう解っているのよ。
でもね、ソイツが何を企んでいるのか。
本当の真犯人なのかがまだ解っていないんだ。
だから・・・もう少し様子を伺おうって思ってるの」
ミハルが今の実態を教える。
「そーなんだ。神様にも解らない事があるんだね?」
何気ない少女の言葉に毛玉がむっとしたが。
「そーなのよ、こまったわねぇ(棒)」
ミハルが毛玉にウィンクしながら頷いた。
ミハルの言葉で呪縛から解き放たれたと想ったマリーンであったが。
妖しき者からの術で、再び悪嬢に戻されてしまう。
そんな時、独り風呂に入っていたマリーンに忍び寄る者が・・・
次回 「フェアリア」伝統の<<お風呂回>>ですっ!
お好きな方にはお待ちどう様。
そうでない方には・・・読んでくださいね?
では、次行ってみよう!
次回 Ep4 悪嬢と魔砲少女 Part6
君は湯殿の中で触れ合う、裸のお付き合いとはこういうモノなのだ!なんぞそれ?
・・・ 人類消滅まで ・・ アト 154 日





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