第5章 蒼空の魔砲師 Ep4 悪嬢と魔砲少女 Part2
メイドとなったミハルは主に呼び出される。
其処に居たのは公爵とメイド長。
2人と話したミハルは問題の令嬢に伺候する・・・
廊下を駆け、ドアの前まで来た。
ノックをしようとして、自分が箒を持ったままなのに気がつく。
ドアの横に立掛けて、居住まいを正すと。
「ミハルです、宜しいでしょうか?」
ノックしながら中に居る者達に訊ねた。
「メイドのミハルですね、お入りなさい」
中から聞えたのはメイド長のキャメル女史の静かな声。
促されたミハルはドアノブを廻し早速に中へ入る。
「御呼びでしょうか、キャメルメイド長。
それに・・・ローソニ公爵様」
銀髪のキャメル女史と、この館の主たるローソニ公爵が待っていた。
「うむ。
君については公使から頼まれておる。
なんでも君はメイドを務めるのは初めてなのだそうだな?」
ローソニ公爵は、手元にある紙を読みながら話し掛けて来た。
それはまるで紙に書かれてある事を朗読するかのようにぎこちなかった。
メイド長のキャメル女史が主人の話し方に反応するが、あえて口を挟んではこない。
「我が公爵家に奉公するのが希望だったというが、何か目的でもあるのか?」
また、棒読みの問いがかけられる。
ミハルは思わず舌打ちをしたくなるのを抑え、予定されていた答えを返す。
「私めはこのお館で奉公させて戴き、メイドなるモノがどの様な物かを知りたいのです。
奉仕の心をお教え頂きたいのです」
ミハルはローソニ公爵に答えながらキャメル女史に目を向ける。
そこに居るメイド長の女史に覚られないように。
「そうかね、ではこのメイド長キャメルに訊くと良い。
メイドなる物がどんな仕事なのかを教えてくれるであろう」
公爵の言葉に頭を下げて一礼すると、今迄黙っていたキャメルが話し掛けて来た。
「ミハルさん。
あなたは御主人様のご命令で、公爵令嬢マリーンラルネット様の給仕係りに任じます。
因って、これからはマリーンラルネット様があなたの主人たる方になるのです。
それを忘れぬよう、心しておきなさい」
キャメルメイド長から命じられたミハルが慇懃に頭を下げる。
「それではキャメルメイド長、この方をマリーンに引き合わせるように」
ミハルはローソニの放った一言に、この女史がどう反応するかを確かめようとしたが。
「判りました、只今お嬢様の元に連れて参ります」
何事も無かったかのようにミハルを伴って部屋から退がろうとする。
<聴き流したのか・・・それともあえて気に為らなかった振りをするのか?>
ミハルの瞳がメイド長の後姿に釘付けとなる。
「どうしたのです、早くおいでなさいミハルさん」
自分を疑いの眼差しで観ているのを判っているのか、いないのか。
キャメル女史はミハルを促し公爵の部屋から立ち去る。
部屋を出る時にローソニ公爵の大きなため息が耳に入って来た。
<確かに・・・この人から魔力が感じられる。
聴いたとおりなら、キャメルさんがこの屋敷を仕切っている。
そう・・・闇の魔術で、マリーン嬢とやらも>
ミハルは前を歩くメイド長キャメルに疑いの眼を向けて考えた。
<公爵様が訴えられたように、マリーン嬢の変化はリーンの魔法石だけが原因じゃないみたい。
きっとメイド長キャメルも、絡んでいるんだろうな・・・
公使館に出向いた時に教えられた事は、きっと本当なんだよ。
公爵令嬢が急に悪魔に憑かれたみたいに魔法を放つようになれたのには、
訳がある筈なんだよ・・・誰かが何かを企んでいるんだと思うよ。
その犯人があのメイド長のキャメルだと私は思うの・・・
だって、見るからに怪しいんだもん・・・>
ミハルが黙って考えていると。
<ミハルよ、人は外見だけで判断するものではないよ?
見かけはアレだが、中身は意外と正常かもしれないぞ?>
襟元に光る紅き珠からルシファーが忠告する。
<それはそうだけど・・・あの人以外に怪しい魔力を感じられないもの。
いずれ私達の前に本性を現すだろうから・・・
気をつけておかないとリーンの手懸りを奪われるかもしれない・・・>
ミハルとルシファーが心で話し合っていると、
キャメル女史がバルコニーに繋がる一室の前で立止まった。
「ミハル、マリーンラルネットお嬢様です。ご挨拶なさい」
まだ室内にも入って居無いというのに、挨拶しろとメイド長が命じた。
「え?!・・・はい。
初めて御前にお目通りをします、新参のメイド、ミハルと申します・・・」
誰が居るのかも判らない状態で名乗らされたミハルは、それでも室内に向ってお辞儀する。
一応の恭順な態度に満足したのか、キャメルが慇懃に声を張る。
「マリーンお嬢様、これに居りますミハルめが本日只今よりお嬢様の専属メイドに任じられました。
どうか、お目通しを・・・願い奉ります」
キャメルの声にも何の反応も無い・・・が。
「ミハル、お会いになられる。中へ入り失礼の無きよう・・・心しなさい」
キャメルはミハルを室内へ入るように命じ、自分はそのまま廊下で佇んだ。
促されたまま、ミハルは室内に入る・・・と。
((バタンッ))
自分の入って来たドアがキャメルによって閉じられた。
<まさか?!いきなり本性を現す気なのかな?>
相手の出方に注意を払いつつ、ミハルは室内を見渡したのだが。
<あれ?誰も居ない・・・よ?>
妖しい気は感じられず、只、バルコニーからの風でカーテンが舞っているだけだった。
<外に誰か・・・居る>
惹き付けられるようにミハルはバルコニーに足を踏み入れた・・・
「あ・・・まさか?・・・まさか?!」
ミハルの目に映ったのは。
「リ・・・リーン?!」
金色の髪を風に靡かせた少女の姿がそこに・・・居た。
「リーン!リーンなのっ?!」
バルコニーの桟に体を預け、遠い眼で彼方を見詰める軍服姿。
物思いに耽る美しい顔。
横顔を観たミハルは、思わず名を呼びかけてしまった。
しかし・・・
「なんだ、おまえは?私に何か用なのか?」
振り返ったその顔に光るのは赤みを帯びた黒い目であった。
姿を現した公爵令嬢の姿に、ミハルは心をときめかせる。
逢いたかった一心が、幻を魅せたのか?
2人の邂逅が謎の事件を解決へと導く・・・
次回 Ep4 悪嬢と魔砲少女 Part3
・・・人類消滅まで ・・・アト 157 日





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