第5章 蒼空の魔砲師 Ep3 空戦魔砲師 Part6
魔法力と気力を失ったミハル。
金色の円環が消え、身体は空から舞い墜ちる。
戦いの最中・・・奇跡は起きる
身体が風の中を舞い落ちる。
「ミハルっ!」
誰かの呼びかけが聞こえた様な気がする。
自然落下の途中で・・・
墜ち行くミハルを追いかけようとしたホマレが停まった。
それを観た瞬間に。
「なんや・・・ナイトさんの登場かいな」
近寄るそれに目を細めて微笑み呟く。
(( フワァッ ))
墜ち行くミハルの身体が何かで停められる。
やんわりと体が落下を止め、横たわったままの姿勢で重力を感じる。
「・・・ん・・・あ?」
細く目を開けたミハルが、視線の先に観たモノは。
「ミハル・・・どうしたんだい?」
呼びかけられて気が付いた。
弟の心配そうな顔がそこにある事に。
「え?マモル?・・・私どうしちゃったのかな?
もう地上に墜ちていたの・・・って?」
マモルの顔を観て、すっかり地上に降りたと思っていたが。
「あ・・・れれ?私夢でも観てるのかな?
マモルが空を翔んで・・・私をダッコしてるなんて・・・く~ぅ・・・すやぁ」
周りの状況を判断出来ず、寝たふりをする・・・損な娘。
「ミハルぅ、平常運転はいいのだがな。
もう少し他に反応する事はないのかい?」
マモルの声だが、喋り方が違う。
どこかで聞く事のある話し方だが・・・
「寝たふりしてるなら・・・奪ってしまうぞ?」
抱かかえたマモルがミハルの唇に迫る。
「・・・ルシちゃん。怒るよ?」
ぱっちりと目を開けたミハルの指が、マモルの顔をしたルシファーに当てられる。
「で?どうしたんだ。いつものミハルならあれしきの事で魔力を喪う訳も無かろうに」
初めから唇を奪う気も無かったのか、当てられた指も気にせず訊ねて来るルシファーに。
「え・・・えっとぉ。多分初めての空の闘いで・・・緊張してたのかなぁ」
抱かかえられたまま、ミハルが頬を染めて惚けてみせる。
「・・・嘘だろ。魔法力が足らなくなったのは・・・」
(( クゥ ))
ルシファーの声を遮る音。
「や・・・ぁっ。これはそのっ、やっぱり翔ぶのに慣れてなかったからっ。
魔砲の力を使ったからで・・・あの・・・はい、お腹が空いてしまいました・・・(ぐすん)」
真っ赤な顔で言い訳をするが、ジト目のマモル・・・
いや、ルシファーに聴かれて言い訳を諦めた。
「はっはっはっ、これは良い。傑作だな、ミハル」
破顔大笑されたミハルがそっぽを向いて拗ねる。
「い、いいもん。どーせ私は損な娘ですよーだ!」
拗ねた上にイジケタ。
「ふふふっ、相変わらず可愛い娘だ。想わず護ってやりたくなるぞ、ミハルよ。
この弟もそう思っているようだがな」
自分の寄り代にしているマモルの事を笑って知らせて来た。
「ほぇっ?!マモルが・・・?私の事を??」
笑いかけるルシファー(ややこしい)、
いいや、弟マモルが本当にそう思ってくれているのかとジイィッと見詰めると。
片方の瞳が閉じられる。
「あ・・・そっか。そーなんだ・・・」
マモルの癖。
隠そうとすると相手から片方の目を閉じて、恥ずかしがる。
それは言い訳をしない弟の癖だった事を思い出す。
抱かかえられたまま、ミハルも気恥ずかしい感じが頬をまた染める。
「あっと、そうだ!戦闘はどうなったの?まだ小型機が数機残っていた筈なんだけど」
気恥ずかしさに、話題を切り替える。
「私、ホーさんの2番機だから。直ぐに追いかけなくっちゃ!」
抱かかえるマモルから離れて翔び上がろうとした。
「おい・・・ミハル。翔べるのか?墜ちるぞ、たぶん」
「へっ?」
マモルから離れたミハルが、自分のブーツを観て・・・
「きゃああぁっ?!」
墜ちた。
「ホンマ・・・世話の焼ける子なんやなぁ」
日の本の搭乗員制服で寛ぐホマレが慰め半分、呆れた様に話し掛ける。
「あああっ、言わないで。ホーさんっ」
オデコに湿布を貼ったミハルが涙目で答える。
「いや、あの時弟はんがもう一度掴まえてくれへんかったら、墜落死してるとこやったんやで?」
ふぅっとため息混ざりでホマレが忠告する。
「・・・はい、申し訳ありません」
シップを押えてミハルが謝る。
謝ったついでに、傍に立つマモルを観る。
今は毛玉から開放されていつもの弟に戻ってはいるが。
「ミハル姉はさぁ、もっと慎重に行動しないといけないよ。
危なっかしくて、観ちゃいられないから・・・ホント」
本物の弟にも忠告されたミハルがずぅうんと落ち込む。
「ほんまやで、ミハル。もし弟はんが来てくれへんかったら・・・危なかったんやで?
解っとるんか、まったく」
2人掛りで怒られたミハルが益々落ち込んで、
「だって・・・いえ。申し訳ございません」
言い返そうとしたが二人の目が痛くて、謝るより他なかった。
「それはそうと、弟はん。
アンタも翔飛が操れるんか、しかも履いて直ぐに。
もしかしたらミハルよりも、もっと素晴しい魔砲師じゃないんか?」
ホマレがマモルの事を褒めると。
「いいえ、中嶋3尉。僕の力だけでは翔べはしなかったでしょうね。
あの力は堕神ルシファーの成せる業ですよ。
僕にはアレだけの魔法力はありませんからね」
謙遜とも云えるマモルの言葉に益々感じ入るホマレが、
「そんな事あらへんやろ?
譬え神様が寄り代に選んだとしても、そもそもの力がなけりゃ発揮出来ん訳やしな」
マモルを持ち上げる。
ホマレの言葉に首を振った弟が、ミハルを観て言った。
「ルシちゃんが頼んで来たんだよ。
どうしてもミハル姉の処まで行かなくちゃいけないんだって。
ちょうどお父さんがブーツを持って来てくれた処だったから・・・
それで僕もルシちゃんとユニゾンしようと想ったんだ」
毛玉を見て、マモルが顛末を話す。
「まあ、そう言う事だよミハル。
私が傍に居なければいけなかったのだが・・・
ホマレ3尉にも判って貰えたようだから・・・良しとしようではないか!」
紅き毛玉が素知らぬ顔で正当化した。
「判るって・・・何をよ?」
口を尖らせたミハルが訊く。
「ミハルがそんな娘だって事が・・・さ」
ホマレと毛玉の声が見事にハモった。
「うう・・・ひどい」
貶されたと感じたミハルが一頻り泣く。
そこへ。
和やかに(?)談笑していた所に、伝令が呼びに来た。
「シマダ大尉殿、ルマ政務官補がお呼びになられておられますが」
突然の幼馴染からの出頭命令に、ミハルは顔を挙げる・・・
助けられたミハルにルマが呼び出しを掛けて来た。
一体何が起きたと言うのか?
呼び出されたミハルに告げられた事とは?
次回 Ep3 空戦魔砲師 Part7
君はその名を聴いた時、歓喜の叫びをあげるだろう。心からの喜びに震えて・・・
・・・人類消滅まで ・・・アト 160日