第5章 蒼空の魔砲師 Ep3 空戦魔砲師 Part5
雲の中から現れる機体。
その巨大な空飛ぶ要塞、殲-17。
現われた敵重爆撃機を迎え撃てるのか?
ミハルには何か秘策でもあるというのか?
雲の中から現れた姿に、地上の対空砲火が一瞬鳴り止んだ。
「あれは何だ?
あれ程の図体を空に飛ばせるのか?
しかも飛行船のように鈍重じゃないぞ?!」
双眼鏡で敵を発見した砲員達がざわめく。
「構わん!あれだけデカけりゃ、当てやすい。
全砲門、あのデカ物を墜とせ!」
対空砲隊の指揮官が命じた。
地上に備えられていた75ミリ対空砲が一斉に鎌首を擡げる。
「射程距離に入り次第、各個に撃て!」
指揮官は・・・いや。
対空砲員全員が一機の重爆撃機に照準を合わせた。
「ミハル・・・アンタ。
アイツをどうやって墜とすつもりなんや?
近寄ろうにもあの防御機銃の的になるだけやで。
それにまだ周りには戦闘機が居残っとるっちゅーのに・・・」
ホマレが微笑んだミハルに訊ねた。
「ホーさん、あのね。
私は魔鋼騎士なの、戦車の砲手を務めているの。
だからアイツを叩き墜とすの、この機銃で・・・ね」
機銃を持ち替えたミハルが答える。
「砲?
ミハル・・・何言ってはるんや?
それは魔鋼銃とはいえど、所詮機関銃なんやで?
アイツを叩き墜とすだけの装甲貫徹力なんてありゃしないで?」
ミハルの自信がどこからクルのか解らずに訊ね返す。
「うん・・・そうだね。
このままの口径だったらむりだろうね。
だったら、アイツを墜とせるだけの砲にすればいいんだよ」
ミハルの瞳が蒼く輝く。
「な?何をする気なんや?
砲にするって・・・まさか?!ミハルは銃を砲に代えれるんか?
機銃を砲に変えるっちゅーんか?!」
ホマレの前で、ミハルの蒼き髪がリボンを解いて靡きだす。
金色の粒が身体の周りに現われ、機銃へと収束されていく。
「ホーさん、これが私の魔砲の力なんだよ。
マギカナイトと呼ばれる魔法の戦車兵の力。
魔法で砲を変えて敵を倒す、魔砲師の技なの・・・観ててね」
ミハルは高位の魔法使いたる力を顕す。
持っていた機銃が金色の光の中で形を変えていった。
確かに普通の魔砲師では、これだけの変化は期待しようもないであろう。
だが、ミハルは神の使徒たる者。
そして光と闇の力を授かりし聖騎士。
ミハルの持った砲を、大きく見開いた瞳で見詰めたホマレが声を呑む。
「ねぇ、ホーさん。
これじゃあ、まだアイツの装甲を破れないかな?
75ミリ対戦車砲では抜けないかなぁ?」
ミハルの声に、漸く我に返ったホマレが首を振って、
「いやいや。充分やろ・・・それで。
ホ ン マに、凄い技をもってるんやな・・・ミハルって」
見開いた瞳を砲に向けたまま、ため息混ざりで答えた。
「そっか・・・じゃあ。アイツを叩き墜とすからね。
ホーさんにお願いがあるんだ。
私が撃つまでの間、外の敵機に邪魔されないように護ってくれるかな?」
砲を構えて狙いを着けるミハルが頼むと。
「よ・・・よっしゃ!任せとき!」
はっとしたように、周りに気を配り始めたホマレに、
「頼んだよ、次発装填は出来ないから。
この一発で決めてしまうから・・・頼むわね」
目の前に出現した照準モニターを見詰めて頼んだ。
雲の中から出て来た殲-17重爆撃機の周りで対空砲火の弾幕が弾けだした。
「確かに命中しているようなのに・・・弾かれているのか?」
指揮官は信じられないような顔で見上げていた。
対空砲弾は爆撃機に当ってはいるのだが、
時限信管と、瞬発信管とでは表面を焦がす程度のダメージしか与えられていないようだった。
「そんな馬鹿な?!ヤツは装甲を持っているというのか?全弾徹甲弾に切り替えろ!」
対空砲隊指揮官が叫んだが、周りに居る者はどうする事も出来なかった。
なぜなら。
「大尉殿っ、我々には徹甲弾なんて支給されておりません。
空へ向けて徹甲弾を撃つなんて・・・考えてもいませんですから」
対空砲員が指揮官に復命出来ないと断った。
「そうだったな・・・それではアイツを墜とす事は出来ない。
残念だが・・・無駄弾を振り撒くしかないという訳か」
頭上に迫り来る敵機を睨んで、対空砲員達が口惜しがった。
「どうやら・・・対空砲火が止んだみたいや。解ったらしいな・・・」
ホマレが近寄って来た4枚円環の敵戦闘機を叩き墜としてミハルに言った。
「射程にはアトどの位なんや?もう直ぐ港の上空に入るで?」
じれったくなってきたホマレが呼びかけると。
「こちらも間も無く射程に入ります。
この75ミリ55口径砲の有効射程は2000メートルでしかないんだから。
後少し待って・・・」
ミハルは照準モニターから目を離さずに答える。
「後少しって・・・」
そう答えたホマレが気付く。
ミハルの金色の円環が、徐々に力を失いつつある事に。
「ミハルっ、アンタ・・・魔砲の力を保つ為に、翔飛の力を削っているんか?!」
驚いたホマレがミハルに近寄る。
「駄目、ホーさん。今は射撃に集中しているから。
私の事は私に任せて・・・大丈夫。必ず撃破してみせるから!」
ガクガクと膝が震えるのにも動ぜず、気丈に言うミハル。
「せやかて・・・ミハルの身になにかあったら」
反対にホマレの方が慌ててしまう。
2人が待ち望むのは・・・只一瞬の射撃チャンス。
「さぁ・・・いくよ。フィナーレ・・・攻撃開始!」
ミハルの指先に力が篭もる。
ホマレも射撃態勢を整えたミハルを後押しするように。
「いけ!ミハルっ、アイツをぶっとばせ!」
握り拳を突き上げ射撃を促す。
「これが今の私。魔砲師ミハルの全力全開!・・・フォイア!」
トリガーが引き絞られる・・・ミハルの75ミリ魔鋼弾が放たれる。
(( グオオォムッ ))
紅き曳光弾が一文字に重爆撃機へと飛んで行く。
(( ボッ ))
漫然と飛んでいた敵の正面に穴が穿かれた・・・
ミハルは砲を下げ、効果を確認しようとする。
「やったな・・・ミハル」
歴戦の空戦魔砲師ホマレは、ミハルの弾が齎した破壊に自信を覗かせる。
「うん・・・やった・・・みたいね!」
ミハルがそう言った時。
(( ボワッ ))
殲-17の開口部から炎が噴き出し・・・
(( グワアアァッンッ ))
空中で爆発し、粉々になって果てた。
2人の見つめる先に、巨大な火の塊が浮んで・・・消えた。
黒煙がまるで悪夢の終わりを告げるかのようにたなびく。
「やはり。アンタは魔砲師なんやな・・・特別製の」
ホマレがニヤリと笑いかける。
「ホーさん・・・あのね、私・・・」
笑いかけられたミハルが静かに目を瞑ると、魔法の砲は機銃に戻る。
「も・・・う・・・力が出ない・・・の・・・」
目を瞑ったまま呟くミハルの円環が、羽ばたきを辞めて消えていく。
「わぁっ?!ミハルっ、ちょっと待てぇっ!」
慌てたホマレが呼び止めたのだが、ミハルの体がふっと倒れるように落下しだした。
そう。
魔法力を出し切ったミハルにはもう・・・
自分の身体を飛ばせ続けるだけの魔法力が残っていなかったのだ。
重爆を撃滅したミハル。
だが、想いの外に魔法力を消耗してしまっていた。
倒れるように落下する魔砲少女。
ミハルの運命は如何に?いや、ホマレさんよ、助けてよ?
次回 Ep3 空戦魔砲師 Part6
・・・人類消滅まで ・・・アト 161 日