第5章 蒼空の魔砲師 Ep3 空戦魔砲師 Part4
2機が相次いで墜ちて行った。
緑の魔法衣を靡かせて、空戦魔法師が腕を組んでいた。
結果に満足して。
「やはり・・・稔姉さんの言った通りだったんやな。
この国にもエースになれる魔法使いが居るんやて、言ってはったもんな」
白い魔法衣を着た少女を見下して、日の本から来た魔砲師ホマレが呟いた。
「はぁ~っ、緊張したぁ。
空の闘いなんて初めてだったから・・・勝てて善かったぁ」
冷や汗を拭い、大きくため息を吐く魔鋼騎士ミハル。
そのミハルに・・・
「やぁ、お見事っ!大したもんやな、フェアリアの魔砲師も」
上空からホマレが褒める。
見上げたミハルに近寄りながら手を差し出して来て、
「ミハル、ようこそ!空の戦場へ。果て無き空に集う、戦士の仲間へと!」
握手を求めてくる。
目の先に出された手をそっと握り返したミハルが恐る恐る訊く。
「あの、ホーさん。私って戦車兵なんだけど、フェアリアの。
空の戦場へって事は、戦車兵から航空兵になれってことかな?」
おどおどしながら訊くミハルの手を強く握り締めたホマレが笑う。
「あっはっはっ!そーなんや、ミハルっ。
アンタは今から空の魔砲師。
空戦魔砲師ミハルっちゅー訳や!」
笑いかけられ、決め付けられたミハルが返す言葉を失って苦笑いした。
「そんでやな、魔砲師ミハル。
初空戦の感想を聞こうかと思ってたんやけど。
ゆっくりしている暇はなさそうなんや。
アイツ等がまだ居るさかいに・・・な」
手を握ったままのホマレが港の方に振り返る。
その瞳はミハルに笑い掛けた時とは別人の鋭さになっていた。
「アイツ等?」
ホマレの振り向いた先を観て、気が付く。
「あ・・・港が。
港の上空で、戦っているんだね?」
2人が見つめる空に、黒い煙が数十固まって揚がっていた。
「ああ。港の上空に対空砲火の弾幕が見えるやろ?
多分フェアリアの地上部隊が応戦してるんや。
それにウチらの仲間達が空戦中なんやろな・・・」
ホマレが繋いだ手を解き、機銃を持ち替えて言う。
「ミハル。すまんけどもう暫く付き合うてえな。
味方の援護をしてやらんと。
敵からフェアリアを護らんとイカンからな。頼むわ」
火花を散らすような鋭い瞳で、ホマレが頼んできた。
「うん!いいよ、行こう。ホーさんっ、仲間の元へ!」
頷くミハルも気合を籠め直して、銃を構える。
ホマレは緑の魔法陣を、
ミハルは金色の円環を羽ばたかせて港へと向かう。
「居た!10時の方向。距離5キロ!高度はこっちの方が勝ってる!」
ホマレが目ざとく敵を見つける。
「ミハルっ、上空から一撃をかけるさかい。付いて来てや!」
捻り込みを掛けたホマレの後に着いて、ミハルも急降下に移った。
「タリホーっ!」
ホマレの機銃が唸る。
低空を通過しようとしていた敵に魔鋼弾が伸び。
(( ガガンッ))
最初の数発でバイタルパートを撃ち抜かれた敵機が、爆発煙上した。
「次は左500メートルに居る奴を頂く!
今度は2機が連なってるから、後ろに居るのはミハルが叩いてや!」
振り向いたホマレに頷き、機銃を敵に向けると。
「イクで!最大戦速っ!」
緑の魔法陣が大きく羽根を羽ばたかせた。
ミハルの金色の円環も続いて羽ばたく。
2人の魔砲師が急速にスピードを上げて、敵に追い縋る。
「撃っ!」
ホマレの機銃が横合いから放たれる。
狙った1番機に吸い込まれる銃弾。
撃墜を確認する暇も無く2番機に向けて、ミハルも発射した。
紅い曳光弾が黒い機体の機銃口に連続して突き刺さる。
((バガンッ))
ミハルの撃った弾が敵の弾丸を誘爆させて、機体が粉々に爆発した。
「よっしゃ、ナイスやミハル!良ぅ出来た2番機やな!」
2機とも撃墜を確認し、ホマレが余裕をみせる。
だが、戦闘の本能の成せる業なのか。
ミハルは辺りを見回して敵が外に居ないかを探る事を怠らなかった。
<やっぱり・・・居る。
それも・・・今迄のヤツなんかよりずっと大きい>
港方向にある一連の雲の中から、
一つの大きな影が進み出て来るのをミハルは見逃さなかった。
「ホーさん!雲の中から大きいのが出てくるよ?」
ミハルの声に振り向いたホマレの顔が引き攣った。
「な・・・なんやて?
アレは・・・あれは殲滅要塞やないか!
空の要塞・・・重爆撃機<殲17>!」
2人の前に影が迫る。
ミハルは初めて観る敵に戦慄を覚える。
圧倒的な大きさの機体。
それが雲の中から正体を現した時。
ホマレが叫んだ。
「イカン!アイツにはウチらの機銃じゃあ歯が立たないんや!
あの重爆撃機の装甲は、この銃弾では撃ち抜けないんや!」
見開いた瞳の色は絶望にも似た翳りが見える。
「アイツには相当苦戦するぞ!
このまま黙って侵入を許したら、地上の被害は計り知れない。
アイツは無差別爆撃する悪魔の手先なんや!」
ホマレが歯軋りし、ミハルに教える。
「無差別爆撃?
じゃあ、あの大きな機体は爆弾の雨を降らすの?
船も港も、市街地にも?人が居る所にも?
多くの犠牲が産れてしまうの?」
重爆撃機を睨んだミハルが、歴戦の魔砲師ホマレに訊く。
「ああ、そうや。
日の本にもアイツは現れて、多くの罪も無い人を焼き払った。
悪魔の機体・・・人を殲滅する爆撃機。
殲滅重爆撃機1号7型・・・殲-17」
歯軋りが耳にまで聞こえて来そうなほど、ホマレが睨む。
黒い機体には先程まで闘ってきた機体に付いていた円環が6つ付いているのが解った。
「大きい機体だよね。
あれだけ大きいのなら、爆弾搭載量もかなりのものだろうね。
このまま港にまで来られたら、爆撃が始まっちゃうんだよね?」
ミハルが何かを決意したかのように訊いて来るのを。
「おい、待つんやミハル。
ウチ等の持っている機銃では歯が立たないぞ?
ウィークポイントを狙おうにも防御砲火にやられてしまうぞ?!
アイツにはいつも多くの仲間が殺られているんや!
せやからミハル、敵が爆弾を落す瞬間を狙って・・・爆弾を撃ち抜くしかないんや」
ホマレが言うのは敵をワザと侵入させる危険な賭けだった。
ミハルはホマレの提案を首を振って断る。
「駄目だよホーさん。
そんな所まで入られたら。
まだ残っている小型機に邪魔されて爆弾が狙えなくなっちゃうかもしれないよ?
もし、墜ちた爆弾で誰かが疵付くとしたら・・・
私は何が何でもアイツを射落す!」
ミハルは敵重爆撃機を睨んでホマレに言い切る。
「せやかてな、ミハル。
ウチ等の弾ではアイツは墜とせんのやで?
どうやってあの装甲を抜くっちゅーんや?」
ミハルは言い募るホマレに微笑んだ。
ミハルは一体何を決意したというのか?
自らの持つ銃弾が敵には通用しないと知らされたのに?
いや。
忘れていたのはこっちの方だった。
度々ミハルが言っていた通り、
魔鋼騎士の称号を与えられた程の能力者だったのを。
さあ、魔砲師ミハルよ、どう闘うと言うのだ?
次回 Ep3空戦魔砲師 Part5
君は能力の全力をもって敵を撃つ!魔砲の力で敵を貫け!
・・・人類消滅まで ・・・アト 162 日