第5章 蒼空の魔砲師 Ep1 空へ Part5
ユーリの元へ来たミハル。
皇太子姫の本意を知った事で、リーン捜索に乗り出す事を決めたのだったが。
手を離した皇太子姫がポツリと呟く。
「この城の奥に在る・・・神の祠。
そこに行けば、手懸りが掴めるかもしれないわ。
我々では判らない事でも、あなたになら・・・」
ユーリが教えた祠には何があるというのか?
ミハルは最初に向かう場所を決めた。
「ユーリ様。
明日の朝一番にその神の祠へ、向います。
名前の通りだとすれば何らかの力が働いていると思います。
リーンの手懸りが残っていれば良いのですけど・・・」
ミハルが御礼を言ってから帰ろうとすると。
「ミハル、もう一つだけ聴いて欲しい事があるの。
あなたの身体に宿っていた聖魔女ミコトさんの事だけど・・・」
立ち止まったミハルが続きを促す様に振向く。
「あの伝説・・・双璧の魔女であるミコトさんはどうやってフェアリアに来る事が出来たのか。
聴いた事はない?あの伝説の通りなら・・・空を飛べたのか・・・どうなのか?」
突然訊かれたミハルが突拍子も無いユーリの質問に眼を丸くする。
「い・・・いいえ。一度も訊いた事無かったです・・・が。
それが一体何を意味しているのですか?」
余りの突然さに、聞き返したミハルが逆に問い掛ける。
ミハルの驚きにユーリは小首を傾げて、
「ミハルは空を飛んで帰って来たのよね、飛行船に乗って。
でも、ミコトさんは槍に乗って飛んだのだって伝説にはあったじゃない。
魔法でならば、飛べるんじゃないかと・・・そう思ったの」
ユーリの無理さ加減に驚くというより呆れてしまうミハルが、
「ユーリ様。魔法でも無理な事は無理なのです。
どうやって魔法で人を飛ばす事ができるのですか?
それこそ御伽噺の世界ではないですか。ミコトさんが此処にいるのなら聞けたでしょうけど。
生憎、もう天界に召されられてしまわれましたから・・・訊く事も出来ませんよ」
訊いた所で如何ともし難いと、断った。
「でも・・・空を飛べたのなら・・・リーンの処へ飛んで行けるんじゃないかと・・・」
「無理ですっ!」
ユーリが上目使いに聞き募るのを、一言で断るミハル。
「ともかくですね、明日になれば私は祠へと向います。
其処になら飛べなくとも徒歩でいけますから。お判りですね?」
まだ何か言いたそうなユーリに一言で断り、目的を告げる。
「ユーリ様。そんな夢みたいな事・・・はっ!」
漸く気付いたミハルが声を上げた。
「もしかして・・・ユーリ様?」
飛行船の中で観た、あの人の事を思い出す。
「知っておられるのですか?あの人の事を」
ミハルに訊ねられたユーリが、今度は頭をコクンと垂らす。
「え?!本当の事ですか?あの空飛ぶ人の事をお知りになられていると?」
またユーリがコクンと頷く。
そして、ミハルに教えた。
「此処だけの話なんだけど。
あなたの産まれ故郷ヤポンからね、空中艦隊っていうのが明日には着くのよね。
このフェアリアに・・・表向きは親善訪問らしいけど。」
「表向き・・・ですか?では、その裏にある事とは?」
ユーリとミハルがコソコソ話を始める。
「どうやら・・・親善とは名ばかりで。
どこかの国と戦うのじゃないかしら?
詳しくは私さえ知らないのよ。カスターにしか知らされていないの」
夫である皇太子カスターにはその訳が知らされているという。
「カスターから教えられたのはヤポンの艦隊は空を飛んで来る事と。
その艦隊は攻め込むんじゃなく、護る為に送られて来るんですって」
ひそひそユーリが小声で教えた。
「そうなのですか・・・あの人達が。
空を飛べる人って、魔法使いなのでしょうね・・・凄い技術が出来たのでしょうか?」
ミハルもあの時観た空を飛ぶ人物を思い出して小声で答えた。
フェアリアへ帰る途中に遭遇した魔法衣を着た、空飛ぶ魔法使いの少女の姿を思い出す。
「ヤポンの魔法技術は人を空へ飛ばす事にも成功した・・・もうなんでもありですね」
ため息を吐いたミハルは、ユーリに答えると。
「でも、今はリーンを探すほうが先決ですから。
私にとって、空を飛ぶよりもリーンを探す方が大事ですから」
バルコニーから歩き出した。
「ミハルっ、憶えておいてね。
空を飛ぶ方法が在る事を・・・空を飛べる魔法の技術が出来た事を!」
ユーリの声を背中で聞いたミハルが手を上げて応えた。
「遅かったじゃないか、ミハル」
士官次室(作者注・大尉以下の尉官が集まるサロン的な場所)に戻ったミハルに声がかけられる。
「あ、お父さん。どうして此処へ?」
父の島田 誠が待っていた。
その後には母、美雪の姿も見えた。
「お母さんも?此処は軍の士官次室だよ?一般の人は入っちゃ駄目なのに・・・」
両親が突然現われた事に驚き、有態の話を振ったが。
「まあまあ、ミハル。
お前に渡したい物があってな・・・夜中だが、来たんだ」
「ミハル・・・あなた、神に召された方のリーン様を探すんだってね?
だとしたら大変よ・・・きっと遠い国まで行かなくっちゃならない事になるわよ?」
2人が心配して此処に来た事が話の端にみえる。
「どうしてその事が?誰かに聴いたの?」
ミハルが問うと、2人がマモルを観た。
「・・・マモル。2人に教えたのね?」
弟を咎めたが、その顔は怒ってはいなかった。
「うん。だってさ・・・ほって置いたらミハル姉、一人で勝手に突っ走っちゃうから。
父さんと母さんに僕達はどうするべきなのかを訊いたんだ」
困った様にマモルが答える。
弟の表情と両親の顔を交互に見る。
3人の表情はミハルを心から心配しているようだった。
「ミハル・・・もし。
もし、リーン様が手の届かない場所に連れ去られたとしたのなら・・・
あなたはそれでも助けに行こうと思うの?
私達を助け出してくれたように・・・遥か彼方の世界まで」
ミユキがミハルの手を掴んで諭す様に訊ねる。
「お母さん?
それはどう言う意味なの?」
母の顔を見詰めたミハルの問いに答えたのは父マコトだった。
「いいかいミハル。皇女リーン様は私達がお救いした方、お一人なのだ。
もう一人のリーン・・・お前がリーンと呼ぶ方は本当の皇女様ではない・・・
私とミユキが皇王陛下から頼まれたのは今宮殿に居られる方のリーン皇女をお救いする事。
行方不明になった方のリーン様ではないのだよ。
ミハルが救い出そうとしているリーンは皇王陛下の娘ではない。
そうだとしても、お前はその娘を助けようというのか?
素性も判らない娘だとしても探し出し、助けようというのだな?
・・・何がお前とその娘との間にあったのか。
何がお前をそうまで突き動かすのか・・・」
「・・・約束・・・」
ミハルはポツリと答える。
「なんですって?」
ミユキがそっと聞き返した。
「私とリーンの約束だから。
ずっと生きている限り、リーンと一緒に歩んで行く事・・・
私がリーンを助ける事を諦めたら、誰がリーンを救い出せるというの?
私は絶対諦めたりしない・・・愛するリーンを探し出して連れ戻す事を!」
はっきりと両親に自分が何をすべきなのかを告げた。
「だと・・・いう事だ。
私のミハルはもう心を決めている。
私のミハルはあの娘を助けるまで闘う事も辞さないであろう」
両親の前に現れた毛玉がミハルに寄り添い、自らの誓いも言い放つ。
「私はミハルに因って<神>に戻りし、堕神ルシファー。
ミハルと伴に在るのが我が望み。
私はミハルが往く所へ何処までも付き従おう・・・それが私の約束なのだから」
毛玉はミハルの肩に乗り、マコト、ミユキ、マモルに語った。
「あなたがそうまで言うのなら。
私達は反対しませんよミハル。
あなたの気が済む様にしなさい・・・ですが。
誓いなさい、私達に。
必ず・・・必ず還って来ると。生きて・・・二人で生きて戻ると。
誓って・・・」
ミユキの声が身に沁みた。
心に残った。
「お母さん・・・絶対誓うわ。
リーンと共に戻って来ると。二人で生きて還って来ると!」
ミハルの言葉に、3人と毛玉が頷いた。
「ふぅっ・・・やはりこうなるのか。
マモルの言った通りになったか・・・」
天を仰ぐ様にマコトが娘の言葉にため息を吐く。
「いつのまに・・・こんな頑固娘になってたのかしら・・・ね」
ミユキも微笑みながら、夫に言った。
「しょうがないじゃないか。ミハル姉はリーン様に操を捧げたんだから」
マコトも・・・って?いいのか?そんな事を両親に言って・・・ミハルが居るのに。
「マ コ ト ォ・・・な、何か言いました?」
ミハルが頬をヒクつかせて睨んだ。
「え?僕が何か悪い事言った?
リーン様にミハル姉がもらって貰ったって言ってたじゃないか?」
(( ピ シ ))
ミハルが石化した・・・・
マコトもミユキも、マモルの一言を聞き流した・・・
「あ・・・まぁ。その、なんだ。
ミハルも女の子だった訳だから・・・そうなのか?」
「あああっ、私の娘が傷物に?それは是が非でも連れて来て貰わないと」
両親の慌てる声で、ミハルがもっと慌てる。
「あああっ、2人共っ!誤解なのっ!言葉のアヤだから!」
当のマモルと紅き毛玉が親子の慌てように小首を傾げていた。
「しくしく・・・・」
ミハルが泣いている・・・とんだ事で。
「ほらほら。いつまで泣いているんだよ、ミハル姉」
マモルが慰めたら。
「誰が泣かしたと思っているのよ!」
ミハルがジト眼で弟に言った。
「まあな、ミハルが泣くのも無理はないが・・・ところで御両親。
そなた達は別の件を話しに来たのではなかったのか?」
毛玉がマコトとミユキに訊く。
「そうでしたね。・・・ミハル」
ミユキがマコトを促すと、手にあるモノを持って近付いて。
「ミハル。これを身に着けてごらん。きっと役に立つだろうから」
マコトに手渡されたモノに眼を向けると。
「ブーツ?それにしてはなんだか不思議な造りをしているんだね」
皮の靴に良くある匂いが全くせず、代わりに何かしら金属が着けられている。
「これはね、お父さんが考案した魔鋼機械が組み込まれているの。
オスマンで遣われた銃に内臓されていた超小型の魔鋼機械が入っているのよ。
この翔飛の中に・・・ね」
「ショウ・・・ヒ?
どんな力が発揮されるの?」
ミハルは差し出されたブーツを受け取る。
「まあ・・・履いて御覧よ。
その靴の力がどんな物かが判るから・・・」
見ていた弟マモルが意味ありげに笑う。
「?」
その笑みに、訳が判らず黙って靴を履き替えた。
「履き替えたけど?何も起きないじゃない」
笑みを零す弟に訊いたが。
「履くだけじゃ駄目だよ、ミハル姉。
魔鋼の力を放たなくっちゃ・・・魔法力を」
訳が判らないミハルは言われた通りに力を放った。
右手の魔法石を介して魔力が放たれる。
(( ポウッ ))
風も無いのにミハルの髪が靡く。
瞳の色が蒼く染め上がる。
そして髪の色が高位の魔法使いたる証、蒼に染まった。
(( パアァッ ))
足元に魔法陣が描かれた。
マコトから譲られたブーツから金色の光が溢れ出す・・・
ミハルの足元から金色の輝きが溢れ出す。
それは光と闇の力を受け継いだミハルの力の表れなのか?
ミハルの力はどこまでたかめられるというのか?
次回 Ep1 空へ Part6
君は伝説の力を知る事になる・・・初めて出会う事になる敵の前で!
・・・人類消滅まで アト 175 日