第5章 蒼空の魔砲師 Ep1 空へ Part4
ミハルは一刻も早く願い出るつもりだった。
リーンを探す事を。
リーン捜索の宣旨を貰う為に・・・
ー 心の中で決めた事。
想いを伝える為に願い出るつもりだった。
どうしても諦められないと言いたかった。
ー その必要なんて・・・無かったんだ・・・
見上げると夜空に瞬く星が、墜ちてきそうな位輝いている。
ー あの時も。あの晩もそうだったっけ・・・
ミハルは自分の胸元に縋りつき泣く人に顔を向け直した。
- 私も・・・少しは頼りにされているんだな・・・
瞳に写る金髪が、すすり泣く声と共に震えている。
ミハルはもう一度夜空を見上げて微笑みを浮かべる。
この人の本当の気持ちを知ったから・・・
__________
「マモルっ、ルシちゃんっ!
私、これからユーリ様に直訴してくる!
リーンを探す事を辞めないで欲しいって!」
ミハルは一刻も早く命令を撤回して貰おうと、願い出るつもりだった。
「まっ、待ってよミハル姉!
直訴って言ってもどうやってユーリ様に会うつもりなんだよ?
相手は一国の皇太子姫なんだよ?一介の大尉が会える訳がないじゃないか!」
マモルの停めたが、ミハルは気にも掛けず。
「ここでじっとしている訳にはいかないわ!
当って砕けるつもりでお願いしてみるからっ!」
走り出して行った。
その背中を見ながら、マモルと毛玉がほっと息を吐いた。
「友よ・・・なんとかいつものミハルに戻ったな」
紅き毛玉のルシファーが話す。
「うん・・・ルシちゃんのおかげだよ。ありがとう」
マモルが礼を述べるのを毛玉がクルクル廻って呟いた。
「何を言うのだ、マモル。そなたこそ、弟と言うより恋人の様だったぞ。
羨ましい程・・・信じあえているのだな、ミハルと」
毛玉の声が聴こえなかった事にして、マモルは姉の微笑む顔を思い出していた。
「・・・あっ。もしかしてあそこに居られるのは?」
奔るミハルは、宮殿のバルコニーに人影が在る事を捉えていた。
「あのドレス。あの金髪・・・間違いない!」
ミハルはバルコニーに足を向ける。
バルコニーに近付くと、人影は一人で夜空を眺めているようだった。
金髪が微かな風に靡いている。
ドレスの裾もソヨソヨとさざめく。
ミハルは気付かれないように、足音を忍ばせて近寄った。
「ミハル・・・来てくれたのね」
振り向かず、皇太子姫が訊ねる。
気付かれていた事にも動ぜず、ミハルはそっと聞き返す。
「なぜ・・・ですか?
どうして・・・リーンを探さないのです?
ユーリ様はリーンが見つからなくても良いのですか?」
言葉の端に疑問符と、悲しみの色を滲ませて。
だが、ユーリからの返事は返ってはこない。
「リーンを探す事を御命じになってください。
私に・・・せめて私にだけでも・・・」
ミハルが欲するように求めたが答えは返ってこず、只・・・手を指し伸ばして制した。
その手を見詰めてもう一度願おうとしたミハルに。
「一年前。
あなたと今と同じ様に話した事があったわね。
エンカウンターの古城で・・・夜空を見上げながら」
振り向かずユーリは呟く様に小声で話した。
「え?
ええ・・・そうですね。そんな事もありましたよね」
突然の振りに、ミハルは思い出したように答える。
「あの時の約束は・・・今も続いているのかしら?」
ユーリの質問にあの時に交わした約束を、思い起こす。
(作者注・第2章EP2Act14 参照)
「ミハル・・・あなたは未だにリーンを護ってくれるの?
もしリーンが神に召されたとしたとしても?
あの娘の事を忘れようとは想わないの?」
ユーリの言葉にミハルは驚きと疑問が湧く。
「ユーリ様。
リーンは・・・リーンが神に召されたって、どういう事なのですか?
まさか・・・もう、この世の者ではないとでも?!」
訊き募るミハルを制し、ユーリが振り向く。
「いいえ、違うのよミハル。
あの娘は死んではいない・・・いいえ、死ぬ訳がないの」
ユーリの言葉にほっと一安心したミハルが訳を訊く。
「では・・・どういった訳で捜索を中断されたのです?
まさかオスマンで助けたリーン様が居れば事足りるとでも思いになられるのですか?
対外的に宰相姫が居れば・・・もう必要ないとでも?」
ユーリがなぜ妹であるリーンを探そうとしないのかを訊いてみる。
「ミハル・・・あなたは私が血も涙も無い、非情な君主だとお思い?
妹であった娘を見殺しにする非情な者だとお思い?」
星明りに映えるユーリの顔には翳りと焦燥が見て取れる。
黙ってミハルは首を振る。
「私はリーンに酷い事をしてしまったのかもしれない。
本当のあの娘を教える事が出来なかった。
事実を教えられなかった・・・神に背いても教えるべきだったのに・・・」
ユーリの声は、涙を抑えているかのように震えていた。
「本当の事?
それはリーンについてですよね。
リーンに何を教えらなかったというのです?」
ユーリはミハルの問いに暫し押し黙ったが。
「もう・・・話さない訳にはいかないわよね。
あなたにだけは教えないといけない・・・事実を」
ユーリが決然とミハルに瞳を向けて話す。
リーンがどうして行方不明となったかを。
「ミハル。
これから話す事は誰にも漏らさないで欲しいの。
どんな災いが起きるかも判らない。
あなたの心の中にだけ仕舞っておいて欲しいの」
ユーリは<神の祠>から現れた時から、妹と同じ声姿の別人がどう生きたのかを教えた。
ミハルにはまるで御伽噺のようにも思える事実。
そっくりな2人が歩んだ思いもよらない出来事に耳を欹てた。
「まさか・・・リーンが。
私のリーンが皇女ではなかったなんて・・・何処の誰かさえも判らない・・・
本当のリーン皇女のそっくりさん。
そして悪魔に狙われたのが皇女ではなく、リーンの方だったなんて・・・」
呟くミハルがユーリに眼を向けると、
其処に居るのは皇太子姫ユーリではなく、妹を心から心配する姉の姿であった。
「ミハル・・・あなたの約束は今も続いているの?
私との約束・・・リーンとの誓い。
どちらも未だ果しきれてはいない・・・のよね?」
ユーリが何を求めているのか。
皇太子姫ユーリとしてではなく、一人の姉として求めているのは。
「ええ、勿論。
私は約束を果せていませんから・・・リーンとも。
リーンを護る約束。
ユーリ様との約束も・・・未だ、果せていませんから」
ミハルは夜空を見上げて答える。
((ファサッ))
衣擦れの音がミハルの胸元から聞える。
「ミハル・・・ごめんなさい。
あなたにだけしか頼れないの。
あなただけが頼りなの!
リーンを・・・私の妹を連れ戻して欲しい・・・無事に。
譬えどれだけ時がかかろうとも・・・」
堪えきれなくなったのか、ユーリの涙声が心の内を曝け出す。
「ユーリ様。
お心の内が聴けて嬉しく思います。
リーンの事を想ってくださる姉姫様のお心に副いたいと思います」
ミハルは、そっと胸に頭を付けて抱き付くユーリに答えた。
「ありがとうミハル。
私達の仕打ちに心が痛んだでしょうに・・・
こんな駄目な皇女でごめんなさい・・・姉で許して」
ユーリの頬を涙が零れ落ちる。
「いいえ、ユーリ殿下。
あなたは立派な王たる者ですよ。
国を思い、民を救う道を選ばれた・・・そう思えましたから」
ユーリが苦渋の選択を選んだ事が判り、ミハルの心も晴れた。
そしてこの姉姫の真心が解ったミハルには、もう迷いは存在しなかった。
「ユーリ様。
私はこれよりリーン捜索を始めたいと思います。
微かな手懸りでも良いですからお教えくださいませんか?」
ユーリに微笑みかけたミハルが頼んだ。
ミハルはユーリの心の内を知った。
やはり心配し、心を痛めていた事に気持が晴れた気がした。
捜索の手がかりを求めたミハルは、ユーリから御伽噺を聞かされる。
それはあの<双璧の魔女>ミコトの伝説。
彼女はどうやってこのフェアリアに来たのか・・・どうやって帰って行ったのかを・・・
次回 蒼空の魔砲師 Ep1 空へ Part5
君は秘密道具が存在していた事を思い出す・・・空を飛べる道具がある事に気付くのだった
・・・人類消滅まで・・・アト 176 日