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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
433/632

第5章 蒼空の魔砲師 Ep1 空へ Part1

挿絵(By みてみん)


魔鋼騎戦記 フェアリア


第5章 蒼空の魔砲師


魔砲少女

Magical Gunner Girl

ミハル

MIHARU

 風の流れる音に加わって金属音が聞えて来る。


 遥か遠くから・・・



菊花旗がマストではためく。

この艦が()()()に所属している事の表れである・・・


((ビビィーッ ビビィーッ!))


警報音が鳴り響く中、艦橋で・・・


「艦長っ!電探レーダー室から報告ですっ、敵偵察機と思われる機体を捕捉!」


女性士官が警報音に負けじと怒鳴る。


「距離は?」


落ち着いた声が返って来る、艦長から。


「距離200(200000メートル)!」


即座に返答する士官が判断を求めた。


「迎撃しますか?」


委ねられた艦長が手を軽く上げて、士官の求めに応じた。


「対空戦闘。迎撃戦、魔砲師ガンマスターをあげろ!」


艦長の命令で各員が持ち場に着く。


迎撃騎インターセプター魔砲師ガンマスターはフライトデッキへ!」




戦闘指揮所からの命令が来る前から、少女は飛行甲板に立っていた。


「一刻も早く・・・高度を執った方が勝者となれる」


少女は誰言うともなく呟く。


「武装装着!敵は飛行機械化兵1機。魔鋼弾装填!」


飛行甲板上に居る少女が手に提げたロッドに魔法力を込めて魔法の弾を装填する。


先端が3つ刃になっている槍の様なロッドを持ち直し、

少女が前に進んだ・・・発進促進機カタパルトの上へと。


((ビィーッ ビィーッ!))


目の前に張り出した発艦指示器の色が、赤から青へと変わる。


((ギュッ))


足を踏みしめた少女が顎を引き締め態勢を整えた。


前方の風向指示用の蒸気が真っ直ぐ此方へと伸びているのを確認した白い魔法衣を纏う少女が。


「蒼空隊一番、シマダ一尉いちい・・・発進!」


発艦指揮所に推進機カタパルトの射出を促した。


少女飛空士の足下から金色の魔法陣が現われ、光の翼を羽ばたかせた。


 ((グンっ))


光輪こうりんを足下に描いた少女が飛行甲板から打ち出され、グングン上昇して行った。



挿絵(By みてみん)



艦上から飛び去る少女を見上げた指揮所の士官が艦長に報告した。


「蒼空隊一番騎シマダ一尉が迎撃に上がりました。

 蒼空の魔砲師ガンマスターミハル一尉が今日も一番騎として舞い上がりました!」


報告を受けた艦長は黙って艦長帽をずらし片目で見上げただけだった・・・








遥か・・・


遥か遠く


雲流れるその先に。





雲が青空に数個浮んでいた・・・


白い大きな機体をゆっくりと進める飛行船。

この世界では珍しく、旅客機として働いていた飛行船。

高度を執る事が出来ない、()()()()唯一の飛行旅客機種。


今、砂漠の国オスマン帝国からフェアリア皇国に向けてこの飛行船はゆっくりと航行しているのだった。


客室側面前方に配置された前進用エンジンに着けられたプロペラがユルユルと廻っていた。


眠くなるようなプロペラ音が乗客達を緩やかに包み込んでいる。

乗客はゆったりとした雰囲気とは裏腹に、何かに酷く悩んでいるようだった。


乗り込んできた乗客達は一様に押し黙ってうな垂れていた。

オスマンから乗り込んだ時には晴れやかだったというのに。


一通の電報を受け取ってから。

祖国からの電報が齎した悲報が乗客を押し黙らせていた。


祖国に帰れるというのに、何故乗客達はうな垂れ黙ってしまっているのか。


「ミハル姉・・・心配だろう?

 早く王宮に戻って、事実を確認したいだろ?」


客席の窓ガラスから外の景色を眺めていたミハルに、弟マモルが慰めの言葉をかけたのだが。


「ううん・・・大丈夫だから。気にしなくていいのよマモル」


ミハルは視線を外に向けたまま答える。

姉の態度に弟は心を痛める。


「全然大丈夫じゃないだろ、ミハル姉・・・」


小声で呟いたマモルは、姉をそっとして置こうと後退さって離れて行った。


「マモル君、ミハル先輩の様子は?」


腰を上げた赤茶毛のミリアが心配そうに訊ねる。

肩を竦めたマモルの態度で言われなくとも判ったようだった。

また腰を椅子に降ろしたミリアが、机の上に置かれた電報を見直す。


<<リーン宰相姫、副官補共々行方不明となる。至急帰還し昇殿すべし。

 尚、救出されたリーン皇女とシマダ夫妻も同行を求む >>


フェアリア本国からの電報には危急の旨が記されてあった。


この電報に因って、船内の空気が変わったのだ。

それまでは帰還の喜びに沸いていた船内に、突如として舞い降りてきた悪夢。


リーンとの約束を知る者達は、ミハルの心の内を想って塞ぎ込んでいるのだ。


「大丈夫・・・きっと。

 きっと、リーンの事だから私が帰ったら・・・迎えに来てくれる。

 リーンが行方不明だなんて・・・ある訳ないよ。

 リーンが私を置いて何処かに行っちゃう訳がないもの・・・」


窓を観ている瞳には、懐かしいリーンの微笑だけしか映ってはいなかった・・・


  ((キラッ))


・・・筈だったのに。


<なに?何かが光った・・・空中で?>


ミハルが気付いた瞬間の事だった。


((ビビーッ!))


警報が客室内に鳴り響く。


「なんだ?!」


乗客達が一斉に叫びだす。

客室乗務員が騒ぎ出す乗客が訊ねた。


「何の警報なんだ?一体何があった?」


客に問われる客室乗務員にも訳が判ってはいなさそうだった・・・が。


「お静かに願います。只今本船は急速下降に移りますので、お席に着いて頂きたいのです」


一等船員が客室に来るなり、説明を始める。


「本船の進路上に、未確認飛行体を視認致しました。

 危険は無いかと思うのですが・・・

 安全を執るため一時避難し、高度100メートル迄下降致します」


説明をする一等船員の言葉に、殆どの乗客達が落ち着きを取り戻した。

だが・・・


「そうは言ってもね・・・船員さん。

 我々軍人には解るのですよ、危険な匂いがね。

 あなたは私達に嘘を言っているみたいね」


ミリアが座ったまま船員に言った。


「そうみたいですねミリアさん。

 危険が差し迫らない限り、こんな山地で下降するなんて有り得ない。

 衝突の危険より地上に激突する方が確立が高そうですものね」


横から地上を見下したマモルが後を続ける。

2人に訊かれた一等船員が顔を青ざめさせて頷く。


「そうです・・・歴戦の戦士には隠せませんね。

 確かに今、本船は危機に直面しています・・・が。

 本当に危険な物体なのかは我々には判断できないのですよ。

 ()()が、<神軍しんぐん>の飛行機械なのかは」


答えた船員にも近寄るつつある物体がなんなのか、掴めてはいないようだった。


「あの黒い物が・・・飛行機械なの?

 どこの国に属しているというの?」


リーン皇女と相席していたミハルの母、ミユキが訊ねると。


「それは・・・私には解りかねます」


船員は遥か遠くの胡麻粒の様に見える黒い物体を指して、首を振った。


「<神軍>?

 悪魔じゃないのよね?

 だったら危険じゃないのでは?」


ミユキがそれと無く訊くと。


「どちらにせよ、判らない相手には要注意だよ、ミユキ」


メガネを掛けた夫、まことが割って入った。


「それは・・・そうね」


マコトの言葉に頷いて、ミユキが皇女リーンを観ると、すっかり眠り込んでいるようだった。




<神の軍?だとすれば・・・一般の旅客船には手出ししないだろう。

 何処の国に属しているかは知らないけど・・・飛行機を使っているなんて。

 高度を執れないというのに・・・無茶な事を>


ボンヤリと黒い機体を観ていたミハルの感覚に

危険が迫っている事を教えるかのように、紅き毛玉が呟く。


「ミハルよ、あれはこの世界で最も強力な力を持つ軍隊の兵だ。

 もしかするとこの船を狙って来たのかもしれんぞ?」


ミハルの肩に載った毛玉ルシファーが教える。


「え?ルシちゃん・・・今なんて?」


そう訊いたミハルの瞳の端で。


<発砲したの?!>


黒い物体から光が断続的に放たれた。


<いけないっ!こちらは丸腰なのに・・・あの黒い飛行機に攻撃されちゃう!>


瞳に写った射撃光しゃげきこうが、ミハルの頭に焦りを擡げさせた。


「え?」


ミハルは思わず声に出してしまった。

射撃された事より、目の前で起きた事に因って。


「良かった!多分これでもう心配しなくても良さそうです」


一等船員が拍手喝采する。

何故なら・・・


「黒い機体から煙が・・・墜ちるの?」


ミハルが観たのは黒い機体が発砲した後、突然機体から煙を噴き出し降下を始めたから。


「もう、この辺りにはあれと同じ機体は存在しないでしょう。

 これより通常の航行に戻ります。

 皆様、もうご心配ありません」


一等船員はそう言うと操縦室へと戻って行った。


「なーんだ。人騒がせな・・・自己完結しやがって」


客達が悪態を吐いている中、ミハルだけはじっと煙を吐き、墜ちて行った機械を観ていた。


「飛行機が堕ちる時って・・・あんな感じなんだ・・・」


煙を噴き出し、のた打ち回って墜ちていく・・・そして途中で空中分解して果てたのだった。


「?!あ・・・あれは?」


ミハルが空を飛ぶ、見慣れないモノを見つけて声を零した。


「う・・・嘘でしょ?」


ミハルの眼が大きく見開かれた。


「まさか・・・さっきの機体を墜としたのって・・・」


窓ガラスに貼り付いて、()()()を眺めた。

そう・・・その人・・・をだ。


挿絵(By みてみん)



空中に浮ぶ人影。

ゆっくりと此方に近付いて様子を伺うような仕草を見せる人影。


「あ・・・本当に。

 銃を下げている・・・やはり、あの人が?」


ミハルの瞳に写ったのは、蒼髪の少女。

片手に機関銃らしき大型ライフルを下げ、此方の様子を眺めているようにも思えた。


「あれは?

 あの人は・・・一体・・・どうやって()()()()()?」


ミハルの瞳に写った少女は、明かに魔法使いのようだった。

何故なら。

魔法衣らしき服を身に纏い、

片手で重い銃を易々と持ち・・・

足元に()()()()()を輝かせて飛んでいたから。


「どうすれば、空を自由に飛べるというの?」


ミハルは飛び去る少女を眼で追いかけながら、一つの事を想い求めていた。


<私も・・・私も空を飛びたい。

 空を飛んで、今直ぐリーンの元へ行きたい・・・>


魔法少女が消えた蒼い空を見詰めて、魔砲少女であるミハルが願った・・・








これより始まるのは、フェアリアのある世界の大戦。


今より語るのは、人類の存亡を賭けた戦い。


今この世界は未曾有の危機に直面していた。


第4章で語られたリーンの物語。

彼女が審判を下さなくとも180日後には、人類を消滅させると宣言した<神>。


喰い止めようと試みるのは有志連合の国々。

絶対的科学力を誇る軍に対し、世界の国々は驚愕するだけだった。

だが。

今此処に、闘う事の出来る戦力が現われた。

その戦力とは、<魔法の力>を有する者達の事を指す。

その者達を人は<青の魔砲師ガンマスター>と呼んだ・・・


次回 蒼空の魔砲師 Ep1 空へ Part2

君はあの空に舞い上がる・・・想いを胸に秘めて

  人類消滅まで・・・あと 179 日

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