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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep1街道上の悪魔Act8堕ちるミハル

クーロフ大尉と分かり合えたミハル。

司令部からの命令で軍使を送る事になったリーンは苦渋の決断をする。


その決断が後にどんな闇を連れて来るかも知らずに・・・

「なあ、ミハル。その戦車隊の隊長ってさ、男前だったのか?」


ラミルがキャタピラの点検をしながら、砲身を拭いているミハルに訊く。


「えーっと、男前っていうか無骨な軍人って感じでしたね。

 それでいてとっても優しくて、兄と言うよりお父さんって感じで・・・いい人でしたよ」


ミハルは砲身に目を向けたままラミルに答える。


「そーか、そーか。だ、そうだミリア」


ラミルもキャタピラから目を離さずに、砲弾を磨いているミリアに言った。


「本当に、本当に先輩は!

 そのクーロフって言う大男に何もされていないのですね。

 そうなんですね!」


ミリアはいじいじと、同じ砲弾を何回も拭いてふて腐れている。


「もう・・・何回同じ事を訊くのよミリア。

 そんな人じゃないって言ってるでしょ。彼は紳士だったって!」


ミハルが呆れて、いじけているミリアに言う。


「だって、あんなシベリア熊みたいな大男だったから。

 ミハル先輩を摂って食うみたいな感じだったから・・・」


ミリアがいじいじと砲弾を拭いているとミハルがミリアの前に飛び降りた。


「ほら、ミリア、私を信じて。

 私のファーストキスを奪ったのはあなたでしょ?」


挿絵(By みてみん)



座っているミリアに手を指し伸ばして優しく微笑む。


その優しい笑顔を見上げて・・・


「そう、そうでしたね。えへへっ!」


差し出された手を握り、立ち上がって笑うミリア。


「なんだお前達、そんな間柄だったのか?」


ラミルが呆れた様に二人を見て笑った。



そこへキャミーがミハルを呼びに来た。


「おい、ミハル。小隊長がお呼びだ、直ぐに行ってくれ」


「あ、はい!」


ミハルはウエスをミリアに渡して走っていく。


その後姿を見送ってキャミーが心配顔になる。


「大丈夫なのかよ、ミハル・・・」


ポツリと呟く。


「どうかしたのか?キャミー」


ラミルが問いただす。


「ええ。司令部命令で・・・敵に軍使を送る事になったんです」


キャミーは走るミハルの後姿を見ながら答える。


「軍使?何の為だ?」


ラミルが怪訝そうに訊き直すと。


「降伏・・・若しくは退去を勧告する為に・・・です」


キャミーの言葉にミリアが驚きの声を上げる。


「その役目を先輩に?」


そう言ってミリアもまたミハルの後姿を見た。





「ミハル。

 その命令によると支隊がこの村に着くのは明日の朝。

 我々もその作戦の陽動として攻撃を掛ける事になっている。そこで・・・」


リーンは言い辛そうに口篭もる。


「私に・・・降伏勧告を伝えろと、仰るのですね」


ミハルはメモから目を上げてリーンを見る。


「ええ。

 不必要な戦闘は村に被害を招く。

 出来るなら戦闘を交えることなく村を開放したいから」


リーンは辛そうにミハルに言う。


「あなたは敵の戦車隊隊長と話をした。解ってもらえる事を願っているけど・・・」


リーンが、口を閉じる。


ー  そう、軍隊が一部隊の隊長に独断で撤退を認める事なんてない。

   どこの軍隊も皆同じ。

   個人の想いなんて通用しない。でも、それでも・・・私は


辛そうに返事を待つリーンに向かって答える。


「少尉、私に行かせてください。

 私がクーロフ大尉に、敵戦車隊隊長に話します。無益な戦いは止める様に」


ミハルの言葉にリーンは救われた様な顔になると。


「ありがとう、ミハルお願いするわ。

 敵とはいえ、犠牲者を出す事は避けたい。村を戦闘に巻き込まない為にも」


「解っています。

 もし、戦闘が避けられないとしても、住民を解放してもらえる様に話して来ます」


そう言って敬礼するミハルに背筋をピンと張って敬礼を返すリーン。


「お願いします、ミハル」


ミハルの身を案じつつ願いを込めて答礼した。








「クーロフ大尉!フェアリアの軍使です」


ロカモフ上等兵が指を差して、白旗を掲げてやってくる数名のフェアリア兵を分隊長に報告する。


「あれは昨日の娘っ子ですぜ?!」


一番前を歩いてくる黒髪の少女を見て、横の戦車兵が言った。


近付く数名の軍使に歩兵部隊の兵士が銃を構える。


ー  いかん、歩兵隊の隊長は軍使の扱いなど知らんのだろう。

   止めねば、シマダ君を撃ってしまうだろう


「おいっ、ロカモフ!戦車始動だ。急げっ!」


クーロフ大尉は自車のエンジンを掛けさせると共に、ミハル達に向って走り出した。



「止まれっ、何の用だ。フェアリアの猿共!」


帝国軍の半軌道輸送車の機銃がミハル達に狙いを定める。



白旗を掲げたマクドナード軍曹が、


「ほらな、帝国軍は軍使の扱いなど知らんのだ」


諦め顔で肩を竦める。


そして、背後に居る物に注意を促す。


「おい、撃ってきても撃ち返すんじゃないぞ!」


後ろに控えた整備班員に命じる。


「は、はいっ、了解!」


若い2人の一等兵、ルイズとモルンが緊張した面持ちで頷く。


「どうする?ミハル。ここから勧告するか?」


マクドナード軍曹が訊くが。


「行きましょう、軍曹」


ミハルはさっさと歩き出して答える。

ミハルの後で肩を窄ませて、

やれやれといった風に、それでもミハルの後を追って歩き出した。



((ダッダッダッ))


機銃の一連射がミハルの前をなぎ払った。


ミハルはそれでも足を止めずに前へ進む。


「それ以上此方へ来ると、撃ち殺すぞ娘!」


輸送車の上から大声で叫ぶ指揮官らしい小太りの男が半ば笑いながらミハルを脅す。

ミハルはその男に向って、


「私はフェアリア軍を代表して来た軍使です。話を聞いて下さい」


相手に聞こえる様に、大きな声を出して説得する。


「軍使だぁ?話を聞けだと?

 いいだろう娘っ子一人だけこっちに来い。男共はそこを動くな!」


小太りの男がミハルだけを許可する。


「軍曹、ここで待っていてください。私一人で行きます」


ミハルが輸送車の指揮官を睨んだままそう言うと、


「待てミハル。危険すぎるぞ!」


軍曹が止めるのも構わず歩き出すミハル。


「お、おいっミハル。待て、待つんだ!」


軍曹がミハルを追って止めようとすると、


((ダッダッダッ))


また機銃が火を噴き、弾が軍曹の横をなぎ払う。


「軍曹、動かないで。私を信じて」


ミハルは前を向いたまま、歩を進める。


「よーし、そこで停まり両手を挙げろ!」


ミハルは言われた通り、両手を挙げる。

数名の兵士と共に小太りの男がミハルの前に出てくる。


「ほう、フェアリアの戦車兵か。見た事の無い髪の色をしているが・・・」


そう言ってミハルの周りを回ってじろじろと見ていたが、


ー  !くっ、この人達が、村人を殺戮したんだ!


小太りの男がミハルの体をベタベタとさわる。


「ふん。武器は持っておらんらしいな」


それらしい事を言いながらミハルを撫で回す。


ミハルはその行為に耐えながら、


「話を、話を聞いて下さい」


小太りの指揮官に訴える。


男はミハルを見据えて下品に笑って言った。


「いいだろう聞いてやるぞ。お前の身体が悲鳴を上げるのを!」


そう言うと兵士に目で合図を送りミハルを民家へ連れ込もうとする。


「何をするんです!私の話しを聞いてください。

 もう直ぐ此処に我々の軍が攻めて来ます。

 お願いです、話を聞いてっ!嫌っ!やめてっ!!」


ミハルは必死に抵抗するが男達の力には逆らえない。


ー  嫌だ、どうして話を聞いてくれないの?

   どうしてこんな酷い事をするの?


ミハルは抗いながら男達に思った・・・



いやらしい手でミハルを取り囲む帝国兵達。


絶望的な展開でもミハルは抗う。

どうしても彼に話を聞いてもらうために・・・


次回 堕ちるミハル  Act9

君は絶望の中、希望を求める・・・

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