第4章 女神覚醒 Ep9 女神覚醒 Part3
召喚されたグランはデアスの使徒に襲い掛かった。
召喚が出来た事はある事を指していた。
それは・・・リーンが神である証。
白獅子の牙が鷹の聖獣を捉えた。
聖獣同士の闘いは一撃一撃が必殺の技となる。
グランの牙はデアスの使徒、聖獣ラゴンを一撃で消し去った。
「グランっ!」
「魔獣・・・いえ。聖獣さん!」
リーンとトアが口々に呼びかける。
その声に振り返った白獅子グランが蒼き瞳を和らげる。
「間に合って良かった・・・良くぞ召喚して下さいましたリーン姫」
まだ人たる者の呼び名でリーンに答えるグランに。
「グラン・・・あなたが此処へ来れたという事は・・・
私はやっぱり・・・神だという事だよね、トア」
頷きつつも、トアに結論を言わせようとする。
リーンの辛さが解るトアには、声に出す事は憚られた。
唯、頷くより他はなかった・・・
「だとしたら・・・この結界も破れるかもしれないわね。
破る事が出来たのなら・・・3人でフェアリアに帰りましょう。
神の国に連れ込まれるなんて、まっぴらだものね」
運命に逆らおうとするリーン。
だが、敵は神を名乗る者。
既に状況が変わった事を知っていたのか、新手を繰り出してきたのだ。
「リーン様。
新手が結界に投入されました。
このままでは何れは力及ばずあなた様を御守り出来なくなりましょう。
その前にリーン様だけでもお逃げくださいませ。
我とトアが時間を稼ぎます故に・・・」
立ち上がったトアとグランが現われた使徒達に身構えつつリーンに勧める。
「馬鹿なっ!私だけ逃げるなんてっ。
3人同時でないと、私は嫌よ!」
リーンが勧めを断り、二人と共に在ると言う。
「何を気弱な事を・・・リーン様のお身体はお一人のモノではございません。
人類全て・・・いいえ。
リーン様をお慕いする者・・・ミハルが待ち望んでおりましょう。
彼のミハルならば、リーン様を神の手からでも御守りで来ましょう。
ですから・・・お逃げくださいませ!」
ジリジリ寄せて来る敵を見張りながら、聖獣グランが献進する。
「グラン・・・あなた。
此処で果てる気なの?」
リーンは決死の気迫が伝わってくるグランに訊いた。
「それが下僕たる使徒の務めならば。
ルシファーに授かった秘術を行使しても・・・護り通す所存」
グランはリーンに金色の魔法石を見せる。
「それは?金色の石。神の力が宿りし石?」
尋ねられた白獅子が頷き、
「これは此処へ来る少し前に神に戻りし者ルシファーより命じられ、渡された石。
リーン様の身に万一の時には、これを使ってでも護れと。
人の姿となっても護る様に申し遣った証」
ルシファーに授けられた力を教えた。
聖獣が一旦人の姿になったら・・・もう二度と獣の姿にはなれない。
獣が人の姿になると言う事は最早、人か神になった証でもあるのだ。
「ルシファーがあなたにそこまで・・・彼は知っていたのね。
私が神たる者なのだと・・・」
リーンはグランに今一度訊いた。
「グラン・・・ルシファーは今、何処に?」
答えは聴かなくても解ってはいたのだが。
安心したいが為、聴いてみた。
「ご存知のようですが・・・ミハルの手助けに馳せ参じられました・・・」
グランは希望した通りの言葉を返して来た。
「そっか・・・ルシファーが。
だとすれば・・・ミハルは大丈夫だよね・・・あの娘は助けられるよね?」
心の痞えが取れたかのようにリーンが、ニコリと微笑んだ。
「リーン様。
それならば、尚の事脱出してくださいませ、ですの!
どうかその娘の元へ・・・お逃げくださいませ。
ルシファー様とミハルさんの元へと、お逃げくださいませ!」
トアが是が非でもリーンに脱出を勧める。
だが、リーンの答えは違った。
「トア・・・あなたもこんなだったの?
命を狙われ、身内を置き去りにしなければならないと・・・
臣下の者に脱出を迫られて。
辛かったでしょ?苦しかったでしょうに。
私は今、トーア姫の気持ちが嫌と言う程解ったわ」
「え?」
トアは瞳を伏せているリーンに聞き返した。
心の中に秘めているある事を見透かされた気がして。
「トーア・・・あなたはお姉様と同じ様に。
私を逃がす為の犠牲となろうとしているのよね?
それはトーアの償いの気持ちから?
それとも使徒トアとの誓いからなの?」
リーンの言葉はトーアの秘めた思いを言い当てていた。
<ああ・・・もう、言い繕うのは辞めにしよう。
女神様にどう誤魔化した処で全て心残りとなる・・・>
トアはリーンに全て言われた通りだと肯定する。
「我が君リーン様。
ワタクシめは、滅びた家の再興を目指したと申し上げました。
それはリーン様の気を引く為。
トーアには家名の再興などは思いもしない事ですの。
ユーリ様に術を掛け、リーン様に近付いたのは使徒トアが行った事。
ワタクシはお逢いするまでは気乗りしませんでした・・・他国の王女を護るなんて。
ですが・・・あの日。
初めてお逢いしたあの日。
ワタクシの眼に映ったリーン様は・・・
本当に麗しく、女神のように輝いておられました。
その時以来、ワタクシは・・・リーン様を御守りする事が嬉しく思えていましたの。
こんなワタクシを傍に置いてくだされるリーン様に感謝致しておりました、ですの」
リーンは黙ってトーアの言葉を聴いていた。
最期の言葉を聴くまでは。
「おりましたって?!
トアあなたっ、なにをする気なの?」
トーアの瞳が澄んだ紅色に染まっている事に気が付いた。
「まさかっ?!お辞めなさいっ!」
何を心の中で決めたのかが黙っていても解る。
リーンも気付く、トアが何をしようとしているのかが。
結界に閉じ込められ、連れ去られ行くリーン達。
最早、神たる者達の思うがままなのか?
脱出する事は叶わないのか?
いよいよ神の力に目覚めたリーンは諦めてしまうというのか・・・
リーンが諦めるという事はつまり。
この世界に生きる人類の・・・滅亡を意味する?!
次回 第4章 女神覚醒 Ep10 悪夢の島 Part1
君は人類を滅亡させる決断を下す・・・悪魔となるのか?