第4章 女神覚醒 Ep9 女神覚醒 Part1
白い結界の中で2人の前に現れた者とは?
今度の敵は・・・手強いぞ?
覚悟完了?トア・・・
白き霧が人型と化す。
「バリフィスよ、目覚めよ」
人型から重々しい声が辺りに響く。
人を模った霧がやがてはっきりと姿を曝け出す。
灰白色の長い髪。
その髪の間から見える金色の瞳。
白いマントを翻した男の姿がそこにあった。
「いきなりなお言葉ね、現われた早々に目的を言うなんて・・・
あなたは何者なの?先ずは名を名乗ったら?」
リーンが言う傍でトアは額から冷や汗を掻いていた。
<こいつは今迄に出くわした者の中で一番強い気を放っている。
只者ではなさそう・・・いいえ、コイツと闘うとなればヤバイかも・・・ですの>
トーアは体の中に宿る使徒と同じ感覚で、近寄る男を睨んだ。
「バリフィスよ。
そなたは神の祠に来るべきだった。
闇の者に利用されようとしていたのだ、このような場所に連れ込まれて。
今から私があるべき場所まで連れて行こう」
男は名をも告げずにリーンだけを観て、そう教えた。
「あるべき場所?
それって何処よ?
私が居るべき場所は一つだけなのっ!
それはフェアリアの執政官室。
私が本来あるべき処よ!」
リーンは男に抗う。
最早自分が誰なのか知る必要も無いと謂わんばかりに。
「リーン様・・・嬉しいですのっ!
やっと人たる姫君に修まると仰ってくだされましたですの!」
トアは眼を輝かせて喜んだ。
「そうよトア。もう私は過去に囚われる愚を犯さない。
お皇父様やユーリ姉様の家族・・・妹として生きていく事に決めたから!」
リーンは力強くトアに宣言した。
「ああっ、リーン様ぁ・・・嬉しゅうございますぅ、ですのっ!」
感極まって涙を零すトア。
だが・・・
「赦さぬ。
勝手な振る舞いは最早容赦出来ぬ。
時は熟し、この世界に放たれた粛清神達は行動を始めたのだバリフィス。
後はそなたが決定を下せば・・・再製が行われるのだ。
この薄汚された世界の再成形が・・・な」
灰色の髪が風も無いのに舞い上がる。
髪に隠されていた金色の瞳が2人を睨み付けた。
「そっちこそ勝手過ぎるでしょ?
私は過去の事を知らなかった・・・さっきまで。
あなた達が神だというのなら、何故人の粛清を望むのよ?
神たる者ならば、人を導くのが務めではなくて?」
リーンが指を男に突き付け言い放った。
「馬鹿な事を・・・人なんぞ只のコマにしか過ぎん。
人に気を置く事は愚かな行為にしかならん。
我らの目的は人の昇華を成さしめる事。
科学の進歩に対応出来る人を造る事・・・
さもなければ・・・再びこの星は死に絶える。
悪魔の兵器達によって・・・だから何度でも再生するのだ。
人が神たる者とならん事を願って・・・」
灰色の髪を靡かせる男が言い放った。
「あなた・・・それが本当なら。
あなた達こそが大魔王。
神こそが大魔王サタンと言う事になる・・・
人の側から言ったら・・・悪魔サタンは神ということにもなる」
応戦するリーンが言い放つ。
この世界の神は、大魔王サタンと同じ意味なのかと。
「大魔王サタン?
ああ、我らが主たる創造主がインプットしたのは神のみ。
神は人を罰する為に存在するのです。
人は罰を受ける事で再生される・・・但し、地獄と人が呼ぶ世界はありませんよ。
そこは単なるゴミ箱、必要ないと判断されたメモリー体の処分場所。
再生不要と判断されしゴミの捨て場・・・消去される者の行く場所・・・」
灰色の髪の男がニヤリと笑う。
「魔王とは人間が勝手に名付けた呼び方。
この世界は監視者によって見張られ、支配されているだけの事。
我らは何度でも再生させ得るのです・・・人などは。
なぜなら・・・人は、すべからく創造主のモルモットでしかないのですから」
リーンは自分の手を観ていた。
確かに血が通い、温もりがある。
「私は・・・神なんかじゃない・・・人なの。
あなた達みたいに機械なんかじゃないからっ!
心があり想いがあり・・・愛があるの!
絶対あなた達の仲間なんかじゃないからっ!」
リーンが拒否する。
人たる皇女リーンが抗う。
「それこそ、そなたの思い過ごし。
人として過したから、実情が解る筈。
人はこのまま進めば自ら滅びる運命なのだと・・・判った筈ではないのか?
我らがリークした力で、悪魔のような兵器を造ったのではなかったのか?
何れ、それを使い・・・滅びるだけの世界なのだと判らんのか。
ならば。
早い内にリメイクしたほうが良いとは思わないのか・・・バリフィスよ」
神を名乗る者が人たる神、バリフィスに告げた・・・最期の審判を下せと。
「嫌よ・・・誰がそんな恐ろしい事をするものですか。
私はこれまで通り、フェアリア皇女リーンとして生きていくわ。
あなた達がそれを赦さないと言うのなら・・・闘うまで!」
リーンが遂に刃向う事を宣言する。
「馬鹿な娘と化したか・・・バリフィス。
そなたもどうやら失敗作だったようだな・・・メモリーを破棄するというのか?
存在自体を消し去るというのだな・・・良いだろう。
新たなバリフィスを造る参考にした後・・・消去してやろう」
灰色の髪を靡かせた神たる者がリーンに手を伸ばす。
「やめるのですのっ!
リーン様に触れるんじゃないのですのっ!」
守護していた者が魔法力でリーンに寄る手を吹き飛ばした。
「おやおや・・・もう一匹いましたね・・・ゴミが」
吹き飛ばされた手を一瞬で元通りに治した男がトアに一瞥を投げる。
「ゴキブリみたいに呼ぶんじゃないのですの!
ワタクシのリーン様に触れないでくださいのっ!」
リーンの前に出て両手を拡げたトアが叫んだ。
「トア・・・」
自分を庇う様に手を広げた魔法少女に呼びかけようとすると。
「リーン様・・・ワタクシはリーン様と出遭えた事。
本当に感謝してますですの・・・ワタクシの主様に。
ルシファー様に・・・そして。
ワタクシの姫君様に・・・リーン様に」
振り返ったトアが微笑んだ。
それは何かを決したかのように・・・悲壮感が漂っていた。
「ルシファー様の使徒トア。
この身に代えてもリーン様をお守り致しますですの!」
今は決意を述べて闘う事を誓うのだった。
「良い心がけだ・・・だがな。
我はそなた使徒たる者の主と同じ神。
そなたがどう足掻いても敵わぬ・・・神なるぞ・・・」
言うが早いか。
灰色の髪を靡かせる男が力を発動させる。
結界の中に無数の矢が現われ、トアに狙いを定める。
「これは・・・神の矢・・・ミハルの持つ物と同じだわ・・・」
リーンの瞳に映るのは、嘗て観た事があるミハルの魔法と同じく。
「光の者だけが放てる矢・・・神の矢・・・
やはり・・・この男は神だと云うの?」
唖然と見上げていたリーンが漸く気付き叫んだ。
「トア!逃げなさいっ早く!」
しかし、リーンの前に居る守護者は離れようとはしなかった。
遂に神たる者と闘うことになった使徒トア。
有り得ない程の魔力を目の当たりにしても屈する事無く身構えるのだったが・・・
いよいよ本章最大の・・・最期の決戦か?
果してトアはリーンを護り抜けるのか?
損な娘だからなぁ・・・(意味深)
次回 女神覚醒 Part2
君は誓った筈だ・・・喩え相手がどんなに手強くとも護り抜くと。今はその時だ!