第4章 女神覚醒 Ep8 追跡者(チェイサー) Part3
紅蓮の炎が悪魔を焼き尽くす。
悪魔達が一人の少女に手玉に執られ、次々と葬り去られていく。
「ぐはぁっ!何て奴だっ、我らの手に負えん・・・」
叫んだ悪魔も魔法で吹き飛んでしまう。
辺りはさながら地獄の業火に焼き尽くされているかのようだった。
「おーい、トア。その辺にしといたら?」
あっけにとられているリーンがパタパタ手を振って停めると。
「いえいえリーン様。こいつらに情けは無用ですからっ!
リーン様に危害を加えた罰は・・・万死に値しますっ!ですの」
未だ魔法を炸裂させ続けるトア。
辺りには最早居残る悪魔の姿も見当たらなくなった。
「ふぅ・・・さて。これで良し、ですの」
やっと魔法を解除してリーンに振り返ったトアが、ニコリと笑う。
「トア・・・さっきの話。
どうして此処に?
誰にも話していなかったというのに・・・後を着いて来たの?」
リーンの微笑が消え、翳りを見せる顔になった事がトアの心を締め付ける。
「す・・・すみませんですの。
どうにも気になって・・・リーン様がお一人で向われた所から。
後を追跡してました・・・ですの・・・」
頭を下げて謝るトアに、リーンがため息を吐く。
その顔はため息に反してにこやかだった。
「これでまた振出しね。私が何者なのか・・・一から調べなおさなきゃ・・・」
リーンが闇の者に騙されていたと思って呟く。
「この<神の祠>って、偽物だったのね。
闇の者が私を凋落する為に張っていた罠だったようだもの・・・
私が<神>な訳ないものね、トア」
肩を竦めてトアに問い掛けたが、その本人はリーンの顔を見詰めて口を閉ざしていた。
「どうしたのよ、トア。
悪魔達の言う事は全部嘘だったんだよね?」
黙っている従者に問い掛けるリーンが、小首をかしげると。
「リーン様。
ワタクシがそれを告げる事は憚れますの。
確かに此処は<神の祠>ではなさそうです・・・の。
でも・・・ワタクシの・・・いいえ、使徒トアの知る処では・・・」
トアが顔を背けて答える。
「そういえば・・・あなたさっき。
魔王ルシファー・・・あの<ルシちゃん>の事を主人って言ったわよね?
あの毛玉野郎の使徒だって・・・」
背けられた顔を覗きこんで訊ねるリーンに、困惑顔で見返したトアが頷いた。
「やっぱり・・・あの毛玉野郎。復活してたのね・・・
またミハルにちょっかいしに現れそう・・・」
リーンが頬に指を着けて想いを馳せるが。
「ルシファーが<神>になったなんて。
いや、戻ったって言ったわよね?
どう言うことかしら・・・教えてくれない?
あなた・・・トアの主人で、魔王だったルシファーが何故<神>だったのかを」
真顔になってトアに説明を求めた。
リーンの求めに少し考えてから、使徒たるトアが口を開いた。
「あの方は元々が<神>だった・・・我々と同じ悪魔と化す前は。
神の中でも高位だったルシファー様は同族の中で孤立された・・・
ある事に反対した為に。
その結果・・・追放されたのだ<神>から」
トーアの口から使徒トアが教える。
「ルシファー様は<神>達が人間を支配し、運命までも決する事に反対していた。
人の命運までも<神>達が勝手に決め、粛清する事に・・・
ルシファー様は人を擁護するようになった・・・<神>なのに。
己が力を人の為に使うようになった・・・それは<神>からの脱却。
人間界に味方する神だった者・・・堕神となられた」
リーンは耳を疑った。
神ルシファーが人間に味方する為に自ら堕ちた事を知って。
「そしてルシファー様は<神々に叛旗を翻した者>として闘い・・・敗れた。
その結果・・・知られている通り。
魔王へと貶められたのだ、リーン姫・・・」
リーンはトアの言葉に眼を見開く。
トアの言葉通りならば、ルシファーこそ<神>たる者とも言えた。
人に味方するのが<神>たる者ではないのか?
何故人に味方するルシファーが闇の者として貶められねばならなかったのか?
リーンは疑問符を頭に抱きつつ重ねて訊ねた。
「じゃあ、トア。
<神>は人間の味方ではないというの?
人間に味方したルシファーを何故忌み嫌い、貶めたというの?」
トアはリーンの問いに逡巡する。
やがて、重い口を開いてこう言った。
「リーン・・・いや、バリフィスよ。
そなたも気が付いておろう・・・闇の者が言った事は半ば本当の事だという事を。
この世界の<神>たる者は唯一つの答えしか求めていないという事だ。
それは・・・人が殺し合いをせずに生きていく事・・・
そなたが観た世界は・・・実在していたのだ。
その世界はやがて・・・<神>に滅ぼされた・・・千年前に」
それは闇の者が自分を貶める為に謀った事だと思っていた。
真実ではないと勝手に思い込んでいた。
しかし、事実だと言われてしまえば自信が無くなる。
何しろ自分の記憶さえもが無いのだから・・・
「バリフィス・・・トアまでもがそう呼ぶのね。
だったら、私は<神>と言う事になる。
人間の敵、悪魔とでも呼んだ方が良い存在だという事になる・・・」
俯いたリーンが自信無さ気に呟くのを、トアが諌める。
「リーン様はバリフィス神となられてはいけませんですのっ!
<神>になんてなられてはいけませんのですの!」
必死になってリーンに呼びかけるトアが周りの異常に気付いた。
「?!これは・・・結界?」
白い光がピラミッド状に線を描く。
「なに?この結界・・・闇じゃないわよね?」
気付いたリーンも気配を感じて身構える。
トアにはこの結界が自分の力と同じ・・・光ある者によって造られたのだと解った。
「この気配・・・只者ではなさそうですの・・・」
結界の中に何者かが侵入してくる気配。
それはトアが感じた気配の主なのか?
身構えた二人の前に白い霧が現れる。
やがてその霧が人型と化し、
「バリフィス・・・目覚めよ」
尊大な声がリーンに命じた。
2人の前に現れたのは・・・白い髪を垂らした男・・・神たる者。