第4章 女神覚醒 Ep8 追跡者(チェイサー) Part1
紅き瞳でリーンを睨む少女。
その姿を見た時に体の内から知らされたのは。
「奴は人ではない・・・闇に堕ちた者だ。
他人の振りをする偽者・・・騙そうと試みる邪なる者」
既に正体を見切ったのは、
「昔のあなたと同じ・・・悪魔。そうなのですの?」
自らに宿る、今は天使の力を授かった者にトアが訊ねた。
その空間に居るのはリーン姫と黒髪で顔を隠した娘。
いいや。
リーンを騙そうと試みている悪しき者。
「どうするのですの?このままではリーン様が奴等の術中に嵌ってしまいそうですの・・・」
心配の色を隠さずに訊ねたトアに。
「然程心配する必要もあるまい。
イザとなれば・・・彼奴等を駆逐し、リーン様を奪い返せば善い。
我らの力を以ってすれば容易い事・・・されど。
我が主ルシファー様の言いつけでギリギリまで手を出せぬ。
こやつ等の首領が誰なのか・・・何処に潜んでいるかを調べねばならない」
魔法石の中から使徒トアが答えた。
「そうですの?
だったら・・・今少し様子を伺います?ですの」
トアは今、リーンの足跡を辿り詰めてその場に居た。
闇の力を使い、闇の<祠>の中に。
「このまま暫く様子を伺うの・・・ですの。
あの娘がリーン様に悪さすれば・・・一撃で葬り去ってやるですのっ!」
ややもすれば手をくださんとするトアの身体を停めて、使徒トアが苦笑いする。
「さあ・・・バリフィスよ。
決めなさい・・・あなたが断罪するのだと。
この世界を滅ぼし、人を駆逐すると。
破壊神たるバリフィスに成ると!」
機械が最期の審判を迫る。
紅き瞳に染まりし娘に。
「そうよ・・・あなたはバリフィス。
女神バリフィスに成るの!
そして人を滅ぼし<無>に還してやればいいのよ。
こんな人の世界なんて・・・無くなってしまえばいいのよ!」
黒髪のミハルが叫んだ。
「違う・・・違うわ」
紅き瞳のリーンが呟く。
「今更・・・何が違うと言うのよ?」
苛立った様にミハルが訊く、同じ紅き瞳を吊り上がらせて。
「そう・・・あなたは・・・違う。
私のミハルじゃなくなっているもの・・・私の愛したミハルじゃ・・・無い」
リーンが半ば瞑った眼で黒髪の娘に言った。
「ふんっ!それがどうかしたの?
あなたに見捨てられたのはこの私なのよ?
前の私じゃ無くなっていて何処が不思議なのよ?!」
黒髪の娘が口汚く罵る。
まるで何かに気付いたかのようにフェアリア皇女リーンが答えた。
「不思議?
そうね、あなたは確かにミハルそっくりだわ・・・体は。
でもね・・・ミハルは。
私が愛したミハルは死んでも言わないから。
他の人を疵付けて喜ぶ言葉を吐くなんて。
どれだけ苦しめられても・・・死ぬ程の苦しみを受けたって怨んだりしない。
だって・・・ミハルは・・・ミハルは私のペットなんだから!」
端で聞いていたら何の事だか判らないであろう。
だが。
リーンにとって、その一言は魔法の言葉だった。
目の前に居る娘が、確実に違う者なのだと証明する為の。
「はんっ?!ペットだって?
何を馬鹿な事を・・・」
黒髪の少女が気付いた時には遅過ぎた。
瞳を閉じたバリフィスたる女神の顔が微笑んだ事に。
再び開かれた瞳が蒼く透き通る程に美しく輝いた事に。
「流石・・・ワタクシのリーン様。
お見事ですの・・・ワタクシなんて必要ないの・・・ですの!」
力一杯ガッツポーズを決める使徒たるトア。
「さーて。この後奴等がどう出るか?見ものですのっ!」
直ぐ様、戦闘準備に掛かるトアの魔法石が青く輝きを放った。
「な・・・何故?
何故見破ったのだ?!
何故正気に戻れたのだ?今一歩の処で?!」
黒髪を振り乱す娘が叫んだ。
「・・・確かにあなたの身体形はミハルとそっくりだった。
だけど、声までは似せられなかったようね。
私のミハルはあなたの様に醜い言葉端を使いはしない!
どんなに貶められても決して最期まで諦めたりしない!
あなたのように他人を怨んだり・・・憎んだりしないっ!」
蒼き瞳で邪なる者に言い放った。
「キ・・・貴様ぁっ!
大人しく堕ちてしまえば良いものを!
ならば最早無理矢理にでも目覚めさせるまで!
目覚めて人間共を<無>に還すのだ!」
黒髪の娘が闇に溶け込む。
機械の中へと戻って行く。
機械の画面に闇が拡がる。
それぞれの画面に悪魔達が写った。
「それが・・・此処の正体って事ね。
私が心身衰弱状態だったのをチャンスだと思っていた訳ね!」
リーンが胸の魔法石に手を翳す。
「そこまで気付かれてはどうにもならん。
こうなればお前を捕らえて闇に染めてやるまで!
我らが創造主に委ねるまでだ!」
機械の中からドス黒い光がリーンに放たれた!
本性を剝き出した闇によって、リーンの身に危機が迫る!
いよいよ下僕トアの出番か?!
「その通りですのっ!」←損な娘トア
はいはい・・・頑張ってね(棒)
次回 追跡者 Part2
君は御主人様を守護奉る魔法使いで・・・損な娘。闘え?!