第4章 女神覚醒 Ep7 罠 Part4
聖獣たる者の耳に入って来たのは間違いなく<祠>からの声。
「誰だ?・・・いや、どなたなのです?」
グランは<神の祠>からの声に訊ねる。
風も無いのにグランの鬣が揺れた。
苔むした洞窟の中から何かが出て来る。
聖獣は身構えつつもその気が聖なる者だと気付いていた。
<神・・・か?>
洞窟から出てグランに相対したのは、白い霧の様な物。
実体を顕さず、声だけがはっきりと聴こえたのだった。
「聖獣たる者よ。
そなたは此処に何を求めて訪れたのだ?」
その声に聞覚えがあったグランが、心の中で呟く。
<まさか<<神の祠>>からこの声が聴こえてくるとは。
何故闇の気配がしないのにこの声が聴こえてきたのか?>
「そなたの求めるのは神に戻るべき者の行方ではないのか?」
白い霧の中からはっきりと男の声が流れ出る。
自らの想いを払い除け、聖獣グランは答えた。
「如何にも。
我が求めるのは我が主君たる姫の行方なり。
もし、あなたが<神>なのならばお答え頂きたい。
リーン姫様は何処なりや?
我が君たる姫様は健在なりしや?
答えられよ・・・ルシファーよ!」
ミハルの生まれ変りを闇に貶めた魔王たる者の声だったのだ。
今、目の前に揺らめく白い霧から聴こえてくる声の主が、聖獣に告げる。
「我が名を知りし、聖獣グランよ。
そなたの主たるは、神子リーンなりや?
それとも契約を結びし使徒ミハルなりしや?
いずれが主として仕える者なるか・・・答えよ」
ルシファーの声が聴き咎めた。
「我が主君たるは神子リーン様。
我が契約主ミハルの命にて守護、奉らんお方なり」
グランが白い霧に答えると、
「ならば契約主ミハルはそなたを神子リーンの元へ遣わしたのだな。
神子リーンの守護を命じたというのだな、聖獣グランよ」
ルシファーの声が詰問する。
「いや。
我がフェアリアでの異変に気付いての事。
我が契約主ミハルの命にはあらず・・・先の命に従ったまで」
平伏するでもなく、グランが答える。
そして、逆に聴き咎めるのだった。
「今、我に相対している声は誰なのだ?
我の知りし者ならば、この声は邪なる者と聞き覚えているが。
本性を顕し、我に示せ」
聖獣グランの求めに白い霧が吹き上がり、やがて朧げに人を模った。
「そなたの聞き知った者とは我にあらず。
我は永き時の果て、漸く取り戻した姿となりし者。
そなたの云う<ルシファー>とは別者なり・・・
我は<ルシファー>・・・神でありながら人に味方せし堕神なり」
朧げに人の形になった白い霧が答えた。
「別の者?
ならば、今一度問う。
ルシファーが今此処に居るのならば、オスマンに居るルシファーは?
如何に説明するのだ?」
「はっはっはっ!」
突如、一笑されたグランは怪訝な顔で霧を睨む。
「何が可笑しいのか?どう説明するのだ?」
その答えは一言だった。
「我がルシファーである事を示せば済む事。
ミハルの前で魔王ベルゼブブと伴に滅びし<闇のルシファー>。
その闇の力が消えた我には、今は神の力しか残っておらぬ。
観るが善い・・・これが証拠だ」
白い霧から光が溢れ出す。
光が聖獣に注がれる・・・
「おおおおっ?!確かにこれは神たる者の力。
ミハルと同じ神の光・・・しかもこれは!」
光の中に神の名が記されていた・・・<ルシファー>と。
グランは平伏する。
神に戻りし魔王だった者に対して。
「如何にグラン。
我と我の配下の者と伴に神たる娘を救わんと願うか?
我が下僕たる使徒と伴に闇からリーンを助け出す手助けをせぬか?」
頭を垂れたグランが否応も無く従う。
「勿論でございます。
我が主君を救うのは下僕の務め。是非もなし・・・」
霧の中から光が指し示した。
「我は偽者を駆逐するが為に、オスマンへと向かうとしよう。
そなたと我が下僕とでリーンを護るのだ。
決して無駄な争いは慎み、リーンを守護する為だけに務めよ。
我が下僕たる<使徒トア>と共に・・・」
神たるルシファーが指し示したのは。
「此処に・・・リーン様がおわすのですな。
此処に向えばリーン様にお逢い出来るのですな・・・」
グランはそう答えてから気付いた。
「トア・・・ですと?
あの魔法少女トアがルシファー様の使徒?」
「左様。
悪魔だったトーアの力と我が天使の力を併せ持つ。
ミハルにも劣らぬ力の持ち主。
トアは今、リーンと共にある・・・闇の中に潜り込んで」
グランの瞳が見開かれる。
「では、トアは闇の中でリーン様を護っていると?」
指し示された方角を見詰めてグランが立ち上がる。
「如何にも。
なれど急がれたし、聖獣グランよ。
如何に闇と光の力を持つ者だとて・・・限界がある。
我がミハルと戻りし時まで守護を任せる・・・良いか?」
「お任せくださいルシファー様。
この聖獣グラン、全てを擲ってお仕えする所存」
背の羽根を羽ばたかせ、飛び立つ聖獣が決意を告げる。
「されば・・・行け聖獣グラン。
我に代わってリーンを、ミハルの拠り所人たる神を護るのだ」
白き霧の声が白獅子グランに命じた。
祠から現われたのは<ルシファー>だった。
甦った魔王は<神>となって現われたのだった・・・
堕神ルシファーに求められたグランはリーンとトアの後を追うのだった!
次回 追跡者 Part1
君は主人の危機にも動じる事無く見守っていた・・・主を信じて。