第4章 女神覚醒 Ep7 罠 Part1
門が開くと、そこは一瞬にして別の世界へと変わった。
「ここは?・・・ここが?」
呟く声に、何者かの声が答えた。
「そう。
ここは神の居る場所。
<神の祠>なのです。
・・・お帰り、我が娘・・・」
その声に、金髪の乙女が目の前を振り仰いだ・・・
「あなたは光を求めて此処へ来たのですか?
それとも、崩壊を求めて此処を訪れたのですか?」
眩く輝く光の中から声が聴こえる。
「あなたは此処へ戻って来た。
人の世を知って再び此処へと還って来た。
さあ、あなたの観てきた事を、私たちへ示すのです」
光は娘に尋ねる。
「あなたが見てきた全てを・・・あなたが知った人の想いというものを全て」
光の中でたゆたう金髪の乙女に求めてきた。
「私は・・・誰なの?私は一体何者なの?
私の本当の名は何というの?」
乙女は自分を求める。
知らず知らずに手が指し伸ばされていく。
「そう・・・あなたは此処での記憶が無いようね。
ここから人間と伴に外へ出てしまったのだから。
あの人間の娘と同じ姿で出て行ったのだから。
忘れてしまったようね、自分が何の為に存在しているのかを」
光が乙女に告げた。
「忘れた?・・・そう。
私は何者なのか・・・名前さえ忘れてしまった。
だから・・・教えて、私の名を。
本当に名乗るべき・・・名を!」
手を指し伸ばして答えを求める。
「いいでしょう。
あなたの求めに答える前に、神たる証を差し出すのです。
あなたが神である証を示すのです」
光の求めに乙女は戸惑う。
「私が神?どういう事?」
だが、光は乙女に答えず、
(ビシャッ)
眩い光で乙女を照らし、
「確かに認められました。
あなたが我等が娘である事を。
あなたは我等が<検証神>-バリフィスーであると認めます」
光の声が名を告げた。
「バリフィス?それが本当の名乗るべき私の名だというの?」
金髪の乙女が訊いた。
「そう。
あなたは人間を検証する者として人間の世界へ出て行った。
人間が<神>と崇める者、バリフィス。
最期の審判を下す為に野に降りし神よ!」
バリフィスと呼ばれた乙女が光を見詰める。
「私が人間を調べる?どんな理由があって調べるというの?」
バリフィスは光に尋ねる。
「教えましょう、あなたは忘れているようですから。
我々は人間が神と呼ぶモノ。
この人間が住む世界を監視する者として存在している・・・
此処とは違う次元より来た者なのです」
バリフィスは光の声を黙って聴いている。
「あなたは人間界で聴いた事でしょう。
千年程前に、巨大な隕石がこの世界に墜ちたと。
そしてその影響で空に電解層が出来、人は空を高く飛ぶ事が出来なくなったと。
それは我等がこの世界の人間を閉じ込める為。
空を高く飛び他の星へ行くのを防ぐ為に施したのです」
<では・・・何の為にそんな事を?>
喉まで出掛かった言葉をバリフィスは光の声に押し留められた。
「この世界の人間は、生存する価値を持ち合わせているのか。
それとも悪しき者として我等の粛清を受け、滅びの道を歩むのか。
それはあなたが決めねばならないのです<検証する者>バリフィス」
「私が人の未来を決めねばならない?
どうして私が神で、どうしてこの世界の未来を決めねばいけないの?」
バリフィスと呼ばれた乙女が光に訊いた。
「それはあなたが検証してきた筈だから。
人の世界へ出て、身をもって調べた筈なのだから。
あなたの意志が全てを決するのですバリフィス。
何故ならあなたは人ではない、我等の中から造られたモノ・・・
人造人間・・・あの王女リーンのDNAから造ったコピーでしかないのだから」
王女リーンのDNAからこのバリフィスと呼ばれし者は造られたという。
だが、この乙女にはなんのことやら解りはしなかった。
この時代の記憶しか持たないリーンであった者には。
「何を言っているのか私には解らない。
解った処で、私が人の世界を滅ぼす訳がないでしょ!」
頭を振って拒んだ乙女に光が告げる。
「あなたはこれより我等の元へ戻る事になるのです。
あなたが経験した出来事を全て我等の元へ知らせる為に。
そして我等監視者の総意を、あなたが決める事になるのです。
この世界の人間が同じ過ちを繰り返さぬと判断出来るか否かを」
光が王女リーンのDNAで造られた娘、バリフィスに告げて。
「さあ!バリフィス・・・あなたの記憶装置を渡すのです」
光がその乙女に注がれる。
王女リーンだった者が辿った数奇な物語は、光によって何一つ残さず吸い取られていく。
「あ・・・ああっ、私の今迄が全て・・・
王女リーンがこの場に来た時からの記憶が全て出てくる・・・
私が王女リーンとなった時からの・・・」
バリフィスと名乗るべき乙女は全ての記憶を光に渡した。
「データ転送完了・・・バリフィスよ、眼を開けなさい」
光が元王女リーンに告げた。
「眼を開ける?
私はずっとあなたと話していたじゃない。光の中で・・・」
そう言って初めて気付いた。
「あっ!」
本当の自分が居る場所に。
金髪の乙女リーンと名乗っていた娘が眼を開けて周りを観ると、
「ここは?・・・一体?」
フェアリア皇国王女リーンを名乗っていた自分が居る場所。
そこは見知らぬ機械が周りを埋め、何かの装置に座っている自分に漸く気付いたのだった。
バリフィスと名乗るべき乙女は戸惑う。
自らの宿命を知って。
人の業を知ってしまい・・・
そして、自らの責務に希望を捨てるのか・・・
次回 罠 Part2
君は愛を捨てるというのか?悲しみの果てに・・・