第4章 女神覚醒 Ep6 ルーツ <自らの起源> Part2
王家の墓・・・その片隅で。
リーンは自分の名が刻まれた墓石の前に立ち尽くしていた・・・
「ミハル・・・私・・・私は・・・」
墓石の前で、乙女は虚ろな瞳で愛しい者の名を呟く。
紅いリボンを片手に持って・・・
「マーガネット、それが現実なのだ。
おまえは10年前の記憶を覚えていないのか?」
ドートルが少女時代の記憶を思い出させようとしていた。
「10年前・・・私は・・・私の記憶には・・・」
金髪を風に靡かせて記憶を辿る。
それは幸せな記憶の筈だった。
まだ、戦争の気配も忍び寄って来ていない、少女の記憶。
<私は姉達に囲まれて幸せだった。
野や川で遊び、花を摘んで笑っていた>
金髪の少女が、花を摘んで微笑んでいる。
<そう・・・私は花を愛し、この国の自然を愛していた・・・筈・・・なのに・・・>
金髪の乙女が気付いた。
<なぜ?自分が見えるの?
自分の姿がなぜ記憶の中で見えるの?
この少女がリーンだとすれば、私は別の視線から見ていた事になる>
記憶の中に居る少女は、幼きユーリとカスターに囲まれ幸せそうだった。
<私は3人を見ていた・・・そう。
私はこの3人を見ていた・・・記憶がある>
虚ろな瞳で考える乙女が、もっと昔の記憶を辿ろうとするが。
<駄目だ・・・何も思い出せない。
どうして記憶が辿れないの?それ以前の記憶がどうして何もないというの?
私のお母さんは?
私が産まれてきてからの記憶は?
何故何一つ思い出せないの?>
呆然と立ち尽くす乙女に、ドートルが再び訊いた。
「10年前以前を思い出そうとしても、マーガネットにも私にも無理かもしれない。
そして、その墓に眠っている筈のリーンも知らなかっただろう。
自分の<<ペルソナ>>が自分の代わりに王女リーンと呼ばれる事になるとは・・・」
ドートルは言った。
金髪の少女、王女リーンがもう一人居たという事を。
「それが・・・私なの?」
訊き返した乙女が、リボンに視線を向けたまま・・・
「私はリーンではない・・・リーンの影だというのね」
その事実を受け止める。
「影ではない・・・強いて言えば。
本当の王の娘と言うべき者なのだ」
ドートルは金髪の乙女を見据えて教える。
「マーガネット・・・
我が国の暦がなぜ新皇紀と呼ばれているのか知っているだろう?
歴史で習った事だろうから話は省くが、
現王朝となる前に存在していた王族が居たのは知っているだろう?
おまえの母は、古の遺伝子を継ぐ者だったのだ。
つまり、本来あるべき王家の血を引く者・・・それが、おまえなのだ」
ドートルは順々に話す。
黙って聞き入る乙女は、ドートルの話を聴いているのか。
只、虚ろな瞳を澱ませていた。
「元来の王家を滅ぼした現王朝は、皇紀を改めた。
そう・・・今我々が使っている新皇紀へと。
それから177年が過ぎようとしている。
今の父王が強くおまえを女王に据えようとしていた訳が解るかね。
それはお前が伝説の魔女の血を引く正統な継承者という事もあるが・・・
このフェアリア王家を正統な血筋に戻そうと試みたのだ。
177年の時を遡り、古来から続いてきた伝統ある王家の継承者に国を還そうとしたのだ」
ドートルは知る限りの真実を告げた。
「リイン女王の血統・・・それが本当のおまえ。
それがこのフェアリア皇国古来から続く正統な王家の継承者なのだ。
この国が創られた・・・始まりの王家。
リイン女王よりずっと前から受け継がれし神々から贈られた審判の神子。
それがマーガネット、お前だという事だ」
ゆっくりドートルに顔を向けた乙女が、漸く口を開き尋ねる。
「それでは私は・・・私の本当の名は?
そしてなぜ幼い頃の記憶が私には無いの?」
己のルーツが解ったとしても、今現在自分が名乗るべき名を求めてドートルに訊く。
「いいか、マーガネット。
私が最初に言ったペルソナ・・・<己の分身>という意味が解るかね。
リーン王女は幼き日、何者かによって殺害されたといわれて来た。
当初それはロッソアの暗殺者の仕業だと考えられていた。
フェアリアの継承者争いに乗じた敵国の陰謀だと思われていた。
しかし、事態はその様な事では無いという事が解ってきたのだ。
狙われたのはリーン王女ではなく・・・マーガネット、おまえの方だったのだ」
そこまで話したドートルは、金髪の乙女に近付く。
「これから話す事は誰にも話してはいけない。
誰に口外したとしても、命に関わる大事となりかねん。
いいな・・・解ったな」
傍まで寄ったドートルに、乙女は頷く。
「狙われた理由は一つ。
おまえが伝説の魔女リイン女王と同じ遺伝子を持つ者だという事。
そしてマーガネットが持つ魔法石にある。
その石に秘められた|真の意味にあるのだ」
ドートルが話すと、乙女は胸を押えて確かめた。
そこに自分の魔法石があることを。
「マーガネット・・・その石には不思議な力が備わっている・・・そうだな」
ドートルの問いに乙女はコクンと頷く。
「その魔法石は前王朝が永く家宝として持って来た物なのだ。
伝説によるとリイン女王が初めて持った聖剣にも、
その石が填め込まれていたらしい・・・だが」
一度そこで話を切ったドートルが、王宮の方へ顔を向け、
「だが・・・その魔法石は<双璧の魔女>達が現れるよりずっと前から存在していた。
そう・・・東方より来た魔女が、リイン女王に与えた物ではなかったのだ。
では、その石はいつからあるのか・・・
誰がどのようにして王族の物としたのか・・・」
王宮から再び乙女に視線を向けたドートルが、最後に告げた。
「マーガネットがリーン王女として育てられたのは、
本当のおまえを匿う為の口実。
殺害されたリーン王女を替え玉として使う程の訳があるのだ。
マーガネットを護る為に・・・
フェアリアの正統なる血縁者という理由だけでは成り立たない本当の理由が・・・」
<<本当の理由?>>
ドートルは乙女に告げた。
「その・・・本当の理由というのが、私の正体を告げるというのね・・・」
金髪の乙女は紅いリボンを手に、リーン王女の墓を見詰めた。
リーンは己が誰であるのかを追い求める。
ドートルと別れたリーンは足早に向かうのだった。
宮殿の中、その事実を知る者の元へと向かう為に。
そう・・・その者とは・・・皇父。
現王の元へと。
リーンは己が誰であるのかを追い求める。
宮殿の中、その事実を知る者の元へと向かう。
そう・・・その者とは・・・皇父。
現王の元へと向かうのだった。
次回 ルーツ <自らの起源> Part3
君は自らの行為に・・・恐怖する。