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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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第4章 女神覚醒 Ep5 幻覚(まぼろし)Part1

挿絵(By みてみん)



トアの苦手な物・・・それはヌメヌメした生き物。


・・・一杯いるけど?ナメクジとかさぁ・・・


なんの話なんだよ?

「久しぶりだわ、変わらないのね此処は」


リーンが正装姿で周りを見詰めて感嘆の声を吐く。


「宰相姫様。この学校で学ばれていたのですの?」


飛び跳ねた茶毛を揺らして副官補が尋ねた。


「ええ、トア。つい・・・昨日の事の様に思えるわ。

 もう2年も前なのに・・・戦争に往く前のことなのに・・・ね」


周りを見回しながら答えたリーンに、


「ほーぅ、二年前に。歳がバレますですの」


ボソっと呟いたトアの頭に拳骨が墜ちる。


「ほっこりしてるのに、要らない事言わないっ!」


二人の前に練習戦車が走り抜けて行った。




此処、フェアリア王立戦車学校。

基礎訓練を受ける未来の戦車兵達が集う処。


リーンと王室副官補のトアは、学校が新たに設けた魔鋼機械訓練を視察する為に訪れていた。


と、言うのは建前で。


「リーン様ぁ、気晴らしになるのですの?

 練習風景を観閲するのが・・・ちがいますよね」


トアは戦車を見詰めるリーンに訊いた。


「えへっ、バレたか。

 ちょっと乗ってみたいんだけど・・・許可を貰わないとね」


元、戦車将校でもあるリーンが前方を走る3号J型中戦車をモノ欲しそうに見詰めて呟いた。


「・・・リーン様。

 それはワタクシに同乗しろと仰られたのですの?」


トアが小首を傾げる様にリーンに答えを求めると。


「むぅ・・・そうとも言うわね。しょーがないから乗せてあげるわ」


苦笑いを浮かべたリーンが、脇に控える武官に頼んだ。


「ねぇ、ちょっと戦車に乗りたいの。試乗させて・・・」


宰相姫の頼みに、渋々頷いた武官が教員に口添えする。

教員が驚きつつも、名誉の事だとばかりに否応も無く頷く。


「3号ですか・・・幾分古い型ですの。特に装備品が・・・実戦には不向きですの」


キューポラから内部を覗き込んだトアが実車の感想を述べると。


「悪かったわね、時代遅れで」


後ろに居たリーンが剥れて言い募る。

その手は、懐かしげに装甲板を撫でていた。


「?リーン様は、この車体に感慨がお有りですの?」


優しい瞳になって車体を眺めているリーンの顔を見返して尋ねる。


「まあ、そんな処ね。さっさと中にお入りなさい」


リーンはトアを促し車内に入ると。


「トアは砲手席に座って。私はキューポラから眺めさせて貰うわ」


車長席を兼ねるキューポラから車外の景色を確かめるかのように命じた。


教員が運転する3号J型が、ゆっくりと場内を走る。


「<マチハ>を思い出すわ。私達の始まりの車体・・・

 ミハルと共に戦い抜いた歴戦の戦車<マチハ>を・・・」


リーンの瞳の中に映るのは激烈な戦場。


「あの時も・・・あの日も・・・皆・・・思い出の中だけにある」


敵味方が入り混じり砲撃戦を展開した荒野の戦場。

記憶の中にあるのは仲間達と生き残る為に戦い抜いた悲劇の戦場いくさば


「敵も・・・味方も・・・そして友さえもが・・・亡くなって逝った。

 私は戦場で・・・指揮官として闘った。

 掛替えもない戦友と共に・・・生き残る為に敵と闘い続けた。

 そう・・・生き残る為に・・・」


リーンの瞳の奥で、何かが疑問符を投げかけてくる。


「それが・・・目的だったのかしら?

 本当は憎しみの為に戦っていたのではなくて?

 ()は・・・自分をこんな戦場に送り込ませる元になった者を憎んでいたのではないの?

 生き残って、そいつ等に復讐を果すのが最終目的ではなかったの?」


投げ掛けられた疑問符に、リーンは思いつく。


「いいえ、違う。

 単に怨みや憎しみで闘ってはいない。

 ()はこの国を想い、平和を願って闘っていた筈だもの。

 その証拠に、ロッソアの皇帝の孫娘でもある姉姫達が逆賊として処罰された後も

 私は戦い続け・・・大切な人達を喪う事にもなった・・・

 私の闘いは・・・まだ・・・終ってはいない。

 そう・・・()の真の戦いはまだ終ってはいないのだから・・・」


  ((ギュルル))


不意に砲塔が回転し始めて、リーンの想いは中断させられた。


「こらっ!トア。勝手に砲塔を廻すんじゃない!」


キューポラから車内を覗き込んで旋回装置を掴んでいるトアに注意すると。


「あ・・・ごめんなさいですの。つい・・・」


射撃照準鏡から振り返った()()がリーンに微笑んだ。


<あ・・・ミ、ミハル!?>


その微笑に、リーンは愛する娘の笑顔をダブらせてしまう。


「?どうされたのですの・・・リーン様ぁ?」


<  ハッ  >


名を呼ばれて我に返る。


<そうよね・・・ミハルが此処に居る訳がないもの。

 トアがミハルに観えるなんて・・・私、相当ミハル成分が足りなくなってるんだ>


思わず髪を括っている紅いリボンに手を添えて軽く頭を振ったリーンが、


「トア!砲手の真似事をするのなら、私の命令通りに動かすのよ!」


想いを振り切るように命じた。


「へ?砲手の真似事?・・・OKですの!」


乗り気になったトアを観て、改めて命じた。


「では・・・目標前方2000メートルの敵戦車!攻撃開始っ!」


リーンはキューポラの天蓋を閉めて勢い善く命じたのだった。

リーンはふとした事から懐かしい想いに接した。


愛しい娘の事を思い出し、心を傷めていたのだったが。


一人きりになった時・・・それが始まった!


次回 女神覚醒 EP5幻覚まぼろし Part2


君は寂しさを募らせ強く念じるとそれが・・・観えた!

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