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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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第4章 女神覚醒 Ep4 闇・・・再び Part3

グランの前で手を翳す副官補トア。


紅き瞳を悲しみに濡らして今語るのは・・・


悲しき追憶。

副官補トアの翳りのある表情に魔獣が戸惑う。


リーンに翳した右手首にあるブレスレットに着いた魔法石は。


「闇の者ではない・・・今は・・・な」


グランの視線に答えたトアに、


「さっき言ったお前のあるじとは・・・何者なのだ?

 お前が闇の者であったというのなら・・・何者だったと云うのだ?」


体の中に宿る者へと訊き直した。


「この娘の魂は病んでいた。

 自らの身に起きた悲劇に耐えられず。

 心を闇に閉ざし、悪魔だった私の好餌になろうとしていたのだ。

 なまじ魔法力を持っていただけに・・・強きちからを身に秘めていただけに」


トアの瞳が閉じられ、追憶の中に堕ちて行った・・・



挿絵(By みてみん)






____________




「そんな・・・お姉様。

 あんまりですの・・・ワタクシだけが、どうして?」


トアの涙が頬を伝う。


「お前と一緒にされるのは嫌なのよ。

 気味の悪い術を身に就けているトアなんかと一緒に居られるものですか!」


髪の長い姉が冷めた眼で見詰める。

身に着けた衣装から、姉と呼ばれた娘がそれ相応の身分のある人なのだと知れる。


「トア。

 お前が一緒に居るだけで、私達までが魔女の仲間だと思われるのが我慢出来ないのよ」


冷めた瞳で妹に告げた姉が、まるで下僕でも払い除けるように手を振った。


「酷い・・・ワタクシは好きで魔法力を持った訳では無いと言うのに。

 産まれて来た事を呪えというのですか・・・お姉様」


涙で霞む瞳で訴えるトアに、


「そうね、呪うと良いわ。

 王家に産まれてきた事を・・・プロイセン王家に産まれてきた事を。

 この東プロイセン王家の姫には必要ないのよ、魔女なんて」


姉姫が嘲笑いながら言い放った、絶望の一言を。


「魔女・・・ワタクシが・・・魔女。

 そんな酷い事をどうして言うのですの・・・お姉様」


伏せた瞳が絶望に彩られる。


「事実だからよ。

 魔法使いなんて、王族には必要ないもの。

 魔女なんて王の下僕にしかならないのだから。

 どこかの国のように、魔法使いが王になるなんて・・・

 野蛮な国だと思われてしまうわ」


姉が言うのは近隣の国であるフェアリアを指していた。


「彼の国を観てみなさい。

 いつまで経っても他国と争いを辞めはしない。

 王家の中に魔法使いの血を宿す者が居ると言うだけで。

 闘いに明け暮れる野蛮な民族と呼ばれる始末よ。

 我が誇りある東プロイセンまでもそう呼ばれたいの?」


姉に言いたいように言われて、トアは悲しみの余り顔を覆って泣きじゃくる。


「解ったかしら、魔女トア。

 あなたにはこの城から出て、貴族の元へ行って貰うから。

 お父様には私から伝えておきます。

 さあ、今直ぐに出てお行きなさい。さあ!」


姉からの仕打ちに、悲しみの余り何も言い返せなくなったトアが、

とぼとぼと王宮から出て行ったのはその後直ぐの事だった。



「その時・・・あれ程仲の善かった姉が豹変した事をもっと深く考えるべきだった。

 あの時・・・トアはまだ何も知らない無知で無垢な娘だったのだ。

 ワタクシが宿っている事にも気付かない・・・そんな娘だったのだ」


紅き瞳で教えるトア・・・


「だが・・・姉の心を知る時は直ぐにやってきた。

 悲しみと絶望を引き連れて。

 東プロイセン王家の滅亡と云う惨劇と共に・・・」


グランに語るトアに宿る魂が紐解いていく。

悲しみと絶望が齎した少女の記憶を。


「トア様!民衆が叛旗を掲げて押し寄せてきました。

 さあ、お早くお仕度を!」


貴族の娘となっていたトアに、仮初の父となっている臣下の者が叫ぶ。


「民衆が?どうしてなの・・・ですの?」


意味が解っていない少女トアが、王宮へ戻るものだとばかり想って訊くと。


「訳は・・・知らずとも良いのです。

 お早くお逃げ下さい、第2王女トア様。

 リラ王女様から命じられておりますので。

 トア様をイザと言う時には国外へ逃がして欲しいと。

 トア様だけは必ず生き残らせて欲しいのだと・・・」


臣下の義父たる男が教えた。

それは・・・


「お姉様が?

 私を疎んじていたお姉様が?

 そんな事を命じていた筈がない・・・嘘よ」


トアは眼の前が真っ暗になるような感じがして、首を振って認めなかった。


「今は訳など話している時ではございません。

 一刻も早く国境まで向かわねば・・・捕まれば処刑されてしまいますよ」


それは信じ難い一言。

思考が固まったトアを引き摺るように、臣下の貴族は走り出す。

一目散にフェアリアとの国境へと向かって・・・


 ((ダダーンッ))


後の方から爆発音が聞こえた。


「あれは?・・・何の音なの・・・ですの?」


瞳に映る黒煙に、何も知らない少女が訊いた。


「宮殿が燃える音です・・・トア様」


手を曳く男が振り返る事もせずに答える。


「では・・・お父様やお姉様は?」


手を曳かれながらも振り返り宮殿の()()()方へと眼を向け続け、


「ワタクシも・・・王宮に戻らないと・・・お姉様に謝らないと・・・」


王宮に戻れば。

即ち・・・死が待っていると知る事も出来ず、混乱した頭の中では唯。


「リラお姉様に謝らなくては・・・ずっと恨み言を言ってしまっていたワタクシを。

 赦して頂かないと・・・死ぬ前に。

 ワタクシもご一緒しなければ・・・お姉様と共に死ななければ・・・」


敢えて悪役を借ってでも自分を護ろうとした姉を想い、涙を零して赦しを願った。


挿絵(By みてみん)



臣下の者に手を曳かれ、漸く国境に辿り着いた時には。


「ああ・・・お城が・・・王宮が。燃えているのね・・・ワタクシの故郷が」


黒煙が高く舞い上がり、その下にある筈の王宮を隠していた。


「どうしてなの・・・なぜ民が王家に反逆したというの?

 ワタクシ達王族に・・・恨みがあったというの?

 誰が何の為に・・・どうして・・・」


トアの問いに答える者は居なかった。

そう・・・その時には。


「だが・・・この娘は。

 トアは願ってしまった・・・ワタクシに。

 魔法石に宿った悪魔だった・・・このフォウに・・・」


紅き瞳で呟いたのは、トアの髪飾り。

緑の石が付いた魔法の髪飾り。


「魔獣よ・・・トア・フォウと呼んでいるのは仮初の事。

 この娘は・・・東プロイセン第2王女、トーア・プロイセン・ミュルン。

 これが本当の名だ・・・王家の娘、トーア姫

 ・・・今は無き国の、正統なる姫なのだ」


魔獣グランと同じ色の瞳を向けた魔法使いトアに宿る者が教えた。


悲しみに深く彩る瞳の中に、悲劇の記憶が蘇る。


自分の身分を隠してまでリーンに近付いてきた訳とは?

紅き瞳の中に隠されている想いとは?


次回 Ep4 闇・・・再び Part4


君は追憶の彼方に何を想うのか?何を願うというのか?

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