魔鋼騎戦記フェアリア第1章魔鋼騎士 Ep2訓練開始!Act2
調整所に戻って来たミハルは、射撃準備秒時の短縮を考えていた。そこに、整備員のミリアがミハルを気にしてやって来る。
ミリアに笑顔を返すミハル・・・
「良かったです。
砲は、弾薬はどうでしたか?
普通より長くて重かったと思いますけど?」
ミリアがタオルを渡しながら訊ねる。
「うん、普通の47ミリと違って、最初は戸惑ってしまったよ。
10cm位も長いし、2kg位重いんだね!」
「そうですね、慣れないとこの細長い弾は扱い辛いんですよねぇ」
「うん。慣れが必要だよね、慣れが!」
ミハルは受け取ったタオルで顔を拭いて気になっている事を口に出した。
「後、1秒・・・か」
ミハルの言葉にミリアは、
「何ですか?1秒って?」
ミリアに訊かれて、
「え?うん。砲撃秒数を後1秒早く出来ないかなって」
ミハルが苦笑いしながら答えた。
「1秒ですか・・・大きいですね。装填秒数を短縮するのって」
ミリアが、顎に手を置いて考える。
「うん。私の腕ではこれが精一杯なんだ」
ミハルは笑いながら腕を擦る。
「先輩、砲の指向はどうですか?
装填時に、目標に合致していますか?
それとも装填より遅れていませんか?」
「うーん。曹長の旋回も早いけど、電動旋回が追付いていないかなあ?」
ミハルの言葉にポンと、手を叩いたミリアが。
「先輩、もし先輩の装填が早く終わるなら、手動旋回もしてみたらどうでしょう?」
「え?手動旋回?」
「そうです、電動旋回の補助をするんですよ。
曹長の旋回の手助けになりますから。あっと、これです!」
ミリアは砲塔バスケット基部の旋回補助ハンドルを指差す。
「元々電動機が、故障した時とかで、修理に使うのですが。
砲手側と装填手側、それに車長用キューポラに3箇所付けられているのです。
電動機が遅いのなら、此処を回す事によって少しは廻りが良くなりますから!」
ミリアは真剣に説明してくれた。
「そうか、電動機の補助ね。ありがとうミリア教えてくれて」
ミリアは、ミハルが感謝した事に顔を赤くして、
「あ、いえ、そんな。私は整備員ですから。
車体の事を知って頂く事も当然の務めですから・・・ね」
ミハルは、ミリアが教えてくれた装填手用補助旋回ハンドルを触ってみる。
「ねえミリア。今動かせられるかな?」
「え。あ、はい。少し待って下さい」
ミリアはハッチから出て、外の整備員に、
「砲塔旋回補助ハンドルのテストをします。右舷側に廻しますから、注意願いますっ!」
大声で皆に注意を促して、また中に戻り、
「それでは、先輩。
ハンドルを時計回りに廻してみて下さい。砲塔が右舷側に廻りますから」
ミリアの言葉に従って、ハンドルを時計回りに廻す。
「んんっ、結構重いね」
ミハルは、力を込めて廻す。
「ええ。電動機が作動していないですからね」
ハンドルを廻し続けると、砲塔が少しづつ右側に廻りだす。
「うーん、こんなものかな。これでも少しは役に立つかなあ?」
ミハルは少し残念そうにハンドルを見詰めた。
「あ、そうだ先輩。砲手席に座って下さいませんか。
電動機の電源を入れますから砲手ハンドルを使って下さい。
私が補助ハンドルを廻しますから」
ミリアがそう言って、電源スイッチを入れた。
「あっ、ミリア。勝手に動かしてもいいの?」
「何言っているのです。
戦闘に関することで少しでも不安な事があるなら直ぐに調べるべきです。
私は整備の教練で、そう教わりました。
この事で怒られるなら、いくらでも怒られます。
だって実戦で後から後悔したって取り返しききませんからね」
ミリアはミハルに笑顔で答えた。
「う、うん、解った。私も後悔したくない。怒られるなら一緒だよ!」
ミハルもミリアに心の底から感謝しながら砲手席に行く為、一度外へ出て砲手用ハッチから中へ入る。
ー これが試作長砲身砲の砲手席、前に乗車していた軽戦車とは大分違う。
本格的な照準器、旋回レバー。そして、発射ハンドル・・・
「先輩、宜しいですか?右旋回です。まずは電動機だけで廻してみてください」
「了ー解!」
ミハルは、砲塔旋回レバーを右に倒した。
((グルルルッ))
くぐもった電動機の音が、車内に響く。
ー 電動機だけだと、一秒間に10度位か・・・
ミハルは照準鏡下に付いている砲向計で確認する。
「電動機だけだと、一秒で10度位ね」
「はい、カタログデータでもその位です。
では次に、私が補助ハンドルを廻します。一度、砲を0時に戻して下さい」
ミリアの言う通りにレバーを左に倒して、砲塔を正面に向け直す。
「砲塔を正面に向け直したわ。準備は良い?」
ミリアに予告すると、
「はい、何時でもどーぞ!」
ミリアの返事に、
「よーし、いくよ!かかれっ!!」
ミハルは、勢い良くレバーを右に倒した。
((グルルルルッ))
明らかに先程より軽く砲塔が回る。
ー 一秒で15度は、廻っている。
補助ハンドルは砲手席にもあるから、照準点までは、廻す事が出来る筈?!
「ミリア、ストップ。ねえ、今度は私も補助ハンドルを廻してみる。もう一度付き合って!」
「え!?砲手も廻すのですか?照準はどうするんですか?」
ミリアが率直に疑問を投げ掛けてくる。
「うん、難しいと思うけど、照準器を見ながらレバーを倒してハンドルも廻してみるよ」
「・・・解りました、やりましょう!」
もう一度、砲を操作して正面を向ける。
「よーし、かかれっ!」
掛け声と共に、レバーを倒して左手で補助ハンドルを廻す。
ー これは大変だな。
左手に力を入れると照準鏡がぶれて狙いが定まらない。
でも、一秒間に20度近く廻す事が出来る・・・
「ミリア、ストーップ。大体解ったよ、補助ハンドルって、馬鹿に出来ないのね。
一秒で20度位廻ったよ。これなら電動機だけより倍近く早く廻す事が出来るんだね」
「はい、良かったですね。相手が足の速い車両や、咄嗟の会敵の時には有効だと思います」
「うん、ありがとう。ミリアのお蔭だよ。
これで少しは、殺られる確率が下がった・・と思うよ」
「・・・先輩!」
ミリアがミハルの言葉に躊躇って、
「先輩。嫌な事言わないでください。
先輩がやられるなんて、考えたくも有りません。
・・・お願いが有ります。私の前で今みたいな事、仰らないで下さい!」
ミリアは真剣な顔でミハルに願った。
「・・・解ったわ、ミリア。もう言わないから・・・」
ミハルは勤めて明るく、笑顔で答えた。
「はい、先輩は不死身ですから。先輩は私の憧れなのですから!」
ミリアの言葉に、ミハルはビクリとする。
ー 私が不死身?・・・そうじゃない。
・・・ただ死ななかっただけ。
・・・私が憧れ?私に憧れる理由が解らない。
私は単なる生き残り、単なる戦車乗り。ただそれだけだもの・・・
ミハルは、ミリアにそう言おうと顔を向けると、
「先輩、お腹減りませんか?
もう、昼食時間とっくに過ぎていますよ。ご一緒願いマース!」
ミリアに茶目っ気たっぷりの敬礼をされて、暗い気分が和らいだ。
ー ありがとう。貴女は本当にいい人いい後輩だよ、ミリア!
「うん、実は私もペコペコだったんだ。こちらこそ、一緒してよ」
「はい!喜んで!」
ミリアは笑顔で、ミハルに答えた。
どうやら、射撃秒時の短縮に目途が立ったミハルは食事を取りに食堂までやって来る。そこには、先客が居た。
次回Act3も、宜しく。