魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦 Ep1街道上の悪魔Act3偵察任務
リーン少尉が負傷してミハルの敵愾心に火が点いた。
「!リーン少尉っ!」
ミハルの目に蹲る少尉の左手から血が流れ出ているのと、
砲塔後部左舷に開いた小さな穴から煙を差して流れ込む外光が見えた。
ー 少尉が・・・リーンがやられた・・・
「くっ!私は大丈夫。
掠り傷よ、射撃を続行しなさい。ミハル、うっ!」
痛みに耐えながらリーンが、攻撃続行を命じる。
ー 少尉、少尉を傷つけた。
私のリーンに傷を負わさせた。
・・・許せない。 よくも・・・よくもっ!
ミハルの瞳が怒りに燃え髪が逆立つ。
「ミリアっ、車長をっ。少尉をお願いっ!」
ミハルはミリアに少尉の看護を命じて、照準器を睨み返しM3を追う。
ー よくも私の大切なリーンを傷つけたな!許さない、許さないからっ!
ミハルの瞳は大切な人を傷つけた、憎い相手に対して復讐する為に黒く澱む。
8倍照準の十字線に射撃したM3の砲塔を捉えて叫ぶ。
「喰らえええぇっ!!」
トリガーを引き絞る。
((ボムッ ガシャッ))
距離600で放たれた徹甲弾が、M3軽戦車の砲塔を貫き予備砲弾をも貫いた。
((ガッ! グオオーォーンッ))
ミハルの放った弾でM3は爆発炎上した。
砲塔を吹き飛ばされバラバラになったM3は、車体から炎を吹き上げて撃破された。
「敵車両、撃破。辺りに他の車両なし」
キャミーが辺りを確認して、報告する。
我に返ったミハルが砲手席から飛び退き、リーンに駆け寄る。
「いつっ。えへへ、失敗失敗。
手痛い勉強になっちゃったわミハル!」
左手を三角巾で縛られたリーンがミハルに微笑んだが痛みの為か、少し強張っていた。
「少尉、少尉。
ごめんなさい、護れなくて。護りきれなくてごめんなさい」
ミハルは強がるリーンに謝った。
そんなミハルのおでこをコツンと右手で叩いて、
「ほーら、また泣きそうな顔して。そんな顔しないで、掠り傷なんだから」
そう強がるリーンの左、砲塔側面に小さな穴が開き、車長席の直ぐ右側に破片が突き刺さっていた。
ー 後もう少しリーン少尉が後ろに立っていたらあの破片が少尉を切り裂いていた。
僅か10cm程の違いでリーン少尉は死なずに済んだ・・・
「車長!
治療の為、一度整備班の所へ戻るのが必要だと思われます。許可を願います」
ラミルはリーンの許可を得る前に、マチハを操って走り出した。
「私の事より、車体の点検を優先します。
こんな風穴開けられてしまっては・・・ね」
そう言って、リーンは光が差し込む穴を見上げた。
ミハルはリーンを気遣ってミリアに傷の事を訊く。
「リーン少尉の傷は?」
「はい。深手ではないのですが、縫う必要があるかと。
専門の道具が此処には在りませんから・・・」
ミリアは心配顔のミハルにそう告げて、
「少尉っ、強がるのは応急処置が終わってからにしてください」
ミリアが三角巾を強く締め直すと、
「ひゃ、ひゃいっ。痛たたたぁーーっ!」
リーンが悲鳴を挙げたのでミハルは少しだけ安堵した。
「う、うーん」
野営地で上着を肩から羽織ったリーンが暗がりを歩いていた。
左手を包帯でグルグル巻きにされてめげていると、
少し離れた岩場の上でミハルが独りで星空を見上げていた。
「綺麗な星ね、ミハル」
そっと声を掛けてリーンが近寄ってもミハルは星を見上げ続けている。
黙ったままのミハルの横に来ると。
「よっこらしょ・・・と」
左手を庇いながら座る。
「傷・・・痛みますか?」
ミハルが気遣って訊くのを微笑んで、
「ミハルの方こそ、どうなのよ?」
リーンが逆にミハルの心を気遣う。
「・・・私、変なんです。
あれ程嫌だったのに戦闘になったら、何も感じなくなって冷静で・・・
砲を撃つ事に何の躊躇いも感じないんです。
・・・変ですよね?」
ミハルは星空を見詰ながらリーンに言った。
リーンはそんなミハルの姿がたまらなく寂しそうに映った。
「そっか。ミハルは変だと思うんだ・・・」
リーンは囁くようにそう言って、星空を見上げる。
「それに、リーン少尉が傷を負った時、私の中に居る何かが現れたんです。
まるで悪魔の様な者が・・・私の中に居るもう一人の私が。
ただ復讐心だけの、醜い自分を知ってしまったのです。
初めて敵を、リーン少尉を傷つけた憎い者を許せなくなって。
・・・殺して・・・殺してやるって思ったのです」
星空を見上げるミハルの瞳から頬を伝い涙が零れ落ちる。
「ミハル・・・」
リーンはそんなミハルに、声が掛けられなくなる。
「えへへ、大丈夫です。
どんなに穢れても、この身が悪魔になったとしても。
必ずリーンを・・・小隊を護って闘いますから。
それが私の務め、私の決めた約束ですから」
そう言ったミハルは、急にリーンに抱き付いて来た。
「ミハル?」
リーンは優しくその肩を抱いて、
「泣きなさい。思いっきり泣いていいのよ。
ミハルの辛さ、苦しさの少しでも私が拭う事が出来るのなら、私にぶつけなさい」
リーンはミハルの髪をそっと撫でてやる。
「うっ、ううっ、うわああんっ。
リーンっ!悲しいよ辛いよ嫌だよぉっ!!」
ミハルはリーンに甘える様に・・・
自らの堕ちる心を繋ぎ止める為にひたすら泣き続けるのだった・・・
ミハルの心は次第に壊れていく。
大切な仲間が居なければ大切な想いが無ければとうに壊れていただろう。
その壊れかけた心を支えてくれたのがリーンだった。
ミハルはリーンの為なら鬼にも、悪魔にでもなろうと、心に決めたのであった。
ミハルとキャミー、そしてミリアが徒歩でアラカン村へ偵察に赴く。
次回 偵察任務 Act4
君は生き残る事が出来るか?





夏休みのオトモ企画 検索ページ