魔鋼騎戦記フェアリア 第3章双璧の魔女Ep4革命Act28望郷 Part5
「ミハル・・・あなたは誤解しているわ。
あの兵器を欲したのはヘスラー達強硬派。一部の狂信者達なの。
ヤポンの人達は完成品を贈って来た訳ではないの。
だから不発弾も出た・・・魔鋼の力を理解出来ていない我が国の科学者達の手で、
組み立てられた不完全な兵器だったのよ・・・あれは。」
リーンがミハルに教える。
極大魔鋼弾を手に入れたがったのは我が国。
一発で戦局を打破出来ると考えた者達が強引に手に入れた事を知らせる。
「そうだとしても。
・・・あの兵器は人の命を・・・魂を消去る悪魔の成せる業を撒き散らすんだよ。
たった一発で何千、何万もの命を奪う悪魔の弾なんだよ・・・。
そんな兵器を造る国なんだよ、ヤポンは。」
祖国に不信感を募らせるミハル。
経験したオゾマシイ過去に心を曇らせて訴えてくる、悲しげな姿にリーンは声を詰まらせる。
「でも・・・リーンがそう思ってくれているのなら・・・
私もヤポンの人間だから・・・ありがとう。」
うな垂れたまま礼を言うミハルに、
「そう・・・少なくとも私はヤポンに悪い感情を抱いていないの。
例え悪魔の兵器を持っている国だとしても、彼の国は一度もそれを使った事がないのだから。」
「えっ?使った事がない?
ではどうしてフェアリアは、そんな兵器を欲しがったというの?
どうして威力も解らない兵器を使おうとしたの?」
疑問だらけの兵器譲渡。
理解不能の実弾使用。
「ミハル・・・それがこの国を支配しようとしたロッソアとヘスラーの陰謀だった。
そう考えるのが今次戦争の謎を明らかにする鍵なのよ。」
リーンが知る限りの情報を元に、ヘスラー一派とロッソアの癒着を教える。
「元総参謀長ヘスラーと、ロッソアが内通していたと言うの?
一体何の為に!?」
ミハルは思い出す。
ヘスラーが自分を実験体に選び、殺そうとしていた事を。
そして魂を悪魔の兵器に使おうと画策していたと言う事を。
更にはリーンを亡き者にして言いなりになる2人の姉姫達を使って、
皇王から皇位を奪おうとしていた事を。
「この国を・・・我が物とする為に?」
リーンに訊く。
自分の考えが間違っている事を祈って。
「そう・・・そう考えるのが一番当っていると思う。
ロッソアに魔鋼機械の秘密をシマダ夫妻という研究者と共に売り、
極大魔鋼弾をも、不発弾と言う形で渡した。
友邦ヤポンをも売ったと言っても良い行いよ。
自らの野望の為には魂をも売りさばく様な男だったのよ、ヘスラーは。」
憎しみを顔に表し、リーンは絞り出すような声で言った。
「あの参謀長が・・・そんな事を。」
ミハルはリーンの表情を悲しそうな瞳で見詰める。
「ミハルの家族にも、両国の国民にも酷い目を合わせてしまった。
元を正せば、この戦争は我がフェアリアに全て原因があったの。
恥ずかしい事だけど、
私達皇族に軍部の暴走を止めるだけの実力と政治力が欠損していたのが全ての過ち、
・・・・全ての・・・原因・・・。」
リーンが辛そうに俯き嘆く。
「ミハル・・・私はあなたにも、国民全てにも謝らなくてはならない。
いいえ、謝ったとしても許して貰えるとは想っていないわ。
あまりにも多くのモノを失ってしまい過ぎたから。」
リーンの拳が握り締められる。
それは心からの後悔を表しているというのか。
「リーン・・・ごめんなさい。
リーンこそそんなに思い詰めていたなんて・・・。
知らなかった、知ろうともしていなかった。
私は自分の事だけを考えていたのに、
リーンはずっと前からこの国全ての人を想い考えていたんだね。
判ってあげられなくてごめんなさい。」
リーンの苦悩を思い知らされた様で、ミハルは心の底から謝った。
「ううん・・・いいのよミハル。
それが私の勤めならどんな事だってする。
どんな罰だって受ける覚悟を決めていたから。」
ミハルの身体は知らずにリーンを抱締めていた。
それは魂の抱負。
これは命の結束。
「リーンが罰を受けるというなら、私も一緒に受ける。
リーンにだけ責任がある訳じゃない。
私にだって、私達家族にだって、その責任は有るのだから。
私達さえ来なければ、こんな戦争は始まらなかったのかも知れないのだから。」
リーンにしがみ付いてミハルは叫ぶ。
どうしてこんな戦争が起きてしまったのかと。
「ミハル・・・。」
しがみ付いて叫んだミハルを抱き返して、リーンが言った。
「これは私達の戦後処理。
戦いの後始末は誰かがやらねばならないの。
勝者も敗者もない・・・
こんな戦争を始めてしまった者の責任を・・・誰かが採らねばならないの。
それが私の勤めというのなら、私は国民に謝罪し、断罪を受けても構わない。
それでこの国が・・・亡くなってしまった人や家族が許してくれるというのなら。」
心の中で決めていたのか、リーンが澱み無く言い放った。
「リーン・・・まさか・・・まさか・・・。」
ー死ぬ気なの?-
喉まで出てくる一言を呑み込んで、ミハルはリーンを見詰める。
「ミハル・・・ヤポンって良い処だって言ってたよね。
お料理も美味しいし、人は皆優しく幸せに暮らせているって。
帰りたい? 皆と・・・。
家族・・・みんな揃ったら・・・帰ってみたい?」
突然リーンが訊いて来た。
故郷へ帰りたくはないか・・・と。
「シマダ夫妻を取り戻したら、ミハルは故郷へ帰ってみたくはないの?
マモル君と話していたでしょ、今朝。」
「えっ?リーン・・・聴いていたの?」
今朝方、マモルと交わした約束をリーンは知っていた。
家族が揃えば、ヤポンに帰ろうと・・・話し合って、誓い合って・・・約束を交わした事を。
「還してあげる。
きっと還してみせるからね、ミハルのご両親を。
平和で幸せな未来を還してあげるから。」
リーンが誓った。
それはリーンがミハルを手放す事ともなろうというのに。
「リーン・・・。
あなたは何をしようとしているの?
皇都へ行って、何を願うつもりなの?」
ミハルの問いに答えは返っては来なかった・・・・。
リーンが何を考え、何を想っていると言うのか・・・。
その答えを求めたミハルに、リーンの口から返事は返っては来なかった。
その訳は。
次回 狂騒の都 Part1
君は信じられる友に感謝する。そして希望に満ちた未来を求める・・・。





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