魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep4革命Act28望郷 Part3
中隊全員で事務処理を終えた。
そのまま指揮官室で仮眠していたミハルが目覚めた。
「ふああ・・・あれ・・・。」
ミハルが目覚める。
いつの間にか眠っていた様だ。
「あ・・・そうか。あのまま眠っちゃってたんだ。」
ソファーの上から起き上がり、周りを見回す。
壁際の長椅子でまだ眠っているリーンの姿があるだけで、皆の姿はもう指揮官室には無かった。
あれ程散らかっていた室内は綺麗に整理され、書類の山も無くなっていた。
用務机の上に封筒に入れられた報告書が置いてあるだけで、
数時間前の喧騒が嘘の様だった。
ミハルがふと見上げた時計の針は、午前の9時を過ぎた所だった。
ーまだ、みんな寝てるだろうな。-
起き上がり寝ているリーンを起こさない様に、
そっと足音を忍ばせてミハルは部屋から出て顔を洗いに行く。
ーロッソアとの戦争が終わっても、お父さんお母さんが還って来れないなんて。
どうすれば二人を取り戻せるのだろう。私は何をすれば善いのだろう。-
顔を洗いながら考える。
「おはよう、姉さん。」
横に来たマモルが考え事をしていたミハルに声を掛けて来る。
「うん、おはようマモル。もう起きて来たの?」
タオルで顔を拭いて答えると、
「姉さんと同じだよ、寝てられないよ二人の事が頭の中で一杯になっちゃって・・・さ。」
マモルも父母の事を想って起きて来たみたいだった。
「そうだよね。お父さんお母さん・・・今頃どうしているのかな。
無事でいてくれるといいけど。」
心配気にミハルが呟く。
「そこなんだ姉さん。僕が心配しているのは・・・。」
マモルが思い詰めた顔になる。
「どう言う意味なの、それは?」
想い詰めた表情を浮かべる弟に訊く。
「前にも話しただろ。僕がロッソアの父さんに会った時の話。
あの時見た父さんは僕達の知っている優しい父さんでは無くなっていたと。
まるで何かに憑かれた様に別人になっていたんだ。
何人もの魔法使いの娘達を実験体にする様な変な科学者みたいになっていたんだ。」
「うん・・・マモルが言ってた事を覚えているよ。」
ミハルが思い出して答える。
マモルは蛇口を捻って冷たい水で顔を洗いながら言う。
「姉さん・・・父さんはもう・・・父さんと母さんは還って来ないかも知れない。
父さんと母さんは悪魔に魂を奪われてしまったのかもしれない。」
顔を洗う手を停めて、マモルが呟いた。
「どうしてそう云い切れるの?
父さんだって戦争が終われば兵器の開発をやらなくていいのだから・・・
ロッソアも解放してくれるかもしれないのだから。
諦めたらだめだって・・・マモルも言っていたんじゃない。」
顔を洗い終えたマモルにミハルが聴き咎めた。
「姉さん・・・もう一つ忘れてないかい、母さんの事を。
僕が見た母さんの姿を。
ガラスケースの中に居る母さんの事を。」
瞳が訴えてくる。
自分が見た母の姿に想いを募らせている弟の瞳が、何を言いたいのかを。
「助け出すしかないよ姉さん。
2人を取り戻す方法は。
僕達が父さんの元へ行って2人を助けないといけないんだ。」
マモルが求めるのはロッソアへ行き、父母の元へ辿り着く事。
このフェアリアに留まって待っていても二人は還って来ない事を指している。
「そ・・・それはそうだけど。
どうやって父さんや母さんの処まで行くの?
どうやって取り戻す事が出来るの?
私達2人で辿り着く事自体が難しいというのに。」
ミハルは弟の想いに戸惑う。
「姉さん・・・じゃあ、どうすればいい?
どうすれば2人が還って来れるというの?
どうすれば父さん母さんと逢う事が出来るの?」
その瞳は答えを求める願いが溢れている。
その顔には希望を求める辛い想いが表れている。
「マモル・・・それは私も同じ。その答えを求めるのは私達の願いだから。」
求めるのは唯一つ。
<両親と逢いたい>その想いは家族を戦争で離れ離れにされた者達の願い。
「姉さん・・・どうしてこんな事になってしまったのだろう。
どうして僕達家族はこんな戦争に巻き込まれてしまったのだろう。」
心の中の想いを口に出すマモルに、ミハルは何も答えられない。
自らもその答えを求めているから。
「マモル・・・起きてしまった事を悔やんでも2人は取り戻せはしないよ。
2人は還って来ないよ。」
そう諭す姉に、マモルが頷き、
「うん。解っているさ。
解っているけど悔しい・・・辛いんだ。
このまま黙って待つ事が。
今直ぐにでも、助けに行きたいのに何も出来ない自分が。」
手を握り締めて自分に言い聞かす様に呟くマモルを見て、ミハルの心も暗くなる。
ーでも・・・実際。今の私達にはどうする事も出来ない。
確実な事は何一つ解っていないのに動くなんて出来っこないのだから。-
心の中で考えた事を弟に告げず、その想い詰めた顔を見詰めるだけだった。
ーでも、何か希望を持たないと。
何かに縋らないと、暗い想いに押し潰されてしまう。
私もマモルも・・・。-
手を握り締めて俯く弟に、何かを与えなければいけない気がする。
それが一体何なのか。
ー家族でこの国へ来て、私達はバラバラにされた。
戦争と言う名の悪魔に。
それでも私は弟に再び逢えた。
何度も辛く苦しい壁を乗り越えて。
きっとお父さんお母さんにも逢う事が出来る。
逢いたいと願うのなら・・・。-
ミハルは気付く、願いの強さに。
自らが果した約束の強さを。
「マモル・・・ヤポンに・・・日の本に還りたい?」
突然姉に訊かれたマモルは答える事もせず、ミハルを見詰める。
「ねぇ、マモル。故郷へ帰りたい?
まだ小さかったマモルが暮らした故郷へ・・・ヤポンに帰りたいと想わない?」
ミハルが微笑む、弟の答えを待って。
「うん。平和な日の本へ帰りたいと想う。
思うけど・・・やっぱり家族一緒に帰りたいんだ。・・・姉さんは?」
聞き返されたミハルはニコリと笑い。
「私も・・・帰るなら皆で還りたいと想うの。
だから諦めてはいけないの。
私達が諦めたら2人は絶対戻っては来ないと想うから。」
「姉さん・・・。」
ミハルは微笑んで両手を拡げる。
「マモル・・・今は耐えようよ。きっと2人を助けられるから。
家族揃って笑い合える日が来るから。」
姉が弟を抱締める。
まるで幼き日の様に。
純真な心のままで。
「解ったよ・・・姉さん。」
自分より頭一つ分、背が伸びた弟に頷き、
「こんなに大きくなってたんだね・・・1年で。
お父さんやお母さんが知ったら驚くだろうね。」
弟の急成長に、ミハルが実感を込めて言った。
「うん。僕自身も驚いているんだ。
ミハル姉さんと再び逢えてから・・・ミコトさんの継承者になってから更に伸びたんだ。」
姉の言葉に少し顔を紅くした・・・マモル。
「そうだね、もうお父さんより大きくなったみたいだね。
お姉ちゃんって呼べなくなっちゃった・・・ね。」
抱締めた手を離して、マモルを見上げた。
「姉さんはまだ、お姉ちゃんって僕に言って欲しいのかい?」
見下したマモルの瞳が、悪戯っぽく笑い掛けてくる。
「え・・・えっと・・・。2人っきりの時は・・・ね。」
照れたミハルも顔を紅くして答えた。
「あははははっ。」
2人は笑い合えた・・・辛い想いを乗り越えて。
「じゃあ、僕は約束するよ姉さん。
必ず2人を助け出すって。」
「うん。私もマモルと同じ。取り戻そうお父さんお母さんを。」
2人は約束を交わした。
辛く苦しい事になるかもしれない約束を。
「じゃあ、姉さん。」
マモルが小指を差し出す。
その小指に自分の小指を交わして、
「そこ・・・お姉ちゃんって・・・言って。」
ポツリとミハルがマモルに求めた。
昔の呼び方を。
「うん・・・指きり拳万しよう・・・お姉ちゃん。」
「うん・・・指きぃーっいった。」
2人は笑う。
・・・子供の頃に返ったように・・・
新たな約束を交わした姉弟。
その約束は辛く苦しい旅路の始まりなのか。
総員が揃った前で、隊長リーン大尉が終戦を告げる。
次回 望郷 Part4
君は出発前に皆に告げた。戦争は終わったのだと・・・。





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