魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep4革命Act23ラストバトル<ギガンティス>戦 Part5
「2号車から砲撃要請が?」
リーンがルマに訊く。
「はい。味方重砲隊が、制圧射撃を行うと言っています。」
ルマの返事が終らない内に、もう砲弾の飛翔音が響いてきた。
「来ました。どうやら我が軍最大の15センチ榴弾砲の音ですね。これは・・・。」
ラミルが開けてある操縦手ハッチからの音に耳を傾けて判別した。
「これで奴を倒せればいいのですが。」
マモルも巨大な戦車が、この砲撃で破壊される事を祈っているらしいが、
「姉さんは安全な位置に居るのだろうか。」
ポツリとミハル達の事を心配する。
ーミハル・・・私が戻るまで無事でいて。
必ず2人で還ろう。必ず2人でフェアリアへ帰ろう。-
リーンが願うのは昔からの約束。
2人が想いを同じくした時からの願い。
「ラミルっ、急いで!
多分<ギガンティス>は倒せないっ重砲では!」
リーンが急かす。
ミハル達が苦戦している戦場へと。
リーンの乗るMHT-7の後方には、多数の魔鋼騎が連なっていた。
フェアリアの車両と、ロッソアの車両が連れ立ってMHT-7を追って駆けていた。
_______________
「来るわよっ!みんな!!」
ミハルがキューポラの天蓋を閉めて叫んだ。
<シャッ シャッ シャッ>
重砲の砲弾が落下してくる。
<ダダン ダンッ>
重い着弾音が弾ける。
そして。
<ズッ ダダダダダダダダダダンッ>
本射撃が着弾し始めて、周りの空気を一瞬で変えた。
<ゴ ゴゴゴゴゴゴオオンッ>
着弾音が消えて空気が変わり、音まで何か地響きの様な物へと変わる。
ー息が詰まる。口を開けていないと鼓膜が破れてしまいそう・・・。-
「皆っ、口を開けて大きな声を出してっ!
口を噤んでいたら耳が気圧に耐えられないよ!」
ミハルも出来る限りの大きな声で呼びかけた。
「はっ、はひぃっ!」
ミリアが叫びながら返事する。
「間も無く砲撃も終るっ。
どれだけダメージを与える事が出来たのか調べるから。」
ミハルが皆に準備をさせる。
「被害報告っ!全力即時待機!」
タルトに走行準備をさせ、
「ミリア、砲撃準備魔鋼弾装填っ!
砲手席には私が着きます。ルーンは砲塔バスケットで横になってなさい。」
自分が射撃する事を知らせ、ミリアに弾を込めさせる。
「はいっ、了解!」
2人が同時に答えると、
「タルト砲撃終了と同時に<ギガンティス>後方へ廻り込んで。
状況確認を行います。
もし、ダメージを与えられていないのなら、私が撃ちます。」
「これ程の砲撃を受けてもダメージを与えられていないとでも・・・車長?」
タルトが信じられないといった顔で振り返った。
「うっ!」
振り返った先に居るミハルの表情を見て、タルトが呻く。
ーミハル車長には解るんだ。
この巨大な戦車に居る者の気が失われていないと。
同化した戦車が破壊出来ていない事が・・・。-
タルトの思った通り、ミハルは眼を険しくして照準器を睨んでいた。
ー<ギガンティス>は全然戦闘力を失ってはいない。
邪な気を感じる、さっきまでよりも、もっと闇に染まった悪意を感じる。-
照準器を睨んだミハルが感じるのはバローニアの悪意。
それは最早人では感じられない邪な魂と化した者が放つ闇のオーラ。
ーこのバローニアも闇へ染まった。
もう人へは戻る気も無いのだから。-
悪意の塊となった者が放つ気を感じてミハルが想う。
ーミコトさん、リインさん。そしてルシファー・・・。
私、バローニアに勝てるのかな。こんな邪な魂と化した人に打ち勝つ事が出来るのかな?-
闘いに不安を感じるミハルが首を振り考え直す。
ー違う、勝つんだ。勝たなければいけないんだ。
そうだよね、みんな。約束だものねみんなとの・・・誓いだもんね。-
ミハルの胸の中に過ぎる懐かしい顔、温かい想い。
「ミハル車長っ、砲撃終了っ、行きます!」
タルトの声が思考を止める。
「よしっ、行動開始っ!廻り込んでっ。」
タルトの操縦で<ギガンティス>後方へと廻り込んでミハルが観測する。
右舷側とは違い、左舷は汚く煤け車外予備品は殆ど消し飛んではいたが・・・。
「嘘、あれだけ直撃を受けたと言うのに・・・。
ヴァイタルパートは無傷だなんて。」
ミハルは自分の眼を疑ってしまう。
数十発の重砲弾を喰らったと言うのに、その肝心な攻撃能力を削ぐ事は出来てはいなかった。
「ミリアっ、魔鋼弾連続射撃!
奴の足を止める。キャタピラを狙うから!」
照準をつけたミハルの指がトリガーを引く。
<グオオムッ>
左舷後方から2本あるキャタピラを撃つ。
<ガンッ キィィーン>
至近距離から放たれた10センチ砲弾があっさりと弾き返されてしまった。
「くっ!キャタピラ接合部を撃たないと弾かれてしまう。」
<ボンッ ボンッ ボンッ>
<ギガンティス>から近距離防御用の迫撃弾が放たれる。
「タルト、体当たりする気で近寄って、早くっ!」
急加速を加えて左舷後部に張り付いたMMT-9の後方で迫撃弾が、炸裂した。
「このままでは<ギガンティス>の主砲が撃たれてしまう。何とかしないと・・・。」
張り付いたままでは攻撃が加えられない事もあり、
焦りの色を濃くする視線の片隅に、
無線手席で俯け担っているキャミーの姿が見えた。
ーキャミー・・・早く戦闘を終えて、救護班の処へ連れて行ってあげたい・・・ごめんね。-
心の中で謝るミハルに気付いたのか、俯いたままミハルに眼を向けたキャミーが頷いた。
「キャミー・・・。」
自分が求めた結果がこの悲劇を産んだのだと、ミハルは己を責める。
ーあの時、もしキャミーを無線手として求めなかったら・・・キャミーは・・・。
キャミーは無事だった・・・けど、アルムが犠牲になっていたんだ。
どちらも大切な友。
どちらも大切な仲間・・・どちらも換わりはないと言うのに。
私はキャミーが傷付いてしまった事に責任を感じる。
キャミーだけは守らねばならなかったと言うのに・・・。-
「キャミー・・・ごめんなさい・・・。」
呟くミハルにキャミーが天井を指し示す。
ー私に構わず闘うんだー
何も語らずともミハルには、キャミーの指がそう言っている様に思えた。
「うん・・・うん。キャミー、耐えていてね。
必ず勝ってみせるから。
そして医療班の処へ連れて行ってあげるから。」
ミハルはキャミーの指にそう答えた。
<ギガンティス>の主砲が仰角を掲げる。
その禍々しき砲弾を放とうとしている。
そして、誰にも止められなかった発射の瞬間が・・・。
次回 ラストバトル<ギガンティス>戦 Part6
君はあの砲弾が味方に堕ちる事を防げるのか?





夏休みのオトモ企画 検索ページ