魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep4革命Act19戦端 後編
「ミハルの奴、巧く立ち回っている様だな。」
率距儀のレンズに目を当てて、マクドナードが呟く。
ーミハル・・・どうやら勝てそうだな。-
マクドナードを見上げて無線手席からキャミーが微笑んだ。
「よしっ、あの様子では弾が少なくなって戻ってくるぞ。
全員、補給の準備にかかれっ!」
マクドナードが整備員に命じる。
そして、キャミーに指示を下す。
「おいっ、そろそろ潮時だろ。
隊長に一度補給と整備の為に、戻るように話してくれ。」
「そうですね、連絡を取ります。」
キャミーが電信機のキイを叩く。
「む?我々の他に突っ込んだ隊が居たのか?」
マクドナードが周りを見回して、砂煙を発見して呟く。
「えっ!?少尉・・・あれは・・・?」
マクドナードが見詰める先を見た整備兵が、顔面を蒼白にして叫んだ。
「敵ですっ!ロッソアの軽戦車M3型と、その後方にまだ続いて来ますっ!」
整備兵達の叫びに、
「くそっ!回り込んで来たのか。
味方の側面隊は、何をしているっ。」
整備部隊の前方に出てしまっている、側面を護っていた中戦車隊に視線を向けると、
「間に合うかどうか・・・解らんな。」
こちらへ戻って来るのが早いか、敵の攻撃の方が早いか。
「全員戦闘態勢を執れ。
咄嗟戦闘!正面を敵に向けろ。シュチュアートの弾なら弾き返せる。」
マクドナードが整備員達に命じた。
「少尉、ミハル達に知らせますか?」
キャミーが片手でヘッドフォンをずらして訊いた。
「うむ、知らせるだけ知らせろ。だが、助けは求めるなよ。」
マクドナードが苦笑いを浮かべ、キャミーを見る。
「そうですね、ミハルの事だから何を置いても助けに来ようとしますからね。」
キャミーはその笑みに答えて頷く。
「ミハルには何度も命を助けられた。
魂をすり減らしてまでも助けられた事がある。
・・・ここは何があろうとミハルに助けを求めるわけにはいかん。
そうだろ、キャミー・・・。」
キャミーに向かってマクドナードが決意を告げる。
「その通りです少尉。
この戦いで勝利を手にする事が全てなのですから。
我々は我々の手で自分を守らねばなりません。」
キャミーがマクドナードに同意すると、
「よしっキャミー、戦闘に入るぞ。
味方部隊に向って伝えろ。
第97中隊整備隊はこれより対戦車戦を挑む・・・とな。」
「了解ですっ!対戦車戦!
この新式力作車なら軽戦車にならひけを取らない事を知らしめてやりましょう。」
キャミーが実戦の感を取り戻しつつ、復唱した。
「ミハル少尉っ!大変ですっ、整備隊が敵の奇襲を喰らっていますっ!」
アルムの叫びがヘッドフォンから聞こえる。
「何ですって!」
血相を変えたミハルがキューポラを開けて後方陣地を確認する。
ーマクドナード少尉!キャミー!-
砂煙が後方の陣地に迫っている。
「アルムっ!状況確認!味方側面の部隊は一体何をしていたのよ!
タルト急反転!整備隊の援護に向う!」
ミハルが瞬時に命令を下す。
「了解!」
2人が同時に返事をする。
「ミハル先輩!今、反転すれば目の前に居る部隊が反撃して来ますっ!
危険過ぎます、後方を敵に晒すなんてっ!」
ミリアが冷静な判断でミハルを止める。
だが、自分の身を守る事より、友を護ろうと考えるミハルが言った。
「ミリア、解っている・・・けど。
だからこそ・・・助けに行くの。
キャミーが救援を求めてこなかったのが、どうしてか解る?」
ミハルが手に力を込めて言った。
「えっ!?そ・・・それは・・・。」
ミリアが戸惑い、口を噤む。
「解ったよね。
キャミーやマクドナード少尉は自分達の事より、
私達の事を優先する判断を下した。
救援を求めず自分達がどうなろうとも闘っている私達の身を案じたの・・・。
だから放ってはおけない。
だからこそ、助けに行くのよ。」
ミハルが整備隊を助けに行く訳を教えた。
「車長!私は少尉の判断に従いますっ!」
タルトが言い切った。
「私もっ!」
アルムが頷く。
「整備隊を救いに行きましょう!」
ルーンが射撃ハンドルを握り直す。
「ミハル先輩っ!ならばリーン大尉を残して行くのですか?」
ミリアがミハルに訊く。
「結果的にはそうならざるを得ない。
アルムっ、1号車に回線を繋いで。」
ミハルが無線を開く様に命じた。
「ミハルから?よしっ、繋いで。」
リーンがヘッドフォンを押えてルマに頷く。
<リーン?聞こえる?私達は整備隊の救援に向う。
リーンも後から付いて来て。>
ミハルの声が一緒に向おうと求めてきた。
ーあはは、思っていた通りだ。-
リーンがマモルと目配せをして微笑んだ。
「ミハルっ、誰に向って命じているの?
私達1号車はあなた達と違って足が遅い。
一緒に向うのは無理・・・というか。
足手纏いにしかならない・・・だから救出にはミハルだけで向ってくれない?」
<えっ!そんな事をすればリーンが孤立しちゃうよ!>
ミハルの驚いた声が返ってきた。
「ミハルぅ、これ位の相手に私達が負けると思う?
こっちは<双璧の魔女>なんだから。
これ位は何とかしてみせるから。
ミハルはマクドナード達を救ってあげて。いい?解った?」
リーンがミハルに命じる。
<そ・・・そんな!リーンを置いては行けないよ。
お願いだから一緒に・・・。>
「駄目よミハルっ!これは命令よ。
あなた達は一刻も早く整備隊を救出するの。
こっちを片付けたら私達も行くから。」
リーンはミハルに早く行く様に急かす。
<だって・・・リーンがマモルの事が・・・心配なの。>
ミハルの戸惑う声が、リーンには良く解っていた。
だから尚の事、強く命じた。
「ミハル少尉!これは上官命令よ!直ちに整備隊救援に向いなさいっ。
いい?これは命令よっ!」
<う・・・うん・・・。>
ミハルの声が了承する。
「ミハル・・・心配しないで。
私もマモル君も大丈夫だからね。」
心から安心させ様とリーンが優しく伝えて、
「さあ!早く行きなさい<光と闇を抱く娘>! 後は任せて!」
騎士名を告げる。
<リーン・・・また直ぐ戻ってくるから。
キャミー達を救って直ぐ戻るから・・・待ってて!>
リーンの目に、2号車が陣地へ向けて方向転換するのが映る。
「ええ、また後でね。 ミハル !」
そう答えたリーンがマイクロフォンから指を離した。
「ミハル姉さんは向ってくれた様ですね。隊長・・・。」
マモルが照準器を見詰めながらリーンに言った。
「ホントにもう。世話のかかる部下だわ。」
リーンが苦笑いを浮かべ、肩を竦める。
「では隊長。こいつらの相手をしてやりましょう。
救援に向う2号車の邪魔をしない様に。」
ラミルも笑いながら回り込もうとしているM4中戦車に合わせて車体を向ける。
「そうね、みんな。
私達一両だけでも、こんな奴等の相手は出来るって事をミハルに教えてやりましょう。」
「了解!」
リーンの指示に全員が答える。
魔鋼状態のMHT-7が紋章を輝かせて敵の前に立ち塞がった。
「リーン、マモル・・・直ぐに戻ってくるから。
それまで・・・持ち応えてて!」
後方に離れていくリーン達のMHT-7の姿を見て、ミハルが願う。
そのMHT-7の車体に敵弾が命中し、
火花が散り、煙に包まれる。
その中から反撃の砲火が放たれ、未だ健在なのを教えていた。
「お願いリインさん、ミコトさん。
皆を護って。リーンを、マモルを守って下さいっ!」
ミハルは<双璧の魔女>に願った。
キャミー達を助けに向うMMT-9。
マクドナードとキャミーはミハルについて語る。
その約束を心に描いて・・・。
次回 救援 Part1
君は大切な人を守ろうと努力する・・・





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