魔鋼騎戦記フェアリア第1章魔鋼騎士Ep4A魔鋼騎士Act5 戦場
やがて・・・前方に戦車師団本隊らしい一団が見えてくる。
作戦は一時中断されているのか、本部には出撃した部隊が戻って来ているみたいだった。
「なんだ、味方は退却していたのか。それとも作戦を中止したのか?」
ラミルが不審がって、キャミーに訊く。
「そんな命令、聴いてませんよ」
キャミーも、おかしいなと思ったのか。
「車長、師団本部へ問い合わせますか?」
「うん、キャミー。訊いてみてくれる?」
リーンはキューポラから師団本部を睨んで、キャミーに連絡を取らせた。
「少尉、どうも様子がおかしいですよ。もしかしたら、戦闘中なのでは?」
ミハルに注意されて、リーンは双眼鏡で師団本部を観察する。
「車長!大変です。
師団本部は在地から転進。現在20キロ後方に退却中との事です!」
キャミーの声がヘッドフォンを通して響く。
顔をひきつらせたリーンの命令が車内を緊張の渦に巻き込んだ。
「全員戦闘配置!
前方の部隊は交戦中の第1連隊。
敵は中・重戦車部隊よ!このまま進めば敵の左翼にぶつかってしまう。
ラミル、右へ行ってっ!敵との距離を保つ為にっ!」
全員が直ちに配備に付いた。
顔に付いた硝煙を拭いていたミリアが、直ちに砲塔ハッチを閉めてベンチレーターのスイッチを押す。
ミハルは側面ハッチを閉めて、砲手席に座り照準器のゲージを確認する。
「戦闘っ!戦車戦用意っ!」
リーンが咄嗟に命令した時。
((ガィーーンッ))
物凄い音と、衝撃が車体を打った。
「敵弾命中っ!被害はっ?」
リーンが頭をぶつけた所を押えながら、皆に確認を求めた。
「走行装置、キャタピラ共に、異常なし!」
「無線機感度変わらず!」
「砲塔、砲弾異常なし」
「よし、貫通はされなかったみたいね」
リーンはキューポラから辺りを窺い、自分達を撃った敵を探す。
「ミハル先輩?ミハルセンパイッ?!」
ミリアの叫びが、リーンのレシーバーに入る。
慌てて砲手席を覗くとそこには・・・
「車長!ミハル先輩が、ミハル先輩がぁ!」
砲手席に突っ伏せているミハルの姿があった。
「!ミハルッ?!」
キューポラから飛び降りて、ミハルの肩に手を掛けて名を呼ぶリーン。
「おいっミハル。しっかりしろっ!」
キャミーが振り向き、気絶したミハルを大声で呼ぶ。
ミハルは、着弾の衝撃で照準器に頭を強打して気を失っていた。
ミハルを抱き起したリーンが揺り起こす。
「ミハルっ、しっかりしなさいっ!!」
リーンが肩を揺らして気を入れると、
「ううっ。・・・はっ!て、敵はっ!?」
額を押えて気付いたミハルは、咄嗟に辺りを見廻す。
漸く気が付いて周りを見廻すミハルの額に傷跡が出来ていた。
「大丈夫?照準器に頭をぶつけて、気を失ったみたいだけど?」
「あっ、そうだ!砲は?旋回装置は?」
慌てて砲手席に座りなおして、操作の確認を始めたミハルが叫ぶ。
「車、車長!大変ですっ。
砲塔旋回装置破損!動きが鈍いです。照準器も倍率が変わりませんっ!」
ミハルの叫びでリーンは再びキューポラに戻り天蓋を開け、
半身を乗り出して砲塔正面の防楯を見ると、そこには大きく削り取られた痕が残っていた。
防楯の上端に命中したのか大きく削り取られた痕が有り、その衝撃の大きさを物語っていた。
ー 良かった。
もし、敵弾が後数十センチ下に当たっていたら、貫通されていたかもしれない・・・
リーンは天蓋を閉めて、皆に知らせた。
「敵弾は、砲塔防楯に命中。
防楯を削り取って弾けたみたい。
これでは戦闘継続は不可能に近いわ。
よって、全力で後方に下がります。
キャミー、司令部へ報告!<我故障、後退ス>。
ラミル、20キロ先の小隊整備班の所まで後退、修理を行います。
ミリア、ミハルはいつでも発砲出来る様に砲の準備。皆、急いで!」
リーンは次々に命令を下して、現状の打開を図る。
しかし、戦場はそんな彼女達に更なる試練を求めて来た。
「車長!敵戦車が、右舷に廻り込んで来ます!」
キャミーが敵部隊を発見して叫ぶ。
リーンがキューポラのレンズ越しに観測する。
ー しまった!
もう敵は包囲しようと廻りこんで来たんだ。もう逃げ場が無くなってしまう!
リーンの瞳に、M3型中戦車5両が写る。
その瞳に絶望感が漂った。
「敵M3型5両。此方に近付きます。距離約2000メートル!」
キャミーの声で我に返ったリーンは操縦手に意見を求める。
「ラミル、どう?逃げ切れそう?」
「難しいです。遠距離でも、発砲されれば回避運動を取らねばなりませんから」
「そう・・・よね。
もう逃げ回っても、何れは他の部隊に追い詰められてしまうよね」
リーンが思いあぐねて言葉を詰まらせる。
「車長。闘いましょう。最期まで!」
ラミルが、落ち着いた声でリーンに言った。
「闘うって、壊れた砲で?まともに闘える訳無いでしょ?」
リーンがラミルに無茶だと教えるが。
「少尉、このまま逃げても味方の方へ向わせてくれないでしょう。
ヘタをすると前後を挟み撃ちにされて、手も足も出なくされてしまいます」
「うっ!」
リーンはラミルの言葉に、声を詰まらせる。
「リーン少尉。私は諦めていません。闘いましょう。敵の包囲を抜けて生きて帰りましょう」
ー 生きて還る?
そうだ、皆で帰るんだ。諦めたらそこで全てが終わってしまう!
リーン少尉は、皆一人独りを見る。
その顔は真剣な瞳をしながらも、微笑み掛けていた。
ー そうよね!
私達はこんな所で負ける訳にはいかないものね。
私達は、生きて還る。
それこそ私達の勝利。私達の願い!
リーンの瞳に再び、光が宿る。
「ミハル、傷は大丈夫?」
リーンがミハルを気遣って、声を掛ける。
「はいっ!もう大丈夫。大丈夫ですっ!」
ミハルは頭の傷にミリアから借りたタオルで締め付けて、気丈に答えた。
「そう、良かった。それなら、私と共に闘って。
私と共に皆の盾となって闘いましょう。
・・・魔鋼騎士となって!」
リーンは胸元のペンダントを握り締めて、瞳に闘う光を燃え立たせた。
遂にリーンは決断した。
ミハルと共に魔鋼騎士となって、敵と闘う事を。
2人の騎士が乗るマチハの真の闘いが今始まる。
次回 Act6 戦場
君は本当の騎士の戦いを観る・・・





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