魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep4革命Act9願望
「今度はこっちの番! いくよっ!」
砲塔が自分を撃った敵に向けられる。
「残り3両!負けないからっ!」
127ミリ砲弾を何発も受けながらも、
未だ戦闘を継続するパンター改に、恐れを抱いた者が怯む。
「まず一発っ!」
ミハルが叫ぶ、弾を放って。
<ドスッ ブシュッ>
狙われたKG-2の後部側面に穴が開き、
そこから燃焼ガスが噴出す。
「次!あなたっ!」
撃破した車両の横で発砲しようと狙いをつけてくるKG-2を睨んで、
<ギュギイイッ>
<ヒュンッ>
敵が発砲するタイミングで急ブレーキを掛ける。
外れた弾が飛び過ぎ、
<バガーン>
自分の後ろに居たKG-2に同士討ちの弾が命中した。
「撃てぇっ!」
ミハルの気迫の弾がKG-2の砲塔に穴を開け、
<ズダダーン>
予備砲弾に命中したのか、開口部から炎と煙を噴出し、撃破された。
「これで、ラストォ!」
ミハルは振り返り様、同士討ちの弾を喰らったKG-2に弾を撃ち込む。
<ズガッ バアーン>
最期の一両もミハルが放った徹甲弾でエンジンから火炎を上げ、斯座して果てた。
6両の重戦車魔鋼騎は、たった一両の中戦車と闘い全滅したのだった。
「はあっはあっはあっ、これで増援の重戦車は倒せた・・・よね。
後は何両居るのかな・・・。」
ミハルは荒い息を吐きながら辺りを探る。
「まだ・・・そんなに居るんだ・・・。困ったな。」
ミハルは弾庫を見て、本当に困ってしまう。
「残り2発の徹甲弾と榴弾2発。
これで7両を倒すの?あはは・・・どうしよう。」
ボロボロの服を身に纏い、ミハルは苦笑いを浮かべる。
「ああ、さっきの闘いで燃料も漏れ出している・・・
まるで私みたいに・・・。」
ミハルは6両と闘った時に受けた傷を感じて、下を見て想った。
「えへへ・・・これ、肉体だったら相当ヤバイよね・・・。」
ディーゼル油が漏れ出すのと同じ様に、ミハルの身体からも魂の雫が流れ出していた。
ーミハル、もういい。もう休め!-
ルシファーが堪らず叫ぶ。
「ううん、ルシちゃん・・・。
まだ終っちゃいないから。後少し・・・だから。」
ミハルが首を振る。
ーやめるんだミハル。もう十分だ!
なぜそこまでする必要がある!?
お前の魂は限界だと言うのに!
その魂の雫が枯れてしまえばミハルの魂も・・・。-
失われる事になる・・・そうルシファーが叫ぼうとした時。
「ねぇルシちゃん・・・もう魂から出て来てくれないかな。少し疲れたよ。」
ーえっ?ああ。力の負担が強過ぎるからな。
もう闘わないのなら大丈夫だろうしな。・・・解った。-
ミハルの魂の中からルシちゃんが現れる、赤い毛玉となって。
「おいっミハル・・・大丈夫か?」
毛玉がボロボロになっているミハルに訊く。
「えへへ・・・大事な所は守ったよ。」
そう言ったミハルがフラッと身体を揺らす。
「おっ、おいっ!ミハルっ。」
フラフラとするミハルが、
「ルシちゃんの力が無くなったら、急に辛くなって・・・痛くなってきちゃった。」
そう言うと、
「ねぇ・・・お願いがあるの・・・。」
何かを求める様に、ミハルが毛玉を見る。
「何だ?ミハルよ?」
毛玉にミハルが願ったのは。
「もう一度・・・もう一回観たいな・・・。
私を救ってくれたあの人を。
私を抱締めて泣いてくれたあの人の顔を・・・。
ねぇ・・・ルシファー・・・。」
「ミ・・・ミハル?」
毛玉が驚く・・・その言葉に。
「闇の中であなたが私を救ってくれた事を憶えている。
ボロボロにされて苦しんでいた時に助けてくれたルシファーの事を知っている・・・。
その心配げに見詰めていた瞳が、忘れられないの。」
ミハルが毛玉にそっと手を伸ばしてくる。
「ミ・・・ミハル・・・?まさか・・・お前は・・・?」
毛玉が口篭もる。
言ってはならない事と解っているから。
でも、ミハルは言ってのけた。
「ルシファー、あの時から・・・助けてくれた時から少しづつだけど・・・
信じ始めていた。
そして闇から救ってくれた後・・・気付いたの。
好きになり始めている事に・・・あなたの事が。」
「言うな!ミハルっ!」
毛玉が叫ぶ。
魂を歓喜に震わせて。
「ルシファー、もし好きでなかったら、あなたを胸の中に居させたと思う?
どうして一緒に居る事を拒まなかったと思うの?」
ミハルの手が毛玉に触れる。
「ミハル・・・そなたは・・・そなたは・・・。」
<フワッ>
毛玉はミハルの胸に抱かれた。
「うん。私はあなたの事を信頼している。
私を守ってくれている守護者。
友達、大切な仲間・・・そして好きな男の人。」
毛玉が震える。
「だから最期にあなたの姿をこの瞳に焼き付けておきたいの。お願い・・・。」
毛玉が感づく。
「最期・・・だと?何を言って・・・。」
その瞳に映ったのは影が薄くなりつつあるミハルの姿。
「まさか!魂の流出が止まらないのか!?」
毛玉は気付いた。
いや、思い出したのだ。
この戦車と同化しているミハルの事を。
「くっ、糞っ、早く同化を解除せねば!」
毛玉が慌てて術の用意を始めるが、
「待って。もう少し・・・もう少しだけ闘わせて。
後少しで作戦を終えられるから。」
ミハルが毛玉に微笑む。
「燃料がなくなったって、壊れた事にはならないよ・・・。
只もう動けなくなるだけだから・・・。
でも、完全に停まってしまったら・・・
私も停まってしまうから・・・。」
魂の停止・・・それが何を意味するのかは、毛玉には痛い程良く解っていた。
「ミハル・・・また<無>にされてしまうぞ。
そんな事は絶対許さない。絶対させはしない。」
「私も・・・でも、そうなる前にもう一度あなたの顔が見てみたいの。
好きな男の優しい顔が観たいの。あの呪いを破る為にも。」
毛玉は決断した。
ミハルの魂は既に傷付き、限界に近かった。
その魂の限り闘う事を願う魔法少女。
だが、ミハルの魂もマチハもタイムリミットがやってこようとしていた。
次回 霞む瞳
まだ君は闘うというのか?戻れぬ魂となっても・・・。





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