魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep4革命Act3特攻
「大尉。では作戦の開始は我々が突入した時からです、宜しいですね。」
2号車の前で、ミハルが念を押した。
「うん、解ってるわ。くれぐれも無茶はしない様に・・・。」
リーンは5人に答礼しながら言った。
「あははっ、リーン。無茶って言ったら、この作戦自体が初めから無茶なんだから。」
ミハルが深刻な顔のリーンに笑いかける。
「ミハル・・・。」
リーン達一号車搭乗員の前でミハルが笑う。
「ねえ、リーン。一つお願い言ってもいいかな。」
「ん?何。ミハル?」
リーンの前でミハルがイキナリしゃがみ込む。
「 ? 」
驚くリーンに、ミハルが願った。
「御主人様。ペットな私の髪を撫でて下さい。」
「ミ ハ ル・・・。ミ ハ ル っ お手っ!」
<ポテ>
自分の左手に、そっと載せて来た手は軽く震えている。
ーミハル・・・。覚悟しているのね。-
リーンはそれ以上何も言わず、ミハルの髪を優しく撫でた。
「ありがとうございます。・・・御主人様・・・。」
リーンは自分を見上げてニコッと笑うミハルの瞳が涙で潤んでいるのを知って、
ー駄目よミハル。諦めないで必ず還って来て。-
「ミハル。そしてルシちゃんに言う。必ず戻ってきなさい。いいわね!」
リーンの求めにミハルの胸から紅い毛玉が現れて。
「言われなくとも余はミハルを護る。何があろうともミハルを還す。
それが余の存在理由だからな。」
毛玉が誓った。
「って。ルシちゃんも言ってるから。大丈夫だよリーン。」
そう言うミハルの瞳は、その言葉とは裏腹に涙を溜めていた。
「それではリーン大尉。後を・・・宜しく。」
まるで決別を告げる様にミハルはリーンと別れ、2号車へと向かう。
「ミ ハ ル !」
堪らずリーンが呼び止めた。
リーンの声に立ち止まったミハルが振り返り、
「ねえ、リーン。昔、私が言った事・・・覚えているかな?」
「何?」
聞き返すリーンに微笑んでミハルが言った。
「あのね、こう言ったんだよ。・・・私、そう簡単に死にませんって・・・ね。」
今、もう一度言うね。<そう簡単に死にません>ってね。」
リーンはミハルの言葉と微笑を記憶する。
過去にも言われた言葉を上書きする様に。
ミハルはそう言うとリーンから別れ、車上の人となる。
5人の搭乗員達が車上から敬礼を送って別れを告げている。
ーああ・・・私も行きたい。一緒に運命を共にしたい。-
「帽ぉーふーれぇーっ!」
不意にマクドナード少尉が大声を上げた。
見送る総員が黙って手に手に帽子を持っている者はそれを振り、
何も持たない者は手を振り続ける。
それを見届けたミハルが命じる。
「配置に付け。出発っ!」
<ドルルルルッ>
エンジン音が響き渡る。
キューポラに半身を出したミハルが命じた。
「戦車前へ!」
キャタピラが荒地を噛み、進みだす。
ミハルとミリアがハッチから後を振り返り、見送る人達に手を振って応えた。
その姿に黙っていた者達が堪えきれずに叫ぶ。
「帰って来いよ!」
「ミハル少尉っ必ず!」
口々に別れを惜しむ。
その中で唯一人違う事を叫ぶ姿が。
「怪我して戻ったらオシオキよっ!いいわね、無傷で戻るのよっ!」
絶対の信用を擱ける者にしかいえない言葉。
必ず還ると約束して一度も破った事が無い、その者に対する誓いの言葉。
リーンはミハルを信じていた。
必ず還ると言って約束したからには、戻ってくる事を。
「あははっ、ミハルセンパイ。まるで特攻隊ですね。」
「?特別攻撃隊?」
「そうですよ。
まるで突っ込んで還って来ない人を送り出しているみたいですもの。」
ミリアとミハルは遠くなって行く人波が、
まだ自分達に対し、手を振り続けているのを見続けていた。
「ふふっ。でも私達は戻る。絶対還るの。」
「そりゃ先輩の下で闘うのですから。
今迄誰一人として殺させなかったミハル先輩と共に闘えるのですから。心配していません。」
ミリアがミハルを見てそう断言した。
が。
その瞳に今回は違うとの想いが映っていた。
「リーン・・・居ないからね。
もう<双璧の魔女>ではないからね。
でもねミリア。
私は諦めないよ、約束したから・・・。」
前を向き直ってミハルが言った。
その横顔を見て、ミリアはそっと微笑む。
ーそっか・・・そうなんだ。
やっぱり先輩は諦めたりしていないし、約束を果す気なんだ。-
心の中でミリアは嬉しく思った。
そして、口から出たのは。
「♪嵐も雪も太陽燦々たる灼熱の日もーっ、凍て付く夜も・・・。」
戦車兵の歌が、ミリアの口から流れ出る。
その歌声にミハルも頷き、歌い出す。
「顔が埃に塗れんとも、陽気なり。我等が心、しかり我等が心。
驀進するは我等が戦車・・・・。」
2人の歌声と共に戦車は向かう。
その戦場へ。
地獄の戦場へと。
___________
「いやあー。居ますねぇ、少尉。」
小高い丘の上から、双眼鏡に映る車列を睨んでミリアが言った。
「うん。ここから見えるだけでも相当いるね。」
「こりゃ私達一両では弾が足りませんね。」
ミハルとミリアは、双眼鏡で観測を続ける。
「うん。敵はこの物量が必要なのでしょう。
逆に言えば、この物資が無くなれば大きな痛手となる訳だから。」
「だったら、教えてやりましょうか。
物資が無くなると、どう言うこと事になるか・・・と、言う事を。」
ミリアがミハルを見てニヤリと笑い、
「奴ら、もう戦争を勝ったつもりでいやがる。」
ミリアの言葉にセリフが浮かぶ。
「よしっミリア。奴等に戦争を教育してやろう!」
ミハルもその笑みに応えて言った。
マチハに戻った二人が配置に付く。
「よしっ、それではこれより攻撃を掛ける。
アルム、無線の調子はどう?」
ミハルが一番重要な連絡機械の調子を尋ねる。
「無線、無電。共に良好っ。問題なしっ!」
アルムが大きく返事を返した。
「よーしっ。それでは本隊に連絡っ。
これより攻撃を開始。支援砲撃を頼んでっ!」
「了解っ、打電しますっ!」
ミハルの命令にアルムが答えた。
キューポラから半身を出したミハルが、ぐっと前方を睨んで。
「戦闘開始。目標、前方の補給部隊!」
突入作戦の開始を命じた。
前方に居るのは、ガソリン車を含む車列と護衛の部隊。
単騎で突入を図るマチハ。
対して敵は重戦車を含む、護衛戦車隊。
数で勝る敵に対して、ミハルはどう攻めるというのか。
その結末は神のみぞ知る・・・。
「戦車前へ!」
遂に伝説となる戦いが始まる。
敵の輸送部隊に単騎突入を図るミハル達。
その戦場は魔鋼騎士ミハルの名を後世に残す事となる。
次回 抗う訳
君は約束を果たす為、只ひたすらに闘った・・・。





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