魔鋼騎戦記フェアリア第1章魔鋼騎士Ep4魔鋼騎士Act4 戦場
M3型中戦車を撃破したフェアリア戦車隊に、敵の重戦車が襲い掛かって来る。
その中の一両は・・・
「!ラミルっ、転進だっ、急げ!!」
リーン少尉が悲鳴に近い命令を下した。
爆煙の中から7両のKG-1が現れる、その距離2700メートル。
敵重戦車の射程に入る直前だった。
味方の砲撃を掻い潜った敵重戦車の砲塔がこちらへと向けられてくる。
「敵、味方右舷車両に発砲っ!」
キャミーがKG-1の砲身から、発射煙が上がった事に気付いた。
「何だとっ!?まだ射程外の筈だろ?」
ラミルが驚いてキャミーに訊いた時。
((ガッ!グワーンッ))
マチハの左後方、敵側に近い所で後続していた3号中戦車J型が、
まともに喰らって砲塔が吹き飛んで炎上する。
「味方、第2中隊っ隊長車被弾!炎上!!」
側面スリットから味方の被害を報告するラミル。
キューポラから後方を確認するリーンの瞳に次弾を発砲する敵重戦車が映る。
ー この距離から正確に射撃が出来るなんて。
カタログデータでは、2000メートルが敵の有効射程の筈なのに?!
「ラミル、これで全速?敵重戦車との距離を取って!」
「全速です。時速45キロ。不整地では限界に近い速度ですっ」
ラミルは必死にアクセルペダルを踏み込みつつリーンに返事する。
「右舷味方3号M型、大破炎上!」
ミリアが、また一両喰われた事を報告した。
ー 距離2800メートル。
この距離で走行中の車両に命中させるには、
よほどの腕がないと当たらない筈なのに・・・もしかして!
リーンは咄嗟にキューポラから半身を乗り出して、双眼鏡で敵戦車を監視した。
左側の車両は発砲していない。
右側の車両も・・・ただ、中央を進む一両だけが味方に被害を与えている。
その車両を更に倍率を上げて、監視するとその正面装甲板には・・・
「あっ!あれは。紋章?まさかっ、アイツはっ!!」
リーンの叫びに似た声で、砲塔を中央を進むKG-1に併せてミハルは倍率を上げた。
ー 紋章?紫色に光っているあのマーク。
もしかして、魔鋼騎なの?
あのマーク・・何処かで見た事が有る様な?
「あれは、敵の魔鋼騎だわ。既に、魔鋼状態になっている。
射程も精度も桁違いにパワーアップしているに違いないわ!」
リーンが危険を察知し、直ぐに命じた。
「ラミル、回避運動!ジグザグに走って。ミハル、アイツのキャタピラを撃てる?」
「無理です。この距離で、走行中では!」
ミハルは射撃不能を知らせる。
回避運動を執りながら射撃しても当たりはしないと。
「そうよね、2500メートル以上あるものね。
停止したら奴のいいかもになってしまう・・・」
その時またその魔鋼騎の重戦車から発射煙が揚がった。
「味方、第2中隊3号爆発っ!2中隊全滅っ!!」
狙われた車両は悉く撃破されていく。
「このままでは、連隊は全滅してしまう」
キャミーがボソリと、一言呟く。
それは誰もが口に出来ないでいた最悪の一言。
マチハの右舷前方を走っていた軽戦車2号D型が、向きを変えて敵に突入を始めた。
「味方、偵察隊の2号が突っ込みますっ!」
悲鳴にも似た叫び声をあげて、ミリアが報告する。
キューポラからリーンが無駄と知りつつ止める。
「やめなさい!あなたの砲では、普通の重戦車の側面でも弾かれてしまうわ!」
決死の2号は、それでも突入をやめない。
速度を増して、敵に接近していく。
ー 駄目だ駄目だ!
只でさえ7対1なのに。
37ミリ砲では、側面でさえ撃ち抜く事は出来ないのに!
照準器の中で、軽戦車は敵の右側に回り込もうとしている。
敵重戦車が軽戦車に一斉射撃を始めた。
速度を頼みとする軽戦車は2発、3発とかわしていく。
「ああっ!あれはっ!?」
走り続ける軽戦車から、淡い光が発せられる。
「魔鋼騎の光!あの2号にも魔鋼騎士が乗っていたんだ!」
ミリアが叫ぶ。
軽戦車が射撃を開始した。
その短い砲身の37ミリ砲で、果敢に挑みかかる。
側面に回り込んで車体下部を狙って、砲弾を撃ち込む。
「指揮官より命令。味方軽戦車を援護せよ。です!」
キャミーが無線指令をリーンに伝える。
「うっ、でもこの距離から撃っても当たらないわ。
近付かなければ・・・それに敵の魔鋼騎に、反撃を喰らってしまう。
停止すれば、それこそ敵の的になってしまうというのに!」
リーンは命令に背かざるを得ないと判断をくだす。
「ラミル、このまま走って様子を見ましょう」
「いいのですか?命令では?」
「止まったり、敵の方に向きを変えたら敵の的になってしまうわ。
いいからそのまま走り続けるのよ!」
リーンの命令にミハルは頷く。
ー その通り。
リーン少尉も車長らしく、指揮官らしくなって来た。
嬉しいな、少尉の元で闘える事が・・・
後方に砲塔を向けて照準器で戦場を伺うミハルの目に、
格闘戦を挑む軽戦車と、敵重戦車の闘いが映る。
何とか近付こうと奔り回る2号戦車を近づけまいと砲撃を続ける6両の重戦車。
魔鋼騎状態の1両だけは此方に砲を向けて射撃してくる。
「味方、指揮官車爆発!指揮官車との連絡、途絶えました!」
リーンが左舷で停車して、射撃をしていた指揮官車が炎上したのを確認して。
「キャミー。私達以外に、何両残っているの?」
リーンが、暗い表情で訊くと、
「残り・・・2両です。
他の車両は大破、若しくは斯座して行動不能です。あの軽戦車以外は・・・」
「そう。・・・ヤツラの重戦車には私達の中戦車では勝てない・・・」
その時また、味方の中戦車が黒煙を上げた。
「・・・もう、ここまでね。撤退しよう」
リーン少尉が戦闘中止を決定した。
「車長!逃げるんですかっ!?」
ミリアが声を荒げて訊きかえすと、
「このままでは、犬死になるだけよ。
撤退して師団本部と合流するわ・・・再起を図るのよ。
まだ完全に作戦が終了した訳ではないわ。
キャミー、あの軽戦車に命令して。戦線を縮小するから、撤退しなさいと」
「・・・解りました。指示を出します」
キャミーが無線で連絡を入れる。
「少尉、私は少尉の判断を支持します」
ミハルがリーンの指揮を認めてそう言った。
それには答えず独り言を呟く。
「私は諦めない。
必ずあいつらを打ち負かしてみせる。
死んでいった者達の為にも。絶望はしないから」
リーン少尉の瞳が涙で潤んでいた。
「少尉!2号戦車車長が、撤退を拒否して来ました!」
キャミーが慌てた声でリーンに告げる。
「何ですって?どうして!?」
リーンは、キャミーに訳を訊く。
「後は頼みます・・と、さよなら・・とだけ言って無線を切りましたっ!」
リーンはキューポラから半身を乗り出し、双眼鏡で軽戦車を見続ける。
2号戦車は発砲を続けて肉迫して行く。
一両の重戦車の転輪が吹き飛び斯座した。
後方に廻り込んだ2号が、次のKG-1重戦車に射撃してキャタピラを壊した。
2両を斯座させて、重戦車隊の後方を機動する軽戦車2号。
だが、粗方の目標を撃破し終わった魔鋼騎が乗る中央のKG-1が、
砲塔を旋回させて小うるさい2号に狙いを定めた。
次のKG-1重戦車に狙いを定めていた2号には、回避するだけの余裕は無かったのだろう。
((グオムッ))
KG-1魔鋼騎の射撃を至近距離から受けて、
さしもの魔鋼の力も及ばず砲塔を吹き飛ばされて炎上してしまった。
淡い蒼い光を天に放って・・・
「ごめんなさい・・・」
リーン少尉は軽戦車に向って敬礼を贈った。
「味方、軽戦車との連絡・・・途絶えました」
キャミーが、誰に言うとなくポツリと言った。
ミハルもミリアも味方軽戦車に、全滅してしまった連隊全車両に向って敬礼した。
車内は誰もが無口になった。
「キャミー、師団本部へ連絡して。
<戦車第3連隊は陸戦騎第97小隊一両を除いて全滅セリ>
これより合流ス。・・・以上です」
「はい。少尉」
キャミーは重い声で復唱する。
キューポラ上で、敵部隊の動向を見ていたリーンが命じた。
「敵は、追撃を諦めて反転したわ。全員合戦用意用具納め。警戒配備とします」
リーンの声で、ミハルは側面ハッチを開けて外気を吸った。
少尉の事が気になってキューポラを振り仰ぐと、
リーンの頬に涙が流れ落ちていくのが見える。
ー 少尉。これが戦場なのです、これが戦争なのです。
少尉の判断は、間違っていません。
だって、私達は生き残れたのですから、今は・・・
ミハルは少尉の顔を見上げて小さく頷いた。
味方の犠牲の上に生き延びる事が出来たマチハ乗員達。
だが、闘いはまだ終わってはいなかったのだ!
更なる困難が待ち構えていた・・・
次回Act5 戦場
君は生き残る事が出来るか?





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