魔鋼騎戦記フェアリア第1章魔鋼騎士Ep4魔鋼騎士Act2戦場
戦車師団が前進を開始する。
前方の敵対戦車砲陣地目掛けて、マチハは味方と共に進む。
「車長!作戦開始です。我が第3連隊は右翼に回り込むとの命令です」
キャミーの声が、ヘッドフォンから聞こえた。
キューポラから半身を乗り出し、連隊前方の軽戦車が突っ込み始めるのを確認して、
「よし、行こう。戦車前へっ!」
リーンがラミルに命令を下した。
辺りの戦車に動きを合せて、マチハは進む。
「前方、第1軽戦車大隊が敵と交戦開始っ!」
豆粒の様に小さく見える軽戦車が敵の対戦車砲陣地に突入し、早くも数両が大破して煙を上げる。
軽戦車から敵陣地の様子が後方の支援部隊に連絡された。
「車長っ!砲陣地より支援砲撃が来ます」
キャミーの声と共に、頭上を砲弾が飛んでいく。
((シャッシャッシャッ))
重砲の飛ぶ乾いた音が前方に向って流れ・・・
((グワン グワンッ))
着弾する度に、爆炎が上がる。
ー これでいくらか敵陣地が叩ければ、善いのだけれど・・・
リーンが煙を眺めて考えていると。
「車長っ!連隊指揮官から命令です。<突撃セヨ>」
キャミーがキューポラに向って叫ぶ。
「了ー解っ。突撃をかけます!対陣地戦、戦闘用意っ!」
リーンの命令で前方機銃のボルトをキャミーは引き、弾を装填する。
機銃の作動を確認するキャミーを見てラミルが顎を引いた。
「ミリアっ、対戦車砲ー戦っ。
第1射っ、榴弾。装填っ!」
リーンの命令で47ミリ榴弾を装填しベンチレーターのボタンを押し込むミリアが、
「装填良しっ!」
きびきびと、各員がその責務をこなす。
ー みんな、張り切っているね。
私も責務を果たさないと。譬えそれが人を撃つ事だとしても・・・
ミハルの心に、棘が刺さる。
ー この痛み、苦しみが消える事は無いだろうけど、砲手となった私の責務なのだから。
どんなに辛くても、もう逃げない・・・逃げたりはしたくない!
照準器の中に、味方車両と敵陣地が見える。
「敵陣地まで後2000メートル!全員見張りを厳とせよ」
リーン少尉の声に、緊張感が増す。
キューポラの天蓋を閉めて、リーンが車内に入る。
連隊左側後方に付けたマチハの右前方を進む。
新式の4号D型に敵の対戦車砲弾が命中し、たちまち停止してしまった。
だが、その車両は砲を旋回させて自分を撃った陣地を撃とうとしている。
「馬鹿っ!早く脱出しろっ!!」
キャミーが悪態を付いた時、
((ガンッ!グワンッ!!))
その停止した車両に、別の陣地からの弾が砲塔側面を貫通し、
運悪く砲弾ラックを破壊して誘爆を引き起こして砲塔が吹き飛んだ。
「くそっ、右前方と、左にも対戦車砲が潜んでいるぞ!」
ラミアが大声で注意を促す。
「ミハル、左は位置が特定出来ていない。先に右側の陣地を叩くわ!」
リーン少尉の声に、砲塔旋回レバーを左に倒して砲撃準備を急ぐ。
「右前方1000メートル、対戦車砲陣地!榴弾!撃ち方始めっ!」
リーン少尉の命令で対戦車砲陣地に照準を定める。
ミハルの目にカモフラージュされた陣地が映る。
ー 人を撃つと思うな。砲を破壊する事だけを考えるんだ!
ミハルは必死に照準を合せる。
十字線の中に、対戦車砲の防盾を捉えて、
「撃っ!」
トリガーを引き絞る。
((ボムッ))
鈍い射撃音と共に砲弾が目標に飛ぶ。
照準鏡の中で、爆発と共に敵兵の身体がが跳んだ。
「命中!次は左舷の陣地よ」
リーン少尉が敵陣地の破壊を確認して、次の目標を指示した。
ミハルは再び砲を旋回させて、砲撃の準備に懸かる。
「砲撃待てっ!左舷の陣地は、他の車両が破壊したわ。引き続き見張りを厳となせ!」
リーン少尉が命令を下す。
「はあ、はあっ・・・」
ミハルは息を詰まらせ苦しむ。
ー 対戦車戦なら、人の姿は見ないで済む。
狙った物が戦車なら、命中させるまでは少なくとも人の姿を見ないで済む。
早く敵戦車が現れてくれないかな・・・
ミハルが苦しむ姿をミリアは心配そうに見詰ていた。
ー 先輩、苦しまないでください。
これが戦争なのです。先輩の苦しさ、私は解りますから・・・
ミリアは心の中で、ミハルを庇う。
そこ此処で砂塵が舞い、対戦車砲の残骸が燻っている。
その周りには無残な姿になってしまった敵兵の亡骸が転がっていた。
「よし、粗方敵対戦車砲陣地は固唾けたみたいね。
此処を突破すれば次はきっと戦車が出て来る筈だわ・・・」
リーン少尉が次の行動に移る考えを話すと、
「車長、前進命令が来ません。どうも中央部隊が苦戦している様です」
キャミーが無線を傍受して、リーンに報告する。
「何ですって!やはり敵は主力を中央に集めていたの?」
リーン少尉がキューポラから半身を乗り出し、双眼鏡で中央方向を監視する。
師団主力が向った中央辺りで、盛んに炸裂する弾幕が見える。
「ヤバイな。中央が逆に敗退したら、回り込んだ敵に挟み撃ちになるぞ」
ラミアが心配し、舌打ちする。
「ラミア、まだ負けたとは思えない。大丈夫よ」
リーンが皆を勇気付けようと声に出す。
「車長!前方に敵戦車が接近中との事です!」
キャミーが連絡を中継して言う。
「こっちにも来たか。敵の数は?車種は解らないか訊いてみて」
リーンがキャミーに無線で情報を求めた。
「軽戦車隊から報告あり。
敵はM2型軽戦車4両、中戦車M3型6両と・・・えっ!」
キャミーの声が途切れる。
「その他に何が居るの?」
「たっ、大変です。重戦車が8両!KG-1型が8両もいますっ!」
キャミーの悲鳴にも似た叫びが車内に木霊した。
「KG-1が8両ですって!我々中戦車より多いじゃないの!」
リーン少尉も驚いて訊き返した。
「軽戦車や、中戦車ならいざ知らず。
重戦車が相手では此方の中戦車の砲では、ヤツラの正面装甲を打ち抜けないわ!」
リーン少尉が即座に後退を指示する。
「ラミア、転進して!キャミー、味方重砲隊に支援砲撃の要請を連絡!急いでっ!」
「連隊指揮官車から指令。
全車後退、味方の支援砲撃があるまで待機せよ・・・との事です!」
キャミーが命令を伝達する。
「了解!ラミル全速後退!ミハル、ミリアは敵軽戦車が突っ込んで来たら、撃退してっ!」
矢継ぎ早に命令を下して、キューポラから辺りの状況を確認するリーン少尉。
「ミハル先輩、徹甲弾装填完了っ!」
ミリアが早々に徹甲弾を込めて、ミハルに知らせる。
「了解!次発装填も徹甲弾を用意!」
ミハルも照準鏡を睨んで、トリガーに指を掛ける。
「前方距離1500メートルにM2型軽戦車!早いっ!」
キャミーが目ざとく発見報告をする。
リーン少尉も即座に視認して、
「ラミル停車!ミハル、前方から近付く目標を撃て!
距離1200、5シュトリッヒ前方を狙えっ!撃てっ!!」
射撃命令を受けてミハルは、8倍望遠にした照準器に入って来たM2型軽戦車の正面下部に狙いを付ける。
「撃っ!」
トリガーを引き絞った。
((ボムッ!))
乾いた射撃音を残して、47ミリ徹甲弾が敵戦車に放たれた!
敵軽戦車目掛けて、射撃を開始したマチハ。
軽戦車の次に現れたのは・・・。
次回 戦場
Act3
君は生き残る事が出来るか?





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