魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep3破談Act6皇都へ!
「にゃはははっ、死ね、死ね、死ねぇっ。
死んじゃわないとこまっちゃうんんんっだからぁ。」
ボカンボカンと射撃する妖女ミハル。
だが、やたらと弾を撃つだけで命中しない。
「いいんですか、中尉。好きにやらせて・・・。」
ルマが砲手席を見て、リーンに訊く。
「うん。闇に支配されていても幼女は幼女。誰も傷付ける事出来ていないから。」
リーンが妖女と化しているミハルを砲手席へ座らせ好きに撃たせている。
「で、でも私は大変なのですぅ。」
ミリアが肩で息を吐き眼を回す。
「ごめんねミリア。こうでもしないと幼女ミハルに戻らないから。
諦めるまでもう暫く我慢して。」
リーンがミリアに謝る。
「はいいぃっ。」
涙目のミリアが装填を繰り返す。
その脇でミコトの魂に乗っ取られたマモルが煽る。
「ほらほら、どうした。全然当らんではないか。
撃っても撃っても誰も傷一つ負わんぞ。下手糞め!」
あからさまに下げ荒むミコトに、
「うっうるさいっ、うるさいっ、うるさいと、こまっちゃうんんんだからぁ。」
余計に射撃を繰り返す妖女。
「はあ、ひい、ふええん。もう飽きたぁ。」
赤い瞳をグルグル回してひっくり返る妖女。
「それならもう引っ込んでおれ。下手糞悪魔めが。
その身体から帰ってしまえ。」
ミコトが手をパタパタ振り、シッシッと追いやる。
「くっそー。おぼえてろ、じゃあねぇぇーん。」
砲手席でバタバタもがいて悔しがったあげく、
幼女から邪な気が去って行った。
「ふにゃあ?あれっ、どうしたんだろうって。
手が、手が・・・痛いんですぅ。こまっちゃうんんんっ。」
幼女ミハルが両手を振って伸びてしまった。
「ふう、どうやら元に戻った様だな。ではリーン、命令を下せ。」
ミコトがリーンへ告げる。
「はいっ、聖巫女。我々の目標は?」
リーンがミコトを見て、ニヤリと笑う。
「ふっ、知れた事。この槍に掛かる者を打ち砕くのみ。」
右手の槍を構えてリーンに突き付ける。
「はははっ、危ないですから・・・。やめて、ぷりーず。」
リーンが笑いを引き攣らせてお願いした。
「ふむ。では出発するのだ皇都へと。闇との決戦を求めて。」
ミコトが言い放った。
その宿命を終える為に。
ーミハル、待っていて。必ず助けてあげるから。-
リーンの心はミハルを想って既に決戦の場へと向っていた。
自分が生まれ育った都へと。
その中心にある宮殿へと。
そこがミコトの言った決戦の場である事に気付いていた。
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闇に包まれた空間。
だが、その闇は完全ではない。
完全な無ではなかった。
つまりは悪魔と呼ばれる空間でもない。
暗闇の中でも、僅かな光はあった。
それはそこに居る者が、完全に堕ちていない証とも言えた。
薄い光を出している魂の周りに、黒く澱んだ霧が取り巻いている。
「ごほっ、げほっ、けほっ!」
咽かえる娘の声が、その薄い光の中心から、か細く流れ出る。
「はあ、はあ、はあっ。く・・・苦しっ。」
か細い声は助けを求める様に荒い息を吐く。
薄い光を取り囲む黒い霧は、容赦なく責め続ける。
その薄い光を絶やそうとして。
(※2018年1月13日追加)
薄い光を辛うじて保っている魂に、
群れ集う黒い霧の中から一本、槍の様な霧が光の中へ衝き立てられる。
黒い霧は、その魂を黒き色に染めようとするように、
突き立ててはその先から黒い闇を薄い光に注ぎ込む。
「うっぎぃいいっ!やあぁぁぁっ!」
注がれる度衝き立てられる度に、薄い光の中から悲鳴が上がる。
だが、その光は闇に抗う。
抗う度に黒き霧が衝き立てて来る。
果てしのない・・・責め苦。
「うあぁ、お願い。少し、少しでいいから・・・休ませて・・・。」
哀願する薄い光を保つ魂。
しかし取り囲んでいた黒い霧は一気に数本が突き刺し、闇を撒き散らす。
「ひぎぃいいいぃー。」
更に新たな黒い霧が現れて、
その魂を闇へと染め抜かんとして黒き闇の色を突き刺し注ぎ込む回数を増やしてくる。
「あらあら、まだ諦めていないのね。いい加減諦めておしまいなさいな。」
何者かの声が黒い霧を止める。
近寄る声の主に、黒い霧が取り囲むのを辞め、闇の中へ消え去ってゆく。
「まだ闇に堕ちないとは・・・。強情な娘ね。」
薄い光に近付いた者が、見下す様に言う。
「はあっはあっはあっ。」
薄い光の中で息も絶え絶えに倒れている姿を晒した娘が、
近寄ってきた者を見上げる。
「そこまで穢されても、まだ諦めないとは・・・。
見上げたものね・・・ミハル。」
自分を見下して蔑む様に言った者にミハルが応じる。
「諦めません、どんなに苦しめられたって。
私はあなたとは違うのです。・・・ユーリ皇女。」
自分を見るユーリにミハルは決然と抗った。
「ふんっ、どこが違うというのだ。小娘の分際で!」
ユーリの手が伸び、その手から闇の力が噴出す。
「うぐうっ!」
ミハルの首に架せられた首輪が締め付ける。
「ほら、どうしたミハル。何かいったらどう?」
ユーリは更に闇の力でミハルを責める。
ミハルの身体が宙に浮き、首輪と両手両足に架せられた戒めが千切れんばかりに突っ張る。
「ひぎぃっ、痛いっ!さっ、裂けるっ裂けちゃうっ!」
苦痛に涙を流すミハルが叫ぶ。
「いい様ね。あなたと私のどこが違うというのよ。言って見なさいミハル。」
力を少し弱めたユーリが赤黒い瞳で睨んだ。
「はあっはあっ、私は約束したの、リーンと、マモルと。
必ず帰るって・・・。約束したもの・・・大切な人達と。」
息も絶え絶えのミハルが呟く様に答えた。
「ふんっ、約束だあ?それが私とあなたとの違いって訳?」
ユーリが嘲るような瞳でミハルを見る。
「ユーリ皇女・・・あなたにも大切な人が居るのに・・・。
何故・・・堕ちてしまわれたのですか・・・。」
力なく呟く様にか細く問い掛けた。
「くっ、私にはその様に想う者などいない。ほざくな!」
睨むユーリにミハルが言った。
「魂を戦車の中へ転移させてまでも守った恩人が居られた筈です。
マジカさんは今のユーリ皇女を見たらどう想われると・・・。」
ミハルがマジカの名を告げると、ユーリの顔が苦痛に歪んだ。
「マジカ・・・マジカ・・・私の命を救ってくれた恩人。
私の一番大切な友達・・・。」
呟く様に友の名を呼ぶユーリの瞳が一瞬だが、赤黒さを薄めたのをミハルは見た。
が。
「うるさいっ!その名を二度と口にするな!」
戸惑う様に叫んだユーリが再びミハルに術を加える。
「うっあっ!ぎっひぃぃぃいっ!」
闇の中で、ミハルの叫び声が響き続いた。
_______________
「リーン、焦る事は無い。
こいつを見ていれば、ミハルが堕ちていない事が解る。」
ミコトが幼女を見てリーンに教えようとする。
「聖巫女、何が解るというのですか?」
リーンも幼女ミハルを見て訊く。
「コイツの瞳が全てを教えている。その色でな。」
「色・・・ですか?」
スヤスヤ疲れて眠っている幼女を見て、リーンが教えを乞う。
「そう、色だ。
通常こいつは昔のミハルと同じ黒髪と黒い瞳をしている。
その瞳が赤く染まれば闇の力が出ている。
つまり邪な者と言う事だ。」
「はい、私を襲った時も赤い瞳をしていました。」
リーンがミコトの話を肯定する。
「だが問題は・・・金色の瞳をしている時なのだ。」
「は?金色・・・ですか。私は見た事がありませんが。」
「ふむ、そうであったか。マモルが訓練の時に手こずったであろう。
その時、出現したのだ。金色の妖女ミハルが。」
ミコトが戸惑う様にリーンに教える。
その瞳の色に困惑して。
「金色をした妖女ミハルが何を意味しているのかが、解らんのだ。
ただその時マモルが姉の名を呼んだのが唯一つのヒントなのだが。」
「えっ、マモル君がミハルを呼んだ?じゃあ金色の瞳をしている時は?」
リーンが、その答えを確かめる様にミコトに問い質す。
「もしかしたらだが・・・本当のミハルが戻った時に・・・金色になるのかもしれん。」
ミコトがリーンの答えを認めた。
「ミハルが・・・闇へ堕ちてはいない証拠。」
「しかり。」
ミコトが頷く。
リーンは瞳を輝かす。
「そうですか!でしたらなるべく多くその金色の瞳を見ていたい。」
嬉しそうにリーンは言った。
「だが、問題が一つあるのだ。」
水を差す様にミコトが眼を曇らせてリーンに告げる。
「問題?何が問題なのですか?」
喜びに水を差されたリーンがその訳を訊く。
「それはあの力が何処から出せたのかと言う事だ。
あの強大な魔鋼力をどうやってミハルは発揮出来たのかと言う事だ。」
「どうやって・・・って。ミハルの魔法力が・・・あっ!」
リーンも気付いた。ミコトの言った一言で。
そう、魔鋼力とミコトは言った。
魔鋼力を出すには触媒となる、宝珠や、リーンの魔法玉のような物が必要なのだが、
妖女ミハルは、その様な物を何一つ身に着けていなかったのだ。
その言葉の意味を知ったリーンは、ガクガクと身体を震わせてミコトを見た。
その答えを訊くのが恐くて。
だが、ミコトははっきりと告げる。
死神が生者に宣告する様に。
その者の死を告げる様に。
「ミハルの魂は、闇の力をも手にしたと言う事だ。
ミハルの魂は今や半ば邪な者と成り果てたと言う事だ。」
リーンは膝を付いて崩れ折れる。
両手を地に着け、呆然と首をうな垂れた。
「ミ・・・ハ・・・ル。そんな・・・馬鹿な。」
力なくうな垂れるリーンに、ミコトが言った。
「良いかリーン。この幼女が全てを教えているのだ。
赤き瞳、金色の瞳。そのどちらもが危険だと言う事を。
片や闇の住人。もう片方は・・・。」
「ミハルが戻れなくなる証。」
リーンがミコトの言葉を遮って呟いた。
聖王女と聖巫女は、眠る幼女を見て、
その本来の姿を思い出して願う。
どうか間に合ってくれと。
その魂が闇へ堕ちる前に、決着を着けねばと焦りの色を濃くした。
皇都へと急ぐ小隊は、補給を受ける為に立ち寄る事にする。
燃料と食料の受け渡しに向ったマクドナードは、
隠れていた者に肝を冷やす。
次回 補給所で
君は姿は違えども、やはりあの娘なのか。





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