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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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魔鋼騎戦記フェアリア第1章魔鋼騎士Ep4魔鋼騎士Act1戦場

ミハル達陸戦騎独立第97小隊は、エンカウンター西方30キロの師団野営地へ進出していた。

挿絵(By みてみん)

「はあっはあっはあっ」


ミハルは走る。

唯一人で、銃弾の飛び交う中を。


土にまみれ、窪地に伏せ、両脇や頭上を銃砲弾が飛びぬける。

その度に地面に這いつくばう。


ー 皆、ごめんなさい。

  私一人だけ逃げてしまって。生きていてごめんなさい。

  車長、操縦手、無線手・・・一緒に死ねなくてごめんなさい


ミハルの周りは炎上した味方の車両が出す黒煙で、見通しが利かない。


― 軽戦車では歯が立たなかった。

  撃っても撃っても、当たっても命中させても、弾き返され続けた。

  私達の乗った3号戦車の37ミリ砲では、あの重戦車には歯が立たない


ミハルは味方が居ると思われる方向に向って走る。


ー 味方に知らせないと。

  無線が妨害されている事を、敵に未知の重戦車が居る事を・・・


ミハルが窪地を抜けて味方車両から吹き出る黒煙を越えた時、


「あっ!ああっ!!」


目の前にあの重戦車が迫ってくる。


傾斜した前面装甲、丸みを帯びた砲塔。

そこから長く突き出た砲身。

正に悪魔の化身そのもの。


その車体がミハルに迫る。


「うわあああぁっ!」


悲鳴をあげるミハルに、さらにその重戦車が迫って来た。


  ((ガバッ))


ミハルは飛び起きた。

辺りには搭乗員仲間が眠っている。

ミハルの横で毛布に包まっているミリアの寝顔が安らかに寝息を立てていた。


「夢か・・・また、あの時の夢を観ちゃったんだ。

 もう忘れようと決めたのに。明日から戦闘が始まるのに・・・」


ミハルは野営場所からそっと離れてマチハの所へ行く。


静かに眠っているかのような車体。


手で車体を撫でて、


「ねえ、今度は大丈夫だよね。

 今度は弾き返されないよね。・・・もう逃げなくてもいいんだよね」


そっと、車体に呟きかける。


「ミハル、起きていたのか」


マクドナード軍曹が、ミハルの後から現れて声を掛けてきた。


「あ、軍曹。軍曹こそ寝ないのですか?」


「ん?まあな。こいつの初陣だからな。

 オレが手塩を掛けて整備してきたこいつが故障なんてしないと思うが、気を揉んでしまってな」


そう言ってミハルと同じ様に、車体を撫でる。


「大丈夫ですよ。軍曹の整備は完璧ですから」


「ふふん。そう言って貰えるとありがたい」


軍曹は、我が子を見送る父親のような顔でマチハを見上げた。


「こいつは試験本部で埃を被っていたんだ。

 リーン少尉が自分の隊に欲しいって言った時にはびっくりしたよ。

 時代は75ミリ砲になろうとしているのに、いくら長砲身だからって47ミリ砲なんだからな。

 撃つまではせめて60ミリ以上の砲が欲しいって思ったものさ。

 でも、バスクッチ曹長が撃って、初めてこの砲が解った。

 素晴しい砲だったんだなっと・・・」


「そうですね、通常徹甲弾であの貫通力。弾も良く伸びますしね」


「ああ。こいつに問題があるとすれば、装甲の薄さだけだ。

 魔鋼状態ならいざ知らず、

 普通の時は前面50ミリ、側面30ミリ、後面30ミリしかないから、

 37ミリ徹甲弾の近接弾を弾き返せない。そこが弱点だからなぁ」


「はい、良く解っています。原型の3号J型と同様に、発見されない様に機動する必要がありますね」


「単騎の場合はな。だが、今作戦は大規模作戦だ。発見されない方が難しいだろう」


「・・・軍曹は今作戦には、不向きだと思われるのですか」


「違う。オレはこの車両が不向きだと思っているわけじゃない。

 今作戦自体が不必要だと思っているんだ」


「作戦自体が・・・必要ないと?」


「そうだ、こんな大規模作戦は、戦車がすすんでやる事じゃない。

 敵の中央を付くと言うが、戦車の数では、敵の方が勝っている。

 まして、陣地を構えた敵に正面から挑むなんて、正気の沙汰じゃない。

 敵の対戦車砲の、イイかもだ」


「確かに正面から突っ込むのは、危険ですね」


「そうだ。いくら魔鋼騎が、此方の方が多いと言っても多勢に無勢。

 数で押し切られたらひとたまりも無い」


「私達は、カモになると?」


「そうなって貰いたくは無いのだよ、ミハル」


「私もそんな作戦は嫌です」


「こいつも、そんな馬鹿げた作戦は嫌って言ってると思うんだ。このマチハもな」


「はい・・・そうですね」


「で、リーン少尉は?どうしてる?」


「軍曹の思った事と同じ想いだったのか、意見具申しに、師団本部へ行かれました」


「そうか、まあ少尉も直情型だからな。

 こいつの呼称もミハルに任せたし・・・マチハって、どう言う意味だったっけ?」


「あ、そう言えば整備班の方には、言ってませんでしたよね。

 マチハって言うのは、マが魔法力のマギ。チは中型のチ。ハは、3番目って言う意味のハ。

 チとハは、ヤポンの言葉です」


「ふうーん。それでマチハって事か」


「はい。搭乗員仲間に言ったら、受けてしまって。決まりました」


「はははっ、敵さんにバレても誰も判らんだろう」


「はははっ、あまり意味ないかもとも、思いましたけど」


「まあ、後はリーン少尉が本部とどう掛け合ってくれるかだな、ミハル。明日に備えて早く休めよ」


「はい・・・」


マクドナード軍曹は、整備班のテントに戻って行った。

それを見送って、ミハルは明日の作戦が上手くいく事を願わずには居られなかった。


  ((グオルルルッ))


轟音が轟き、戦車師団が配置に付いた。


リーン少尉は砂煙で霞む辺りを見廻して、


<これからが、私達の能力が試される第1の試練。

 此処を潜り抜けなければ次は無い。しっかりするのよ、リーン>


自分に自分で発破を懸けて、


「みんな!気を引き締めていくわよ!」


皆にも注意を促した。


砂煙が揚がり、師団中央付近で前進が始まった。


いよいよ、作戦は開始される。

ミハル達の乗ったマチハが、咆哮を揚げる。

そして、遂に敵戦車と遭遇する。

次回 戦場。

君は生き残る事が出来るか!?

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