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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep2姉弟Act16ロナ 最期の願い

<双璧の魔女>の戦車が破壊されたと聞いたマリーは呆然としてしまう。

自分が居るのが戦場だと言う事を今更ながら思い知った・・・

2人は同時に耳を疑った。


「何ですって!」

「何だとっ?!」


マリーとロナが同時に叫ぶ。


「そ・・そんな・・・馬鹿なっ。

 奴等は自分達の誇る戦車を破壊したというのか!?」


マリーが叫び、落胆のあまり座り込んでしまった。


「タラン!破壊された中戦車の乗員はどうなったのっ?

 まさか破壊された車両の中に取り残されていたの?」


失望のあまり座り込んだマリーを見ながら、ロナがタランに訊く。

タランは改めて無線を取る。

無線手のタランが何度かのやり取りの末。


「マリー車長、ロナ上等兵。確認出来なかったとの事です。

 敵の新たな魔鋼騎を畏れた為に・・・

 中戦車隊の奴等は敵兵の脱出まで視認していなかった模様です」


タランの報告に、


「そうか・・・仕方がないな」


座り込んだマリーがふらっと車外へ出て行く。


「マリー少尉・・・」


ロナがマリーを追って車外へ出ると、車体に座り込んだマリーの姿があった。


「なあ、ロナ。私はどうすればいい?

 ダリマとカラムの仇。左手の仇。

 もう討つ事も出来ないのかな・・・」


左手を見詰めるマリーが呟く様に言う。


「マリー、敵は消えた訳ではありません。

 もし<双璧の魔女>を破壊したのなら、その破壊した車両が新たな仇になったのです。

 マリーの宿命が断ち切れたのなら、これからはもう無理に闘う必要はないのです。

 これからはマリー自身の為に闘えばいいのです。

 私は<双璧の魔女>が倒されたというのなら甘んじて受け入れるべきだと思います」


ロナがそっとマリーの後ろから両肩に手を載せて言った。


「ロナ・・・そうだな。

 これは戦争なのだから。

 私達が倒さなくとも誰かが闘い、討ち果たす事があるって事を忘れていたよ。

 教えてくれてありがとう。私の友よ」


マリーの瞳が赤黒さを失い、

澄んだ赤き瞳となっているのに気付いたロナの顔が明るさを取り戻す。


「はい、マリーベル。さあ、気を休めてくださいな」


そう言うと、マリーの肩を揉みだした。


「はははっ、ロナ。何だか急に肩の荷が下りたみたいだよ。すまんなロナ」


何時に無く明るい声でロナに微笑むマリーに、ロナも笑顔で肩揉みを続けた。


「なあ、ロナ。

 このまま奴がもう現れないのなら、この戦闘が終ったら軍を辞めようと思う」


ポツリとマリーが呟いた。


「え?マリー少尉・・・本当ですか?」


肩を揉む手を休めて、ロナが訊く。


「ああ。もし、奴が現れないのなら、私の闘う理由がないのだから。

 フェアリアの魔女と闘う宿命が失われた訳だから。

 弟も解ってくれると思うんだ・・・」


マリーは薄く笑って呟く様に言う。


「そうですね。それもいいかもしれませんね!」


ロナは遠くを見て応えた。

小さな期待を胸に秘めて・・・




だが、二人の想いは別々の意味で裏切られる事となった。


「重戦車中隊全滅ですっ!」


タランが車上にいるマリーに叫ぶ。


「敵2両の重戦車により、KG-2中隊が壊滅した模様っ!」


次々に無線に入る報告を受けてタランが叫び続ける。

立ち昇る黒煙を眺めてマリーがロナに言う。


「ロナ、まだ私達は闘わねばならないようだ。

 やはり、フェアリアの魔女は戻ってきたな!」


ロナは双眼鏡を下ろして答える。


「ええ、マリーの期待通りですね。

 一時後退した模様ですが、必ずまた現れるでしょう」


頷き答えるロナに、


「いよいよだなロナ。今度という今度は・・・勝負をつけてやる!」


双眼鏡を構えて戦場を眺めるマリーのレンズがキラリと光る。


「マリー、マリーベル。

 もしかしたら言える事がないかもしれませんから・・・

 今の内に言いたい事があるのです」


改まってロナがマリーを見詰めて話す。


「なんだロナ。言いたい事って?」


双眼鏡を下ろしたマリーが気付く。

ロナの顔が何時に無く真剣な事を。


「マリー。知っていて欲しい事があるのです。

 私の中に宿るロナウトの魂と、私の心を」


「・・・」


マリーはロナの瞳を見詰めて黙って聴く。


「私はあなたの下僕しもべと言いました。

 確かに千年前はあなたの魔法使いとして働き、あなたを護る為に死にました。

 でも、それは下僕として死を選んだのではありません。

 大切な・・・そう、とても大切な人を護って死んだのです。

 この娘もそう。

 あなたを・・・マリー少尉を愛しているからこそ、守り抜く覚悟を決めているのです。

 譬えこの身が滅びようと、あなたを護る。

 あなたが宿願を成し遂げ闇から解放されるのを願っているのです」


ロナに宿る千年前の僕、ロナウトの魂が教えた。


「ロナ・・・ロナウト・・・」


マリーの瞳が大きく見開かれる。


「私はこの娘に宿るロナウト。

 そしてこの娘と私が願うのは、剣士マリーベルが闇から解き放たれ、

 昔の優しく強い人間ひとに戻れる事なのです」


ロナに宿る魂が告げる。

そして、一度瞳を閉じてからもう一度開く。


「マリー、私の最期の願いを・・想いを聴いて下さい。

 フェアリアの魔女に勝ったら、もう闘わないと約束して。

 もう心を闇に堕とさないと約束して。

 それまで私はあなたを護り続けるから。

 あなたの事をお慕いしていますから・・・」


ロナが涙を浮かべた瞳で告白する。


「ロナ・・・ロナ!

 ああ!約束する。

 奴に勝ったら、もう闘わないと。

 もう憎しみも恨みも全て忘れると約束するから!」


マリーの瞳がロナの心を知り、赤く澄み渡る。


「はい、マリーベル。私の愛しき人・・・」


マリーが両手を拡げてロナを招く。

抱き付いたロナは最期の決戦の前に一つの秘術を使う決心を固めていた。


ロナの願いを知ったマリーは心を澄み渡らせる。

マリーの瞳は澱みを失くし、心と同じく冴え渡る。

やがて遂にその時が来る。

次回 奇襲攻撃

君は頼れる仲間と共に闘う。晴れ渡る心と力を手にして。

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