魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep2姉弟Act14亡失
敵弾が車体を貫いた。
瞳の中で友が消え去る姿を目の当たりにしたマリーは覚悟した。
自分も一瞬で同じ運命を辿ると言う事を。
だが・・・
炎と黒煙が視界を埋め尽くした。
ー ああ・・・これが死か・・・
炎で焼かれていると言うのに温かい・・・
ただ左手だけが・・・冷たい・・・
紅蓮の炎が渦巻く中でマリーは呟く。
「マリーベル。・・・マリー少尉?」
ロナの呼ぶ声が聴こえる。
「マリー!<大蛇の紋章>の剣士様!」
自分を呼び覚まそうと必死に呼びかけるロナの声が聴こえる。
ー 私は死んだのではないのか?
マリーが瞳を開くと、
「マリー少尉!マリーベルっ。善かった、気が付かれたんですね!」
ロナが覆い被さって自分を見詰めているのが解った。
「ロナ?」
煙で煤けた顔で見詰めるロナに、不思議そうな顔でマリーが声を掛ける。
「私はどうなったのだ。確か炎に焼かれた筈なのだが・・・」
マリーが生きている事を疑問に思い、問い掛ける。
煤けた顔のロナがそれには応えず、
黙ってマリーの顔を見詰めて歯を食い縛っているのに気付き、
「ロナ?何をしている?」
ずっと覆い被さっているロナを見上げて、漸く気付いた。
「ロナ?お前の周りの光は?
その青い光は一体何なのだ?」
まるで自分達を包むかの様に、青白く光が揺らめいている。
「マリー少尉。あなただけは護りたかった。
あなたの命だけは助けたかった。
譬えこの身が滅びようと・・・」
ロナがマリーを見詰めて呟く。
「ロナ?何を言っているんだ?」
青い光に包まれたマリーが訊く。
「ごめんなさい紋章の剣士様。完全に御護りする事が出来なくて。
今、回復魔法を掛けていますが元通りには・・・」
ロナがマリーに告げる。
「ロっロナ!?ロナは・・・お前は一体?」
何者なのかとマリーが訊く。
「マリーベル。闘いが終ればお知らせしますと言いましたね。
私は・・・あなたの下僕。
千年前からの下僕。
紋章の剣士様にお仕えする回復魔法の魔法使いロナウト。
再びあなたにお仕えする為に、この娘に宿る者・・・」
ロナの瞳が青く輝いている。
その左手から出る青い光と共に、
ロナが言っている事を信じざるを得ないマリーが、
「ロナが・・・魔法使い。私の下僕だと?」
「はい、マリー。あなたを護るのが私の役目。
・・・あなたを癒すのが私の願い・・・」
微笑んでマリーを見詰めていたロナが前崩れに倒れ、2人は折り重なる。
「ロナ!?」
荒い息を吐くロナにマリーが呼びかける。
「マリー、ごめんなさい。
私の魔法ではあなたの左手を元に戻す力はありません。
あなたの命を守るのが精一杯だったから・・・」
荒い息を吐きながらマリーに謝るロナに、
「ロナ!?お前が私をあの爆煙から護ってくれたのか!?」
マリーが動く右手でロナを求める。
「剣士様をお護りするのが下僕の務めですから」
そう言ったロナが瞳を閉じる。
「ロナ! まさか・・・ロナ!」
マリーがロナを失いたくないが為に、呼び止める。
「大丈夫ですマリー。少し疲れただけ。
少し休んだら、また左手に魔法を掛けないと・・・」
マリーの胸に顔を寄せたロナが呟き、微笑んだまま眠りに付く。
息をしているのを確認したマリーもロナを胸に抱き寄せて瞳を閉じた。
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ー ロナに救われた私は、友と左手を失った。
ダリマ・・・カラム。
私の友はあいつ等に殺されたんだ。
<双璧の魔女>の戦車に・・・
暗黒魔鋼騎の電脳部で、マリーが呟く。
最初の闘いで、2人の友を失った想いを。
マリーの瞳は赤黒く澱む。
ー 私の友と左手は奴の弾で失われた。
砲塔を旋回させる左手を失った事は戦車兵としては、
不適任になった事を知らせていると思った。
だが、私も軍も戦車兵を辞めさせる事を拒んだ。
只、ロナだけが悲しそうな瞳で私を見ていた事が忘れられない・・・
マリーの記憶が闇の中から現れる。
「ロナ!どうだ。これなら左手は関係ない。
上下角度なら義手でもなんとかなる!」
左手の手袋を持ってマリーが見上げる。
「はい、マリー少尉。
確かにこれなら発射ハンドルだけで闘えますね」
ロナは心なしか悲しそうな瞳でマリーの前にある車体を見上げる。
「ロナ、心配するな。
今度はしくじらん。今度は弾き返せるさ、奴の弾を!」
マリーの前には長く突き出た砲身を、車体本体から出した砲塔の無い戦車があった。
「このSU-152なら・・・この砲なら弾かれない。
この前面装甲なら奴の弾にもビクともしない!」
ロナに教える様に呟くマリーの瞳が復讐に燃え、赤黒く澱む。
「マリー少尉。どうしてもまた闘うのですか?」
ロナの質問に、
「ロナ。私は闘う宿命なのだ。
紋章を受け継ぐ者として・・・だけではなく、
私から友を奪い、左手を奪った憎い敵に復讐を果したいんだ!」
「復讐・・・ですか?」
ロナが俯いてしまったので、
「ロナは復讐するなと言うのか?」
訊き返すマリーに、顔を上げたロナが言った。
「いいえ、マリーベル。私はあなたの下僕。
あなたが行う事全てにお仕えするのが私の務め。
私にもお手伝いさせてください」
ロナはマリーに忠誠を尽くす。
千年前と同じ様に。
その千年前に起きた戦いの結果、自分がどうなったかを知りながら。
「ロナ、今度は・・・今度こそ負けはしない。
必ず奴を倒して見せるから。
私と一緒に闘ってくれ!」
マリーの差し出す右手を握り返したロナが、
「はい、必ず勝ちましょう。
そしてこの”呪い”を断ち切って元の剣士様へお戻り下さい。
私の願いはマリーの瞳が闇から解き放たれる事なのですから・・・」
マリーの瞳をじっと見詰めて秘めた願いを口にした。
辛うじてロナに救われたマリーは、復讐を決意する。
その瞳は怒りに澱み、その想いは強く願う。
あの<双璧の魔女>を討ち果さんが為。
次回 エレニア戦車戦
君は宿敵に出会えるのか?それとも・・・





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