魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep2姉弟Act11マリーの宿命(さだめ)
過去の悲惨な体験が脳裏を掠め去った。
ー 私の初陣はあまりにも悲惨だった。
私の重戦車KG-1は、その時は無敵を誇った。
だが、車体に疵は付けられなくても身体は・・・
心は無惨にも傷付けられ、壊れかけていた・・・
軽戦車の一部となったマリーが思い出していた。
ー その壊れかけた心を闇から救ってくれたのが、
私の装填手ロナ。
あの娘がいなければ私は当の昔に壊れていただろう。
そんなロナを奴は奪い去った・・・殺したのだ!
再び闇の力で瞳を赤黒く染めたマリーが自分を堕とすきっかけになったあの戦いを思い出す。
ー そう、あの日まで・・・あの時までは私は人の心を持って闘っていた。
あの戦車と撃ち合うまでは・・・
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((グオオオッムッ))
フェアリアの小うるさい軽戦車に発砲する。
仲間の2両を斯座させたその軽戦車は、青く輝く紋章と共に破壊された。
「ふうっ、邪魔をしおって。さすがに魔鋼騎と言ったところか」
マリーが一息吐いて射撃を中断する。
「マリー少尉!中隊長から連絡です。斯座車両と共に一時進撃を中断する・・・とのことです」
カラム無線手が、マリーに報告する。
その報告にマリーは逃げ去るフェアリアの中戦車を目で追いながら、
「ふむ。では、私達も小休止といくか」
射撃杷弊から手を離してマリーが肩を回して一息吐いていると、
「少尉、お疲れ様です」
いつの間にかロナがマリーの後ろに来て、
「ん?おっ おおっ。 ロナ、すまんな?」
マリーの肩を揉み出した。
「ふふふっ、マリー少尉は私の肩揉み、お好きですから」
ロナが微笑んでマリーの顔を覗きこむ。
「フ、ふん。別にロナの肩揉みが好きな訳ではない。
ロナの肩揉みが巧いからだ」
ロナに微笑み掛けられてマリーが苦笑いを浮かべた。
「はい!」
屈託のない笑顔を向けてくるロナに、テレてそっぽを向くマリー。
「車長。中央を進撃する第7師団から連絡です。
<進撃し、敵を撃破セヨ>・・・との事ですが?」
カラム無線手が命令を伝達する。
「むう、人使いの荒い連中だな。カラム、中隊長から何か言ってきたか?」
「いえ、今の処は何も・・・」
マリーの問いにカラムは首を振る。
「まあな、2両のキャタピラが直るまで動きたくとも動けんだろう」
ロナに肩を揉まれて心が幾分軽くなったマリーも、
これ以上の闘いは気が進まなかった。
「先程の闘いで合計6両。
今迄の戦果とあわせて17両も撃破したんですからね。
もう還らせてくれてもいいと思うんですがねぇ?」
ダリマが操縦席で愚痴る。
「まあ、そう言うなダリマ。作戦も終っていないのに勝手に帰る訳にもいかんだろう」
「はあ、それもそうですね」
諦め顔のカラムも頷く。
「マリー少尉。17両の撃破なら、後一両で皇帝陛下の勲章が頂けるのじゃないですか?
確か18両撃破すると、破壊王章を授けられるって話だったと思うのですが?」
ダリマが気が付いた様にマリーに言った。
「それがどうした?私はそんな勲章の為に闘っている訳ではないぞ」
マリーが答えると、
「それでは車長はどんな訳があって闘っておられるのですか?」
反対にダリマが訊き返す。
「私か?私が魔鋼騎乗りとなって闘う理由は只一つ。
私の弟を殺した奴等に復讐する為だ。
その為に私は戦車兵の道に入った。
偶然の巡り合わせでな」
「車長・・・。マリー少尉の弟さんは?」
ロナが手を止めて訊く。
「ああ、フェアリアとの紛争でな・・・戦死したんだ。
フェアリアの戦車に踏みにじられたんだ、私の弟は」・・・
マリーの言葉にロナは顔を曇らせる。
「そうだったのですか。それで少尉は戦車兵に・・・」
カラムがマリーの心情を想い声を詰まらせる。
「まあ、それも一つの理由だがな。
魔鋼騎乗りになったのは、これが理由さ」
マリーはポケットの中から一つの石を取り出した。
赤く妖しく輝く石を手の平に載せたマリーにロナが訊く。
「綺麗な石ですね、見ているとなんだか心を奪われてしまいそう・・・」
ロナが見入っているとマリーがポケットに戻し、
「これが・・・この石が弟の形見なんだ。
この石が私の運命を教えてくれたんだ。
私が魔法使いだと言う事を。
そしてあの日、私は試作魔鋼騎に触れてしまった。
そして軍に拘束されたんだ・・・」
ロナはマリーが遠い目をして話すのをじっと聴いていた。
「あの日、私は弟の仇を討ちたいと願い、軍の試験場へ行った。
どんな兵器が造られているかも知らずに。
そして一人の黒髪の男と出会ったんだ。
その男はロッソア語は喋らず、
何処か遠い所から連れて来られたみたいで、辺りに監視する者達が付いていた。
私を見るや否やその男が変な機械を私に突きつけたんだ。
すると先端に付いた青い石が光を放った。
辺りの人間も私も驚いたが、それが魔法力検査機だと気付いたのは、
私が戦車兵に強制的にされた時だったんだ」
遠い昔話をする様にマリーは語った。
「マリー少尉・・・それで魔鋼騎乗りになられたのですか?」
ダリマがマリーに振り返り、その顔を見上げた。
「まあ、私も願っていたのが半分位あるからな。
それに私の宿命も解ったから・・・」
マリーが顔を俯かせて声を詰まらせる。
「マリー少尉の宿命って、何なのです?」
ロナがそっと訊くと、
「私達の車両に描かれた紋章。それが何を意味しているか知っているよな」
マリーが皆に訊く。
「ええ、ロッソアの伝承に出てくる魔女。
フェアリアの魔女と闘い続けた伝説の魔女。
<大蛇の紋章>を掲げる闘剣士を現しているんですよね」
カラムが当然と言わんばかりに答える。
「ああ、そうだ。その紋章が何故この車両に描かれてあるのか知っているか?」
マリーの突然の質問に3人は返事に戸惑う。
「それはな・・・私がその魔女の継承者だからだ」
マリーの言葉に3人は言葉を失う。
「マリー少尉・・・言っておられる事が解らないのですが?」
ダリマが首を捻って聞き返す。
「マリー少尉が伝承の魔女?はははっ悪い冗談を?」
カラムも苦笑いをして訊ねる。
「マリー、マリーベルがあの伝説の紋章を受け継ぐ者なのですか?
あの大魔法使いの継承者?」
ロナだけがその真意を悟り、真実を求める。
「そうらしいな。昔から時々何者かの声が頭の中でしていたのだが。
この魔鋼機械に触れてからは、よりはっきりと聴こえる様になったんだ。
そいつ、<大蛇の紋章>を掲げて闘った者の声が・・・」
ダリマもカラムも声を失って呆然とマリーを見た。
ただ、ロナだけが瞳を潤ませてマリーを見詰めていた。
運命に導かれる様に命令に従い味方の援護へと向うマリー達。
その前に現れたのは・・・
次回 最初の邂逅
君は生き残る事が出来るか!?





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